第六章 邁進

ドライブイン安土 邁進1-1

 「やぁ〜やぁ〜!善兵衛ではないか!近江に戻って来たなら言ってくれれば良いのにのう!」


 「羽柴殿か。お久しぶりにございます」


 「うむ!なんか上様に呼びつけられたそうじゃのう?ワシの城で会うと聞いたぞ?」


 「へぇ〜。堺の加工場を弟に任せて、ワシは『安土で再出発せよ』とのことでして」


 「カッカッカッカッ!そう暗い顔をするな!これは間違いなく出世だぞ?上様は城でお待ちだ!吉兵衛!お主も登城を許す!来い!」


 「へぇ〜」


 「お館様の〜お成〜り〜(カンッ カンッ)」


 「おう。善兵衛!息災なようだな。急な出立をさせてすまん」


 「上様のお目にかかり、恐悦至極にございます」


 「そういうのは良い。単刀直入に言おう。お主等はこれから安土のとある飯屋へと参ってもらう。大工衆として安土普請組の岡部一門数人をお主に付ける。

 まずはお主らの家を建てよ。そこから安土国友として名前を残せ」


 「ちょっとよろしいですか!?何故、安土なのですか!?」


 「行けば分かる。お主等にしか作れない鉄砲の持ち主が居る。其奴に聞けば分かる」


 「・・・・では、そこへ行ったとして、期限などはあるのでしょうか?」


 「できるだけ早くしろ。量産体制が整い次第、新たな作戦、新たな部隊の創設を致す」


 「できなければ?」


 「ふん。ワシはできぬ者にやれとは言わん。できると思う者だからこそ命令するのじゃ。敢えて言おう。あの種子島を量産し始めた国友善兵衛。ワシはお主に期待している」


 「はっ。畏まりました。全力で取り組ませてもらいます」


 「(ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ)これを弟と話し合って使え。一先ず、吉兵衛。お主の方も安土へ赴き、指示を仰げ。尊という男とカナという女じゃ。その者達から言われた鋳型を大急ぎで堺の加工場で作れ」


 「はっ!」


 「ありがとうございまする」


 「此度に関しては未知の領域だろう。落ち着いて確実に物にせよ。いずれ他国に真似はされるであろうが、少々の事では模倣すらできんと聞いている。細々した部品が必要なのだそうだ。その部品を堺で作る。銃本体は安土にて秘密裏に制作せよ」


 「「御意」」


 「上様!アッシが安土まで案内致しやしょう!」


 「許す!確実に国友を送り届けよ」


 「はっ!」



 「なっ?言ったであろう?」


 「確かに・・・てっきりあらぬ疑いをかけられ、詰問されるのかと思った」


 「んなわきゃない!上様は善兵衛をかなり認めておられる!それより、これから向かう所は飯屋なのじゃ!そこも楽しみにしておけば良いと思うぞ!カッカッカッカッ!」


 「・・・・・飯屋?鍛冶場ではないのですか?」


 「カッカッカッカッ!驚くなよ?尊はワシの友でもあるのだ!あまり舐めた口を言うでないぞ?おーい!半兵衛!準備はまだか?」


 「ハァーハァー。ゴホッ ゴホッ 少し待ってください!」


 「半兵衛殿か。お久しぶりにございます」


 「善兵衛殿は息災なようでなによりです」


 「加減が良くないので?」


 「いえ。咽せただけです」


 「ならば良いが」


 「(ポンッ ポンッ)半兵衛!無理はするなよ?お主が居なくなればワシはどうしようもなくなるのじゃ!ワシより先に死ぬ事は許さぬぞ?カッカッカッカッ!」


 「・・・・・・・参りましょうか」



 〜国友一派 謁見の前日の尊一行〜


 「あ、これが織田様の書状でございます。えぇ。林様に取次願います。うん?持ち物を預けるのですか?分かりました。あ!それは贈り物ですので、検めた後に返していただけませんか?はい。ありがとうございます」


 「早かったですね。はい。ありがとうございます。女連れ?あぁ〜。この女の子達は、こちらが清さん。私の妻です。丹羽様の娘にございます。こちらは妻の腰元のカナ。後は護衛の太郎君と前田さん」


 「おぅ!よろしくな!あ?そうだよ。叔父御の一族さ。文句あるか?放っておけよ。お前には関係ないだろう?いいのか?一応、大殿から言われ、若殿への謁見も控えているんだ。お前のせいで遅れれば首一つじゃ済まないぞ?あぁ。いいぞ?俺は逃げも隠れもしないぜ?

 安土の飯屋に居るからよ?いつでも来いよ?俺ぁ〜、いつでも相手してやるからよ?その代わり向かってくれば俺ぁ〜手加減なんてしないぜ?

 まっ、いつでも来いよ?な?(ドフッ)おっと・・・すまねぇ〜。これは尊の分だ。俺ぁ〜今はこの尊の家臣だからな。主君に軽口叩かれて黙っているこたぁ〜できねぇ〜んだ。ほぉ〜?刀を取り上げた上にお前は抜くのか?」


 明らかに馬鹿にされたような言い方は分かった。が、慶次さんも煽りすぎな。だが、刀を抜かれるのは話が違う。だが、何故か落ち着いていられる。この時代に順応したオレ。毎日、素振りに模擬試合、組手格闘術、小川さんのスペシャル格闘技、甲賀組手48手を毎日訓練しているからな。このくらいじゃビビりもしないぜ。


 「そこ元!何をしておるかッッ!!」


 岐阜城 本丸入り口にて問答していると、明らかに格が上のお爺さんと若い人5人が現れた。


 「す、すいません!この者等と話していたのですが、急に逆上してきて・・・」


 この取次役か門番かも分からない人が嘘八百言い出した。まぁ慶次さんの煽り耐性0なのもどうかと思うけど。


 「貴様、その言に偽りはないのか?」


 若い人のリーダーらしき人が取次役の人に詰問する。うん。この人には少しビビりそうだ。オーラが凄い。というか、どこかで見た事あるような・・・。


 「ドライブイン店主殿。城の者が相すまぬ」


 「あぁ〜!!やっぱりあなたでしたか!いつも肉うどんを食べに来る・・・」


 「そう。毎朝いつも来てくれて、寡黙な人で、肉うどんを食べる人だ」


 「身分を隠し、伺っていたのです。まさか、あなた様が上様の・・・いや、ゴホンッ。まずは城の者の非礼を詫びます。此度の件は某の顔に免じて許してもらえないでしょうか?この者は口は悪いですが、腕の立つ奴でして」


 「私は別に構いません。慶次さんは?」


 「一言、尊に謝るなら許す。俺への非礼は気にしなくて良い」


 「おい!こら!謝れ!頭を地に付けて謝れ!」


 「ック・・・すいませんでした」


 「おい。門番よ?次はないぞ?この上の者に感謝するんだな」


 「・・・・・」


 「つまらん事に時間を掛けたくない。其方が尊と申すのか。ワシが林だ。着いて来い」


 真ん中の爺さんがあの林秀貞のようだ。笑い顔一切なしの近寄り難い感じの人だ。


 オレ達は岐阜城の本丸の大広間へと案内された。畳一段上に向かい、林は頭を下げた。釣られて、オレ達も頭を下げる。が、おかしな話だ。オレは林秀貞と謹賀の儀で使う魚の取り引きをお願いしに来ただけなのに・・・。


 すると、1人の若い武士が入ってきた。the普通の人って感じが正直な感想だ。


 「若殿様。この者が例の」


 「うむ。外でなんぞ諍いがあったようじゃが?まさか父上の客人に粗相なぞしておらんよのう?」


 「少し不手際がありました。後程、斬首に処しましょう」


 いやいや、怖い怖い!なんであれだけで首斬られるんだよ!?この若い子・・・織田信忠だ。オレと同じ歳くらいか・・・。

 ってか、林も林だ!寡黙で怖そうだけど、斬首とか普通に言うなよ!?


 それからオレが慌てて止めに入る。自己紹介を済ませたあと落ち着かせる為に、クーラーボックスに入れた抹茶ミルクを出し、ポータブル電源で温めたりと・・・。まぁ聞く聞く。色々聞かれる。ポータブル電源から始まり、抹茶ミルクの事を聞かれたり、紙コップを聞かれたり。

 林は林で無表情で・・・


 「これはなにか?」


 「へぇ?あっ!それはアレです!そう!アレですよ!」


 誰が忍ばせた物か・・・。コンドームだった。いや、絶対に清さんだと思う。清さんは非常にエロに目覚めたのだ。アクロバティックな体位や、最近では焦らしプレイなどをしてくる。生理の時以外はほぼ毎日だ。やはり娯楽の少ないこの時代の性に関してはかなりオープンだ。巷では女性から誘ってきたりなども普通らしい。


 「それは男女が交わる時に男性側のアレに装着すれば子供ができにくくしたり、病気に罹りにくくする物ですよ」


 「ふむ。そんな物が南蛮にはあるのか。一つ売ってもらっても?」


 いやいやこの爺さんは未だ現役かよ!?あんなにムスッとしていた顔が少し和らいでいるんだが!?


 「どうぞ。そこの前田さんに聞いてください。使い方を熟知しておりますよ」


 「ゴホンッ。まずは・・・色々と騒いでしまいすまぬ。ワシは父上のように南蛮を知らぬ。今日も『織田家の当主として其方を助けろ』と言われていただけなのじゃ」


 「うん?当主ですか?あれ?」


 「あぁ〜。其方は最近父上に仕えだしたのだ。実は去年に家督を譲られたのだ。まぁ実質は未だ若輩故に、林殿に色々と教わっておるのだ」


 初耳だ。信長はこの時期には家督譲ってたんだ。


 「そうだったのですね。すいません。分かりませんでした」


 「いや、そんな事は良い。ところで、那古屋に用があるとな?」


 「はい。林様にお助けいただければと思います。あ、よければお近づきにこちらをどうぞ。食べ物や飲み物、ちょっとした書き物などを用意致しました」


 「うん?なんぞこれは?」


 「それは万年筆と呼ばれる筆みたいな物です。この中の芯に墨のような物を入れて、補填すればこのようにスラスラ文字が書けます」


 「・・・素晴らしい」


 お?初めて笑顔になったな!


 「若様もどうぞ」


 なんて呼べばいいか分からなかったかったからとりあえず若様と呼ぶ事にした。同じ歳くらいかな?


 「贈り物を強請ったようで申し訳ない。直ぐにお返しができぬ故に、後日返礼させてほしい」


 「いえいえ。別に返礼なんていりません。その代わりよければ、安土にて飯屋を営んでおります。偶にお暇な時にでもお越しください。最近はVIPルーム・・・失礼しました。目隠しをした部屋を作り、お忍びで来られても誰にも邪魔されないような席を作る予定にしております。奥様とご一緒に来店してください」


 「そうか。ではいつかお邪魔させてもらおう。最初に伺うのは正室と向かいたいと思う。いつになるかは分からないがな」


 正室・・・確か松姫だったかな?この人が松姫と暮らせる事はなかったと記憶がある。それに意外にもこの人は一途で、正室はずっと空けてたんだっけ?

 信長とは違う普通の武士のようで優しいオーラの人。できることなら合わせてあげたいよな。だが、そんな約束はできない。余裕ができたら、小川さんとか慶次さん、カナに聞いてなんとかしてみようか。


 「はい。いつでも構いません」


 「さて・・・では、那古屋に向かうか。誰ぞある!」


 「はっ!」


 「爺とワシの馬を用意致せ!那古屋へ向かう!」


 「え!?若様も行かれるのですか!?」


 「うん?なんぞ不満か?ワシは若輩と言ったであろう?父のようにはなれぬ。ならどうするか。自ら優秀な配下を観察し、真似るのだ。織田家があるのは皆のお陰じゃ。人は城、人は石垣、人は堀、の後には、情けは味方、仇は敵・・・正室、武田家 松姫からの手紙に書いてあった」


 信玄の有名な言葉か。人と人の信頼は城よりも強固なものであり大切にし、人は情けをかけると味方になるが、一方的な押しつけは反発を生むという意味だったよな。これは深い言葉だからオレでも覚えている。

 初めて会ったけど、オレこの人の事も案外好きかもしれない。あ、いや、ラブじゃなくて、ライクの方だ。オレは男色は嫌いだ!


 

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