ドライブイン武田

でんでんむし

ドライブイン安土 開店1

 オレの父親はドライブインという、トラックドライバー達や、バイカー達と色々な人が休憩できたり、飯を食べたりする店を経営している。オレはそんな親父が嫌いだった。

 小学校の時に、親の仕事を言う授業があった。


 「じゃあ武田くんのお家は何をしているのかな?」


 「はい!ドライブイン武田ってお店をしてます!」


 「はぁ!?え!?ドライブイン!?」


 この時まで、オレは親父を尊敬し、ドライブイン武田というお店が好きだった。お店には色々な物も置いてあり、偶にお昼ご飯を食べに行ったりしていたし、いつも忙しそうに休みもなく働いていた父親をオレは尊敬していた。


 「ギャハッハッハッハッ!しょうわじゃん!しょうわ!」


 「そうだ!そうだ!武田ん家ってあの古臭いお店だろ!?」


 「クフフ。もう!みんな!そんな事言ったらいけない!!」


 この女の先生までも鼻で笑うような事をされて、オレは恥ずかしくなった。子供の時は何も分からなかったが現在・・・


 オレは武田尊(たける) 19歳。オレの仕事はドライブイン武田を引き継いだ。オレは親父が嫌いだった。このドライブイン武田が嫌いだった。だが、オレの親父はスーパー親父だ。オレから見たら鉄人親父だ。


 その小学生の出来事以来オレは皆から揶揄われたりした。だから、いつしか親父が嫌いになった。親父が経営しているドライブイン武田も嫌いになった。

 オレにはお袋が居ない。3歳の時に乳癌で亡くなった。正直オレはあまり記憶にない。

 ただ、寂しかった事だけは覚えている。それにプラスして、親父は殆ど仕事ばかりで家に居ない。というか、店舗兼住宅だったから下の店舗に行けば会えるのだが、オレはあの日から店に行く事は無かった。

 オレの世話は婆ちゃんが見てくれた。婆ちゃんは好きだ。いつも優しく笑ってくれ、参観日なんかも婆ちゃんが来てくれた。

 友達からは笑われたりした事もあったが、オレは気にしない。寧ろ婆ちゃんを誇りに思う。

 高校になれば毎日弁当を作ってくれ、メニューは和食ばかりだったが、オレは好きだった。そんな婆ちゃんはオレが17歳の時に亡くなった。大いに泣いた。珍しく親父も店を休み、久しぶりに親父と話した。

 親父は朝の4時30分から店を空けて、夜は1時まで1人で営業している。近くにコンビニが立ち並び、客足は遠のく一方で、それでも昔から訪れてくれる客が居るそうだ。確かに昔はかなりお客さんが居たのは覚えている。


 「おう!ボク!元気にしてるか!?ボクも父親の跡を継ぐんだろう!?頑張れよ!これはやるよ!パチンコ屋のチョコだ!がははは!」


 「ははは!神代さん!うちの坊主はこんな所は継がないよ!いつもありがとうございます!またお越し下さい!おい!尊!ちゃんとお礼を言いなさい!」


 「おじちゃん!ありがとう!」


 「がははは!ワシは死ぬまでここに来るからな!お前の父ちゃんが作る肉うどんは世界一美味いぞ!」


 と、このような知らないおじさん客に喋られたりしたのは覚えている。だが今は・・・一定数客が居るのは知っているが、昔の様な事はない。それでも親父は辞めなかった。

 

 婆ちゃんの葬式の時に親父に聞かれた。


 「尊。お前は将来何になりたいのだ?大学に行くのか?」


 「・・・・・・」


 オレは将来を決めていなかった。ただ、怠惰に大学に・・・と思っていたが、お金の事は言われた事はなかったが、そんな裕福ではない事は分かっている。現実的に働きに出るのが親父の為でもあるのは分かる。これ以上、親父に迷惑かけたくない。何より家が恥ずかしい。未だにオレはそんな事を考えていた。


 「お前は好きなようにしなさい。大学へ行くなら行ってもいい。こんな店を継げなんて言わないよ。お前が恥ずかしい思いをしていたのは知っている。お袋・・・婆ちゃんから聞いていた。忙しくてお前と話す事もしなかったしな。俺もそろそろ店を畳もうとしているんだ。最近、朝起きるのが怠くなってきてな。日中もしんどいんだ。歳だな」


 この言葉を聞いてオレは・・・


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」


 号泣してしまった。本当は嫌いじゃない!親父が好きだ!店も好きだ!古臭くて昭和のような店が好きだ!昔食べた親父が作ってくれた肉うどんもチャーハンもおでんもお握りも大好きだ!


 「泣くな。もう一度言うが、お前は好きなようにしなさい」


 「グスン・・・。親父・・・。オレ、親父の跡を継ぐよ!だから色々教えてほしい!!だから店を畳むとか言わないでくれ!」


 それからは、昼間は学校、夕方からバイトという形でお店に入った。暇な店だが、それでも少し忙しい時間はある。早朝と夜中がそれだ。オレが居る時間は暇だという事もあり、料理なんて殆どした事なかったが、覚えるのにはちょうど良かった。


 そんな生活が1年続きオレは高校を卒業した。そしてそのままオレは親父の仕事を継いだ。朝はオレが4時30分に起き、掃除や準備をし、夜中は1時までしている。かなりハードだ。この生活を親父はずっとしていたのだ。

 オレが入った事で、SNSなどで発信をしたり、写真をupしたりして少し客が増えた。時代も時代で、昭和レトロなお店が少しバズり、忙しくなったりもした。そんな生活が更に1年続いたある日、親父が倒れた。


 直ぐに救急車を呼び、大きな病院へと向かう。診断は・・・膵臓癌。ステージ4。目の前が真っ暗になった。


 そこから親父には安静にしてもらおうと思い、病院の手続きなんかも不慣れながらオレが行った。だが、親父は『死ぬ前に・・・あの店をもう一度見たい』と言い出した。


 オレはSNSで不謹慎ながら暫く休む理由を書き込む。すると、かなりの数のメッセージが届いた。親父は病院の先生にも帰りたいと言ったようで、1日だけ調子の良い時に外泊許可が降りた。

 オレはせめて、忙しかった時のようなお店を見せたく、SNSにて皆にお願いをした。『何を食べても100円にするからどうか親父に最後の夢を見させて欲しい』と。


 親父が帰って来た日の2時間前にSNSに書き込みしたのにも関わらず、ドライブイン武田はかなりの盛況となった。外には渋滞が出来てしまうくらいに客が来た。


 「尊・・・これは・・・」


 「みんなが来てくれたんだ!お店は・・・ドライブイン武田はオレがちゃんと継ぐから!」


 「すまなかった。ありがとうな・・・。」


 親父が亡くなったのは1週間後の事だった。本当に早かった。


 それから1人になったオレは店の方は営業時間はそのままだが、休みの日を作り、家の名義の手続きやら色々熟した。ドライブイン武田は近くに来た観光客が来てくれたりと、それなりに順調だ。


 変わらず、SNS発信を頑張り、一度イベントをしてみようと、ゴールデンウィーク24時間1人営業というのをしてみた。だが、オレの運命はここで変わった。


 ゴールデンウィーク24時間営業からの次の日をそのまま営業という意味の分からない事をしてしまったからだ。2日目の店の終わり・・・


 「ったく、馬鹿な事してしまった・・・。マジで疲れた」


 観光客が夜中だろうと関係なく来ていただき、かなり売り上げ的には良かった。だが・・・


 ガタン


 「ック・・・視界が・・・」


 オレは目眩がした。


 バタン


 ヤバイ・・・。救急車・・・。と心の中で呟いたが、頭が割れるような痛みの中、意識が遠のいた。



 そして、目が覚めた。変わらない厨房の中。


 「痛てて・・・って・・・痛くない!?ここは!?」


 何故か痛くなくなった頭を摩りながら外を見ると、店の前は山道へ続く県道があったはずだが、そんな物は無くなっていた。

 オレは直ぐに外に出てみる。


 「はぁー!?ここはどこだよ!?」


 「何奴だ!賊か!」


 「は!?え!?侍!?うをっ!」


 侍らしき男がいきなりオレを刀の鞘?らしき物で殴って来た。疲れもあり、抵抗する力も無く、オレは再び気を失った。




 バシャーーーン!!


 「おい!起きろ!」


 「う、うん・・・は!?え!?ここは!?」


 「やっと目が覚めたか!貴様は誰ぞ?」


 オレは理解できずにいた。いや、テレビや映画で見た事のある侍の格好をした人が居たからだ。しかも今何時なんだ!?朝方とは分かる。だが、まだ暗い時間だ。


 「オレの店は!?」


 ゴツン


 「丹羽様!ここは斬りましょう!あんなデカデカと武田と看板があるくらいです!間者に違いありませぬ!」


 また殴られた・・・。それに武田?オレの名字は武田だけど・・・。それに丹羽様・・・。ここが侍の居る時代だとして・・・。江戸・・・違う。確か織田信長の家臣で丹羽なんとかって人が居た様な気がする。


 「まぁ待て。間者だとして、自ら名乗るような奴も居まい。それにこの建物はなんだ?昨日まで無かったではないか。安土城 総普請奉行であるワシが知らぬ建物があるとはお館様になんと言えばいいのだ。おい!貴様!答えろ。どこの誰ぞ」


 「お、オレは武田尊と申します!」


 「おのれッ!!やはり武田の間者か!しかも親族衆か!!そこに直れッ!!」


 「やめぬか!事情を聞いてから斬ったのでも遅くない。いや、配下の者がすまぬな。それに見慣れぬ装いだ。生国はどこだ?甲斐か?若狭か?落ち目の武田を見限ったか?」


 これはアレだ。ガチのタイムスリップした系だ。それに斬る斬るって・・・腰にある刀は絶対本物だ・・・。死にたくない!なんとかして切り抜けないと!

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