ドライブイン安土 始動3

 残されたオレ達・・・と、馬一頭。そう。信長の愛馬の小雲雀(こひばり)という名前らしい。


 「えっと・・・桜ちゃん達にオレを1人にした罰として、この馬の世話をお願いする!」


 「馬番ですか?いいですよ」


 「え!?いいの!?」


 「えぇ、はい。寧ろ、どこに馬がおられるのかと気になっていたくらいですから。なんなら、後、数日もすれば清様の馬もこちらに持って来られるかと思いますし、私達4人は全員、馬の世話はできます」


 ック・・・。冗談で言ったつもりだが、まさか普通に返事されるとは思わなかったぜ。


 「そうなんだ・・・。いやごめん。知らなかったよ。ちなみにオレは馬に乗れないし、ここには馬はこの一頭しか居ないからね。それでなんだけど・・・なんか馬小屋?みたいなのがないといけないよね!?」


 「突貫で自分が建てましょうか?」


 「いや、何かいい物がないかオレが探してみるよ。あっ、後、これ。借りてたお金。3文渡しておくよ」


 「2文多いようですが?」


 「利子だ!オレは礼儀を忘れない男だから!(キリッ)」


 これは決まった。これ程カッコよく決まった事はかつてないだろう。


 「いえ、申し訳ないのでお返しします。その代わりよければ夕餉にまたおでんなる物を頂けると喜びます」


 なぬ!?まさか返してくるだと!?


 「あぁそうかい!そうかい!それより、清さんは?」


 「清様なら例の・・・釘付けでございます」


 「そ、そっか・・・。さすがオレの嫁だ」


 どうやら熱中して信長来訪に気付かなかったらしい。


 オレ達は清さんはそのままにして、この馬の小屋をどうにかする事にした。どうにかすると言っても、タブレットで倉庫?みたいな物とか、木材的な物がないか探すだけだ。


 「っぱ、馬小屋なんてないよな・・・。倉庫もないし。どうしようかな」


 3人が見守る中オレはタブレットをスクロールするが、中々いい物がない。桜ちゃんが外で、手綱を持ち、水を飲ませたり、歩かせたりしてくれている。


 「おっ!?」

 

 スクロールしていると、馬小屋ではないが、何故か車庫があった。


 「いや、何で倉庫じゃなく、車庫なんだよ!?車もないしおかしいだろ!?」


 オレが1人ツッコミをするとタブレットのバイブが鳴った。


 「(ブゥー ブゥー)うを!?ビックリした!?何で震えたんだ!?」


 《・・・・・・・》


 なんか分からないけど、タブレットに意思があるように思えた。謎が深まるばかりだ。


 「ってか、高っ!車庫高すぎるんだが!?」


 車庫の値段はビックリ、100貫だった。タブレット計算で100万円だ。


 「ック・・・だが、あの人の事だから馬を適当にしていたら絶対に、『貴様、ワシの小雲雀を野晒しにしておったか?あん?』とか、言われそうだ。そうと思わないか!?次郎君!?」


 「え!?な、なんのことでしょうか!?」


 チッ。次郎君め。澄ました顔して、考えているようで、何も考えないタイプだな。だが、いつのまにか皆との距離が近くなっている気がする。これだけは気のせいではない。


 オレは貰った銭の半分をチャージする事にした。それにしても重労働だった。よく、あの側近の人はこんな重たい箱を持ってたな。それにしても一気に金持ちになったな。円表記で500万円か。その5分の1の値段の車庫・・・。いや、これを上手く改造して、馬小屋にすれば今後、騎乗武将の人も来やすいだろう。


 オレは購入ボタンを押したが・・・忘れていた。


 「あっ!ヤバイ!厨房に車庫がーー」


 と1人焦ったがどうやらこれは直ぐには出せないらしい。タブレットに・・・


 《十分なスペースがある事を確認してください》

 

 と、出ていた。


 オレはタブレットを持ち外に出て、店の横でもう一度ボタンを押す。


 バァーーーーーーンッ


 最早3人は慣れたようで無言だ。オレも無言だ。


 「尊さま!?今凄い音が聞こえましたが!?」


 2階から清さんの声が聞こえた。

 

 「大丈夫だよ!問題ない!想定内だ!」


 「うわー!それはなんですか!?すぐ行きますね!」


 そう言うと、清さんは2階からジャンプして降りて来た。


 「いやいや危ないから!」


 「こんな事くらい大丈夫ですよ!昔、父上の屋敷の屋上からよく飛び降りて遊んでいたのです!」


 いや、どんな遊びだよ!?


 「ゴホンッ。まぁこれからはしないように!それと、これを馬小屋にしようと思っているんだ」


 「あら!?何で大殿の小雲雀号がここに!?」


 話が噛み合わない件について。


 「さっき来てたんだよ。まぁその件はいいとして・・・」


 ヒヒィーンッ!!


 「どうどうどう!あれ!?」


 「おっ!この馬は賢いから自ら入ってくれたじゃん!おーヨシヨシヨシ・・・」


 「「尊様!!?」」


 「尊さま!小雲雀号は気性が激しく、大殿以外中々懐かないですし、危ないですよ!?」


 「大丈夫だって!ほら!大人しい・・・」


 ガジガジガジガジガジガジ


 「おっ、ちょ、おま・・・待て!痛い痛い痛い!」


 「小雲雀号が大殿以外に甘噛みしている!?さすが尊さまです!!それは馬が甘えている証拠です!」


 いやこれが甘噛みだと!?普通に痛いし、涎が臭いんだけど!?


 「分かった!分かったから!すぐに餌を探してやるから!!太郎君!太郎君は木で囲いを作って!後、あの入り口の前に横に木を立てて!馬が脱走しないように!」


 「か、畏まりました!!」


 オレは手に持っていたタブレットを開き、馬の食べそうな物を探す。牧草なんてなさそうだし、とりあえずリンゴとか人参とかなら食べるよな!?


 《リンゴ10キロ》1両


 《人参10キロ》1両


 とりあえずこれでいいだろう。相変わらず安い。安すぎる。円計算で2千円なら買いだ!買い!


 そして、厨房に戻り段ボールに入ったリンゴと人参を持ってくる。今まではそのまま厨房に出て来ていたのに今回は段ボールに入ってだった。寧ろそのままの方が助かってたんだけど。こんなゴミどこに捨てればいいんだよ。


 とりあえず物置に置いておこう。


 「尊さま!?それは何ですか!?リンゴのように見えますが、違うようにも・・・」


 「この時代にもリンゴはあるんだ?そうだよ!品種とか違うかもしれないけどリンゴだよ!食べてみる?(ムシャムシャ)あ!ちょ!小雲雀ちゃん!まだ渡してないよ!?」


 この馬は賢いのかどうか分からない。けど、餌と認識したようで擦り潰しながら速攻でリンゴを食べ始めた。それに人参にも食い付いた。だが、これだけではダメだよな・・・。


 こんな時こそ動画だ!


 「尊さま!甘くて美味しいです!」


 「本当ですね!こんなリンゴ初めて食べました!


 「俺もです!」


 「うん!うん!」


 いや、太郎君は喋れよ!何が『うん!うん!』だ!


 動画を見て分かった事・・・。馬って難しすぎる!オレが見た動画は現代競走馬の厩舎の動画だが、馬は1日に10キロ〜15キロの食べ物、水は20ℓ〜50ℓ飲むらしい。それにチョコや玉ねぎなんかは食べさせてはダメだとなんとなく分かってたけど、パンなんかもダメらしい。

 リンゴや人参は御褒美的にあげるのがいいらしいが・・・。牧草、主に干し草や青草というのが主食だそうだ。そんなのどこに売っているんだよ!と問いたい!


 「いい?佐和山の父上の馬番の人にこれを見せてね!そうすれば小雲雀号のご飯を持って来てくれるから!」


 「あれ!?梅ちゃん?それに清さん!?」


 「父上の城の馬番に干し草を持って来てもらおうと思いまして。なにやら尊さまも流石に、草はお持ちしていないようですし」


 そりゃね。馬が食べる草なんて持ってないから。まぁ馬の餌に関しては清さんのツテに任せよう。


 「梅ちゃん!気を付けて!帰って来たらご褒美にサイダー奢ってあげるよ!夜ご飯は・・・とっておきを食べさせてあげるから!」


 「本当ですか!?分かりました!急いで行ってきます!」


 バビューン!!


 「は!?」


 「まぁ!梅は足がかなり速くなったみたいです!」


 いやいやいや・・・速いって次元じゃないぞ!?原付より速そうだぞ!?


 「よっこらせっと・・・」


 「はぁ〜!?いやいやいや!太郎君!?どういう事!?」


 太郎君に馬小屋の囲いを作ってもらってたんだが、あり得ないくらい大きな巨木を片手で運んで来た。


 「え!?持てるかな?と思い、持ってみると持てた故に運んだだけですよ?」


 「だけですよって・・・」


 試しにオレも持ってみようと思い試してみたが・・・


 「ふんぬぅー!!いや無理無理無理!何でこれが持てるの!?」


 「あら!?尊さまは持てませんか?私でもこれくらいなら・・・よいしょっと!はい!持てました!」


 「清さん!!どうしたんだ!?まさか、ターミネ◯ター見てからみんなもアレになってしまったんか!?」


 「ははは!あの南蛮男はカッコよかったです!俺もあんな鉄砲をくらっても負けない男になりたいです!」


 どうなってんだ!?太郎君は、あのロボットを目指してるのか!?なれるわけないだろう!!あれは映画だぞ!?


 「そういえば・・・尊さまのご飯を食べ始めてから力が増したような気がします!それに身体が軽いと言いますか」


 「え!?それはどれくらい!?」


 「どれくらい・・・かは分かりませんが、以前ならあのような巨木は運ぶのに骨が折れましたが今は先のように軽々と運べるくらいです!」


 いや、以前から運べたのかよ!?しかも『軽々と運べるくらいです!』って分からないよ!?


 「太郎君は!?」


 「えぇ。俺もです。さっき気付きました。なんだか、力が湧いてくるような感じです!これも見てください!スゥー・・・うりゃっ!!(シュパッシュパッシュパッ)できましたよ!!」


 「・・・・・・・」


 まるで、リアル映画を見ているようだった。太郎君が短刀を振り回せばさっきの巨木が綺麗に切れて、柵にどんどん変わっていったのだ。


 「(パチパチパチパチ!)太郎!さすがです!では・・・私もお見せしましょう!尊さま!御照覧あれ!ヤァーッ!!!(シュパパパパパパパ)」


 「なっ・・・清様!?何をしておられるのですか!?今し方作ったばかりですよ!?」


 「あっ・・・ごめーん!私ったら!太郎!もう一度、木を切ってきて!」


 これはアレだ・・・。夢だ!夢!んな訳あるか!清さんが一刀横に薙ぎ払うと、衝撃波のような事が起こり、柵が一閃に切れた・・・斬れたのだ。ワンチャン、修練を積んだ人ならば、可能なのかもしれないが、あれは絶対に違う。だって、買ったばかりの車庫ならぬ、馬小屋の横に少しその衝撃波の傷が付いたからだ。

 なら何故、あの賊の時にこの力が出なかったのか・・・。なんとなく仮説を立てる。恐らくあの時は早朝で、飯を食べていなかった。だから胃に何もなかったから力が出なかった説が一つ。

 二つ目は、このお化け強化には時間制限があるという説。前の晩に食べたご飯が最後だと思うが、効果が切れた?

 三つ目は、数回しかオレの飯を食べてなかったからお化け強化されなかった?いやだが、それならオレが最初の時に肩を叩かれた時に吹っ飛んだ理由が分からない。

 ここで答えは出ないが、一つ目か二つ目のどちらかのような気がする。さっき朝飯を食べたばかりだから、夜まで飯を抜いてどう反応するか見ないといけない。


 別に強化されるのは構わない。が、普通に他の客も強化されてそれが戻らないならば、パワーバランスが変わり、大変な事になる。でも何故オレは強化されないのか。これはアレか?お前は馬車馬の如く皆に飯を振る舞え!休みなぞなし!働け!と言われているのか!?

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