ドライブイン安土 大躍進1-2
「なんぞ面白い武器を開発したと聞いたぞ?その方は確か・・・」
「はっ!大殿様に任命されました、我が君の矛でもあり盾でもあり、筆頭家老でもあり、傅役でもあります小川三左衛門です!!」
おいおい。どんどん肩書きが増えている件について。
「クッハッハッハッ!誠、面白い老人だな!それにしても凄まじい甲冑だのう?動きずらくはないのか?」
「全然動きずらくありません!敵の矢弾を弾く兵ですじゃ!」
「ふん。己の身体で敵の攻撃を引きつけるとは兵の鑑だ。ワシの馬廻りにも見習わせたいくらいだ。まぁ良い。尊!飯を作れ!」
「はい。何が食べたいですか?」
「験担ぎ飯・・・と、言いたいところだが、貴様の配下が作ったこのダウンジャケットを着ていようが、寒いものは寒い。何か温まる物を作れ。別に火も気にしなくて良い。雑賀等も既に気付いているだろうよ」
「分かりました。実は包囲戦や、戦況が滞っている時などでも士気が下がりにくい簡単飯を思い付いていたのです」
「ふん。小癪な物言いだな。持って来い!ワシが点数を付けてやろう」
自らハードルを上げるような事を言ったわけだが、それでもオレは自信がある。源三郎さんを亡くしてしまった事により、無我夢中でオレの元々の職業でもある料理を作りまくっていたこの1ヶ月。
清さんに支えられ、カナには強く当たったりもした。大津や近江、ほぼ出来上がった安土の城下の領民に今か今かと催促されていた出店。ずっと休みにしていたが、太郎君が声掛けをして、それも復活した。
秀吉から勝手に送られてくる人も新たに雇い、今や出店隊は7部隊まで増えた。その折に、弁当やお握りだけではなく、大鍋で一つの物を作り、紙皿で一杯少額で冬ならではの温まる飯を作れればと思い開発した物だ。
「尊さま!ゼラチンキューブはいくつ必要ですか?」
「う〜ん。多分、織田様のあのトーンなら3人前くらい食べそうだから、3つお願いできる?」
「(クスッ)了解です!」
「うん?どうしたの?」
「いえいえ。調子が戻ってこられたなと思い喜んでいます!一時は黙々と料理ばかりされていたので心配しておりました。夜も隣で寝るだけで、全然お手を出して来られなく寂しい思いもしてました。ですが、人は必ず亡くなります。その悲しみは御自分で乗り越える他ありません。清は尊さまが亡くなる姿は見とうありません」
「おいおい・・・まだオレは19・・・年が変わったから20だよ?まだ死ぬつもりはないよ!?」
「何度も言いますが、私の目が届く範囲は尊さまを御守り致します。何かの間違いで間者や手慣れに不覚を付かれても私の目が黒い内は尊さまを御守りします。尊さまの居ない世界なんて生きたくありませんし。私の幸せは尊さまが居る世界です!」
「嬉しい事言ってくれるね。ありがとう。けど、オレは死ぬつもりないよ。それにね・・・オレも一応、今も朝の稽古続けているんだよ?清さんには一合も取れないけど。オレも清さんの居ない世界なんて考えられないからね。
こんな時だけど・・・いつも隣に居てくれてありがとうね。清さんと出会えて良かったよ」
「クァ〜!惚気るなら他所でしてくれよ?ただでさえ、大殿の軍が動いた折は女遊び厳禁だと言うのによ。尊だけだぜ?女連れを許されているのはよ」
「またそうやって言うんだ?そう言いながらいつも慶次さんは出掛けてるじゃん」
「まぁよ?各地に俺を思う女が居るんだから仕方ないだろう?それによ?一度は俺は前後不覚を取り、取り返しのつかない失敗をした訳だ。だが、二度はない。任せておきな。今後は尊に降り掛かる刃は俺とカナ嬢で取り除いてやるさ。
小川の爺さんも青木のとっつぁんや野田の曹長、牧村婆さんも此度は並々ならぬ決意を示している」
「その通りですぞ!この小川!この小川三左衛門が我が君には指一本触れさせませんぞ!あっ!それとですじゃ!ワシが死ぬ時は我が君と同じ、同年同月同日ですからな!がっはっはっ!」
桃園の誓いかよ!?何歳まで生きるつもりだよ!?いや、ワンチャン小川さんは100歳超えて直、戦場に出そうな感じだな!?
「まぁこれからも頼みます。さて・・・この鶏ガラの出汁をゼラチンの元で固めた物を小鍋に入れる。そして・・・白菜、豆腐、鶏肉、米を入れて・・・鶏白湯リゾット風だ!」
「「「おぉ〜!!」」」
「我が君!美味そうな匂いがしておりますぞ!」
「これは織田様の分だから!唾でも入れば怒られるじゃ済まないよ?オレはこれを持って行くから、皆は食べてていいから!丹羽隊の皆にも振る舞ってあげて!」
「「「「御意!!」」」」
ちなみに、丹羽隊の麾下となったわけだが、その丹羽隊の兵糧というか、飯炊きはオレ達、甲賀隊がその役目を仰せつかった。本来なら下っ端も下っ端の仕事だが、織田軍の中でそれを思う者は今はあまり居ない。
なんせ、オレ達の機嫌を損ねたら温かい飯なんて用意できないし、全部隊へと貸し出ししているカセットコンロや大鍋も貸してあげない。何で文句言う奴達の飯まで用意してやらなければならないのか。
この時代にタイムスリップした時ならそれでも文句を言わず用意してあげていただろう。だが今は違う。織田信長という天上天下唯我独尊さんや、どこが米五郎左だよ!?って言いたくなる信長に負けず劣らずの義父こと、丹羽長秀、何を考えているか分からない相変わらず粘っこい笑いばかりする羽柴秀吉に揉まれオレも変わったのだ。
舐められたら永遠に変わらない。未来の日本人が美徳とする下手に出て相手をヨイショヨイショする礼儀はこの時代でも必要ではあるが、誰にでも通用するわけではないということ。
後世に名前が残らない足軽大将クラスの人達が特に偉そうだ。この人達相手には特にオレは強気に出る。信長もそれくらいに関しては口出ししてこないし。
寧ろ勘のいい奴等は逆にオレに気を使ってくるくらいだ。オレが機嫌良ければ飴玉や酒なんかを渡したりするからな。当初は強請ってくる奴も居たが、そういう奴には絶対に贈ってあげない。佐久間がいい例だ。
あの部隊には必要最低限の物しか送っていない。
逆に徳川が居る三河方面には飛脚を使い、色々な物を送っている。これはオレの打算的な考えもあるだろうが、本能寺が万が一にも起こった時の対処だ。京都より東への逃げ道を作っておかないとな。
これで徳川黒幕説だとすればお手上げになるが、あの人も秀吉のような雰囲気は感じるが、根は悪いようには思えなかった。
「お待たせ致しました。鶏白湯リゾットお持ち致しました」
「遅い!匂いはずっとしておるのに!今少し遅くば(ポンポン)ここが飛んでおったぞ?はよう寄越せ!」
怖ぇ〜よ!鞘で首をなぞるなよ!?こんな事で首斬られるのかよ!?
「(フゥ〜 フゥ〜 ハスッ)うむ!美味い!見事な手前ぞ!鶏白湯りぞっとなる物!天下一の飯じゃ!カレーと良い勝負だ!他の部隊も通達を出した。雑賀衆等はさぞ肝を冷やしておるだろう!クッハッハッハッ!」
「え?何でですか?」
「ふん。ワシがどのくらいの軍を連れて来たか把握はしておらんだろう。そんな中でこの美味い匂いが風に乗り、惣にも行き渡る。さすればどう思うかのう? この匂いは強烈な一撃ぞ。目に見える物だけが全てではない。敵は『織田はこのような大軍をどうやって養うのか。耐えていれば退く』と考えるだろう。
だが、この匂いは雑賀も初めて匂うはず。『なんだこれは!?』とな。直ぐに飯の匂いと分かるはずだ。 そう思えば疑心が生まれる。『まさか、このような公家が食べそうな匂いの物を末端の兵まで食わせる余裕があるのか!?』とな」
「それだけでそこまで思いますかね?」
「貴様も分かっておらんようだな。確かに陸からで既に大所帯の軍だ。だがそれが誠に全てか?何のために船の建造を急がせたと思う?」
「え!?まさか!?海からもですか!?」
「ようやっと分かってきたか。確かにこのような大軍を動かせる場所はない。だが、敵はワシの軍の全容を知れば戦う意思は見せぬであろう。まずは一当て。尾張から倅も参陣するように言っている。そのまま、美濃兵もな。他の倅が居る伊勢の軍勢も参陣する。畿内、越前、若狭、播磨、丹後、丹波と続々と続くであろう。
その軍が揃えばここ、雑賀の前衛である貝塚を攻める。ここが戦いの狼煙ぞ。まず間違いなく敵の守備隊は海路で紀伊まで退く。誠、精巧な地図を用意したものだ。尊が用意したこの地図はワシの暗部が用意した地図より精巧だ。この一枚が値千金ぞ」
「ま、まぁ、未来のGPSで観測して作られた物ですからね。まず間違いはないかと」
「絶対に我が領内の地図は表に出すなよ?で、だ。退いた後の事だ。そこは九鬼等に任せる。彼奴の軍は大坂を押さえ、本願寺の補給を完全に止めるように言っている。
ここまで用意周到にしてもここは雑賀の地だ。地の利は雑賀にある。だからワシは根来衆と一部の雑賀衆に工作をかけている。返事が遅いようだからな。貴様の軍がどれ程のものか見てやろう。
飯を食い終わり次第準備致せ。先も言ったように一当てだ。一番は貴様だ。遠慮せずとも良い。ワシはできると思う者にしか命令は出さん。案ずるな!貴様の後ろにはワシが着いている。存分にやれ」
言われていることは、先陣はオレの軍と言われている。この言葉がどれだけ嬉しいことか。現代に居た時なら無理!無理!怖い!とか思っていただろう。だが、信長の魔法の言葉だ。『ワシニヨコセ』や『オモシロソウダヨコセ』でもない。
味方の士気を上げる言葉。
『ワシハデキルトオモウモノニシカメイレイハダサン』
この言葉の意味・・・信長はオレに期待しているという事だ。気付けば無意識に声を上げ、無意識に呼び方も変わっていた。
「はッ!!!!必ずや上様の期待に応えるよう獅子奮迅の働きを致しますッ!!!」
「ふん。誠、一端の顔になったのう。まっ、ワシの若い頃には遠く及ばんがな。やって来い!」
オレは静かに自分の陣に戻って行った。だが、心の中は闘志が漲っていた。
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