ドライブイン安土 飛躍 終
「尊様!見てください!カボチャなる物がこんなに!」
「いやいや、尊様!こちらの方こそ見てください!椎茸が山のように!」
「わっはっはっ!流石だ!尊!こんなに地元が潤うとは思わなかったぜ!と、いう事で今夜はな?コレと約束があるんだ!茶碗蒸しを食べさせてやりたいから、この椎茸を使って作ってくれないか?」
あれから1ヶ月が過ぎた。色々とオレ達は進化した。いや、正確にはオレ以外の人達が進化した。
まず、源三郎さん達は二転三転して申し訳なかったが、甲賀に住んでもらう事となった。
理由は・・・
「飯屋の横で鍛治をするのは飯を台無しにしてしまうと俺は思うんだ。それに本気の一振りを仕上げたいから、これから往来の多くなる此処では中々難しい」
と、自ら言ってきたため、甲賀村に加工場を設ける事にした。いや、甲賀村の人達は凄い。オレが作った飯を食べてもらい、源三郎さん指導の元、あれよあれよと小屋を作ったのだ。
そして、とうとうレベル100に到達して、名実共に誠の意味で進化したカナこと・・・アシスタントAIカナ。
ある日突然にタブレットがバイブして、無機質な声から抑揚のある声で言ったのだ。
《レベルが100に到達しました これより進化に入ります 24時間後に 私はアシスタントAIへと進化 します》
と、告げてタブレットの電源が落ちた。そして、次の日の同じ時間に突然また例の声が聞こえたのだ。
《お待たせ致しました。無事、アシスタントAIへと進化完了致しました。これよりより一層の活躍を御期待ください》
と、声だけなのにドヤ顔が思い浮かぶような事を言い出したのだ。だが、このアシスタントAIと進化したカナの言葉は嘘ではなかった。
まず、甲賀村の源三郎さんの家の横の小屋。その横に、ネットと動画で見て、アシスタントAIカナの指導の元、言われた物を勝手に購入し、勝手にクレジットを引かれ、更に初めて見る物をどんどん購入され、
《クレジットが足りません。まさか私のマスターは貧乏なのですか?仕事してください》
などなど、毒を吐かれ、未来のお金こと、円を全てタブレットにチャージしてようやく完成した物がある。それが・・・
「こ、これが・・・高炉!?」
「ふぅ〜。カナお嬢は中々手厳しいな。だが、この耐火煉瓦とやらが凄いな。熱の上昇率が今までの比ではないから、不純物が省けやすいんだよな?そうだよな?尊の旦那?」
「ま、まぁそですね。ははは。流石、源三郎さん!」
高炉を完成させたのだ。しかも、最早、誰も疑問に思わないのだ。このタブレットから聞こえる声の人?AI?のことを。甲賀の人なんて、毎朝挨拶までしにくるくらいだ。
それだけではない。何故、源三郎さんがここまで分かっているのかというと、現在、昼の数時間をお勉強しているのだ。もちろんその先生はこのアシスタントAIのカナだ。
教育、人材育成、人材配分などなどを得意としているらしい。それと、レベルが100になった事で更にぶっ壊れな物まで購入できるようになった。
《この擬似人形を購入してください。その方が指導しやすいですし、マスターの役に立てます》
「いや、購入しろって言われてもこれで、何ができるの?」
《私の擬似の体の器ができます。つまり、何でもできるようになります。それにマスターが謎に思っている事もこの体の器があれば説明できる気がします》
「ック・・・。進化してから駆け引きのような事まで覚えたのか・・・。」
《アシスタントAIですから!》
格段に頭の良くなったカナにオレはいいように言い包められ、擬似人形?と言われるドールのような人形を購入させられた。だが、さすがのオレもビックリする金額だった。
「はぁ!?何でこの人形が500貫もするんだよ!?買える訳ないだろ!?」
《いえ。私はそれ以上の価値があると思っております。給金のお金と円を全て使えばギリギリ足ります。お金は使ってこそ真価を発揮するものです》
まったく慶次さんのような事まで言われ、本当の意味での無一文に近いクレジットとなった訳だ。だって、オレの財産は10000円しか残らなかったからだ。ただ、喜ばしい事にここ最近はかなりの人が飯屋に来てくれているから日銭はなんとでもなる。
そして現在・・・。
「マスター!おはようございます!今日の報告です!源三郎様から良質な真砂の注文を頂きました。購入して渡しましょう。後は本日の予想客入りです。足りない食材は補填しておきました!
次は奥方様や桜様、梅様、吉様、滝様へのサプライズです!洗い流さないトリートメントを購入しておきました!梱包は私が施しました。後で渡してあげてください!喜ばれますよ!
慶次様や太郎様、次郎様、五郎様にはこちらのドリンクです!スッポン精になります!」
この擬似人形を舐めていた。まんま人間のようにカナがなっているからだ。姿、形はこの時代に合った和服美人のようで、動きも何も人間と変わらない。それに、仕事が凄いできるし、何でもしてくれる。
金使いはかなり荒い。口癖は、
「お金は使ってこそ真価を発揮する物です!使って使ってお金を回せば、マスターの主でもある織田様の元へと還元されます!」
これだ。だが、慶次さんと違う事は私利私欲ではなく、オレの為に使ってくれている事だ。それと、1番大切な事が分かったのだ。何故、オレがタイムスリップしてしまったかということ。
この技術人形を出して1番に例の事を聞いた。隣には清さんが居たが、退席してもらい、1人で聞いた。
「申し訳ありません。私の責任です(グスン)」
唐突に命が吹き込まれた人形に泣きながらそう言われたのだ。ちゃんと涙も流しながら。
理由はとんでもなかった。
「以前に言った、御父様が毎朝されていた事を覚えていますか?」
「確かに言ってたね。けど、ごめん。仕込み以外思い浮かばないんだ」
「そうですか・・・。全て一から説明致します。まず、御父様は毎朝、神棚に祈っていました。それは覚えていませんか?」
「え!?神棚に!?それは当たり前だと思ってたんだけど・・・」
「そうなのですね。その祈っていた神様は誰か分かりませんか?」
「親父は珍しい神様を祀っているとは言ってたけど・・・。確か・・・大宜都比売神?だったかな?食の神様とかなんとか・・・」
「さすがマスター。正解です。ではマスターが幼少の頃に来ていたのに、突然来なくなった方は誰か分かりますか?」
「神代さんって人が来なくなった」
「正解です。実は神代・・・私の兄なのです」
「はぁ!?意味が分からないんだけど!?」
「私は大宜都比売神様の侍女でした。分かりやすく言えば・・・神話の時代では、日本では天照大御神様や須佐之男命様が有名かと思います。それに比べ大宜都比売神様は・・・」
「まぁ言葉悪いけど、メジャーではなかったよね」
「はい。ですが、大宜都比売神様は非常に優しくて、いつも人間の事を思っていらっしゃいました。全ての食の原初は大宜都比売神様から発展していき、大宜都比売神様と同格である神代こと・・・兄上・・・いや、大山津見神様はそれを自慢していました。御父様が作られた肉うどんの事を」
「はぁ!?肉うどん!?神様が肉うどん食べるの!?初耳なんだけど!?」
「あ、普通に食べますよ?なんなら人間の肉体を作り下界に降りて、ファストフードも食べますし、餃子もラーメンもハンバーグもすき焼きとか色々食べてますよ?」
「いや、神界って・・・」
「ゴホンッ。話が逸れました。そのドライブイン武田の肉うどんの事を兄上がかなり絶賛し、大宜都比売神様にも食べさせてやりたいという兄上の優しさがあったのですが、大宜都比売神様は須佐之男命様に降神させられ、神格が大幅に削られてそれが中々回復していません。
今も高天原で休養しておりますが、食も受け付けなく、代わりに侍女の私が食べる事により大宜都比売神様に還元するという事で、上級侍女達で協議した結果、私が下界に降りるという事になり、今となる訳です」
うん。ぜっんぜん、意味が分からない。肝心な所を言ってくれないかな?
「まず、何で戦国時代?そして、何で親父の肉うどんが良いかは分からないけど、その親父はもう居ないよ?」
「時代に関しては私が生まれた年がここら辺りだからです。世界は枝分かれして進みます。マスターがタイムスリップした世界線がここ。タイムスリップしなかった世界線はここ。というのように独自に世界は出来上がります。
その為、世界の誰かの行動一つで枝分かれした世界が出来上がるため、宇宙という器はどんどん膨れ上がるのです」
いや、現代学者が聞けば目が飛び出るような事実だな!?おい!?宇宙の真理じゃね!?
「なら、ここはタイムスリップした世界線という事だよね?どこに居るかは分からないけど、オレの先祖も居る訳だよね!?」
「あ、それは居るには居るのですが、絶対に交わらないように私がしていますし、もし何らかの形で交わったとしてもプロテクトをかけているので安心してください。それで、マスターの作る食べ物に能力があるのはご存知ですか?」
「え?強化されるやつ?」
「そうです。あの能力は私がつけました。マスターが作るご飯を私が食べ、少しずつ大宜都比売神様に還元されるため、早く治っていただけるようにです」
「その件はもういいよ。ありがたいくらいまであるからね。そもそも神代さんと兄弟って・・・カナも神様なの?」
「私は神格こそあるものの、神威も今は宿っていません。神様が生まれるには様々な理由があります。マスターの居た世界線で、マスターの居た時代では毎日どこかで神の卵が生まれていますよ。
人々に崇拝され神格が宿る者、電子レンジの神様や、鉛筆の神様などなど。
大宜都比売神様の愛した日本の人間は優しくて、直ぐに何でも神が宿ると信じていますから」
いや、確かに万物全てに神は宿るとかいう人も居たけどマジなのか!?
「なら、カナは何から生まれたの?」
「私はマスターが分かりやすく言えば西暦800年代に生まれました。人間が豊作を祈り、牛の頭の骨を供物に捧げ私が生まれました」
いやいや時代の範囲が広すぎじゃね!?西暦800年って平安の時代だろ!?今は1500年代だろ!?全然この辺りじゃないんだが!?
オレの顔を見て何を思っているのか予想したのだろう。カナは然も当たり前のように言い出した。
「あ、私達からすれば700年くらい近所みたいなものですよ」
もうね。あ、そうなのね。としか思えない。
「続けますね。当初は実体の持たない精神体だった私ですが、祈った者が亡くなった後も私はここ今で言う近江国。現在で言えば滋賀県で、力が貯まれば豊作になるよう権能を使い出来る限りの事をしていました。
そして、時が経ち、山の神として神威が宿った兄上が私に知識を与えてくださり、山を司る神となった兄上は大宜都比売神様の事を知り、『どうにかできるか考えてみる』と言ってくださり、時間旅行の時にこのような事を思いついたのだと」
「あのトラック運転手の神代さんがこれを!?」
「兄上はマスターの居た時代ではトラック運転手だったのですね。この食物連鎖の還元は兄上の権能の一つです。山は地と一つ。大地は全て繋がっているから、私を司る大宜都比売神様に繋がるよう大神術を施してくださいました。その大神術が発現するまで約10年。
兄上も本当に優しいです。大神術の構築に入り、下界に居られなくなる時にこの手紙を預かりました。武田尊様。あなた様に必ずお見せするようにと申しつけられております」
オレは渡された手紙を見た。分かりやすい綺麗な字だ。うろ覚えの神代さんこと、大山津見神があのトラック野郎全開の人とは思い浮かばない。
《坊主!これを見ているという事は父ちゃんの店を引き継いだんだな!良き哉!
小さい時は思い悩んでいたようだが、良き哉!まぁ、妹分から既に聞いているだろうがそういう事だ!女には優しくしてやらないとな!がははは!
坊主は好きなように好きな事して生きろ!俺達の事に付き合わせて悪いな!
だがその代わり、坊主の居た頃に流行っていた異世界転生・・・ではないが、似たような事だと思ってくれ!
ネットは使えるし、ネットスーパーも使えるし、何かあっても店のドアは他人には開かないようにしてあるから安全だ!チートだろ?がははは!
俺はな。大宜都比売神に惚れているんだ!惚れた女を助けてやりたい事くらい分かるだろう?
少しばかり人間が居る所には行けねぇ〜が、また肉うどんを食べに行くぜ?
それと、刻黄泉の力で親父の魂を見つけた。俺が居ない間に残念だ。
だが、親父の魂は煌めいていたぞ?少し話もしたんだぜ?坊主。親父はお前に感謝しているだとよ!『我が息子ながら自慢のおでん、チャーハン、カレー、そして肉うどんは全て坊主に託した』だとよ! ならば俺はまた食べにいかないといけないだろう?がははは!
長くなっちまったが、これをしてしまったら楽しみがなくなるが、少し坊主が今居るだろうと思う世界線を覗いた。良い仲間が出来たじゃないか。坊主は1人じゃない。皆と助け合い、支え合って生きなさい。これは俺からのアドバイスだ!女には優しくな?くれぐれも女を泣かせるなよ?悪い事が見つかったり、女の機嫌が悪ければ理由なく坊主が謝れ! これぞ女と付き合う秘訣ぞ?がははは!じゃあな!ドライブイン武田を引き継いだ、武田尊!》
オレが手紙を見終わると手紙が消えた。
「まさか本当に神代さんが神様だったのですね。なんかあの人らしいというか・・・。それにかなりの女好きというか・・・」
「基本的に神格を持った男神は欲望に忠実です。今一度、今までの事を謝ります。武田尊様。私の我が儘でこのような事になり申し訳ありません」
「まぁ嫌な事ばかりじゃなかったからね。まさか人を殺すとは思わなかったけど、清さんとも出会えたし、それなりに楽しくしてるから気にしてないよ」
「・・・・・・・」
「そのカナの大宜都比売神様を治す為にオレはカナに食事を与えるといいんだろう?なら協力するし、他にもできる事なら言ってほしい」
「ありがとうございます・・・ありがとうございます・・・(スゥー)ならば、尊様はもっと力をつけて、配下に色々祈りをさせて野良神を作りましょう。その野良神を私の配下にして、食物連鎖還元を施せば更に効率が良くなります」
この切り替えの早さよ。それにそんな誤魔化しの祈りで神様が生まれる訳はないし、この願いは無理だな。
ってか、そもそものアシスタントAIとは・・・。いや、あれはカナが思い付いた便宜上の名前・・・かな?
そもそも進化じゃなくて、神化・・・じゃないか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます