ドライブイン安土 新生4
「「「「おはようございます!尊様!」」」」
「「「おはようございます!尊の親分!」」」
「よくぞお越しくださいました!尊の旦那!」
「いや、皆!?その呼び方は辞めような!?どこぞのヤクザのように聞こえるよ!?皆はそれぞれ仕事に!それと、畑に従事していなくて、健脚だと自身がある人!後で、呼び出すから集合してほしい」
カナが軽トラで迎えに来てくれた。もちろん、清さんを助手席に、オレや太郎君達は荷台に座った。
カナの音速を超えるつもりという運転は・・・2度と御免だ。音速なんて超える事はないのは知っているが、まさか道とも言えるか分からない道を100キロ近くのスピードで走るとは思わなかった。
なんなら、いつ買ったか分からない、レーシンググローブまで装備していた。ルームミラーには、仏壇に飾るような、ふさが飾られてあり、軽くドレスアップまでしているし。
「マスター。まずは加工場の方へ」
「そうです!尊の旦那!驚きますよ!」
「なんかカナが急かせてしまったみたいで申し訳ない。けど、少しマイ刀にワクワクしています!」
今日、甲賀村に来た理由。既に分かっている。そう。カナが何をアドバイスしたかは分からないけど、とうとうオレのマイ刀が出来上がったのだ!一応、西部劇のガンマンのようにホルスターを購入して、外に出向く時は必ず腰にリボルバーは携帯している。
だが、それでも日本人の男なら誰しも刀に魅了されてしまうだろう。特に戦国時代なら尚更だ。元服した大名の子供ですらみんな外では帯刀しているくらいに刀が身近にある。
加工場に到着すると、熱気がブワッと顔に当たった。その中に11振りの日本刀が置いてあった。
「源三郎さん!?これはまさか・・・」
「えぇ。これは前田様に。これは太郎様に・・・」
源三郎さんは本当に皆に刀を作ったみたいだ。
配る順番にも意味があるのか・・・。オレと清さん、カナの刀は最後に配られた。
「まずは・・・尊の旦那。待たせて申し訳なかった。選りすぐりの真砂を探していたんだが、ついぞや見つけられなかった」
「え!?ならこの刀は!?」
「マスター。源三郎様の鍛治師としての腕前は忖度なしで、上の上でした。ですので、私が素材を融通した次第でございます。高天原のとある一部の場所の地下にしかない鉱石を散りばめて鍛錬していただきました」
「カナ?大丈夫なのか!?ルールがどうとか言ってなかったけ!?」
「このくらいは問題ありません。それよりお聞きください。その希少鉱石は一枚の大きな塊でした。それを砕き、11振り全ての刀に混ぜて鍛錬しました」
「そうです!尊の旦那!カナ嬢から譲り受けた鉱石はそれはそれは・・・。ゴホンッ。尊の旦那を守る皆に相応しいよう、一枚から砕いた鉱石。
それを惜し気もなく使い、作り上げた11振り。銘は敢えて決めませんでした。
前田様は今後、尊の旦那の部隊を率いると聞きました。戦で集団相手にも引けを取らない剛の刀。
太郎様や次郎様、桜様や梅様は、奥方殿や尊の旦那に近いお方。刀身を薄く、それでもそこら辺の鈍(なまくら)相手なら切断してしまう且つ、素早く動けるに柔の刀。
五郎様や吉様、滝様には斥候や威力偵察、素早く尋問などをしやすいように、長物ではなく、この2つの短刀で一対とする静の刀。
そして・・・奥方殿とカナ嬢、尊の旦那の刀は妖刀・・・に分類されます」
「源三郎様。ここからは私が。マスター。この3振りは自分の血を刀身に一滴、吸い込ませるだけで自分の愛刀へと変貌致します。失礼を・・・(プチュ)」
「痛っ!」
カナはオレと清さんの人差し指に小さな注射針のような物を軽く刺した。少し指先から血が滲んできた。
「マスター。清様。刀身にその指を押し付けてください」
オレと清さんは言われるがまま、無言で刀身に指を押さえつけた。すると、刀が少し発光した。
「な、なんだ!?またファンタジー的なアレか!?」
「尊さま!見てください!色が変わりました!」
「は!?え!?マジかよ・・・」
「(クスッ)これで契約は終了です。その2振りは間違いなく、マスターと清様の物となりました。便宜上、妖刀とお伝えしましたが、正確には成長する刀と申せば良いでしょうか。2人が互いに互いを信じ合い、紡ぎ合えばより一層その刀は成長します。切先から茎尻までその2振りはまったく同じ作りです。夫婦刀と言いましょうか。そうですよね?源三郎様?」
「あぁ。間違いない。寸分も狂わず同じだ。それを俺の鍛治師としての集大成とさせてもらう。尊の旦那!?奥方殿!?どうでしょうや!?」
「・・・・良い。凄く良い。なんか初めて握るのに昔から使っていたような・・・」
「オレも。刀なんてマトモな腕は持ち合わせていないが、これなら清さんにも1本取れそうな気がする・・・」
「先程、源三郎様が銘は敢えて無い言いました。それはつまり・・・使い手により変わるからです。その刀に認められる事ができれば、刀自身の名が分かるでしょう」
「いや、本当に現実離れした刀だな・・・。いや、今更か」
オレの刀は刀身が真っ黒だ。刃文、鎬筋も全て真っ黒。正に黒歴史全開オタクなら狂喜乱舞するだろう。オレがそうだ。
クックックッ・・・我が右目が疼く・・・的な?いや、本当にそんな気持ちにさせられるような刀だ。
そして、清さんの刀はオレとは逆。真っ白な刀だ。高身長な清さんと相まって、神々しさまで感じる。
「兄上が言ってましたよ。『坊主は案外、陰で、我が左手がとか、我が右目が疼くとか言う奴だからよ?お前が面倒見てやらないと恥ずかしい思いをする事になるぜ?』って」
おいおい。神代さんはよく分かっているじゃないか。少し当たりだ。気をつけないとな。
だが、オレは清さんに対して言った言葉を間違えたようだ。
「私に一本取れるって本当ですか!?ならば、試しに1合、試合しましょうか!」
「え!?いや・・・アレは言葉の綾で・・・」
「やりましょう!私も試してみたいのです!」
「ちょ、引っ張らないで!」
オレは強制的に表に出された。
「源三郎様。お疲れ様でした。よくぞこの仕事を達成してくれました」
「いや、あんなに理論立って言われれば、そこら辺の野良鍛治師でもそれなりの物は打てると思うぞ?それにしてもカナ嬢・・・この石は本当になんなのだ?」
「この石はこの世に存在致しません。私の出身は伏せていますが、それは言えない事情があるからです。それで察してくれませんか?間違いなく私は尊様や清様、あなた達の味方です」
「いや、それは言えない事情があるだろうから敢えて聞かないが・・・」
「此度の鉱石はミスリル。日の本の言葉で分かりやすく言うと銀石と言えばいいかしら?まぁ適当に漢字を当てただけですけど」
「みすりる?確かに聞かない名の石だ。本当に都や堺にも無い物なのか?」
「えぇ。絶対に。(コロン)」
「うん?これは?」
「もう一振りそれで作ってみなさい。大殿様にそれを献上すればあなたは、後世に残る伝説の鍛治師として名前が残るでしょう」
「また打ち方を教えてくれるのか!?」
「いいえ。今度はあなた自身が一人で打ちなさい。その石はオリハルコン。私が出した道具で教えた通りにその石を鍛錬すればあなたなら間違いなく本物となるでしょう。あなたも薄々思っていたのではありませんか?私に教えられた打ち方では最後にできないって?」
「いや、そこまでは思ってもいなかったが・・・本当にいいのか?それに材料が多いように見えるが?」
「新しい刀を作って終わりと思っているのですか?あなたには他にも作ってもらいたい物があるのですが?」
「(シュバッ)是非!是非に俺に作らせてほしい!何を言われるかは分からないが必ずカナ嬢の思う物を作ってみせる!」
「(クスッ)よろしい!とりあえず、今は一旦、師弟関係は終わりよ!また作って欲しい時は時期を見て言うから。あ!後、刀の研ぎもよろしくね!」
「分かった。それで・・・カナ嬢の刀は伝えなくていいのか?」
「私の刀は滅多に抜くつもりはないからいいのよ!それこそ、私が抜く時は明確に相手を滅殺する時しかないから、抜いた瞬間に相手は死ぬ事が確定するからね。(グワッ)」
「ぬぉ・・・そ、その殺気は・・・」
「(クスッ)源三郎様が特別に打ってくれたこの朱刀・・・。抜く事はないと思いたいけど、抜けばさっきのような気を全力で私は相手に放つわ」
「恐ろしや・・・」
「どうも・・・ずびばぜんでじだ・・・」
「源三郎さん!凄い!本当にこの白刀は凄いですよ!!いつもより100倍は凄いです!」
「あら?マスター?その顔は・・・」
「清さんの組手術有りの刀法は卑怯だった・・・痛ぃ・・・」
「あらあら・・・。まぁ訓練あるのみですね。これから私も早朝の訓練にお邪魔しますよ」
「い、いや、そんな悪いよ!カナは寝てていいから!」
「そんなマスターの姿は見たくありませんので!是非、日本一の剣豪を目指しましょう!」
いや、誰がいつ剣豪になりたいって言ったよ!?『普通に刀くらい欲しい』って言っただけなんだが!?
「尊さま!では、明日から更に訓練を増やしましょう!カナ様と話し合い、より良く、効率の良い訓練を考えますね!」
清さん・・・オレの妻は鬼だ・・・。
この日の夜に全員集合させて、1人ずつ刀を配り、皆はかなり喜んでくれていた。特に五郎君や吉ちゃん、滝ちゃんなんかは新参に近いのに早くも刀を貰うというのがかなり嬉しかったみたいだ。
そして次の日からオレの猛特訓が始まった。
あの刀を貰った日の夕方での出来事を言おう。健脚の人を集めた時の事だ。
「いや〜、こんなに集まってくれるとは・・・」
「えぇ!もちろんです!慶次と日々訓練しておりますからね!それで・・・何をお望みで!?まさか、敵地へ戦を仕掛けるので!?ならば是非手前をお使いください!」
「なっ!小泉!抜け駆けするでない!尊様!敵地への殴り込み、先鋒は是非この黒川太郎八兵衛に!」
「黒川ッッ!!!貴様も抜け駆けするな!尊様!ワシは多相手にも逃げたりしません!是非この野田一蔵にお任せあれ!」
まったく耳が痛い。誰も攻めるなんて言ってないし、なんならオレが勝手に戦なんて仕掛けられる訳ないじゃんかよ・・・。何で、こうも戦闘好きのバトルジャンキーが多いんだよ・・・。しかも皆張り合っているし・・・。
「ゴホンッ。悪いけど戦じゃないんだ。いや、今や色々植えて、肥料を撒けば直ぐに育つよね?謂わば、甲賀村はたかだが70名前後の村で物を腐らせるくらい食べ物が溢れているという訳だ!そろそろ次のステップに移行しようかと」
「すてっぷとは!?」
「失礼。次の段階だ!あなた達数人を選抜して本願寺を弱体化させてやろうと思ってね」
「おい!こら!ワシの出番だ!尊様!食べ物に毒を仕込むのですな!いやぁ〜、正にお目が高い!ワシは毒の達人ですぞ!」
「いや、そうじゃないんだけど?」
本当に・・・。毒の達人って言葉なんか初めて聞いたぞ!?
今や、イチゴを始め、スイカやメロンなど数々の果物がある。クソ高いハウスなんかもカナに勝手に購入されて、いつかの夜に平気で居間でイケシャアシャアと・・・
「あっ!マスター!甲賀村で作った1号メロンです!美味しいですよね!200年振りくらいに食べました!」
「うん?メロンなんて作ってたっけ?」
「あっ、私が指導してハウス栽培にて作りましたよ!食べます?」
普通に食べてたから気付かなかったし、普通にハウス栽培と言いやがったのだ。まったく・・・勝手に何でもしてしまうんだからな。困るぜ。
まぁその数々の品を堺の方に流せばどうかな?と思っているのだ。信長の献上分は最低限、確保しておけば文句は言われないと思う。
「と、いう事なんだ。堺で座代がいくらかなのかは分からない。それに堺で売る物に関しては安くするつもりはない。このメロンに関しては一玉、10貫くらいでも売れる気がするんだ」
「じゅ、10貫ですか!?」
「それは誠ですか!?」
さすがにボッタクリすぎか。
「なら・・・3貫くらい・・・ですかね?悪どいですかね?」
「いやいや!逆です!有力者ならこのメロンを食べると是が非でもまた食べたくなりますよ!」
「そうです!昔、堺にてとある任務をしていた折に、天王寺屋や納屋衆の者を観察しておりましたが、堺の有力者達は食い物に糸目はつけません!それ程までに美食家が多いと見えます!」
「うん?10貫でも安いってこと!?」
「そうです!味見させた後なら100貫でも売れると思いますよ」
いや、流石にそれはやりすぎだな。
「やり過ぎたら目を付けられる。オレは継続的に商売をしたいんだ。それにカナが・・・ね?多分、他にも考えているだろうし」
「え!?何で分かったのですか!?まさか・・・マスターも権能を授かって・・・」
「んな訳ないだろ!予想だよ!だが、その言い方なら当たり前なんだな?何を植えているんだ?」
「(ピュー ピュー ピュー)」
ック・・・そっぽ向いて口笛なんて吹いてやがる!
「小川さん?何を植えているか聞いている?」
「はっ!ぱいなつぷるなる物に、ばなななる物に・・・」
「小川様?こちらを向きなさい!(ヒラッ)」
「ぬぉぉ〜!!?ック・・・。尊様・・・申し訳ござらん。これ以上は手前の口からは・・・」
いやいや、裾を捲り内腿を見せるのか!?色仕掛けか!?しかも小川さんはそれに負けるのかよ!?カナもカナだ!いつそんな技を覚えたんだよ!?
こうなれば奥の手だ!女性に聞けば良い!
「牧村さん!あなたは聞いていますか?」
「はっ!ワッチが覚えている物は・・・」
「牧村様?今度、婚姻していない男性を集めて、合コンをしようと思っているのですよ。あなた来ますか?確か夫に先立たれ、寂しいと言ってましたよね?」
「と、いう事ですじゃ!尊の兄ちゃん!許してたもれ!ワッチは口が閉じてしまったのじゃ!」
いやなんで合コン!?しかも牧村さんも理解しているだと!?
「もういい!オレが直接見てくる!」
新たに開墾し、背丈より長い木柵で目隠しした場所にそれはあった。見紛う事なきハウス栽培だ。見た所、キウイ、リンゴ、マンゴーと現代に普通にある果物ができあがっていた。
いやこれはもうアレだ。捨てる事はもったいないし、やったんならとことんやってやろう。そう考えないとダメだ。
「(ピュー ピュー ピュー)」
「カナ?その慣れない口笛は辞めような?もういいから。とりあえず、あの果物を高値で売りたいと思う。近江山中で!という事だけ教えて、正確な場所は濁すように!誰か権力者に渡りがある人は居ないかな?」
「流石に(ムシャ ムシャ)居ないんじゃないか?(ムシャ ムシャ)」
「はぁ!?慶次さん!?なに勝手に食ってんだよ!?そのマンゴーはかなり高いんだぞ!?」
「ほぅ?これがマンゴーなる物か!いや、初めて食べたら美味くてな?コレにも食わせてやろうと思ってだな?」
慶次さんはいつものように小指を上げて言いやがった。普通に腰袋にかなりの量を入れている。プレイボーイめが!
「冗談だよ。いや、数個は個人的に頂きたいが、少し堺に知り合いが居るんだ。俺が渡りを付けてやるよ。だが、あまり堺の有力者を甘く見るなよ?今でこそ大殿に恭順しているが、元は逆らっていたくらいなんだぞ?まぁ、頭の回転の早い、堺の豪商なら直ぐにこれを買い占めるだろうよ。本当に美味いからな」
っぱ、慶次さんよ。やる時はやる男だと思ってたんだ。
「了解。もう相手が誰だろうと舐めないし、簡単に折れるつもりはないよ。なら、慶次さんが数名選んで、少し堺に流してほしい。値段は任せる。売るつもりがない値段ではやめてほしい」
「任されたし」
そして今・・・
「尊さま!その体勢で止まってください!足がプルプルしてからの駆け比べです!私に触れたら尊さまの勝ちです!」
「休憩はなしです!その限界の身体で鍛える事に意味があるのです!そのまま踏み込みの一太刀!(バァンッ)踏み込みが甘いですよ!そんなのじゃ直ぐに返されますよ!」
「マスター!後ろです!多対一の戦いでは常に全方面に集中しなければなりません!いくら清様に夢中だと言って、清様ばかりに気を張っていてはいけませんよ!(パチンッ)はーい!今のでマスターは死にました〜!」
「まぁ!カナ様ったら・・・」
オレは今、地獄を見ている。何で戦いの練習をこんなにさせられているのだろうか・・・。しかも、清さんとカナはかなり仲が良くなっているし。いや、それは良い事だ。良い事なんだけど・・・
「オレってば・・・飯屋の店主なんだけど・・・」
「(クスッ)戦う飯屋の店主!カッコいいじゃないですか!さぁ!もう一本行きますよ!」
清さん的にはカッコいいらしい。この人のセンスが分からないよ・・・。
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