ドライブイン安土 開店2

 「ぬぅぁ〜にぃ〜!?未来から来ただと!?貴様!騙り者か!?」


 オレは正直に答えた。未来から来た。何故来たかは分からないと・・・。そして、オレが居た場所は滋賀県 東近江の繖山に入る麓だ。確かにこの山を超えた場所に安土城跡があった。

 だが、見上げると確かに城が建てられている。正確には石垣が出来上がっているくらいだけど。


 「本当なんです・・・」


 「殿!斬ってよろしいですか!?いいですね!?」


 「ちょ!ま、待ってください!証拠を出します!」


 オレは店の中に入り、冷蔵庫に入れてあるペットボトルのお茶を渡した。


 「な、なんじゃこれは!?五右衛門だと!?」


 「そ、それは五右衛門というお茶です!このように(プシュ)と蓋を開けると飲めます!どうぞ!」


 「「・・・・・・・・」」


 「え!?飲まれないのですか!?」


 「貴様、ワシに死ねと申すのか?毒を盛っておるまいな?貴様が先に飲め!ふん。なーにが茶だ。このような茶があるわけがなかろう」


 あぁ・・・毒ね。確かに得体の知らない物は注意するよな・・・。


 「(ゴグッ)これで構いませんか?」


 オレはコップに注ぎ飲んだ。もちろん、男2人にもだ。だが、2人はコップに驚いている。


 「こ、これは南蛮の物か!?」


 「いや、それは未来では普通の物ですよ」


 「先から未来未来と。とりあえずワシも飲んでみる。こんな物が(ゴグッ)・・・・クッ・・・」


 「と、殿!お、俺も飲みますぞ!(ゴグッ)え!?冷たい!?しかも美味い!?」


 美味いかどうかは分からないが、とりあえず普通の緑茶だ。ってか、帰るのはどうすればいいんだ・・・。帰る事が出来るならいいけど、もし帰れないのならば、おいそれと皆に配れないよな。補填も出来ないし、もしこのままこの時代に居るならばオレの生命線でもある。


 「どうでしょうか?」


 「う、うむ。貴様が毒を盛っていないとは分かった。茶もただの緑茶かと思いきや、抹茶の味も微かにある。美味い。何より冷たくて飲みやすい。お前。刀を下げろ。ワシはこの者に興味が沸いた。おい!武田と申したな?貴様は武田に連なる者か?」


 「あ、え、いや・・・まったく関係ありません!」


 「ならば良し。一度、貴様の話を精査する。この建物は貴様のか?どうやって入るのじゃ?開かないではないか」


 「え?鍵なんて掛けていませんよ!?(かちゃ)開きますよ?」


 「あん!?どうやった!?言え!どうやったのだ!?」


 ここで一つ謎が生まれた。オレの店は自動ドアなんてものはない。手動且つ、押す引くの昔ながらのドアだ。最初はこの男の人が横に引こうとしたのが分かったが、教えた後も何故かこの男の人はドアを開けないらしい。

 試しに、もう1人の部下?らしき人も試したが叶わず。だが、オレが入ろうとすれば普通に開く。つまりは、何かしらの力があるような気がする。しかもよく見れば、レジの横に見た事のないタブレットが置いてあるんだが!?


 「と、兎に角中へお入りください!そんなガチャガチャしないでください!壊れたら直さないといけないんですよ!?」


 「偉そうな口を言うな!貴様なんぞ何するものぞ!」


 「こら!辞めんか!お前は仕事に戻れ!」


 「し、しかし・・・」


 「いいから戻れ!」


 「は、はい!」


 ドアは引けないらしいが、オレが開けると中へは普通に入れたみたいだ。とりあえず、カウンター席へと座って貰うが・・・。


 「な、な、なんじゃここは!?まるで岐阜の、お館様の私室のようじゃ!これはなんぞ!?なにやら良い匂いがしておる!この箱はなんじゃ!?音がしよる!生きているのか!?」


 こんな感じに一つ一つ説明を開始した。冷蔵庫、イス、テーブル、飲み物などなど・・・。良い匂いと言われたのは、おでんだ。オレが倒れた時・・・昨日の営業終わりと同じだ。具は煮詰まりかけた大根と卵しか残っていないけど・・・。新しく作り直すには時間が掛かる。


 「(コトン)大根と卵になります。時間が経ち、少し味は落ちますが、父親から受け継いだ味です」


 「ふん。小癪な。それに卵か。今から食べる事は他言無用に致せ。いいな?他言無用ぞ」


 「え!?あぁ、はい」


 何で誰にも言ってはいけないんだろう?そもそもオレは生きるか死ぬかなんだろ!?


 「(ハスッ)ぐぬぬぬ・・・美味い・・・。実に美味い。もそっと寄越せ!」


 「すいません!売れ残りで、あれしかありません!とりあえず、米ならありますが、いかがですか?汁掛けにしても美味しいかと・・・」


 「ふん。貧乏臭い汁掛けか。だが、確かにこの黒い汁は一見では不味そうに見えるが、匂った事のない甘そうで辛そうな匂いが混じり合い、実際はかなり美味い。今生味わった事のない味じゃ。はっ!そういえば毒味が・・・。貴様!まさか毒を盛っておらぬよな!?クァ〜!ワシとした事が抜かってしもうたわ!」


 「え!?いやいや毒なんて盛りませんって!(ズルズル)オレも飲みました!これでいいですか!?」


 「う、うむ。大丈夫そうだな。水を出せ!」


 「は、はい!」


 オレは水を出した。が、ここでも驚かれた。


 「な!?こ、氷じゃと!?何故氷があるのだ!?」


 「え!?これは冷凍庫で作った物です!」


 ここで二つ目の謎。何故か通電している。電信柱なんてものはないし、普通なら切れてても可笑しくない電源が普通に点いている。いや、電気が点いているのは当たり前過ぎてオレも忘れていたが、謎が深まるばかりだ。

 オレが電気を見ていると、この男の人も気付いたのか、上を向いた。


 「ぬぁぁぁぁ〜〜!?あれはなんぞ!?何で光っておるのだ!?蝋か!?蝋が灯してあるのか!?それとも油か!?」


 「いえ、あれは電気というものです。説明が難しいのですが、未来では当たり前の物です」


 「クッ・・・。面白き者を見つけたと思うたが、これはワシの一存だけでは・・・。お館様にお伝えせねばならぬ。おい!お前!ここに見張を付ける。逃げるなよ!」


 逃げるもなにも、逃げる場所がないんだけど。


 「逃げません!そもそもあなたのお名前を・・・」


 「ワシか?ワシは丹羽惟住長秀。出会ったのがワシで良かったのう。権六や彦右衛門ならば貴様の首と胴は最早千切られているぞ!」


 いや、誰だよ。権六ってのは確か柴田勝家って人だっけ。彦右衛門って人は初めて聞いたぞ!?それに丹羽長秀だろ!?この人は!?かなりの大物の人じゃないか・・・。

 ここで三つ目の謎。間違いなくここはオレが受け継いだドライブイン武田が建っていた場所だ。だが、何故か謂わゆる、戦国時代だろうと思う時代へ連れて来られた?転移した?という事だ。


 「はぁ〜・・・」


 「なんじゃ!その溜め息は!?折角、悪いようにはせぬように申してやろうと思っておったのじゃがな!まさか間者が寸鉄一つも持たずに居る事はあるまい。且つ、毒を盛りもせなんだ。線も細い。つまり間者ではない。なんなら、片手一本でも貴様には勝てる(ドンッ)」


 「痛っ!!」


 何か知らないけど、踏み込まれたと思ったらオレは仰向けになっていた。軽く投げられたようだ。


 「今のはワシに溜め息を吐いた罰じゃ。このように反応すら出来ておらぬ。未来から来たという荒唐無稽な話は未だ分からぬが、この辺の者ではないのも確かだ。今日中にワシは岐阜へと向かい、お館様へ貴様を報告する。まず間違いなくお館様がここへ訪れよう。貴様はお館様へさっきと同じ物をお出ししろ。あっ、間違っても卵は出すな」


 四つ目の謎。何故、卵はダメなのか。この人は食べたけど、他言無用とまで言った。あっ・・・確か昔って肉食べるのはダメなんだっけ!?卵もそれに入るのか!?けど、それなら何もオレは作れないんだけど・・・。とりあえずは返事するしかなさそうだな・・・。


 「分かりました。よろしくお願いします」


 「うむ!配下の者には手を出さぬように言っておいてやる!それと・・・先の握りはもうないのか?久しぶりに白い米を食った。甘くて美味かった。塩加減も良き」


 「は、ははは!ありがとうございます。残ってる握りです」


 「うむ!恩に着るぞ!それとな・・・。お館様が来られても、間違っても機嫌を損ねるなよ?いいな?ワシは貴様の飯が気に入った。また食いたいと思う!死なれては困るからな!じゃあな!」


 この人が言うお館様って・・・織田信長じゃん!?マジかよ!?あの信長か!?殺してしまえホトトギスの人だろ!?無理無理!無理寄りの無理! あぁ〜・・・転移?転生?かは分からないけど詰んだわ。未来であれでオレは死んだのか?そりゃ、約40時間営業したわけだが、それで死んだのか?いや、死んだからここへ来たんだろうな・・・。で、明後日には斬られてしまうと・・・。

 

 「もし・・・?」


 「いらっしゃませ〜!あっ!」


 クッ・・・。オレとした事が、いつもの癖で普通に返してしまったじゃないか。それどころじゃなかったわ。


 「ここは何をする所なのですか?」


 「あっ、い、いえ・・・め、飯屋です!飯をお出しする所です!」


 「飯屋・・・ですか?今しがた父上に、この店と店主をお館様が来るまで守れと言われまして」


 「父上!?え!?あの丹羽様の娘様ですか!?」


 「(クスッ)娘様だなんて。私は清。父上仕えの下女が母親の娘です。輿にも出せぬ身分故に、お優しい父上に武芸を教えていただき、要人の監視や警護を任務としております」


 いやいや、あの人って見た目では50歳近いよな!?なのにこの女性は明らかに16歳前後・・・女子高生くらいの年齢だよね!?


 「(クスッ)父上は38歳ですよ?皆も陰で言っているのです。老けていると。本人もかなり気にしているようですので、気をつけて下さいね?父上は怒ると、あの柴田様も負かしてしまう程の実力ですよ?あっ!私もその父上を負かした事がありますよ!」


 いやいや、38歳って・・・。ぜっんぜん見えなかったんだが!?老け過ぎだろ!?貫禄というやつなのか!?しかもこの娘という、清さん。よく見ると、身長175センチあるオレより少し高いんだけど!?


 「むっ!その目はお辞めくださいね?ね?父上は老けている事を気にしています。私は身長を気にしていますので。この身長のせいで嫁に貰ってくれる殿方も居らず、ただ飯を食べるわけにはいかずに仕事をしているのですから」


 「あっ、いえ・・・すいません。モデルのようで綺麗だったので見惚れてしまいました。すいません」


 「も、もでる?な、何の事ですか!?」


 「えっと・・・お人形さんのような綺麗な人って意味ですかね!?とりあえず、悪い意味ではありません!とても綺麗な方だな!と思っただけです!」


 「綺麗・・・やだぁ〜!もう!(バンッ)」


 ガシャーン


 「痛ぇ〜」


 「あっ!御免なさい!!」


 この清さんは綺麗という言葉に照れたようで、軽くオレは肩を叩かれた。が、言葉は嘘ではなく本当の意味で言ったのだが、清さんは冗談のつもりだったようだが、大惨事だ。父上という丹羽さんを偶に打ち負かすというのは本当だと悟った。



 

 どういう事だろうか。オレは一先ず、居住区・・・まぁ2階に上がり、風呂を済ませ、着替えも済ませてレジ横のタブレットを見た。


 「武田様!これはなんですの!?」


 「武田様!?水が暴れて甘くて美味しいです!」


 「武田様!これはビードロですか!?この中の黄色の水も甘いのですか!?(ゴグッ)」


 「あっ!ちょ、ちょっと!それビール!!未成年が飲んだらいけな・・・いんだ・・・飲んだの!?」


 おの清さんは物怖じする事なく、色々な物を見ていた。あっ、自己紹介は済ませた。どうやら、未来で聞いてはいたが、やはり身分の高い人は妻を複数持つらしい。謂わゆる、側室というやつだ。そして、清さんのお父さん。丹羽長秀さんはかなりの側室が居るらしい。


 チッ。プレイボーイめ!老けたおじさんかと思ってたが中々やるようだ。


 だが、清さんのお父さんこと、丹羽長秀さんは本当に家族思いで、下女の母親の娘であるこの清さんの事もちゃんと面倒を見てあげてるのだそうだ。お母さんは産後身体が悪く亡くなってしまったそうだ。


 昔から女なのに身体が大きく、肩身の狭い思いをした清さんの事を思い、丹羽さんは武芸を教えたそうだ。案外、女の武芸者や草と呼ばれる諜報活動している人は多いそうだ。

 この清さんは武芸・・・刀、槍、弓とそこらへんの足軽頭の男なんかなら打ち負かす程の腕らしい。その清さんだが・・・。


 「(ヒック)これら・・・すごいおしゃけぇですれぇ〜」


 酔うのが早過ぎる。いや、酒に弱すぎる。オレはタブレットが気になり見ようと思ったのだが、この出来事だ。


 「大丈夫ですか!?とりあえずお水飲んで横に・・・あぁ〜!店舗じゃ横になれないじゃん!」


 「だいじょぉ〜ぶれぇ〜す!」


 「いやいや大丈夫じゃないでしょ!?上の家に連れてくから歩いてください!階段登るだけです!」


 「む〜り〜(バタン)」


 清さん・・・。瓶ビール1本でバタンしたんだけど!?いくら弱いと言っても1本でアルコール中毒なんてならないよな!?


 オレは如何わしい気持ちを持たずにお姫様抱っこをして、階段を上がる。特段、筋トレなんてしていないが、こんな細いモデルのような女性を担ぐ事くらいは朝飯前だ。予備の布団を出して軽く寝かせてあげた。

 胸はあまりないが、うん。オレから見ればかなり綺麗な人だ。胸当てや肘に何かの装備がしてあり、剥がすのもどうかと思いそのままにしているが、少し学生時代の剣道部の部室のような臭いがしたのは気のせいか。


 言葉は悪いが、やっとタブレットが見れる。


 見れば見るほど意味が分からない。まさかとは思うが・・・。


 普段の営業の時も仕入れは、最近ではタブレットから行っていた。だが、このタブレットではない。だが、画面を見てみると仕入れ時の画面と同じだ。詳しく言えば少し違う。画面に肉や魚など色々項目があり、タップするとタブレットの画面に亀裂が入り、モヤモヤした空間が見えるのだ。しかも現代の自動販売機のように、小銭とお札を入れるような形だ。


 しかもそれが・・・


 「なんで・・・何で!何で円じゃないんだよ!貫とか斤、両、匁っていくらだよ!?」


 思わず1人で叫んでしまった。マジで分からない。が、悩んでても仕方がない。明後日には天上天下唯我独尊と言われている信長が来るんだから・・・。オレはまだ死にたくない。やれる事はやる!


 試しに、千円札をタブレットの亀裂に入れて見た。


 チャリン


 すると、お金を入れたような音がタブレットから聞こえた。が、また謎だ。だがこれは嬉しい事だった。

 タブレットの上の方に《残クレジット1000円》と表示されたのだ。円表記ならまだ分かる!どういう原理なのか、何故こんな風になるのか分からない事だらけだが、とりあえず購入をしてみようと思う。

 試しに卵だ。タブレットの項目の卵の所をタップする。するとこれもまたビックリ。


 《卵1パック10入り》 料金1匁


 円で支払いますか? はい・いいえ


 と出たのだ。オレは迷わずはいを押した。すると、厨房の方が光り、そこには現代の卵と同じ物が現れた。そして残クレジットを見てみると、《残クレジット990円》と表記されている。つまり、卵1パックがこのタブレットから購入すれば10円なのだ。


 現代でこれが使えればかなり凄い事だろう。あり得ない安さだ。試しに卵焼きを作って、食べてみたが・・・


 「っなんだこれ!?めっちゃ黄身が濃いんだけど!?」


 現代で買う卵なんかより濃いし、美味しい。


 とりあえず、お店にある現金は金庫の中も含めると、100万近くはある。暫くは・・・なんとかなるだろうか。まずは、来店するのは明後日だと思うけど、何を頼まれても出せるように、下準備しておこう。織田信長がどんな人であれ、このおでんだけは食べて欲しい。親父から受け継いだ味だ。

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