ドライブイン安土 邁進8

 オレは目の前の出来事が夢のように感じた。坊官の1人が開拓していない森から現れ、オレに襲いかかってきた。オレは瞬間的に斬られたと思った。

 だが、そこに慶次さんが滑り込みのような形で割り込んだ。そして・・・


 「(グサッ)クッ・・・正に肉を斬らせ骨を断つ!舐めるなッ!!!糞坊主ッ!!!(ズシャンッ)」


 慶次さんは赤色の槍を持っていたが、源三郎さんに打ってもらった剛の刀という太い刀を、しかも片手で坊官を腹のところから一刀両断した。


 「雲水ッ!よくぞやった!前田は虫の息だ!極楽で待っておれ!!」


 「フシュー フシュー 尊・・・すまん。俺ぁ〜ここまでのようだ。このままにしてくれ。この俺の死を以って丸く収めてくれ」


 「許さん・・・。糞がぁぁぁ〜!!!!」


 オレは慶次さんの謝罪の言葉を聞いてイライラがピークとなった。そのまま降ってきて、反乱に加わった人をすり抜けて、坊官2人の所へ飛び込んだ。


 「尊さま!!!」


 清さんの声が後方から聞こえたがもう止まらない。どうなろうが良い。


 「チッ。馬鹿か。自ら死地に入ってくるか。こう見えて俺は中条流派の皆伝者なのだよ。その首・・・貰ったッ!!(ブォンッ)」


 吉之助ではなく、隣に居たもう1人の坊官の郭蓮という男が慶次さんが持っているような槍を横凪に払ってきた。なんとかっていう流派の皆伝者らしいがそんなの気にしない。素人のオレでも簡単に避けれた。


 まずは安全地帯で下卑た笑いをしている吉之助。此奴だけは許さない。

 オレは郭蓮を無視し、そのままの勢いで黒刀を抜き、吉之助に振りかぶる。


 「その心意気や良し。狙いは悪くないぞ?だが、俺もこう見えて、武術の心得があるのだよ。年季が違うのだ。小僧!相手してやろうぞ!クッハッハッハッ!」


 信長とはまったく違う、吉之助からさっきより更に一段と下卑た笑いが大きく聞こえたところで、頭に何かが聞こえた。


 「(アタイの名は黒鉄丸!アタイは黒鉄丸!私の真名を発声しな!さすれば絶大な力を目にする事なる!さぁ!)」


 その声は頭の中に響いているのに、両手で持っている黒刀から聞こえてるようにも思えた。黒鉄丸(くろがねまる)だと!?しかも何故か女?雌?のような声だし。

 オレは聞き返さずそのまま言われた名前を叫んだ。


 「黒鉄丸ッッ!!!!」


 オレが発声するのと黒刀が一瞬発光し、重さは軽くなった気がするが、刀身は分厚くなったように思う。

 それと同時に、吉之助は背中に挿していた素槍を手に持ち、オレなら穴があれば入りたくなるような事を吉之助が叫んだ。


 「喰らえッ!京八流の流れを汲み、源義経公をもが師事したと言われている、今は亡き中条流奥義!!


 龍華槍ッッ!!!!」


 もうね・・・オレなら黒歴史どころではない。だが、その槍の威力は郭蓮という奴の横凪とは物が違った。


 「(ガキンッ)クッハッハッハッ!弾くか!久しく全力を出す事が無かったから腕が鈍ってしまったか。だが・・・次はその黒刀ごと胴を断ち切ってやる!」


 「・・・・・・・・」


 手がじんじんしている。今のはこの黒鉄丸が弾いてくれたような気がした。これだけは言える。この刀じゃなきゃ殺られていた。


 「怖気付いて言葉も発せなくなったか?あん?安心しろ。小僧が相手している俺は本願寺の中でも上から数えた方が早い中条流皆伝者ぞ。中条流は今や失われた槍術。郭蓮も皆伝者ではあるが、俺は本物だ。恥じる事はないぞ?クッハッハッハッ!!」


 あの何度も口の奥が見える下卑た笑いがオレは気持ち悪い。そして力量差は明らかだ。それを否定するかのようにオレは虚勢を上げる。


 「舐めるなぁぁ〜!!」


 ガキンッ


 オレは力一杯に黒刀を振り抜いた。だが、その刃は簡単に吉之助の槍に止められる。


 「ほぅ?小僧もそれなりに修練を積んでいるようだな。よかろう。喜ぶが良い。久方ぶりだぞ?この俺が両の手で得物を持つのはな」


 吉之助は勝ち誇ったかのような顔で左手に槍、右手には腰に挿してあった長刀を抜いた。清さんのような二刀流だ。そんなアンバランスな武器を両手に持って戦えるのか!?と思ったが、この吉之助は口だけじゃなく、本物という事がオレでも分かった。


 隙がない。


 挿している刀を抜く瞬間に斬りかかってやろうかと思ったが、左手に持っている槍をわざと除けているように感じたからオレは踏み止まった。清さんや慶次さんとの日々の訓練で分かったことだ。誘われていると。


 「ふん。そこらへんの野良浪人くらいなら今の間合で斬りかかってくるのだがな。小僧は違うようだな。まぁ斬りかかってきたならば既に小僧は地獄行きだったのだがな」


 「そんな見え透いた誘いには乗らない」


 またオレは虚勢を上げる。早く斬り殺したいのだが、マジで隙がないのだ。


 「まぁそうだろうな。この俺の中条流の奥義 龍華槍を刀で受け止めるくらいの力量があるのだからな。小僧の構えから考えればお前のその刀は独学のようだな。

 そんな構えでは到底、技を出せるようには思えんし、胆力も持ち合わせているようには見えん。

 だが、基礎はしっかりしているように見える。よかろう!中条流 秘奥義を見せてやる。直ぐに死んでくれるなよ?我が師ですらこの俺の秘奥義は受け止められなかった」


 また吉之助は黒歴史全開な言葉を言い放った。秘奥義?馬鹿じゃねーの?と思ったが、これも何回も言うが、此奴は本物だ。左手に槍、右手に長刀。刃圏に入ればすぐに斬られてしまう。


 「喰らえッ!下り無双三段ッッ!!!」


 吉之助の声が聞こえたと思えば、また頭にこの黒刀の言葉が聞こえてきた。


 「(アタイを信じて相手を呑み込んでみなさい!アタイはあんたの為ならなんだって斬ってみせるさ!アタイの真名はなにさ!?)」


 黒鉄丸からの問い掛けを考えた一瞬・・・。オレは何をすべきか。何を口にするべきか・・・一つの答えが頭に浮かんだ。これが正解なのだと。否!これ以外の事をすれば全て殺られてしまうのだと。


 「尊さま〜!」「尊ッ!!!」「我が君!!」


 「尊ちゃん!!」 「尊様!!」


 気が付けば皆が駆け付けていた。そしてオレの名前を叫ばれた。


 吉之助の攻撃はまずは長刀を上からではなく下から振り上げのような形で振り抜いてきた。そして、そのままの勢いで槍を上段から振り下ろしてき、最後は・・・


 「その長刀と槍の合わせ技の突きだな。長刀でオレの体勢を上段に持っていき、槍でオレの重心を下段に持っていき、体勢を崩す。そのまま長刀の突きを繰り出し、体勢の崩れたオレは後ろに避ける事しかできず、避けた所をその槍で串刺しにすると。(ブォンッ バキバキバキ)」


 「なっ!?どういうことだ!?どうなっている!?」


 「さぁ?なんだろうな。ただなんとなく分かっただけだ。自分の得物と対話したというべきか。もう終わりだ。本当の意味で本願寺は終わりだ。本願寺は全員オレが潰す。


 その最初の1人は・・・お前だ。吉之助。


 無黒斬ッ!!」


 オレも黒歴史全開の言葉を発した。なぜ、このようなことを?と思うだろう。だが、これはこの黒刀の黒鉄丸から自然と感じた言葉だった。発声するのとしないのでは雲泥の差があるというのも分かった。

 現代のアニメやゲーム、映画のように魅せたり、カッコつけたりして技に厨二チックな名前があると思うが、実際、オレが黒鉄丸から感じたこの『無黒斬』という技。発声して上段から振りおろした訳だが・・・


 ズザァァァァーーーーーー!!!


 「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」


 気付けば、反乱を起こした奴等がオレと吉之助を円陣のように囲んでいたみたいだが、皆、唖然とし、無言だ。

 技を出したオレですら驚いている。何故かって?そりゃまったくの感覚を感じずに吉之助が上半身と下半身と真っ二つに千切れていたからだ。しかも、その刃圏の範囲が、後方の森の方まで届いているかのように、木々が倒れたのだ。

 この技が少し左にずれていたら、国友さん達も危なかっただろう。


 コロン コロン バサッ ゴトン


 「も、もののけだぁ〜!!」「堪忍してけろ!!オラは命令されただけで・・・」


 「包明様!!!クソォ!!おのれッ!!!死にやがれ!!!」


 反乱を起こした奴等は戦意喪失したようだが、残った坊官の1人、郭蓮という奴は向かってきた。だが・・・


 「白鉄丸ッ!!分かった!聞こえてるわよ!尊さま!!屈んでください!我が愛する者に仇なす者よ!死に候え!

 

 乱れ雪月花 終帝白帝剣ッッッ!!!」


 オレに向かってきた攻撃を清さんが打ち返そうしているのが分かった。それに、清さんも刀から声が聞こえたのも分かった。だがそれは・・・


 「え!?雪!?雪が降って・・・(ズバッズバッズバッ)」


 気が付けば郭蓮という坊官は小間切れのようになっていた。

 

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