ドライブイン安土 邁進9
「マスター!!!」
清さんの繰り出した厨二チックな名前の刀技を見たところで、後方からカナの声が聞こえた。小川さんや牧村おばあちゃん、桜ちゃん達も居る。
「あぁ。カナか。人間の営みには手を出さないんじゃなかったのか?」
オレは当てつけかのように問う。だが、返ってきた言葉はオレの予想を超えていた。
「はぁ!?降神したって!?どういう意味だよ!?」
「って事はオレ達のような人間になったって事!?」
「権能を返したって!?」
オレは数秒の間に色々と聞いた。聞いたが、カナが人間になった?のは本当のようだった。そして・・・
「我が君!見てくだされ!カナ嬢にいただいたえりくさあ?なる薬にて腕が生えてきました!」
「尊ちゃん!ワッチも指が無くなったと思えば生えてきました!」
「お、おぅ・・・それは良かった」
両生類じゃないのに腕や指が再生するのか!?ファンタジーな薬だな!?いや・・・そんな事よりだ。
「カナ。まずは慶次さんも治してくれ。そして・・・」
「はい。慶次様は直ぐに治療致します。ですが・・・マスターの思っている事は・・・」
「は?意味分からないんだけど?」
そう。源三郎さんだ。顔は普通だが、お腹の所がグチャグチャになって亡くなっているのだ。
「申し訳ありません。魂は既に輪廻に還っております。こうなればもうどうすることもできま・・・(ドガンッ)」
「どうすることもじゃねーよ!どうにかしろよ!カナはこの事を知ってたんだろうが!!!どうするんだよ!!!他にも亡くなった人が居るんだぞ!!」
「・・・・申し訳ありません」
オレは今までに感じた事のない怒り?焦り?悲しみ?全ての感情が同時に襲っていた。正直、カナが居れば死んだ者も生き還ると楽観視していたところはある。あったのだが、まさかそれができないとなると・・・。
「お、オトウ!!!!」
「て、てるさん!来てはダメだ!!必ず生き還らせるから待ってくれ!!」
オレは自分だけではどうにもできない事を簡単に言ってしまった。
「マスター。申し訳ありません。私もどうにかできるなら1番にしています。ですがこればかりは・・・」
「クソがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ズシャァァァァァァァーーーーーーーー!!!
あまりのイライラにオレは黒鉄丸を思いっきり力一杯に地面に叩き付けた。そしてその余波が開拓していない森の方に斬撃が飛んだような形で木を薙ぎ倒した。
「尊・・・すまん。俺のせいだ。フシュー フシュー。人なりは調べたつもりだったが・・・甘かったようだ・・・」
「ック・・・。カナ!!早く慶次さんを治せ!」
「いや、それが慶次様が飲んでくれなくて・・・」
「カナ嬢。それに尊。俺ぁ〜このままで良い。尊の怒りは分かる。俺も昔似たような事を何度も味わった。戦友を亡くし、友も亡くし、その悲しみは分かる。フシュー フシュー。だが、それを乗り越えてこそだ。善兵衛!!そこに居るか!?」
「慶次・・・。お前がそこまで深傷を追うとは珍しいな」
「あぁ。抜かってしまったようだ」
慶次さんは国友さんとも旧知の仲らしい。
「又左殿に従軍していた時以来か」
「あぁ。稲生の戦以来だ。まぁそんな昔話は良い。それより、源三郎の最後はどうだった?尊?善兵衛の話をちゃんと聞け。大切な事だ」
慶次さんはいつもはおちゃらけだが、これに関してはマジな口調で言った。
「源三郎は最後まで申し訳ないと言っていた。尊殿にな。自分の作った焙烙玉を『ちゃんと管理していなかったせいで』とな。だが、同時に礼も言っていた。
『尊殿に南蛮を見せてもらい、鍛治師としての集大成を心から思う主君に受け取ってもらえた』とな」
「そんな・・・オレに・・・」
気付けばオレは嗚咽を繰り返していた。てるさんも静かに涙を流しているのが分かったからだ。
そんな中1人の反乱に加わった奴が土下座してきた。
「ゆ、許してくだ・・・(ズシャン ポトン)」
オレに土下座してきたようだが、オレは迷わず首を刎ねた。
「お、お助けをぉぉぉ!!!」 「ゆ、許してくだせぇ〜!!」
「黙れッ!!お前達は何をしたのか分かっているのか!!!無条件にお前達を迎え入れ、屋根のある所に寝泊まりさせ、飯もたらふく食わせ、ここに慣れるまで仕事もしなくて良いとオレは言った!ここまでお前達の事を見てくれる奴は日の本のどこを探しても居ないとオレは言い切れる!それを最悪の形で・・・(ズシャン ポトン)」
「待て!尊!」「マスター!お辞めください!」
「尊さま・・・。お辞めください!」
オレが怒りに任せてもう1人の首を刎ねた所でカナと慶次さんからの声が聞こえた。構わず、もう1人首を刎ねようとしたところで、清さんの声が聞こえた。何故か、清さんの声だけは耳に入った。
すると、清さんは自分の得物を地面に置き、優しくオレを包んでくれた。
「尊さまの怒りは分かります!ですが、これは違います!こんな事をして源三郎さんが喜ぶと思いですか!?」
「う・・・うわぁぁぁぁ〜〜〜」
オレは皆の前で泣いた。この時代、弱味を見せれば直ぐに馬鹿にされる世界だ。だが、オレは気にせず清さんの胸の中で泣いた。
どのくらい時間が経ったかは分からない。その間、皆は黙って下を向いていたと思う。清さんは時折り、オレの頭を優しく撫でてくれ、気が付けば横にてるさんも居た。その顔は悲しみや怒りの顔ではなく、笑顔でもないが、優しい顔だった。
「尊様。オトウを笑顔で送ってあげてください。オトウは尊様に仕える事ができて、本当に喜んでいました。南蛮の服や食べ物を貰い、いつも口で、『早く尊殿に恩を返さないとならない』と言っていました。
そして私には、『どんな事があってもあの御仁を裏切ってはならない。終生、尊殿にてるはお仕えしろ』と言っていました。
たまに聞かせていただける、尊様が居た世界と、ここは違います。ここは乱世。尊様が気に病む事はございません。ただ、願わくば・・・たまにで構いませんので、オトウ・・・源三郎の事を思い出してあげてください。オトウは尊様が居た世界も見てみたいとも言っていました。
『戦の無い平和な世があるなら、ここでそれを実現するのならば、大殿ではなく、尊様が作るのだろう』って」
このてるさんの言葉を聞いて更にオレは嗚咽が大きくなった。本当の意味の・・・悲しみだけの嗚咽だ。
多分、この2人が居なかったらオレは反乱に加わった奴等全員をこの自分の手で首を刎ねていただろう。
オレは静かに清さんから離れ、源三郎さんの亡き骸の所へ向かう。そして手を合わせ呟いた。
「源三郎さん。あなたの功績はかなり大きい。てるさんは必ずオレが面倒見ます。そして、二度とこんな悲劇が起こらないようにオレも頑張ります。
どうか・・・。どうか、安らかに・・・」
それからオレは、他にも亡くなってしまった人達の所へ向かい、手を合わせた。亡くなった人は全員で4名。全員、源三郎さん配下の人達だった。
「国友さん。申し訳ないけど、簡単にでいいから源三郎さんや他の方達が入れる、棺を作ってくれませんか?それと並行して、牢屋もお願いしたい」
「分かった。直ぐに取り掛かろう」
「フシュー フシュー。尊・・・そろそろお迎えが来そうだ。痛みが無くなってきた。それに眠気も酷い。今一度、礼を言うぞ」
「ふっ。笑い事ではないけど、慶次さんは死なせませんよ。太郎君。次郎君。五郎君。桜ちゃんも梅ちゃんも、吉ちゃん!滝ちゃん!全員で慶次さんを押さえてくれ!」
「「「「「「御意!」」」」」」」
オレがしようとしている事を皆は分かってくれたようだ。
「な、何をする!俺は生きてはダメなのだ!おい!太郎!離せ!」
「それは無理な事です。某は尊様の忠実な下僕です」
「カナ。飲ませてあげて。あ、慶次さん?もし飲み込まなければこれ、ばら撒くから」
言う事を聞かない慶次さんにいつか使えるだろうと、オレはドローンで慶次さんを空撮していた写真を6色プリンターで印刷した写真を懐から取り出した。
「なっ!尊!!!それは辞めてくれ!恥ずかしくてあの世にも行けねぇ〜だろうが!!!」
「悔しかったら奪い取ればいいじゃないですか。ここは乱世。力こそ正義!オレは力なんて無いから頭脳を使うのです!」
その写真は大津の茶店で、団子を食べている慶次さんと女性の写真だ。ただ、これだけなら別にこの人は何とも思わないだろう。なら、何故このように死の間際で焦っているのか。
それは、アーンされている写真だからだ。2ヶ月程前に、飯屋の大津隊に同行する事が多くなった慶次さん。帰りも1人だけいつも遅く、しかも勝手にドライブイン安土の冷蔵庫から食材が消えている事が多くなり、何をしているのかと思い、追跡した結果がこれだ。
この写真が撮れたのはたまたまだが、いつか使えると思い、印刷していたのだ。良かったぜ。
「カナ嬢!その薬をくれ!(ゴグッ ゴグッ)」
慶次さんはカナから薬を受け取り、自ら飲んだようだ。すると腹にあった傷が発光し、すぐに塞がったようだ。本当にファンタジーな薬だな。
「慶次さん!治ったみた・・・(シュバッ)」
「ふん!よくもやってくれたな!これだけはダメだ!」
慶次さんは目にも見えない動きでオレの手から写真を奪い取った。
「ははは。流石ですね。敢えて命令します。太郎君や他の皆も同じだ。オレの隊は責任を負って自刃や切腹、諦めるという事は絶対に許さないから。これは今後も同じ。失敗しようが何をしようが、生きる事!命令です」
「チッ。しゃーねーなー!おい!どうやら俺の命は続くようだ。これからも尊を支えてやらねーとな!尊!此度の事は誠に申し訳ない。平に御容赦願う。
ただ、もし挽回の機会を頂けるのならば、この前田慶次郎利益、一騎当千の働きを見せまする。必殺の刃とならん!」
「これからも頼みますよ。なんせオレの隊の一番隊の隊長ですからね。それにやる事は変わりません。本願寺・・・これだけは潰す。オレはこの状況が落ち着いたら織田様に上奏する。本願寺攻めにはオレを使ってくれと」
「あぁ。今度はしくじらないさ」
オレは坊官3人の亡き骸を一纏めにした。残念ながら郭蓮という奴だけは顔が認識できないくらいに小間切れになっているけど、吉之助と雲水という奴は認識できる。
これをカメラで撮影する。もう人間相手にも容赦はしない。特に本願寺に対してはな。この3人の写真と甲賀の写真をばら撒いてやる。顕如と頼廉。この2人だけはこの手で殺す。史実では顕如は信長と和解したと思うけど、この世界では死んでもらう。
ちなみにだが、慶次さんに奪い取られた写真。大丈夫。USBにデータが保存されてあるから、また印刷しようと思えばできるのだ。
メンツを大切にする時代で良かったぜ。
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