ドライブイン安土 邁進1-2

 那古屋へ向かう前に現在のオレの乗り物を言おう。本当は軽トラを出そうかと思ったのだが、上手く信長にも誤魔化しているし、もし林を乗せる事となれば絶対に・・・


 「あん?ワシより爺を乗せただと!?ほぅ?貴様がそういう考えならワシにも考えがある。ワシニヨコセ」


 うん。『ワシニヨコセ』絶対に抵抗(レジスト)できない信長専用魔法を唱えられてしまうからな。だから軽トラは今は店の駐車場にブルーシートで覆っている。で、乗り物はなにか・・・。とうとうオレも馬に乗れるようになったのだ。例の暴れ馬だが、あの暴れ様が嘘のようになくなっている。


 「ヒヒィーンッ!(尊っち♪おっかえりぃ〜♪)」


 「(う、うん。これからまた向かうから帰るわけではないんだけどね)」


 「(はーい。どこへでも駆けますよ〜♪)」


 なんとこの馬・・・念話?が使えるようになったそうな。天界に住む、馬の始祖とカナが親友らしく、その力の一部をこの馬に融合させたとか食べさせたとか。そして、従順となったと。で、色々とここ数日訓練していたそうな。最初は頭に勝手に言葉が響いてきて、とうとうオレはおかしくなったのかと思った。

 しかもオスかと思いきやメスに変わってるし。頭に直接話しかけられてくる言葉は何故か分からないけど、ギャルのような口調だし。


 「なんと!?これまた立派な体躯の馬だな!?名前はなんというのかね!?」


 林は馬も好きなようだ。目が嬉々としている。


 「はぁ〜。実はまだ名前を決めていないのです」


 「う〜む。それはいかん!早目に決める事を進める」


 「(あーし、カッコいい名前がいいな♪)」


 「(それはまた今夜にな。希望はあるのか?)」


 「(希望?う〜ん。尊っち♪が良いと思う名前でいいよ!パトリオットとか〜、トマホークとかカッコいいよねぇ〜)」


 うん。オレが思う名前とかいう割に希望出してきてるし。しかもその名前がマジでカッコいい系の名前なんだが!?ミサイルかよ!?


 「(パカラ パカラ)待たせた!むむ・・・尊殿の栗毛の馬は・・・中々に素晴らしいな!」


 ぜっんぜん、信忠の白馬の方がカッコいいと思う。それよりかは、林の黒馬の方がもっとカッコいいと思う。だって、栗毛って普通じゃん・・・。いや、なんか特殊能力があるとは言ってるから、この馬の方が凄いんだとは思うけど・・・。それに頭の中で会話はできるようになったわけだし・・・。


 「(キャハッ♪今日の夜ご飯はリンゴが食べたいでござる!!いっくよぉ〜!)ヒヒィーンッ!」


 これだもんな。中に人間が入ってるかと思ってしまうぜ。

 もう一つ・・・源三郎さんと、カナが考案した鐙や鞍、手綱、それと蹄鉄は既に装備されている。蹄鉄の良し悪しは未だオレは分からないが、今回のプチ遠征にてそれは分かるだろう。なんせ、林と信忠の2頭は蹄鉄を装備していないんだからな。


 那古屋へは小一時間程で到着した。案外、往来の人も多く、特に飛脚らしき人が多かった。現代で時代劇などで見かけるような棒にタライを垂らして、肩で支えながら走ってる人が多かった。中身は小魚のように見える。


 「ところで、其方等は何を求めておるのかね?」


 「はい。鯛は、やはり必要です。他にも謹賀の儀に獲れた魚により出す物を考えようかと思っております。姿盛りなんか良さそうですよね」


 「鯛か。人数分用意できるのかは分からないな」


 こんな事もあろうかと良いアイテムを用意している。今やタブレットのレベルは700を超えている。色々と付加価値があるらしいが、全てカナに口頭で購入している。が、この今回持って来ているもの。所謂、刺し網と呼ばれる漁師が使う網だが、300貫もしやがった。タブレット内、円表記で300万円だ。

 だが、これは必要経費。できることなら、漁師の人ともお近付きになり、店にも魚を卸してもらいたいからな。

 

 「尊殿は本当に色々と南蛮の物を持っているのだな」


 「いえいえ。そんな事ありませんよ。若様も気になる物があるなら今度、贈り物としてお渡ししますよ?」


 「いや、そんな申し訳ない事は頼むつもりはない。尊殿は日の本の民のように見えるのに、遠い人のようにも見える」


 まぁ実際はタイムスリップしたからな。約450年程未来から。遠いっちゃ遠いよな。


 「これはこれは・・・。おい!皆の衆!頭を下げろ!」


 道行く人がオレ達が通る時は頭を軽く下げてはいたが、港らしき場所に到着すると、本当の意味で皆が頭を下げた。土下座だ。


 「苦しゅうない!皆の者は頭を上げよ。漁師の代表の者はどこか!」


 信忠が決め台詞を言うと1人の男が頭を上げず、器用に御辞儀しながら走ってきた。


 「其方が代表か。頭を上げよ。名は何と申す?」


 「那古屋 蔵之介の息子 一之介と申しまする」


 「久しいな。蔵之介の倅か」


 「あっ!林様ではありませんか!お久しぶりでございます!」


 どうやら、林は知ってるらしい。いやまぁ、ここら辺がこの林が治めている領地らしいから、そこそこの人なら知ってるのは当たり前か。


 「うむ。父親はどうした?」


 「流行病にて、去年亡くなりました」


 「そうか。ワシが岐阜に居た折か。昔はよく清洲に魚を運んで貰っていたのだがな。其方の父が運ぶ魚は新鮮で美味かったぞ」


 「ありがたき御言葉でございます。墓前に父にも伝えておきます」


 「うむ。で、本日の用向きだが、この尊。この者は謹賀の儀の料理頭のような者だ。この者と和協せよ。今から言われる事を忠実にこなせ」


 「は、はい!」


 「林様に仰々しく紹介されましたが、オレはそんな大した男ではありませんので、一之介さんでしたかね?オレは尊と申します。まずは、これを見てください」


 オレはタブレットでユーチュ◯ブを見せる。刺し網漁の動画だ。タイムスリップ前でもよく見ていた、四国のとある島のお酒大好きな両親ユーチュ◯バーの人の動画だ。


 「こ、この箱は!?な、な、中に人がぁぁぁぁぁ〜〜!!!!」


 まぁこんな反応になるよな。


 「た、尊殿!?それはなんですか!?」


 いや、信忠もかよ!?さっき城でタブレットは見せただろ!?


 大雑把に、信忠、林、一之介に説明し、小さな安宅船に乗り込む。乗り込むのは、オレ、カナ、一之介だ。一之介は全員乗れると言っていたが、危ないから陸で待っていてもらう。現在のような防波堤なんてものはない。断崖絶壁って事もないが、砂浜をスロープのようにし、船に紐を括り付け引き揚げたり、降ろしたりするみたいだ。

 その紐を引き揚げる役の人も居るみたいで、慶次さんのような筋肉隆々の身体付きだ。


 オレも漁なんてした事ないから、動画を見て、見様見真似だ。季節は冬。12月だから沖の方は白波が立っているから、近場だが・・・


 「一之介さん!棒ウキを投げ込み、鉛がある方から落とし込んでください!」


 「わ、分かった!」


 本当に何度も言うが見様見真似だ。適当に落とし込んだ所で魚はそう簡単に獲れないとは知っている。まぁ練習だ。

 落とし込みは15分程で終わった。カナが、操船したくれたおかげだ。この漁に関してはカナは何も言ってこない。だが、微笑んでいるように見える。


 落とし込んで30分程待った後に回収する。


 「まぁ今日は練習という事でこのくらいの時間しか仕掛けませんでしたが、2時間・・・1刻程待ってから回収すればそれなりに・・・」


 「お、おぉ〜!!尊様!それにカナ様!見てくだせぇ〜!!」


 オレが説明しながら回収していると、一之介から喜んだ声が聞こえた。たかだか30分しか投げ入れてなかったが、かなりの魚が獲れている。


 「マスター!良かったですね!大漁ですよ!」


 「カナ?何かしたのか?」


 「いいえ?ふふ。実は私はなんとなく結果が分かっていたのです。この時代は漁場が豊富ですし、大きな魚も沖までいかなくとも獲れますよ?流石に、マグロやなんかは難しいでしょうが、鯛や鰤なら近海ですぐに獲れるでしょう」


 「かぁ〜!知ってるなら言ってくれよ!」


 「(クスッ)言わない方が楽しみでしょう?マスター!今日は鯛の塩釜焼きが食べたいです!カルパッチョに、鯛飯に、天ぷらに・・・」


 「おいおい!どんだけ食べるんだよ!?」


 「尊様!すまねぇ〜。シビも掛かってしまったようだ!網がグチャグチャになっている・・・」


 「あぁ、網が絡んだ場合はこの鉤爪で網を広げると・・・えぇ〜!!?マグロ!?マグロじゃん!?カナ!?普通にマグロまで獲れてるぞ!?」


 「あら?ラッキーですね!」


 ック・・・。ドヤ顔か。まぁ何にしろ本当にラッキーだ!


 「一之介さん!少し変わって!これはシビなんかじゃないです!相当に高級魚ですよ!美味いんです!」


 「はぁ〜!?尊様?そいつは時間が経てば酸っぱく感じるし、血生臭いし、痛むのも早いから美味くないですよ?」


 「チッチッチッ。一之介さん!陸に上がれば教えましょう!これはマグロという魚です!小振りですが、本当に最高級の魚ですよ!」


 その後は早かった。鯛やマグロの他に、イサキ、グレ、メバル、ボラなどなど色々な魚が獲れた。小さいのはさすがに逃してあげたが、大物は持って帰る事にした。


 「なんと!?あの短時間でこんなにも獲れるのか!?」


 「若様。今日は運が良かったようです!少し失礼します。で、一之介さん?ここに魚の脳天があります。ここにこのフィッシュピックを刺します(バタバタ・・・パタ)」


 「おぉ〜!色が変わりました!」


 「続けますね。で、尻尾に切れ目を入れて、この脳天を刺した穴からこの針金のような物、神経ワイヤーを入れて、シゴキます。後は海水でジャバジャバして血抜きをすれば完璧です!これを年明け1日前に行ってほしいのです。これは前金です。(ドサッ)この調子ならば、三流しもすれば余るくらい獲れるでしょう。頼めますか?」


 オレはかつて、信長から貰ったように、お金を入れた木箱を目の前に置く。意外に、これをされたら、やらないといけない雰囲気になるんだよな。オレ自身で立証済みだ。


 「こ、こ、こんなにも頂けるのですか!?」


 「若様。それに林様。これは私の仕事です。構いませんよね?」


 「あ、あぁ。父上からも手助けするようにとしか言われていないから構わない」


 「某も否応なぞあらん」


 「分かりました。後は一之介さんの返事次第です。あなたが獲った魚をオレと、オレの妻の清さん。そして、カナと捌き、料理し、皆々様の口に入るのです。上手くいけば、個別注文もくるのではないですか?」


 オレは話ながら、マグロを5枚下ろしで捌く。やはり小振りだから油は少ないが、紛う事なきマグロだ。 本当はキッチンペーパーからの食用ラップフィルムで包み、店にあるマイナス50度になる業務用冷凍庫で寝かせた方が旨みは増すが、今日はこのマグロをシビと言わせないようにだ。

 確かに適切な処理をしなければマグロは酸っぱくなり美味しくない。今も少し酸っぱくは感じる。が、醤油とわさびを漬けると・・・


 「若様もお食べください。まずは私が味見を・・・」


 「お、おいおい・・・それはシビだろう?」


 「うんほっ!美味いッ!!間違いない!少し酸味は感じるけど、美味い!」


 「(ハムッ)ほんとぉ〜!前に食べたマグロほどではありませんし、中トロも脂こそ少ないですが、美味しいですね!」


 「奥方まで・・・爺?食べてみぬか?」


 「う、うむ・・・では、この爺がまずは・・・(ハムッ)」


 「どうじゃ?」


 「な、なんじゃこれは!?いや、シビはシビではあるし、確かに少し酸っぱく感じるが、この黒い汁と緑のコレを溶かして食べると癖になりまする!あ、失礼。もう一切れ・・・美味い!」


 意外にも林も林でグルメだな。


 「一之介さんも食べませんか?」


 「そこまで言うなら・・・なっ!?なんと!?美味い!いや、魚は確かに普通だが、この黒い汁と合う!合いますよ!!」


 「これは醤油というものです。料理全般に使う調味料ですよ」


 「尊殿?これは米とも合いますよね?」


 「さすが、若様。焼き物、煮物と何でも合いますね」


 みんな醤油の虜となっているな。みんな塩分過多で早死にしそうだ。


 その後は、一之介さんの弟子の人達も呼び、オレと清さんとで詳しい取り決めをする。今回の正月だけではなく、今後も定期的に取り引きをしたいからだ。まず、網の替え。これは同じ物を今後も渡すという事にした。ここで、タブレットで購入してもいいが、何故か購入した物は店の厨房に現れるんだ。ダンボールに入って。これもカナに以前聞いた事がある。


 「なんで毎回厨房に出てくるんだ?その購入した場所に運ばれてもいいんじゃないの?」


 「仕様です」


 「はい?」


 「仕様です。これは誰も変えられない仕様です」


 と、言われた。なんの仕様かは分からないが、カナにも変えられないらしい。

 後は、船の件だ。明日には国友って鍛治集団と会う事になっている。その次の日、要は明後日に進水式だ。その後に、こんな安宅船ではなく、もう少し漁がしやすいような船などの建造も始めよう。

 飯屋なはずなのに、気付けば色々な事を始めるようになってしまったな。ってか、野田さんとか小泉さんはまだ帰らないのか?いくら甲州金が欲しいと言ったけど、帰るの遅すぎじゃねぇ!?


 この後、信忠に『是非岐阜城にて疲れを癒してほしい。其方には色々聞きたい事ができた。1日ではとても終わらないくらいに疑問が湧いてきた』と言われたが、今は本当に忙しいからと丁寧にお断りし、安土へ帰る事にした。まぁ、落ち着けばこの人とは本当に話してみたいとは思う。

 そして、林秀貞。この人はムスッとした顔は仕方ないが、案外話してみると面白い人という事が分かった。オレと清さんが一之介さんに教えていた事も、この人は贈り物で渡した万年筆とメモ用紙に色々と書いて、醤油の説明の事も、口頭でしか言えなかったが、塩釜焼きの作り方、ツナの作り方、漬け丼などなど、オレが言った事を絵に書いたりしながらメモしている。

 本当に几帳面な人なんだろう。


 「ただいま〜」


 「お帰りなさいませ!」


 「うん。次郎君?今日はどうだった?」


 「はっ!絶好調でした!」


 「マスター!塩釜焼きをお願いします!ツナマヨお握りも!」


 「分かった!分かったから!カナはどんだけ食べたいんだよ!あぁ、次郎君?順番にみんなに風呂入ってもらって!今日は夜ご飯はオレが作るから」


 「御意!」


 オレが作ると言ったら五郎君や桜ちゃんまで目を輝かせている。本当に忙しい。

 

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