ドライブイン安土 開店4

 「では未来ではこのように走る馬が当たり前の世界なのですか!?」


 「これはなんですの!?え!?これがひこおき?空を飛んでいるのですか!?鷹のように!?父上の墨羽とどちらが速いのですか!?」


 「これは・・・鉄砲ですか!?火種は!?どうやって!?片手ですか!?」


 オレが色々聞きたかったのに、この子は好奇心が多すぎるせいか、オレが聞かれる事が多い。一つ聞けば、派生してオレに聞いてくる。それがまた枝分かれして、オレに聞いてくる。それに、鷹?か隼かは分からないけど、ちゃんと名前を付けているみたいだ。


 清さんは可愛いよ。可愛いさ。話をするために2階の部屋に上がり、居間で話してたが、スマホで動画を色々見せたら自然と距離が近くなる。最初こそドキドキしたさ。けど、近付くにつれて、剣道部の臭いがするんだ。別に剣道部を馬鹿にしてる訳ではない。


 ただ・・・もっとこう・・・ね。

 

 小学生の時こそ、内気ではあったが、虐められたりそんな事はなかった。ただ、親の事と家の事が恥ずかしかっただけだ。彼女も数人くらいは居た。だが、剣道部の臭いがする女の子は初めてなのだ。


 話がどんどん派生しながら分かった事が多々あった。恐らく今は1576年か1577年くらい。去年、長篠で大戦があったそうだ。そこで武田を大いに撃破したらしい。間違いなくこれが長篠の戦いだろうと思う。それでも、武田は健在し、力は残しているそうだ。だから、搦め手で武田が今から築城するここ安土城に間者を忍ばせたのじゃないかと思われたんだと。


 オレがやっとの思いで、動画でケーキを見せながら聖徳太子並に耳を傾け聞けた事だ。それと、オレが思っていた・・・というか、現代の人が思っている事だろうが、誰でも簡単に信長とは会えないそうだ。下々の人が会いたいと思ってもまず、下々の人は無理。手順踏んでとかではなく、無理。可能性が0なのだそうだ。

 話があるとか、大事な事なんかはまずは村に居る村長に伝える。その村長がその事を精査し、村の番頭に伝える。その村の番頭が更に精査して、名主に伝える。更に名主が精査して、国人、国人から大名、信長となるそうだ。まぁ一言伝えるのにも苦労する。しかも途中の誰かが『必要なし』と思えばそこで途絶える訳だ。

 更に更に、信長・・・というか、織田領ではかなり厳しい罰があるそうだが、話を伝える代わりに賄賂を要求する輩も居るそうだ。

 

 「ふと、思ったのですが、尊さまが未来から来たというなら織田家はこのまま天下を取るのか分かるのですか?」


 「あ、い、う、うん。そうだね」


 オレは吃ってしまった。明智が裏切ると言いたいけど言っていいのか否か。オレは検索でまずは、《丹羽清》と調べて見る。だがするとどうだろう。通信が途絶えましたと出た。こんなのが出たのは初めてだ。

 続いて、丹羽長秀と検索する。が、同じように通信が途絶えましたと出た。他にも織田家に連なる知ってる人を検索してみるが、同じだ。ここで仮説を立ててみた。恐らく、歴史の事を調べると調べられなくなるようだ。だが、過去に起こった・・・先に聞いた長篠の戦いを調べると、普通に検索できるのだ。だが、本能寺の変と調べると通信が途絶えましたと出る。

 次いで、武田信玄と調べてみた。普通に検索に出た。存命人物は調べられないけど、死んだ人なら調べられるという事だと分かった。


 「尊さま!?本当に織田家が天下を取るのでしょうか!?」


 「うん。取るよ!」


 オレは歴史の事象には自らは関わらない。オレがした事で何か変わるとすれば食事やちょっとした事にしておこう。好き好んで戦になんて行きたくない。そりゃ多少は気にはなるが、行ってどうする。そもそも今の自分の立場の方がヤバイしな。


 それから、清さんはどうやらスマホに夢中となり動画サーフィンをし出した。原理を聞かれたが、そこまでは分からない。『静止画を1秒間に60枚撮って映像を流しているのが動画』と伝えたが後悔した。一つ教えると10の質問が返ってくるのだ。


 「静止画とは!?」「動画とは!?」「映像とは!?」「1秒とは!?」


 などなど。勘弁してほしい。けど、この子のおかげで寂しくはないし、落ち込む事はない。その点に関しては感謝しかない。しかも、この子が夜はご飯を作ってくれるとの事で、オレは甘える事とした。


 若い子はいつの時代も順応が早い。既に、スマホを使いこなしている。そんな中、唐突に清さんが立ち上がった。


 「尊さま!厠はどちらですか!?」


 「厠!?厠ってトイレの事ですよね!?」


 「といれ?用を足す所です」


 「すいません、ここです」


 「な、な、なんですか!?ここは!?どうすればよろしいのですか!?」


 「うん?普通に脱いで用を足してもらえば・・・。ここの横にあるボタン・・・う〜ん。この出っ張りを押せば、ぬるま湯が出て綺麗になりますよ。ごゆっくり!ついでになのですが、風呂も入りますか?風呂は少し自慢なのですが」


 風呂は本当に自慢の風呂だ。親父が居た頃はthe昭和の風呂だったがオレが1人になり、日々の疲れを癒す一つが風呂だった為、風呂だけリフォームして、最新式のバブル風呂というのにしたのだ。100万円もしたけど、後悔はしていない!

 ジェットバスも装備され、その横にはミストシャワーも装備されている。高温の湯がミストで出るため熱くないし、銭湯にあるミストサウナのような感じになるのだ。


 「風呂・・・ですか?身体を拭くだけではないのですか?」


 「え!?違う!違います!湯に浸かるのです!まぁいいや!とりあえずゆっくり用を足してください!」


 オレは風呂に向かい、速攻でお湯を貯める。実は少し期待している部分もある。『ご一緒にいかがですか!?』や、『分からないので一緒にお願いします!』と言われることを・・・。


 だが、残念ながらそんな事はなかった。トイレから歓喜の声やらビックリした声など一通り聞き、『家に欲しい!』とまで言われたが、それは無理だ。


 そして、風呂の事も説明したのだが、説明しただけで質問が更に飛んで来た。風呂に入ってもらうだけで30分掛かると思わなかったぜ。しかも、オレが期待するような事は何も無かった。


 これまた風呂から歓喜の声が聞こえてくる。着替えは女性の下着なんかはないため、とりあえずオレのインナーとtシャツ、ジャージを出しておいた。いや、一応タンスを探せば婆ちゃんの下着はあると思う。思うけど流石にね・・・。


 「尊さま〜っ!!!これは素晴らしいです!!ブクブクしていますよ〜!!極楽とは正にここですよ〜!!!」


 清さん的には極楽らしい。そりゃ良かった。オレが並々ならぬ決意をして、人生初の100万越えの支払いをしてリフォームしたのだからな。


 これまた1時間程、キャピキャピした声を聞きやっと出てきた。と、いうかオレに声が掛かった。


 「尊さま!?これはどうやって着るのですか!?」


 「は、はい!上から被ってください!袖がないのが下で、その上に袖がある方をです!男ものですいません!女性向けの服がなくてですね」


 オレは少し待った後にノックした。ちゃんと着れているだろうか。決して変な意味ではない!


 トントントン


 オレがノックするのと同時に清さんが現れた。


 「尊さま!凄い!凄いですよ!あの丸い箱の頭を押すと白い液がピュピュっと出てきて泡が出来上がり・・・あぁ〜・・・良い匂いです!」


 あぁ〜・・・やっと剣道部の臭いじゃなくなったのか。言い方は少しエロい言い方だな。白い液って・・・シャンプーだよな!?


 改めて清さんを見る。これ程までに整った顔に、引き締まった身体の女性が居るだろうか。マジで現代なら無双するレベルのプロポーションだよな。


 「あのう?何か変ですか?」


 「いやいや!本当に見れば見るほど綺麗で美しいなと思っただけです!あっ!決して変な意味じゃないですよ!」


 「そんな事言われたの・・・初めてです。髪も短く、色も黒いですし。身長も高く・・・何度、この身体を恨んだことやら」


 「オレ的には・・・健康的で素晴らしいと思いますよ」


 まぁ、この時代の美的感覚と現代の美的感覚が違うんだろうな。恐らくこの時代は少しふっくらした、お尻も大きく、色も白く、髪も艶のある長い方が好まれるんだろうな。オレはそんな人は嫌だけど。


 「尊さま!ありがとうございます!では夕餉は私が作ります!使い方を教えてくださいまし!」


 「は、はい!」


 飯を作るのも一苦労だ。オレは慣れてるから普通だが、レバーを捻って火が出るのが清さんは楽しいらしく、点けたり消したり遊びも含め、飯が出来上がったのは店の時計で19時を過ぎたくらいだった。


 メニューは教えるのが比較的簡単プラス、食べ慣れているだろう、この時代にもあるうどんにした。

 そう。父親から受け継いだドライブイン武田の1番人気。肉うどんだ。


 まずは鍋に、昆布と椎茸の出汁に醤油、砂糖、酒を入れて、牛肉の細切れを煮る。肉の赤身が消えてくる頃にうどんを茹で始める。茹で上がりと同時にお椀に盛り付け、蒲鉾と刻み葱、天かすを少々で出来上がりだ。

 少し甘めのドライブイン武田の肉うどんだ。


 「ね?簡単だったでしょ?」


 まぁ、半分はオレが作ったようなものだが、清さんはかなり喜んでいる。


 「尊さま!どうぞ!」


 盛り付けに関しては、清さんに任せた。まぁ適当に盛り付けたような感じだが、所詮は親父が考案した男飯ならぬ、男うどんのような物だからな。


 「(ズルズルズル)うん!美味い!清さん!美味しいですよ!」


 「(クスッ)昼間に作っていただいたお礼です!お礼には程遠いやもしれませんし、尊さまが作られた方が美味しいかとは思いますが」


 「そんな事ないですよ!料理は心を込めて作るだけで、作り手によっても変わるのです!真心を込めて作ると、同じ分量で同じ物を作っても変わるのです!」


 「(クスッ)ありがとうございます!私も食べますね!」


 ちなみに、作り方を教えている時に聞いた事だが、どうやらこの厨房にある業務用の砂糖一袋を見て、清さんは・・・


 「これが・・・全て砂糖ですか!?」


 「うん?そうだけど?」


 「・・・・城が建てられます」


 「え?」


 「これだけあれば城が建てられますよ!それに椎茸・・・これを大殿に献上すれば首は絶対に斬られませんよ!」


 どうやら、砂糖、椎茸はかなり高価だという事が分かった。塩はそれなりにあるそうだが、こんなに不純物のない塩は初めて見たそうだ。

 後は酒。店にはビール、清酒、親父が飲んでいた安物の大容量ウィスキーが置いてあるのだが、この酒を織田家諸将に振る舞えば皆味方になる。と、言っていた。

 オレ的には『ホンマかいな!?』という思いだ。たかが、酒だぞ!?この時代にも酒くらいはあるだろ!?濁酒だろうけど。

 確か、火入れした酒や、灰を落とした酒で澄み酒が・・・なんて話は確かこの辺の時代だったような気がするけど。


 清さんは食後に槍の鍛錬をするとの事で外に出た。オレは槍を突く所なんて見た事ないし、なんなら本物の日本刀は見た事ないから見せてもらう事とした。ちなみに、胸当てや、肘当て、脛当ては軽く拭いてあげた。その下に着込んでいた、袴のような服装だが、ちゃんと名称があるみたいだ。上に着ていたのを軽衫(かるさん)というらしい。下は合羽(かっぱ)というらしい。それらを総称して鎧下や、装束とも言うらしい。


 織田領では堺から南蛮の物の流入が多く、最近では庶民の間でも南蛮風になっている服が多いそうだ。だが、オレが渡した服・・・ジャージだが、伸び縮みしてかなり着心地が良いらしい。で、その下に着込んでいた服は洗濯機で洗ってあげて、今は乾燥機に入れている。

 下着は・・・なんて思ったが、そんな野暮な事は聞けない。なんとなく分かる。この時代に下着なんて無いだろうと。ワンチャン、褌?なんかは履いているかもしれないけど。


 オレはなんとなく、清さんの2本ある槍の一本を持ってみた。うん。重い。これが正直な感想だ。


 「あっ!尊さま!食後の運動ですか!?1合いかがですか!?」


 「うん?1合!?無理!無理!」


 ニュアンス的に模擬戦の事だと感じ取り、断る。勝てるわけないだろ!?こちとら、初めて槍や刀を見たんだぞ!?


 「大丈夫ですよ!尊さまはその平三角槍をお使い下さい!私は愛刀 左文字でいいですよ!あっ、抜いたりせず、鞘に収めたままで戦いますよ!」


 この子が武芸に優れているのは本当だろう。笑顔で刀を持つ姿が様になっている。闇夜に映るその姿はまるで、映画に出てくるような、女主人公のような出立ちに見える。


 「じゃ、じゃあ一回だけ・・・」


 オレの槍も刃先には布を巻いている。適当に構えると同時にオレはお腹に強い衝撃を受けた。


 「ゴホッ ゴホッ はぁ!?え!?何が起こった!?」


 「(クスッ)隙ありですよ!」


 まったく見えなかった。


 「クッ・・・もう一回だけお願いします」


 「いいですよ!」


 それから10回程、同じ事が続いた。近付かせないように槍を振り回したりしたが、気付いたらお腹に衝撃を受ける。修練を積んだ人相手にはリーチの長さは関係ないという事が分かった。





 〜岐阜城〜


 「ほう?お主が珍しく面白き男を見つけたとな?」


 「はっ!見た事のない南蛮のような服、今生味わった事のない飯を作り、まるで浮世の中のような建物を持つ男です」


 「で、あるか。推挙すると?」


 「いえ。一度、お館様にご覧になっていただこうかと。ただ、名が武田というそうですが、武田家とは関係ないと言っておりました」


 「武田・・・。武田なぁ〜。信玄坊主ならいざ知らず、あの者は取るに足らん。ワシは食い物に興味はない。嘘か誠かは知らぬが殺すのが早い」


 「ぶははは!五郎左にしては滅多にない事じゃのう!」


 「権六は黙っておれ。ワシはそこも気になっておる。長秀がそんな得体の知れん者を言ってくるとはな。まぁここは長秀の顔を立てて一度見てやろう。怪しければワシ自ら殺してやろうか。見張りは立てているのか?」


 「はっ。末娘の清に」


 「あの女武者か。ならば、その武田と申す者は逃げられまいよ」


 「お褒めの御言葉と捉えます」


 「明日の朝に出向く。下がれ」

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