ドライブイン安土 開店3
オレはかなり買い物をした。まだ死にたくない。使える物は何でも使う。原理も分からないし、しかも届けられる食材はどれもこれも現代のなんかより品質が段違いに良い。
そして、もう一つ気付いた事がある。画面の左端にLV1と表示されているのだ。
レベルって事だよな?ゲームなんかはオレはあまりした事がないが、なんとなくは分かる。レベルが上がると何か変わるのだろうか?いや、そんな事より仕込みだ。
まずはカレーだ。うちは、親父の代から外で働く男性の客が多かった。特にカレーは良く売れていた。牛骨から出汁を取り、濾した出汁でカレーを作る。かなりパンチのある強めのカレーだ。
腹が減ってる人なんかにはかなり好評だったと思いたい。オレは贔屓目無しで美味いと思う。
ジャガイモや人参は下茹でする。それをグツグツ煮込み、それらが溶けると、もう一度下茹でしたジャガイモと人参、軽く炒めたタマネギを入れる。隠し味に、オレは赤ワインを少々。牛骨の臭いを消してくれる。
それと同時進行で、おでんの串打ちだ。カレーで使った肉の切れ端のスジの部分、大根、厚揚げ、コンニャク、ウィンナー、ちくわ、卵だ。
他店のおでんにはシラタキなども入っているだろう。だが、うちは男性客が多いから人気がない。コスト削減の為に無くしたのだ。その分、コンニャクを多めに入れて、煮詰まっても辛くなり過ぎないように工夫はしている。
作り方はシンプル。カツオ節と羅臼昆布出汁 薄口醤油 砂糖 味醂 塩だ。強いて言うならば昆布だけは羅臼昆布だ。肉厚があり、大きい羅臼昆布は煮詰めると濁りが多く、ネバネバ成分のアルギン酸も多いがその分、旨みも強く、おでんにはちょうど良い。
後は小鍋でラーメンのチャーシュー作りとチャーハンの焼き豚作りだ。チャーシューは豚肩ロース。焼き豚はバラ肉だ。
チャーシューと焼き豚は似てるようで違う。うちでは同じように作るが、途中で工程が変わる。まずは二つとも強火で焼き目を付ける。その後は、出汁醤油、塩、酒、ニンニク、生姜、ネギの青い部分を入れて圧力鍋で煮込む。焼き豚の方は20分で出す。それを粗熱が取れたら冷蔵庫に入れる。チャーハンの注文時に角切りにして、一緒に炒めて完成だ。
ラーメン用のチャーシューは更にそこからプラス30分煮込む。すると、焼き豚の時とは違い、箸で持とうとするだけでホロホロになるチャーシューの完成だ。これも粗熱が取れたら冷蔵庫に入れれば日持ちする。
タイムスリップした事など忘れて、いつ来てもいいように下準備をしていると、階段から清さんが降りてきた。そうだ。オレはこんな余裕なんてないんだった。
「清さん!大丈夫ですか!?」
寝かせてからかなりの時間が経っていた。時刻は店の時計で12時ちょうどだった。
「お加減は大丈夫ですか?お酒を飲まれて倒れてしまったようで、オレが運びました。狭い部屋ですいませんでした」
「い、いえ!本当にすいませんでした!まさか酒だとは思わず・・・。それにあの寝かされていた物はなんですか!?なんていうか・・・こう・・・柔らかくていついつまでも横になっていたいような・・・」
「あっ!布団ですか?この時代はまだ無かったのですか?よければ余っているので渡しましょうか?」
「え!?布団というのですか!?そ、そんな申し訳ないですよ!(グゥ〜)す、すいません!」
「ははは。お腹空きましたか?何か食べますか?」
「いい・・・のですか?」
クゥ〜!あの老けたおじさんからは思い浮かばないくらい可愛い子だぜ。さぞかし、お母さんが美人だったのだろうな。
「あのう・・・」
「あっ、すいません!あまりに可愛い方でまた見惚れてしまいました。何が食べたいですか?作れる物なら何でも作りますよ!」
「またまた・・・ですが、冗談でも嬉しいです!そんな事言われたのは初めてです!この匂いは何でしょうか?なにやら嗅いだ事のない、凄く美味しそうな匂いがします!」
「おーい!槍女!大丈夫か!?何やら変な匂いが・・・な、なんだこの匂いは!?」
「伝助か。なにさ?どうせまた私の事を揶揄いに来たんでしょ。いつもいつも槍女、槍女って」
「だってそうじゃないか。実際に槍のように背も高く、腕も俺より少し下手なくらいじゃないか!」
「こんにちわ」
「だ、誰だ!?(スチャ)」
「ヒィ〜!待って!待って!」
「伝助!この方は我が父上の客人だ!あんただろうと失礼は許さないわよ!この匂いは食べ物の匂い!何も問題なし!さぁ行った!行った!」
「ちょ、ちょっと待ぁてぇよぉ!」
現代の誰でも聞いた事のあるフレーズのような声がこの伝助?って人から聞こえた。イントネーションも同じだった。
「(グゥ〜)」
「あ、す、すまぬ!これは違うのだ!」
「ははは。その槍を向けるのを辞めてくれるなら奢りますよ。食べて行きます?ちょうど仕込みが終わった所ですよ。清さんともお知り合いみたいですし」
「ご、御相伴に預かりますッ!!実は朝から食べていなくてですね・・・」
伝助さん・・・いや、君かな?オレと同じ歳くらいか?2つくらい下で清さんと同じくらいかな?身長は低いけど、凄い強そうな子だ。
オレは馴染みのある米を使う事にした。さっき仕込みが終わった、チャーハンだ。他店なら焼き豚チャーハンとも言うだろう。だが、うちではこれがチャーハンだ。まずは油を熱して、刻んだネギとニンニクを低温で炒める。油に匂いが染み込むとすかさず、卵を投入。で・・・ここでしくじった事を思い出した。肉も卵も食べないんだったよな!?おでんも普通に肉と卵を仕込んだんだが!?
「良い匂いですね!お腹と背中がくっついてしまいそうです!」
「うん!うん!店主!まだか!?もう我慢できないぞ!」
「申し訳ありません!卵と肉を使うのですが・・・ダメっすよね!?」
「「えぇぇぇ〜〜!!!」」
一度中断して、何故ダメなのかを聞いた。聞けば、中国から・・・この時代は明だが、まぁその明から仏教が渡来して、かなりの年数が経ったが、何も全てを禁じているわけではないらしい。一応、仏教の教えで肉食をすることは仏教で禁じている殺生を犯す行為であり、血に汚れた忌み嫌うべき穢れた行為であると考えて、牛、馬、鶏、そして卵を食べるのは禁忌のようらしい。
だが、一部の農村では・・・
「家畜を殺生して食べる事はしていないと思いますが、害獣として駆除した肉を食べる事は大々的にはしませんが、隠れて食べている農村はありますよ。それを見つけても咎めたりまではしません。けど、やはり身分のある者がそれを食べている事がバレたりすると示しが付きません」
「そうですか・・・。オレはそんな教義は知りませんし、従うつもりはありません。オレが出す料理には必ず生臭物が入っています。けど、その獣を喜び殺したり、無駄に痛ぶったりはしません。全ての命を頂く事に感謝を込めて、食べる前に『いただきます』食べ終わった後に『ごちそうさま』と言い、感謝しています」
「そうですか・・・」
「店主!オレは気にしない!オレも悪戯で獣は殺さない!その店主が使うという肉もそうなんだろう!?なら出してほしい!感謝を込めて食べたい!槍女!お前もそうだろ!?」
おいおい。伝助君は大丈夫なのか?槍女って言ってるけど、丹羽さんの娘だろ!?姫だろ!?殺されるんじゃねーのか!?
「もう!伝助!その呼び方は辞めて!武田様!私も食べます!」
「た、武田って・・・店主・・・」
「あぁ、オレは甲斐武田?若狭武田?とは違いますよ!関係ないから!」
「おい!槍女!他の者が聞けば勘違いするだろうからこれから違う言い方で呼べ!」
「だから!あんたもその呼び方は辞めてって言ってるじゃん!」
「分かった分かったって!それで・・・店主!なんて呼べばいいんだ?」
「尊・・・尊でいいよ。清さんもそれでお願いします」
「尊?変わった名だな。まっ、分かった!尊!作ってくれ!」
「尊・・・さま・・・分かりました!」
クッ・・・。可愛いすぎるだろ。けど、明らかにこの2人が・・・くっつくような気がしないでもない。オレはモブというやつだろうな。
「「ハフッハフッハフッ ハフッハフッハフッ」」
「どうですか?美味しいですか?」
「ごでめっぢゃゔばい!!」
「伝助!行儀悪い!た・・・尊さま!大変美味しゅうございます!」
伝助君は聞かなくても分かるくらいに食べてくれている。ってか、一つ思ったのがまさか清さんって身分隠しているんじゃないか?と思った。本当に友達と接するようにこの伝助君は清さんと話している。仮にも丹羽さんの末席の側室といえ、親族に連なる女性にこんな風に話したりしないよな!?
まっ、口は災いの元。この事はオレも知らない振りをしよう。余計な事は言わない方がいい。
「ごじぞうざばでじだ!ごちそうさまでした!店主!美味しかった!極楽のような味だった!」
「ははは。ありがとうございます」
「ケッ。槍女は食べるのも遅いのか?」
「もう!しつこい!私はゆっくり食べたいの!それより何しに来たのよ?まさか本当に気になって来ただけなの?」
「あっ!いっけねぇ〜!組頭に見廻りの報告をば!店主!世話になった!銭はいくらだ?」
「サービスでいいですよ」
「さあびいす?それはなんだ?」
「あっ、すいません。奢りです。最初に言ったでしょ?だから良ければ明日か、明後日にオレが生きてたらまた来てくださいな」
「死ぬのか?悪さをしたのか?」
「いや、お館様って人に挨拶しなくちゃいけなくてね。機嫌損ねてしまえばその場で斬首だろう?まだ死にたくないけど」
「(ポンポン)店主!大丈夫だって!丹羽の殿様に見つけて貰ったんだろ!?丹羽の殿様は大殿様からも信用されてるし、無下にされないって!
それにほら!そこの槍女のように親の正体も生国も不明な女が一軍率いているくらいなんだぜ!?
斯くいう俺もだ!親なし家なしなのに、槍の腕を見込んでくれて足軽にまで取り立ててくれたんだぜ!?大殿様も一度見た事あるけど、そりゃ〜見た目はおっかなかったが、京の都の人間にはかなり優しかったと聞いているし、普通にしておけば問題ないって!」
いや、そのオレの普通が通用しないから困ってるんだけどな。それと、やはりオレの読みは当たりだ。清さんも焦った顔になってるのが分かる。
「そうですね。とりあえず頑張りますよ。またよろしくお願いしますね」
「おうよ!またこのちゃあはん?とやらを食べさせてくれ!この辺は早朝から誰も来るなと御触れが出てるから大丈夫だ!俺は小便してただけだからな!ははは!」
まぁそのまんま悪ガキのような子だったな。
伝助君が出て行った後、オレは開けっ放しにしていたドアを閉めた。これで誰も入れない・・・筈。
「大丈夫ですか?」
「す、すいません!気を使わせてしまったようで・・・」
「まぁなんとなくそうかな?と思っただけですよ。誰にも言うつもりもありませんし、そもそもオレ・・・この時代に知り合い居ないですからね。それに刀?槍??なんじゃそれ!ですからね」
「本当に未来から来られたのですか?」
「うん。本当ですよ。これ見てみます?」
オレはスマホを取り出し、ユーチュ◯ブを見せた。何故見えるかって?だって繋がるんだから仕方がない。
「ぬぅぁ!?なっ、なんですの!?箱の中に人が!?」
「お、おっと・・・とりあえず先に食べましょうか。好きに食べていいですよ。うちのチャーハンは男性向けだから少し脂が強いかもしれません。無理なら残してもいいですよ」
「ハフッハフッハフッ!!」
お、おう・・・。男みたいに食べ始めたな。
「ご馳走様でした!非常に美味でございました!」
所々に出る所作がさっきの伝助君とは違うな。男と女の違いだけじゃなく、やはり昔は姫のように育てられたんだろうな。がっついて食べてるように見えても綺麗だし。
「ははは。いつでも言ってください。清さんにならいつでも奢りますよ」
「え!?そ、そんな悪いですよ!伝助の分も支払います!こう見えて銭は持ってますよ!(じゃらん)」
「・・・・・・・」
「あのう?足りませんか?」
「あっ、いえいえ。教科書で見たようなお金だなと思いまして。本当にお金は入りませんよ。その代わり、色々教えていただけませんか?本当にまだ死にたくありませんので」
「・・・・分かりました!何でもお聞きください!」
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