ドライブイン安土 開店5
「うわぁ〜!布団なる物に感動したばかりなのに、このふかふかはなんですの!?」
「ははは。ベッドだよ。親父が使ってたやつだけど、ちゃんとクリーニングもして綺麗にしてるし、布団も新しいやつだよ。ここで眠っていいよ」
「いえいえ!私は見張りですので、今宵は眠りません!」
いや、聞き間違えか!?まさかオールするのか!?オレはまた倒れたら帰れると思いはしたが、あの頭の割れるような感覚になるのは勘弁だ。
それにこの可愛らしい女子高生くらいの女の子が、働かないといけないとは、戦国時代・・・ブラックすぎる。うちの店も大概だが、ここの方がブラックだ。
「じゃあ交代にしよう。少しは休まないと、もし本当に何かあってもいけないだろう?オレはまだ起きてるから、眠くなったら起こすから交代してよ?」
「そ、そんな訳には・・・」
「いいから!いいから!おやすみ!」
オレは半ば強引に電気を消して、扉を閉めた。何故、少し強引にしたかというと、レジ横にあるタブレットに表示されてあるレベルが《LV2》になっていたからだ。
何故レベルが上がったかは分からない。何が変わったのか、早く確認したい。だから、強引に寝かせたのだ。だって、あの子が居ると元気にはなるが事が中々進まないのだ。
「どれどれ・・・」
オレはタブレットをタップする。今日の朝までは、《食品》という項目しかなかったが、今は・・・
「はぁ!?雑貨!?雑貨まで増えてるのか!?」
思わず1人で叫んでしまう。いや待て待て。ここで、清さんに来られるのはマズイ。静かに・・・。
《雑貨》をタップすると、色々出てきた。トイレットペーパーや、ボールペン、ノートなどなど・・・。マジで雑貨ばかりだ。そして、その中に・・・
「あった・・・。下着・・・」
男ものや女ものの下着が何故か雑貨の項目の中にあったのだ。デザインは無地のだけど。男はボクサーパンツやタンクトップなどで、女ものは、スポーツブラというやつの上下セットのような物だ。これはちょうどいい!
相変わらず円ではなく、尺貫法だ。ちなみに、男性下着は3両、女性下着は7両と出た。
先に買った卵で計算するなら、1匁 円表記で10円だった。つまり、1両なら・・・100円かな?
オレは購入ボタンを押す。が、《クレジットが足りません》と出た。オレの計算が当たってたら、恐らく10円足りない筈。オレは《入金》という項目を押して、タブレットの画面に開かれた禍々しそうな空間に1000円を入れた。そして、購入を押すと。
チャリン
例のコインの音が聞こえて購入できた。クレジットの残りは990円だった。オレの考えは当たりのようだ。この調子なら1斤が千円、1貫が一万円という事だろうか。これはまた追々でいいだろう。
購入した物は相変わらず厨房に届けられるようだ。いったい、誰がこんな届けてくれているのだろうか。そもそも、何故こんなタイムスリップみたいな事に巻き込まれたのだろうか。けど、清さんのような綺麗な人と話す事は中々ないからラッキーだとは思う。けど、本当にあの子は強すぎな。
本当は交代で寝るというつもりだったが、オレは起こすつもりはない。あの子には朝まで寝てもらわないと可哀想だ。どうせなら、あの防具類も綺麗にしてあげようかな?確かあぁいうのは油で拭いた方がいいんだっけ?
色々調べたが、昔の武具の手入れ方法の事が掲載されてるページを見つけられなかった。が、所々のページに、オリーブオイルと書かれていため、オレはぬるま湯で完璧に汚れを落として、ティッシュにオリーブオイルを少し染み込ませて、綺麗に拭いてあげた。輝きが違う気がする。それと、乾燥させた服を綺麗に畳み、部屋の前に置いておいた。
眠い目を擦りながら、店の時計で4時を回った。色々ネットで調べた結果が、戦国時代の朝は早いという事が分かった。だから、もしかすれば信長がここに来るのも早朝かもしれない。と思い、冷蔵庫に入れたカレーやおでん、うどんなどなど、必要な物を直ぐに調理できるように準備した。
後はグラスだ。丹羽さんが驚いていたくらいだから、信長も驚いてくれれば良いんだけど。
最後はお土産だ。これは清さんを信じて、塩10キロ、砂糖10キロ、後はネットで調べた、戦国時代で高価な物で調べた胡椒10キロ、米30キロだ。どうやら、米もこの時代では違う品種みたいだ。この時代では赤ぽい米らしい。謂わゆる、赤米だろう。江戸時代に品種改良される前の稲なんだと思う。
他にも来た時に何か、オレが出せる物で渡せる物なら渡したいと思う。まぁ、この時代風に言えば献上だな。とりあえず死なないように、オレには利用価値があるように・・・。なんとか、そう見せないと。
鍋類に火を点け、良い感じに温まって来た時に、階段を慌てて降りてくる音が聞こえた。
「尊さま!!申し訳ありません!余りにも寝心地が良く、寝過ぎてしまいました!」
「ははは。別に大丈夫ですよ。それに、機嫌を損ねると殺されてしまうと思えば、オレも落ち落ち眠れませんよ。それより、顔を洗って歯磨きでもどうですか?それと、服は気付きましたか?」
「あっ!いえ!慌てて降りて来たもので・・・失礼します!」
寝起き姿も相変わらず可愛い。あんな子が彼女なら毎日が楽しいだろうな。伝助君が羨ましいぜ。
それから直ぐに着替えたようで、防具が綺麗になってる事をかなり喜ばれ、後は歯磨きを教えたり、洗面所の使い方は・・・慣れた手付きで行っていた。ただ、歯磨き粉には慣れないようで、咽せていた。
さっきの準備の時に朝ご飯も用意してあげた。
卵焼き、塩昆布お握り、ツナマヨお握りに、味噌汁、タクアン、麦茶だ。
「うわぁ〜!朝から豪華ですね!」
「そうかな?オレが居た時代では当たり前だと思うけど」
「(ハムッ)美味しいぃ〜!凄く美味しいです!お米も白くて甘くて、ほっぺが蕩けそうです!」
「ははは。ありがとうございます。美味しいと言っていただけるのがオレは嬉しいですよ」
オレがニコニコと清さんの食べる姿を見ていると、外から音が聞こえた。音の正体は分かる。
「来ましたね」
清さんは食べる事に夢中で気付いていないようだ。
ドンドンドンドン
「清!どこに居る!店主!開けろ!ワシだ!」
オレはドアを閉めていた。まぁ何故か、この時代の人は開けられないから鍵までは閉めていなかったけど。
オレは普通にドアを開けた。
「おはようございます。清様なら中で朝ご飯を食べております」
「ぐぬぬ!おい!清ッ!!そこで何をしているのだ!見張りだったではないか!」
「(ブボッ)ぢ、ぢ、父上!?こ、これは違うのです!」
「なーにが違うのだ!このたわけが!(ゴツン)」
どうやら、娘というのは本当ぽいし、女相手でも拳骨とかするんだな。怖いパパだな。
「えっと・・・。丹羽・・様?織田信長様はどちらですか?」
「貴様ッ!!!間違っても諱で呼ぶんじゃないぞ!?即刻首が飛ぶと心得よ」
「え!?諱!?」
「えぇい!兎に角、貴様は織田様と呼べ!さすれば問題はない!分かったな!?それと今はワシ1人だ!先触れだ。本当なら貴様如きにここまでしてやらなくとも良いのだが、貴様に本当に死なれるのは勿体無い。だから伝えてやったのだ」
「そ、そうなのですね。分かりました。気を付けます。それと・・・オレなんかに気を使ってもらいありがとうございます。これ・・・よければどうぞ。清様と同じ物です。オレが食べようと思ってましたが、食欲が失せました。お食べください」
食欲が失せたのは本当だ。だって下手すればオレの命は後少しなんだから。呼び方でダメな言い方があるなんて知らなかったし、ここまで言われる信長ってマジで殺してしまえの人なのだろうって思ってしまう。
「うむ。食わぬのならこの握りは食べるぞ?いいのだな?返さぬぞ?(ハムッ)うむ!やはり美味いな!」
「ち、父上こそ食べているじゃないですか!」
「なっ!わ、ワシは良いのだ!此奴が寄越したのだからな!それよりお前は外に出ていろ!お館様は余り興味を持たれていなかったが、この飯を食べていただいたら分かってくださる!」
オレはこの人に先に砂糖や胡椒など、献上する気がある。と言おうかと思ったが、これはオレの最終兵器とする事にした。もし、これだけでも足りないと言われるなら、石鹸も価値があるとネットで見たからなんとか・・・なってほしい。それに醤油もある。未だこの時代で醤油は量産されていないだろうし。
パカラッ パカラッ パカラッ
オレが物思いに耽っていると、遠くから規則正しい馬の走る音が聞こえた。オレは外に出て、音の方を見る。まだ薄暗くて、詳しくは見えないがオレには分かる。絶対にあの人が織田信長だ。
「おい。あれなるが、お館様と愛馬の小雲雀(こひばり)号ぞ。頭を下げよ。許しが出るまで頭を上げず、言葉も発するな」
「分かりました」
オレは土下座の形にした。この方が間違いないだろうし。馬の音が大きく聞こえる度に自分の心臓の音が大きくなるのが分かる。
「お館様!おはようございます!お待ちしておりました!これなる者が例の者です!」
丹羽さんの声から始まった。目の前に戦国時代で1番有名だろうと思う、織田信長が居る。まだ姿すら見ていないのに、既にオレは心臓が捻り潰されてしまうような感覚だ。
「城の者が煩いからのう。安土の視察も兼ねて出て参った。うん?なんぞ?この匂いは?」
おいおい。目の前に頭下げているのに無視かよ・・・。
「はっ。これが某が気になった理由でございますれば」
「ふん。その方、面を上げよ。直答を許す」
ぶっきらぼうに映画の中で聞くようなセリフを言われた。オレは頭を軽く上げて、信長の方へ向く。が・・・これが・・・
「ハァー ハァー ハァー」
「ふん。小物だな。ワシの気に充てられただけで息を切らしておる」
その通り。織田信長だろうと思うこの人から放たれている何か・・・オーラみたいな物というのだろうか。兎に角、現代では感じる事のない何かがオレには向けられている。何もしていないのにオレは息切れを起こしている。
「この者は足軽ではございませぬ。気をお鎮めください」
「ふん。まぁ良い。これで貴様のような矮小な者も喋れるだろう。名はなんと申す?」
信長がオレをバカにしたような言い方をすると、放たれている何かが治ったような気がした。殺気だろうな。丹羽さんの部下の人にも最初似たような感じを受けた。が、ここまでではなかった。この人は本物なんだろうな。
「た、武田尊と申します。甲斐武田?若狭武田?とは無縁です!寧ろ、まったく関係ありません!」
「殿ぉぉぉ〜〜!!!」
オレが自己紹介をした所で、もう1人現れた。この人もthe武将って感じの人だ。
「来なくとも良いと言った筈じゃが?」
「なりませぬ!殿に何かあればどうするのですか!!若い時から何度も、『出かける時は一声掛けてください!』と伝えているではありませぬか!」
「いや、だから来なくとも良いと言ったが?」
「そういう問題ではございませぬ!某を放って行くとは些か冷たくはありませぬか!?」
オレは劇でも見せられているのだろうか。後から現れた人のおかげで、少し緊張が解れた気がした。誰なんだろう?
「まぁ良い。ツネはその辺に居れ。つまらぬものを見せたな。で、武田だったな?何故、現れた?ここで何をしている?偵察しに来たのか?」
「と、とんでもございません!気が付けばここに家と店ごと来てしまったというか・・・なんというか・・・帰れるなら帰りたいくらいです!帰り方が分からないのです!!」
「ほぅ?どこから参った?国は?」
「お館様。この者は未来から来たと申しておりました」
「未来?騙り者か?そんな者をワシに推挙するのか?ワシは予言の類は嫌いだと昔から言っている」
「いえ。それが誠のようなのです!此奴が作る飯を食べると分かっていただけるかと」
「飯?確かに匂った事のない匂いはしておるが、それだけか?」
「兎に角・・・中へお入りください。さすれば、某の言った事を分かっていただけるかと・・・」
丹羽さんは話し方が上手だなと思った。上手く、誘導するような・・・。とりあえず、オレが無害で、脅威にもならないように伝えないと!
「織田様。どうぞこちらへ。当店自慢のおでんなんかいかがですか!?」
なるようになれ!精一杯持て成せばなんとかなる・・・・はず。
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