ドライブイン安土 新生2

 季節は夏となった。実に順調な生活振りである。店の中にはかなりの数の人が居る。ほぼ毎日だ。何故かって?文明の利器、エアコン様があるからだ。

 斯くいうオレも外には出たくない。『昔の夏はアスファルトもなかったから涼しかった』という識者もいるだろう。

 答えを言おう。それを嘘だ。暑いものは暑い。そして、ドライブイン武田は、ドライブイン安土と代わり、新しいサービスを開始した。

 慶次さんは戦う飯屋の集団と言ったり、太郎君や次郎君、五郎君は、知る人ぞ知る織田家のご意見番の店やら、桜ちゃん達女の子からは南蛮のお店などなど。それぞれが好きなように言っているが、慶次さんの言葉が的を射ている。


 まだ戦には参加していないが、甲賀の人達も戦に参加したいような感じだ。安土城に関しては義父様こと、丹羽さんが毎日忙しく動き、朝にはコーヒー、昼にはコーラ、夜にはビールを飲み、佐和山へと往復している。

 この事に着目してオレは新たな試みを始めた。それは、ドライブスルーだ!この構想に思い立った時の事を言おう。


 「う〜ん。織田様の時なら仕方ないかもしれないけど、有力者の人や権力者が店に来たら、待っている人が散ってしまうよね」


 「そうですね」


 「マスターがその有力者に退店してもらうように言えばいいのではないですか?」


 「いやいや、言えるわけないだろ!?そもそもカナの事も織田様にはただの町娘って伝えているんだよ!?」


 「私の事なんかはどう伝えようと構いません。どちらにしろ、私は裏方でしか発言できませんし、仮にマスターが戦に呼ばれても私は着いて行けません。ですので、それに関わるプロセスは掟を破らない程度に、人の営にそこまで干渉しない程度にアドバイスくらいは致します」


 ちなみに、カナのアドバイスなんだが日に日に大きくなっている。どうやら依代を見つけた事により、人間が開発した・・・主にこの店にある物にハマってしまったからだと思う。

 下界に居た時代は約700年前。まぁカナが意識のない神として生まれた時だ。その時は時代は平安。もちろん、エアコンやパソコン、スマホ、冷蔵庫なんて物はない。

 だから、一つ一つが非常に興味深いらしく、これはオレが思う事だが、カナの考えを簡単に言えば、


 『こんな楽で快適な生活を捨てるつもりはありません!大宜都比売神様を治すって?あれはマスターのご飯を食べてたら勝手に治ります!それより今、この時を堪能しておかないと、任務が終わると次はいつ下界に来られるか分かりませんから!』


 と、思っているような気がする。確かに大宜都比売神様に祈りを捧げ、毎日オレが作る飯を食べてはいるけど、特に風呂が大好きなようで、最近なんかは入浴剤なんかオレに言わずに新しいのを購入して、好き勝手している。

 後もう一つ、何故、神であるカナがこのような商売モドキのような事をしているのか。それは・・・


 「神殿を維持するのにもお金が要るのです」


 「え!?神もお金使うの!?」


 「え!?そんなの当たり前ですよ?アースガルドにエクスチェンジオフィスがあるので、そこで下界のお金を天界のお金に両替してそれぞれの神殿や社などなど修繕したり維持したりしてますよ?

 インドの神であるガネーシャ様なんかは信徒が多いため、神殿では毎日のように饗宴をしているので、下級神は日々奔走していますよ。

 ランダムにお参りに来てくれる人間を選び、少しの奇跡を行ったりして」


 「そ、そうなんだ・・・。神も大変なんだな」


 と、いう出来事があった。つまり、オレのように神の奇跡を見せず、直接的にお金のやり取りができる事は滅多に無い。というか、絶対に無いらしいので、『この機会に出来るだけ稼ぐ』と最後に言っていた。つまりオレは金ズルみたいなものだ。だが、それを差し引いてもカナの知識は本当に凄い。毎日助かっている。


 まぁ、このような話をしている時に、久しぶりにハンバーガーが食べたいと思い、自分で作り、皆に振る舞っている時に思い出したのだ。


 「あっ!ドライブスルーがいいかも!特に権力者は皆、騎乗しているからちょうど良いような気がしてきた!」


 「ドライブスルーとはなんですか!?」


 「清さん!よくぞ聞いてくれた!慶次さん!少し松風に乗ってください!」


 「(ヒヒィーンッ)よっと。これでいいか?」


 「えぇ。その馬に乗ったまま注文をし、店の敷地の端の方で受け渡しし、そのまま帰ってもらうって事!これをドライブスルーって言うんだ!要は騎乗したまま注文できるって事だ!」


 「いいじゃないか!」


 そこからは早かった。カナに言って、テーブルを購入し、立て札は清さんに作ってもらい、騎乗してる人は外で対応する。

 注文を聞く人は・・・


 「い、いらっしゃいませ!」


 「うむ。今日は朝から腹が減っておる!カツサンドとやらを貰おうか」


 「は、はい!尊様!カツサンド一つです!お値段はご、50文になります!」


 「おい!女!そんなに緊張しなくとも良い。ほれ」


 「あ、ありがとうございます!この線に沿って、前へお進みください!」

 

 「あっ、岡部様!おはようございます!」


 「うむ!おはよう!いや、どらいぶするうとやらも慣れると早くて助かるな!それにあの女も、未だ少し緊張してる節はあるが、だいぶ慣れてきているようだな」


 「あ、てるさんですか?そうですね。最初は読み書きも、怪しかったですが今や看板娘ですよ!はい。お待たせ致しました!こちらはサービスのアイスコーヒーです!この二つを入れて飲むと甘くなって美味しいですよ!」


 「なんだ?泥水か?いや、すまんな。お主も、さあびすばかりしてると店が潰れてしまうぞ?貰う銭はしっかり貰えよ?さて・・・今日も頑張るかのう!じゃあな!」


 注文係は、てるさんだ。当初は源三郎さんと同居・・・は家族だから当たり前だけど、甲賀村での雑用をお願いしていたのだ。

 だが、遊ばせておくのは勿体無いと思い、ドライブスルーの注文係りに抜擢したのだ。ついでに、読み書きの練習にもなるしな。


 一方、カナの方は店の雑用はもちろん、その他の事も色々してくれている。まずは、図面描き、建築方法、材料調達と掟に抵触しないのか!?と思うくらいに自由奔放だ。

 九鬼さんの船の事に関してはオレ達の一存では行えないため、まずは図面までにしておく。その後、時を見計らってオレが信長に上奏する事とした。

 図面を描く事で、製図版なんかも必要だから勝手に購入していた訳だが、これも勝手に馬宿へと魔改造された元倉庫の反対側の山の斜面を、カナが太郎君に甘い言葉を言って、手刀で切り開いた場所に小屋を建てて、そこをカナの家とした。


 それと、カナは文化面にも精通しているようで、古びたお椀や、誰が履き潰したかも分からない草鞋を集めたり、酒に酔った九鬼さんから脇差しを貰ったりして、部屋に飾っている。


 「マスター?源三郎様もそろそろ高炉の調整に慣れた頃かと思います。私が出向き、最強の一振りを伝授しようかと思いますが?」


 「は?いやいや、カナは鍛治とか分かるの!?」


 「少し・・・試したい事があります。私は人間の営には干渉しないとは言ったものの、野伏りや賊に襲われ、むざむざとこの依代を破壊はされたくありませんので、自衛ができるくらいの刀は所望したいと願います」


 「いやまぁ、それは分かったけど、どうやって甲賀まで行くつもり?軽トラの燃料はもう切れているけど?」


 ここ最近は店の方が忙しくなり、オレが甲賀へ行く事が困難となってきていたのだ。だから軽トラの事を忘れていたが、残念ながら燃料がなくなったのだ。


 「あ、それなら給油しておきましょうか?」


 「え!?給油できるの!?」


 「正確にはガソリンを購入すると言えばいいでしょうか。あのタブレットの通販に関しては実はマスターが居た世界線のマスターの居た時間軸のアメリカの会社の密林サイトを真似て作りました。

 商品のラインナップも密林サイトにある物は危険薬物以外はほぼ取り寄せ可能となっております。

 今はレベルが、357ですので・・・あ、少し足りないですね。少し上級神に聞いてきます!少し待ってください」


 カナはそう言うと目を瞑った。すると、擬似人形は糸が切れたかのように崩れた。


 「カナぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!」


 オレはカナが死んでしまったかと思い、思わず抱きしめてしまう。


 「尊さま!?どうされましたか!?」


 「清さん!カナが!カナが・・・」





 〜天界 大宜都比売神 宮殿〜


 「あ〜ら?あなた久しぶりじゃない?今は下界に居るんじゃなかったかしら?」


 「八幡様。お久しぶりにございます」


 「そうね。30年振りくらいかしらね。今はあなた達の監視役みたいなものだからね。オオゲツちゃんの屋敷は女の神しか居ないから私が抜擢されたのよ。何か想定外の事が起こったの?」


 「いえ。今、下界にて仕えている人間の者が色々困っているようで。これをどうぞ。下界のお土産です」


 「えぇ〜?今、あなたが居る時間軸って戦争ばかりしてる時間軸でしょう?鎌倉だっけ?」


 「室町の時です」


 「そう。どっちでもいいけど、あまり食べ物も美味しくない時代よねぇ〜。まっ、ありがとう。何かし・・ら・・・これは!?まさか!?これはチョコレートじゃないの!?」


 「はい。今、私が仕えている人間は令和の時代の男です。食べ物が飽食の時代で、世界の食を知っている時間軸の男です」


 「まったく・・・(ハムッ)うぅ〜ん!あま〜い!400年振りに食べたよ!それにしても(ハムッ)変な掟を作ったものよねぇ〜。

 人間の繁栄を望む事はいい事だけど、祈りで捧げられた供物しか私達は食べられないってね。

 別に何も食べなくとも死にはしないけど、面白くないわよね〜。それにしてもあなた?少し太ったんじゃないかしら?」


 「・・・・・気のせいです」


 「ふぅ〜ん。で、何を食べてるの?普段は?」


 「秘密です。現に大宜都比売神様のマナは以前より回復しているように感じますので問題ないかと・・・」


 「へぇ〜。秘密にするんだ?私とあなたの間じゃない!教えてよ!」


 「肉うどんに・・・カツ丼・・・。偶にケーキを・・・」


 「うどんは分かるけど、後の二つは初耳ね。何かしら?」


 「なんて言えばいいでしょうか・・・。お腹が満たされるだけではなく・・・極めて満足度の高い、心が満たされる食べ物と言えばいいでしょうか・・・」


 「じゃあ、今度はその二つをお土産に頼むわね?私は本来、武運を司るって人間には思われているみたいで、私の供物は武器や防具ばかりで食べ物なんて少しもないのよね。だから今回のチョコレートも嬉しかったわよ?それで・・・何かお願いがあってきたんじゃないの?言ってごらんなさい?」


 「ありがとうございます。では、単刀直入に。例の物を取り寄せる権能の縛りを緩くしていただきたく」


 「うん?あなたが構築したアレの事?」


 「はい。今、下界に仕えている男が困っているようでして。石油の縛りだけ除外していただければ助かります。そうすれば行動範囲が広がり、更に美味しい物も用意できるかもしれません」


 「もっと美味しい物ですって!?それはなに!?なんなの!?」


 「究極の甘味だと私は思う、プリンやフルーツタルトなどなど・・・」


 「なに!?なんなのそれは!?」


 「ゴホンッ。これらを作るには卵が必要だと男が言っていました。男は食の幅を広げようと奔走しております。もし、男の野望が少しでも叶う事ができれば、八幡様もこの世界線での供物に甘味が入るかもと愚考致します」


 「オッケー!許す!私の一存で許す!直ちに卵を量産しなさい!石油も許可致します!」


 「ありがとうございます。この人間の男の名は尊と言います」


 「ふぅ〜ん。あなたが人間の名前を覚えるなんてね?どういう風の吹き回しかしら?しかも男や女なんて聞いてないわよ?それなのに男ってわざわざ言うとはね?」


 「・・・・・失礼致しました。一応、報告をと思いまして」


 「別にいいけど。じゃあよろしくね。くれぐれも他の女神には内緒にするのよ?特にあの爺いの建御雷神や木花之佐久夜毘売には見つからないようにね?」


 「それは何ででしょうか?」


 「当たり前じゃない!あの二人は下界になんてどの世界線でも降りていないんだから、今回のあなたの構築したネットスーパー?だっけ?かの権能も意味が分かってなかったんだから。それを私がゴリ押ししてあげたのよ?簡単に供物が手に入るなんて知られたら・・・。

 あの爺いは必ず酒を所望するわよ?木花之佐久夜毘売は大の甘味好きよ?毎日供物を強請られるわよ?」


 「確かに・・・容易に想像ができます」


 「でしょ?だ・か・ら!私達だけのひ・み・つ!」


 「畏まりました。では、そのように。失礼致します。またお土産を持ってきます」


 「よろしくねぇ〜!できるだけ早くにね!なんなら明日でもいいからねぇ〜!」




 「カナぁぁぁぁぁぁ〜!!」


 「尊!カナ嬢がどうしたんだッ!!!!医者を呼べ!おい!太郎!すぐに医者を探せ!」


 「(ゴホッ ゴホッ)苦し・・い・・マスター!?苦しいです・・・」


 「あ!?え!?あれ!?」


 「皆様?そんなに集まってどうされたのですか?」


 「いやいやカナの方こそ急に崩れ落ちるから・・・」


 「少し、失礼しますと伝えた筈ですが?」


 「なーんだ。尊の勘違いかよ!まぁいいや!後はお前達でやってくれ!折角、良さそうな陣を考えられそうだったのによ!」


 「け、慶次さん!ごめん!」


 「いいさ。いいさ。じゃあまた夜にな!」


 「本当にマスターはどうされたのですか?」


 「いや、だから・・・カナが死んだのかと・・・思って・・・。その・・・」


 「死ぬ?私が?(クスッ)死ぬわけありませんよ?この身体は依代にしているだけですから、人間に殺される事なんて絶対に有り得ませんよ!そんなに心配なんてしなくて・・・」


 「(バァンッ!)心配するに決まってるだろう!何でそんなに冷めていられるんだよ!オレはもうカナの事を家族みたいに思っているんだぞ!清さんもそうだよね!?」


 「え、えぇ。私も少し驚きました」


 「ほら!慶次さんもわざわざ甲賀から飛ばして駆け付けて来てくれたんだぞ!?」


 「・・・・すいません」


 「そりゃあ、カナからすればたかが人間くらいにしか思わないのだろうけど、オレ達からすれば大切な仲間なんだよ!あんな事は2度としないでほしい!」


 「そんな事言われたのは初めてです。善処します」


 「そういう所もだ!カナはただの器とか言ってるけど、仮に本当に死ななかったとしても少なくともオレはイヤなんだよ!賊に襲われたとしても、カナなら権能?か何かで撃退してしまうかもしれないけど、オレ達が守ってあげたいんだよ!」


 「そうです!それは私もです!だから尊さまは今も毎日早朝に私のトレーニングをしているのですよ!カナ様はもっと報告してください!」


 この時、気が付けば熱弁していた。いつも無表情のカナだが、この時は少し、ほんの少しだけだが笑顔になったような気がした。



 そして今だ。


 「マスター!全ての雑用を終わらせました、暫しの間、軽トラをお借りしますね!音速の向こう側を確かめてきます!」


 「はぁ!?音速って!?甲賀村だよね!?ってか、その緑風呂敷はなによ!?」


 「これですか?これはあの先日、私が倒れた時に天界の宮殿から持ってきたものです!ちゃんと許可も得ましたよ!後、マスターの部屋に簡易的ではありますが、祭壇を作りました!適当に祈りを捧げて、甘い食べ物でも供えてください!」


 「は!?え!?甘い物!?なにそれ!?」


 「特に、ケーキとかプリンとか喜ぶと思いますよ!では行ってきます!素晴らしい一振りを皆様にプレゼントしますよ!」


 ブォーーーーーン


 「あれ?尊さま?カナ様は出発されたのですか?」


 「う、うん。慌ただしく出てったみたいだね」


 「(クスッ)あれから変わりましたね!」


 「そうだね。笑う事が増えたのと、更に遠慮がなくなったように感じるよ。今日は次郎君だけで回せそうみたいだし、少しおやつでも一緒に作ろうか?」


 「おやつですか!!!はい!喜んで!」

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