ドライブイン安土 邁進10 終

 亡くなった4人を棺に入れて、国友さん一派の人達が耐火煉瓦で棺が一つずつ入るくらいで、合計4つを作ってくれた。

 オレはタブレットでプレミアム灯油・・・所謂、白灯油というのを購入に荼毘に付す。

 ここで本当は本物のお坊さんにお経の一つ、戒名などもしてもらいたいが、糞坊主に殺されてしまったのに、坊さんにお願いするのも・・・と思い、てるさんにも確認し、他の方の奥さんや家族にも聞き、そのまま火葬しても良いとのこと。

 寧ろ、戒名なんかしてもらうお金がないとのこと。


 ただ、何もないよりかは・・・とオレは思い、店舗兼、住宅であるドライブイン安土のオレの部屋にあるBluetoothスピーカーを甲賀まで持って来て、それをスマホに繋げる。

 そしてそのスピーカーから動画サイトで見つけた、現代の現役のお坊さんで、テクノ調の声でバズり、CDまで販売している某お坊さんの般若心経を流す。


 ここまでで1番動いてくれているのはカナだ。詳しくはまた後程聞くとして、降神?したことにより、表情が豊になっている気がする。

 反乱に加わった奴等は漏れなく全員、牢屋・・・とまではいかないが、全員、縄で縛り、自由が効かないようにしている。


 「尊様!おねげーします!」


 「尊様!何でも言う事お聞きします!」


 せっかく黙祷して、源三郎さん達を送っているというのに雑音が煩い。


 あぁ。オレはこの人達は許さない。信長に上奏の時に言うつもりではあるが、信長のことだ。


 「そんな阿保の奴等なぞワシに聞くな。処断せよ」


 とか、


 「本願寺に連なる者は生かしておく必要はない。しかも反乱した者達だろう?斬り捨てぃ!」


 と、言われるだろう。仮に何かの間違いで生かす方向になったとしてもオレは此奴等の面倒は絶対に見ない。信長が命令したとしてもこれだけは守らない。


 ガシャーーン


 「おい!馬鹿者共が!我が君は貴様等なぞ毛程も思っておらん!当初は我が君の命令にて傷付けずに・・・と思っておったが、今や何も言われておらんからのう。ピーピー喚くな」


 「小川さん・・・すいません」


 「いやいやなんの!なんの!我が君の顔を見れば、どういう気持ちなのかなんてすぐ分かりますぞ!!がはっはっはっ!」


 小川さんの腕は元通りに治っている。牧村お婆ちゃんの指もだ。この2人には苦労を掛けてしまった。オレのつまらん命令のせいで。


 「尊様!それに皆々様!私の父、源三郎のためにこのような立派な・・・立派な・・(グスン)」


 「てるさん・・・。ここからはオレが」


 オレは送る言葉ではないが、心を込めてオレが思っている事を言った。


 「正直、オレが言える事ではないのは分かっている。けど、亡くなった皆には感謝している。この中の誰か1人でも欠けていれば甲賀を治めるまでいかなかったと思う。

 この道の舗装も武器類もだ。源三郎さん一派の働きがあってこそだ。けど、オレ達は歩を止めるわけにはいかない。決して源三郎さん達を忘れる事はない。定期的な法要は必ずする。残った家族もオレが必ず面倒を見る。

 だからどうか・・・どうか、安らかに・・・」


 この最後の黙祷にて、一段楽とする事にした。カナがどこで用意したか分からない骨壷にて、皆に骨を拾ってもらい、後日、甲賀村の端の方に墓を作る事で皆が合意した。


 そして、てるさんがとんでもない事を言い出した。


 「グスン・・・尊様!私、オトウの跡を継ぎたいです!」


 「は!?え!?跡を!?鍛治師になるってこと!?」


 「はい!だめでしょうか!?」


 「いや・・・オレは構わないけど、大丈夫?せっかく、裁縫師とか服を作る仕事とか色々あるのに!?」


 「てるの姐さん!」「姐御!」「おいどんは源三郎先生の子女である、てるの姐さんに着いて行きやす!」


 あぁそうなのね。一派の人にかなり慕われているのね。


 「(クスッ)良いではありませんか!ね?尊さま!女鍛治師なんてそこらへんには居りませんし、てるさんはかなり手先が器用みたいですし、下の者にも好かれているようですし!」


 「そうだね。清さん。カナ?てるさんの面倒も見てくれるか?」


 「はい!もちろんです!」


 「了解。さて・・・人の再編をしようか。あぁ。あなた達は大丈夫ですよ。本願寺から降って来た人全員を処罰なんかはしませんので」


 反乱に加わっていない人は、さすがにオレも処罰はしない。信長なら全員処罰しそうだが、さすがにな。



 それから色々と取り決めを行なった。まずは、出店や営業は暫くお休みにする事にし、太郎君や次郎君、五郎君など男手は木材の調達。奇しくもここは戦国時代。そこらへんに木はある。

 国友一派が先頭に立ち、燃やされた家を一度解体し、今までより更に拡張した家を建ててもらう事で合意。


 その作業を取り決めている間にオレはカナの事情を聞いた。


 「本当に人間と同じになったって事?」


 「はい。ですので、今後は私も積極的に関わります」


 「そうか。けど、そんなに見た目とか変わらないんだな?」


 「はい。そのままの依代を使うようにしましたので。男の依代にしてもよかったのですが、折角、皆に顔を覚えてもらいましたので、このままにしました!

 源三郎様の事は誠に申し訳ございませんでした。二度とこのような事が起こらないように気をつけます」


 「まぁあの時は腑が煮えくり返るくらいにイライラしたけど、元は本願寺がダメなわけだしな。オレは本願寺を潰す。カナにも働いてもらうぞ?」


 「えぇ。この時代風に言うならば、獅子奮迅の働きをお見せ致します」


 「黒歴史全開だな。まぁこれからもよろしく頼むよ」


 カナが人間?になったと言っても何も変わらない。今まで通りだ。

 今まではただ漠然と飯屋をしながら、下々の人の暮らしが良くなればいいと考えていた。

 信長が日本を一つに纏め暮らしが良くなると安易に考えていた。

 本願寺や宗教勢力と長い戦いをしていた事も歴史で知っていた。だが、リアルでは違っていた。

 根本的にこの時代の人はオレのような現代人と考えが違うという事だ。今回の事でそれは大いに分かった。

 弱者には・・・。身分のない者には・・・。この考えは捨てる。

 この調子ならオレが本能寺を止めると言っても起こってしまうだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない。

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