ドライブイン安土 大躍進
ドライブイン安土 大躍進1-1
〜1577年 2月1日〜
ついにこの時が来た。今年の正月の頭にオレは大切な人を亡くしてしまった訳だ。だが、その時の鬱憤を晴らす時が来た。
今、オレは・・・。いや、公には言えないが、安土武田軍・・・つまりオレの本来の名字だが、その武田軍は本願寺総攻めの前哨戦である紀伊征伐の一軍に組み込まれた。
織田軍ってこんなに居たんだ!?ってくらいの大動員だ。信長の並々ならぬ決意が見える。今は、現在の大阪の貝塚市あたりになるだろうか。そこに陣を構えている。
今日までの出来事をおさらいしよう。
例の事件から色々とあった。まずは信長に謁見するために伝言ゲームを始め4日後に、信長小姓筆頭の遠藤さんが、返事を伝えて来てくれて、安土の館に向かう事となった。岐阜城は信忠の城へと正式になったみたいで、今後信長は安土の館で暮らすそうだ。今後は信長に会うのにオレは一々許可を取らなくてもいいそうだ。楽になるからそこは嬉しい。
そして、その信長と謁見する4日間の間に武田領へと甲州金の件で遠征に行っていた3人が戻って来た。
「な、なんと!?反乱ですか!?首謀者は如何様に!?」
「え!?尊様、御自らが成敗されたのですか!?お怪我は!?首は晒していないのですか!?」
「源三郎が・・・。惜しい男を亡くしてしまいましたな・・・。グスン。失礼・・・。で、反乱を企てた者等は根斬りですかな?え!?何人かは牢に閉じ込めて居ると!?尊様!いや、若様!この俺に首を斬る許可を!いやなに、数刻で終わらせます!」
「野田さんは少し落ち着こうか。おそらく、織田様も特に何も言って来ないと思う。オレもできる事なら容赦なく首を斬ってやりたいと思う。けど、一応、詮議は行わないといけない。
今後は法という物を決めて、その上で行動したいと思っている。その草案に関してはカナ達と決めるから。織田様はその限りではないけど、甲賀ではオレよりも上の存在が法という風にしようと思う」
「イマイチ分かりませんが・・・」
「まぁそこは追々ね。とにかく、お疲れ様でした。家に関しては国友一派の人達が突貫で建設してくれているから、それまでは申し訳ないけど、ゲルテントで寝泊まりしてほしい」
「報告は落ち着いてからで構いませんか?」
「そうですね。1日、2日休んでからお願い致します」
このやりとりがあり、先に目的の甲州金を渡してくれたのだが、少しガッカリだ。いや、金は金なのだが、延べ棒のような物を想像していたから、歪な形の金が本当に価値があるのは分からず、とりあえず久々のタブレットでいくらになるか調べたのだが・・・
「(ブボッ)き、清さん!!見てくれ!!」
「はいはーい!どうされましたか!?」
「この金額を見てほしい!」
試しに物を売却する項目があり、初めてまともな物を売りに出してみたのだが、タブレットの円表記で、500万と表示されていた。もうびっくりだ。仮に全て売るとすれば、甲州金の塊は10個あるから・・・
「尊さま!?5000万円ですか!?」
「お、おう・・・計算が早いな!?」
清さんは円の勉強もしているせいか、はたまた動画サーフィンやネットサーフィンで現代の事を学んでいるせいか、価値が分かるみたいだ。
「(スチャ)マスター?今しがた5000万円と聞こえましたが?」
「いや、怖ぇ〜よ!何で片手を刀に置いて登場するんだよ!?」
カナはカナで降神する事により、《刻黄泉》《神威》という権能が使えなくなったらしく、この先の事象は分からなくなったそうだ。
まぁ未来は自分達で作るものだからな。いつ何が何処で起こるか知っていても、防げないこともあるだろう。
まぁ、この事は置いておいて、カナは更に色々と注文してきた。工業機械の増設だ。タブレットで未来武器を買うのも良いが、『自分達で作り、この世界線での歴史には私や国友様、マスターの名前を残すのです!』と言い、張り切っていた。
金を出すのはオレなんだけどな。
慶次さんは例の事件があったせいか、一番隊という肩書きに相応しいように、『最強の甲賀の兵を作る。尊の黒母衣衆だ!』と、言い、さっそく訓練をしている。
そして、安土の館で謁見する事となり、事の顛末を伝えた。
「貴様がコソコソ何かしていたのは知っている。ワシは敢えて何も言わなんだ。その方が利になると思っていたからだ。で、惜しい者を亡くしたという事か」
「はい・・・。申し訳ございません。全てオレの落ち度です。罰は何でも受けます」
「ふん。まぁ織田軍全体に影響がある訳ではない。此度は不問に致す。で、捕らえた者が居るというのだな?」
「はい」
「即刻、首を刎ねろ」
「畏まりました。それと・・・本願寺攻めには是非、オレをお使いください。もう遠慮しません!」
「ほぅ?」
「今回の件で嫌というほど分かりました。宗教勢力に力を持たせるのは良くないと。そして、一度狂った者は最早、どうにもならないという事を」
「で、あるか。考えておく。だが、本願寺の前に紀伊征伐だ。大坂も支配下に置き、海は九鬼に支配させ、誠に本願寺を孤立させる」
「そ、その紀伊征伐にもお呼びください!必ず戦果を上げます!」
「うむ。その心意気や良し。動けるように準備しておけ。もう少し力を溜めてからと思っていたが、今年に動くぞ。下がれ」
このように、簡単に話が進んだ。信長は甲賀の件はあまり興味がないようだ。まぁあの人は全体を見ないといけない人だからな。
甲賀の事象なんて些末な事なんだろう。
オレは太郎君に言って、首を刎ねる事を伝えたのだが、そこをカナが待ったをかけた。
「マスター。いくら罪人とはいえ、突拍子もない事を言いますが、良ければあの者達を私に任せてもらえませんか?いえ、生かす事はしません。しませんが、どうせ斬首するなら有効活用させていただきたいと・・・」
「何をするつもりだ?」
「武器開発だけではなく、医療の方にも力を入れたく。拷問のような事は致しません。切り刻むにしても麻酔をかけてから致しますので、どうか・・・」
「そうだな。確か、吉ちゃんや滝ちゃんが医療に興味があるんだっけ?カナが監督するなら任せるよ」
簡単に言うなら人体実験だ。残酷だろう。普通ならオレは許可なんて出さない。出さないが、此奴等だけは別だ。拷問まではさせないが、人を殺したんだ。どうせ、首を刎ねるのだから、少しくらい役に立って死んでもらう。
信長に報告したことで、甲賀での事象の話が広がった。1番に駆け付けて来てくれたのはなんと、秀吉だった。
「なに!?本願寺の者を数人とはいえ寝返らせていたのか!?なんの得になるのだ!?」
「甘い!尊は甘い!宗教というものを舐め過ぎている!なに!?捕えているとな!?生かすつもりか!?即刻首を刎ねておけ!おっ!?まさか!?お、おぅ・・・。あの女が実験とな?切り刻むと!?医療の発展のため!?そ、そうか・・・死ぬより辛そうだな。
ワシも紀州征伐に加わる。その後に中国攻めだ。甲賀を復活させるのには人が足りないだろう?少しの間、大工衆を貸してやる。好きに使うが良い。あぁ〜、礼は中国攻めの時にでも新式兵器で返してくれたので良い!カッカッカッカッ!」
秀吉は秀吉で相変わらず粘っこい笑いをしながらもオレに協力してくれるみたいだ。
まぁ、中国攻めでの兵器が目的らしいが。隠さない辺りまだ信用できる。
逆にオレを糾弾して来た者も居る。本願寺を抑えている佐久間だ。わざわざ信長とオレに手紙を送ってきやがった。
やれ勝手に動きやがってやら、好き勝手して信長の領内に敵を入れてしまったとかだ。オレに罰を与えろとか、飯屋は飯屋らしく静かに飯を作れなどだ。
佐久間隊への飯の補給は半分オレが担っている。主に缶詰や、湯煎で食べられるレトルト系なのだが、補給を辞めてやろうか?とまで思う。戦場でレトルト食品が食べられるのは佐久間隊以外絶対に居ないと思うんだけどな。
なんなら、平時の上杉家や武田家、毛利家なんかより美味しい食べ物だと思うんだけどな。口が肥えてしまったか。
他にも丹波平定で忙しいだろうと思う明智からも手紙が来た。今の所、本能寺の気配はない。わざわざ丁寧にオレの内情の事を分析し、秀吉と同じように数人の黒鍬衆という人達を送ると書いていて、実際、手紙が届いた次の日にその人達がやってきたのだ。黒鍬と名前が付いてはいるが、要は大工衆みたいな感じらしい。
秀吉とは違い、礼の事なんかは書いていないが、丹波平定が如何に苦労しているか、豪族が多く従わない者が多いやら、寝返るならそれ相応の待遇をせよなど色々と書いていた。
『従わない者が多く、焼き討ちにしてやろうにも燃料がない。尊が持っている燃える水があればな』や、
『山間は寒さに厳しく、甲賀で作られていると言われる、だうんじゃけっとなる物があれば士気が上がるのだがな』
などなど・・・。要求はしてきていないが、送って来い!とオブラートに包んで言われている気がした。 おそらく、こういう遠回しな言い方や、わざわざ手紙でネチネチと書いてくる事が皆から嫌われているところなのか。まぁ明智に関しては問題ない。ちゃんと返礼にて送る予定だ。
「なぁ?尊。その曲射砲だったか?それは使い物になるのか?」
「えぇ。義父様。効果の程は間違いなく。雑賀がどのように細工していようが、この弾は防げないでしょう」
「チッ。その呼び方は辞めろと言うておるだろうが」
オレは義父こと、清さんパパである丹羽長秀隊の中に居る。今回持って来た兵器・・・迫撃砲・・・ではないが、それに近い砲だ。射程距離や威力に関してはまだまだだろう。だが、これは、源三郎さんの意思を継いだ、てるさんの処女作兵器の一つだ。
運用は甲賀隊 砲撃部隊隊長 青木伝七郎さんだ。
「若様。目標はあの雑賀惣でよろしいですか?」
「いやいや、早すぎな?まだ何も号令掛かってないですからね?なんなら、後方は未だ着陣すらしていませんよ?」
「申し訳ございませぬ。はやる気持ちを抑えきれなく・・・」
「青木と申したな?その心意気や良し。だが、足軽等と歩幅を合わせないといかんぞ?」
「はっ。丹羽様。申し訳ございません」
「それにしても本当に大丈夫なのか?その曲射砲は女が作ったって聞いているぞ?」
「そこは問題ありません。オレが保証致します。撃ち方に関してもこの青木さんに任せておけば問題ありません。ですよね?」
「はっ。カナ嬢のシゴキに耐えられたのは某だけでした。まずは弾道学を始め、二次方程式、コリオリの力など、短期間に覚える事が山程ありまして」
この青木さんが言っている事は正直、オレはチンプンカンプンだ。聞けば、大砲を正確に撃つにあたって必要な事なのだそうだ。
「初めて聞く事ばかりだ。他にも新しい武器を持って来ているのだろう?」
「はい。もし、義父様やオレ達が一番を任されるならば・・・曲射砲にて惣を狙い撃ちます。その後、炙り出した後に西洋甲冑を装備した重装歩兵である小川さんを先頭に炙り出た雑賀兵と斬り結びます」
「雑賀は鉄砲の名手揃いぞ?大丈夫なのか?」
「えぇ。父上にも見せたかったです!一応、甲冑の下に着込みをしてはもらっていましたが、私がライフルにて小川様を撃ちましたが貫通なしでした!」
「お、おぅ・・・。清があの御家老殿を撃ったのか?」
「はい!小川様が喜んで的になってくれました!」
「がっはっはっ!安心なされませ!歳は食ってますが、ワシは鉄砲の弾如きに恐れは抱きませんぞ!娘子様であられる我が君の奥方、清殿は誠、武者のようでしたぞ!なんせ、鉄砲を弾いたこのワシのハルモニアのスーツが鉄砲が効かぬと見ると刀で斬りかかってきましたからな!鉄砲よりそちらの方が肝が冷えたというわけですじゃ!」
「そ、そうか。其方のような甲賀の上忍が居るのは知らなかった。これからも此奴を支えてやってくれ」
確かに威力を試すと言って、本当に小川さんが的になるとは思わなかった。カナが念の為に着込みを着させてはいたが、この自称・・・ではなく、信長に気まぐれで言われた筆頭家老でもあり、傅役でもある小川三左衛門さんは、『撃って来い!』と言い、清さんは迷う事なくタブレットで購入した有坂銃を撃ち込んだのだ。
まぁ結果は本当に未来の鉄砲の弾でも弾いたのだが、オレはビックリした。
「ほぅ?良い面構えとなったものだな。丹羽の隊の与力にして正解だったようだな」
「上様!」「織田様!」「大殿様!」
後ろから小雲雀に乗った信長の登場だ。さて・・・何を言われるだろうか。新兵器も小川さんの甲冑部隊も初めてお目見えするからな。
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