ドライブイン安土 新生3

 「そうそう!清さんは本当に何でも上手だね!あとは、甲賀村で育てられたイチゴを飾り付けすると完成だ!」


 「あ、プリンもできたみたいだね!なら、冷やして固まらせてた後に、祭壇?か何かに供えようか」


 『(フッ フッ テスッ テスッ)マスター?聞こえますか?』


 「その声は、カナ?どうした?まだ帰って来ないのか?」


 『いえ。本日は甲賀村で泊まる事とします。明日の朝には戻りますのでお許しください』


 「別にいいけど、村の皆んなに迷惑かけるんじゃないぞ?」


 『大丈夫です。(ここを押しながら喋るんだったよな?)おう!俺だ!俺っちも今日はこっちで泊まるからよ!』


 「はぁ!?慶次さんまで?まぁ別にいいけど」


 『明日は皆、休みだろう?明日の朝に迎えに行くからよ!驚くぞ!がははは!』


 「何をしてるんです?」


 『それは明日までの・・・あっ!お楽しみって!あっ!ことよ!』


 「歌舞伎はいいから。分かりました。ではまた明日に」


 何やら慶次さん達はしているらしい。カナの外泊は初めてだけど、まぁ別に大丈夫だろう。

 

 残っている太郎君や桜ちゃん達も心なしかソワソワしてる気がしないでもない。そうこうしている時に、そろそろ片付けを・・・と思っていた頃に初めて来た人が居た。店には初めてだが、オレはこの人を知っている。


 「カッカッカッカッ!ここが尊の飯屋か!」


 「羽柴様。お久しぶりでございます」


 そう。来店したのは秀吉だ。いつもの下卑た笑いをしながらの来店だ。しかも、若い女を二人も連れてだ。まったく・・・うらやま・・・けしからん!武士の風上にも置けない人だ。


 「まぁ!?ここがあの巷で噂の南蛮のお店ですか!?」


 「ねね様。端こうございます。裾が捲れておりまする」


 「ニシ!気にしなくてよろしい!秀吉様!楽しみです〜!」


 どうやら、1人は奥さんのねねか。で、もう1人が側女か何かか。それに、未だ藤吉郎という名だと思っていたが、既に秀吉なんだな。仲良くはないから知らなかった。皆が『サル』と呼ぶから知らなかったな。

 ハァー。それにしても苦手な人が来るのか・・・。


 「どうぞ。こちらへお座りください」


 オレが座敷に案内した事により、次郎君も桜ちゃんも察したようで、片付けを一旦辞めた。


 「(コトン)いっらっしゃませ〜。初めてのお越しの方へは私が品の説明をする事となっております。桜と申します。よろしくお願い致します」


 「カッカッカッカッ!誠に氷が出るとはのぅ!やるではないか!では聞こうではないか!」


 桜ちゃんは一生懸命に、怖じる事なく秀吉に説明していた。だが、この秀吉・・・


 「ほぅ?では、自慢の肉うどんとやらと、チャーハンなる物を頼もうか。ねねと、側女にはお主が食べて欲しいという物を作ってくれ。それにしても桜と言ったな?」


 「はい。なんでしょう?(パチン!)」


 「誠に良い尻をしているな!カッカッカッカッ!」


 秀吉は奥さんの居る前で普通に桜ちゃんの尻を軽く叩きやがった。オレでも触った事もないのにだ!


 「もう!秀吉様!」


 「すまん!すまん!いつもの癖じゃ!許せ!桜とやらも許せ!悪気はない!尊〜!酒はないのか〜!?酒も頼もう!」


 「「・・・・・・・」」


 オレと桜ちゃんは睨むようにして無言になった。この秀吉。セクハラだ。


 「おぉ・・・いや、本当にすまん!若い女を見るとつい、尻を触りたくなるのだ!な!?尊も許してくれ!」


 「桜ちゃん?大丈夫?良かったら許してあげてくれないかな?」


 「私は構いません」


 「と、いう事です。羽柴様とて店の子に手を出すなら他所に行ってもらいますよ」


 「いや、普通にすまん。そこまで怒るとは思っておらんかった」


 お!?なんか雰囲気が変わったぞ!?あの下卑た雰囲気はどうした?ってか、この人は普段はどこに居るんだ?城って持って・・・たな。確か最初の城は長浜城だっけ?もう城持ちなんだろうか?


 「いえ。今後は気を付けてください」


 そこから嫌な空気が少し流れ、それを断ち切るかのように次郎君が超高速で作ってくれた。厨房から声が掛かり、オレが配膳しようと出来上がった物を見た。


 品は恒例の肉うどん、チャーハン、そして・・・


 「いや、桜ちゃんは何故にこれをチョイスした!?」


 「え!?だめでしたか!?女性が好む物と、羽柴様の奥方様が申されました故に、私が1番好きな物をと・・・作り直しましょうか!?」


 「あ、いや・・・。桜ちゃんが好きな物なら仕方ないか。まっ、いいか。初めてで唐揚げは抵抗があるかな?って思っただけだよ。じゃあお出ししようか」


 ねねさんが普段何を食べているかは分からない。年齢は20代後半くらい。もちろん痩せている。肉に忌避感がなければ良いけど・・・。


 「まぁ!?これがここで普通に食べられている肉ですか!?大殿様も推奨されているという!店主様!?これはなんという料理ですの!?」


 「あ!?え!?これは唐揚げという鳥の肉を油で揚げた物です」


 「(サクッ)うぅ〜ん・・・ハァン・・・いと美味し」


 「どれ・・・(サクッ)ぬっ・・・これは・・・美味い!美味ではないか!(サクッ)」


 「喜んでいただけたようで何よりです。こちらが、巷で金色の酒と言われているビールという酒です」


 「ほぅ?このビードロに入っておるのか。お主の祝言以来じゃな。それにこの製作者は中々の腕を持っているな。(ゴグッ ゴグッ プッハー!)うむ!相変わらず美味い!」


 そういえば、岐阜城で皆に振る舞ったよな。


 「(ジュルジュルジュル)うむ!肉うどんとやらも変わらず美味い!絶妙である!」


 「ありがとうございます」


 その後、3人は唸りながらほぼ無言で食べていた。一つ珍しいのは、羽柴家では側女さんも一緒に食べるという事が分かった。案外に面倒見の良い人なのかな?いや、確かこの人は子飼いにしている後の賤ヶ岳の七本槍と言われる武将を育てているんだっけ?


 「いやぁ〜!実に美味かった!それと一つ頼みたいのじゃが、唐揚げとやらを持ち帰りできぬか?いや、食わせてやりたい者が居るのじゃ」


 「家の人達にですか?別にいいですよ。次郎君!タッパーに入れてあげて!」


 「はっ!」


 「ねね。ニシ。悪い。少し外せ」


 秀吉が真顔になり、ねねさんに声を掛けた事で、大事な事だとオレも察して、清さんを外させる事にした。


 「清さん。良ければ2階に案内して、お風呂にでも入って貰えばどうかな?新品の服もあったよね?ねね様に教えてあげると喜ばないかな?」


 「畏まりました。奥方様。こちらへお越しください」


 「「・・・・・・」」


 3人が階段を上がった事を確認して、秀吉は口を開いた。


 「ゴホンッ。いや、数数の無礼は許してくれ」


 やっぱり。あれは作られた雰囲気なのか。


 「えぇ。いいですよ。オレもお聞きしたい事があります」


 「うむ。先に聞いてくれ」


 「分かりました。まず、あなたのあれは演技ですか?仮に演技だとして何故あんな事を?かなり印象は最悪でしたよ」


 「まぁ、結論から言うとじゃな・・・。演技ではある。が、全部とは言わん。本音で言えば、少し憎らしい。戦にも参加しておらんお主が貧しい何も無い場所とはいえ、しかも甲賀の一つの村だと限定されておろうとも土地持ちになるというのは気分が悪かった」


 「では、あの祝言の出来事は?あの時はまだ甲賀は関係なかったと思いますが?」


 「ワシはな・・・下々の出でな。それはそれは織田家で馬鹿にされてここまで来たのじゃ。柴田殿にも血を馬鹿にされ、丹羽殿はあまり馬鹿にはして来ないが、ワシから見れば天上人のような人等だ。お館様も然り。

 そして、明智殿だな。あの者は機を見るに聡い。それはワシよりもだ。だから、お主とは敵対する振りをして近付き、あわよくばお主から搦め手で色々奪ってやろうかと考えておったが・・・この店に来てその考えは辞めた」


 「奪う?何をです?」


 「何やら、新式の鉄砲や戦術を持っていると聞いておるぞ?」


 「あぁ〜。その事ですか。鉄砲に関しては織田様に全て開示してますので、国友衆でしたっけ?あの人達が量産できれば全軍に配備されると思いますよ?それに戦術と言っても花火で撹乱したり、オレは甲賀の元忍びの人達を使い、小荷駄隊を指揮しようとしているだけですよ?」


 「誰が好き好んで小荷駄隊を名乗りあげるのじゃ。それが普通ではない。聞いた所、其方は本当は名字を持っているが、下々の産まれと聞いたが誠なのだな?」


 「えぇ。オレは普通の産まれですよ」


 「そうか。いや、本当に今まではすまん。これからは対等に接してくれると助かる。織田家の中では変わり者を演じておかないと、ワシのような下々の者は上には上がれないからな。

 皆がやりたがら無い仕事を自ら率先して熟す。陰で働く者があってこその戦じゃ。ワシは小荷駄を名乗り上げた其方を尊敬する」


 最初こそ印象最悪だったけど、まぁ、ワンチャンこれを演技かもしれないが、史実ではこの人も天下人だしな。言葉の力が凄い。人たらし・・・とも有名だろうが、悪い感じには聞こえない。

 今の言葉は本当にオレを尊敬しているように聞こえた。


 「ありがとうございます。もし・・・必要な物があれば言ってください。所詮は飯屋の男でしかありませんが、羽柴様の領地があるならば屋台とか出店させてくれるならオレは座代を払い、出店させてください」


 「お?知らぬのか?いや、知らぬのも道理よな。ワシは長浜城の城主だぞ?(ドヤッ)」


 うん。今世紀最大のドヤ顔を見たわ。カナのドヤ顔より酷い。


 「そうだったのですね。今度よければお邪魔させてください」


 「うむ!お主ならいつでも歓迎するぞ!良ければ、財政の事も教えてくれ!なんせ、ワシは下々の出だからな!教えを乞いたいならば直ぐは頭を下げるぞ!いやぁ〜、柴田殿なんかには真似できぬであろうよ!カッカッカッカッ!」


 この羞恥を感じさせないやつよ。史実ではこうやって的確に、大切な事を乞う時は人に頭を下げていき上に上がっていったんだろうな。この人は。確かに言われた方も悪い気がしないのはこの人の持ってる何かなんだろうな。間違いなくこの人も天下人になれる器の人だわ。まぁ、オレが本能寺は起こさせないけど。

 今のままなら秀吉黒幕説は除外してもいいような気がする。だが、明智も今の所は違うような気がするしな・・・。徳川黒幕説・・・。いや、まだ会ってもいないのに勝手な妄想は辞めた方がいいか。


 「きゃぁ〜!凄い!湯が勝手に!!!」


 「な、なんじゃ!?2階で何をしているんだ!?」


 「ははは。自慢の風呂ですよ。織田様もお気に入りですよ。よければ羽柴様もどうですか?」


 「風呂?そんなにいいのか?」


 「女に好かれたいなら清潔が1番ですよ。汗臭い体なんか嫌でしょう?」


 「カッカッカッカッ!お主は分かっておるよな!見た所、お主の所には中々に良い尻を持っている女が多いな?しかも全員若い!お主の後でもいいから今度紹介してくれよな?な?」


 「ねねさんに言いましょうか?」


 「・・・・・冗談に決まっているだろう!誰が"友"の家の女に手を出すのだ!そんな不届者なぞ斬りすててしまえ!カッカッカッカッ!」


 いや、あんただよ!と声を大にして言いたい。


 こうして、秀吉とオレは知り合いから友とランクがあがったらしい。まぁ少しオレは未だ警戒があるけど。今の所、慶次さんよりプレイボーイだ。



 〜翌日〜


 「尊さま〜!おはようございます・・・」


 「うん。おはよう。清さん?どうしたの?体調悪い?」


 「いえ・・・昨夜は・・・その・・・」


 最近は清さんと2日に一回のペースで事をしている。昨日はその2日目だったのだが、秀吉の来訪もあり、夜も遅くなったためしなかったのだ。

 どうもこの清さんはかなり事が好きなようで、しかもかなり献身的で色々と挑戦してくれるのだ。

 その度にオレは狂いそうなくらい抱き締めたくなる。


 「できなかったのはごめん。流石に疲れていたから・・・今日の夜にね?」


 「夜・・・ですか・・・今からは・・・」


 「え!?今!?」


 「嫌・・・でしょうか・・・?」


 「全然イヤじゃないです。寧ろ土下座案件です」


 パンッ パンッ パンッ パンッ


 「(アァン ハァン ハァン )」


 この時代の倫理観は可笑しい。まぁ娯楽がない時代だから情事に興味を持つ女の子も多い。清さんも例に漏れず。かなり好き者だ。

 出店で偶に佐和山城下へ出向く事があるのだが、ただのオレですら、御婦人達に・・・


 「やだぁ〜!良い男じゃないかぃ!下の方も凄いんじゃないの!?」


 「今宵、おいでよ!相手してよ!」


 などなど・・・。昼間っから平気で誘ってきたりするのだ。しかも清さんの前で。これを現代倫理観のオレは恥ずかしくなり、『いやいやいや』とか、『いったい何を言っているんです!?』など、普通に返していたのだが、男の方もそうやって隠すのは珍しいらしい。

 往来の常連のおっさん達に、『若いとは羨ましいのぉ〜』とか、『行けや!行けや!誠の男になって来い!』など煽ってくるのだ。

 独身な喜んで行くだろうが、今や清さんが居るし、清さんがいいからオレは断っている。だが、時折り見えるラッキースケベ・・・女性が屈んで品を見る時なんかは目を凝らして見るようにしている。

 だってこの時代、パンツ履いてない人ばかりだもんな。これくらいは許してほしい。

 偶に、オレ1人の時にわざわざ目の前に来て、大股開いて屈み込む女性も居るが、大概そういう人は商売女の人だ。オレはお金を持っていると見られているようで、『1貫で一晩何でも付き合うよ』と誘われた事もある。もちろん丁寧に断ったけど。


 「き、清さん・・・無理かも・・・」


 相変わらずの早撃ちである。朝という事もあり、ノーマルなプレイだ。それを見計らったかと如く、梅ちゃんがドアを空けて、着替えを持って来てくれる。この梅ちゃんや、桜ちゃんはオレと清さんの雑用をしてくれるのだが、オレと清さんが裸のままでも事が終わると、無表情で部屋に入ってくるのだ。


 最初の時はビックリこそしたけど、梅ちゃんは何も思っていないようで、着替えを持ってきてくれると、退出するのだ。どうやって終わったか判断しているのかは分からないがいつもタイミングバッチリだ。


 「さて・・・朝飯食べて甲賀に向かおうか。カナが迎えに来るってトランシーバーで言ってたよ」


 「はい!あのう・・・よければ今夜も・・・御寵愛くださいますか?」


 「夜も!?マジで!?」


 「嫌・・・ですか?」


 「全然嫌じゃないです!寧ろ土下座案件です!」


 オレはどんどん清さんに溺れていってる気がする。

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