ドライブイン安土 邁進1-3

 〜坂井天王寺屋 とある商店〜


 「山上はんがワテ等を呼び出すとはどのような了見だ?ちと、勘違いしているようじゃないのかね?」


 「今井殿。ここらワシの顔を立てて弟子の勝手を許してほしい」


 クックックッ。そうやっていつもいつも上から物を言いやがって。今に見てろ。そのツラ2度とできなくしてやる。


 「あんさんには敵わんなぁ〜。千はん?あまり弟子の事ばかり見ていては商機を逃しまっせ?で、何用だ?」


 カラン


 「うん?それは何だね?見た事ないものだ」


 「とある筋から買い受けた物。まずは一服をば・・・」


 シャカシャカシャカ


 「(なんだ!?なんだ!?アレはなんなのだ!?ワテですら見た事がない!山上が裏でコソコソと坊主相手に何かしているのは知っていたが、隠れて南蛮や明の誰かと取り引きしているのは知らん!おもんないわ〜)」


 「まずはお師匠様・・・どうぞ。こちらは茶請けのかすていらになります」


 「ふむ。山上?この点て方は初めてだ。ワシの教えたやり方とは違う。だが・・・まずはいただこう。まさか南蛮菓子を使うとはな」


 確かに茶に関してはお師匠の足下にも及びません。が、いつまでも下で黙っている俺ではない。俺は俺で究極の茶の道を突き進む。それに・・・


 「今井さん?顔色が悪いように見えますが?どこぞ加減が悪いので?(ニヤッ)」


 おっと・・・いかん。いかん。俺の悪い癖だ。顔に出てしまっていたな。


 「あんさん?この茶請けはどこで手に入れた?」


 「これもとある筋から。今はそれだけで勘弁をば」


 「・・・・このような茶は初めてだ。思えばお主に茶の道を教えて長くなった。が、ここで相分かった事がある。ワシの求める茶の道とは正反対だ。これはわざとであろう?

 よく見れば侘び茶とは程遠く、南蛮絵の部屋。南蛮の茶請け。湯呑みも金華紋が描かれている。これはワシの求める茶の道を愚弄しているとすら思える。

 が、茶の味は過去最高である。これはこれで一興。お主がそれで良いと言うならばその道を研鑽し続けよ。ワシから教える事はもう何もない」


 クックックッ。あの師匠も驚いてやがる。頭を下げるなぞ、こちらからも願い下げだ。俺は尊という男に賭けるぞ。見た事ない物をポンッと出せる器量。あの慶次を従えさせる胆力。

 聞けば相当に甘い男に見える。俺が内から食い破ってやろう。これ程の物を他人に渡せる財力があるという事は何かしら南蛮や明の者と伝手があると思える。


 「結構なお手前。いや、失礼。で、あんさんは自慢するつもりで、ワテ等を呼んだのか?」


 「いえいえ。この抹茶缶をお渡ししたく。最近、巷で流行っている茶は俺には合わないという事が分かりましてね。お師匠の求める侘び茶。それはそれは甚く感銘を受けました。が、飾り気のない、盆栽一つに囲炉裏一つ。俺はどうも好みではございませぬ」


 「耄碌したか。いったい今までに何を学んだのか。嘆かわしい。ワシが使う盆栽は樹齢400年は超える物だ。これも飾り気のないと言われるのは心外だ」


 「(ぷっ。山上はんは目利きがなっていない。さっきまでの威勢はどこへやら。ここは1発いてこましてやらなあかんな)」


 「ワテは千はんの点てる茶は好きでっせ?究極の侘び茶。静謐の中にある、ただただ、茶に対してだけ求める一杯」


 「侘び茶を求めるに最も大きな妨げになるものは、慢心である。それを全て忘れたお主はここまでである。

 が、先も言ったようにこれもこれで、お主の茶である。今まで通り運輸、貸し倉庫など仕事に関しては振ってやる。

 飽くまで、茶の事に関してはお主と縁を切る。いくら凄まじい茶粉を持っていようが、いくら、いつかの宣教師が持ってきたかすていらより美味い物を出そうが相容れない」


 「・・・・・・」


 「まぁまぁ。千はん?山上はんは、どうやら南蛮の物を扱う人物を知っているようですな?次は銭は繋げる話をしましょうや?で、山上はん?これはどこから?まさか、茶を自慢するだけではないでっしゃろ?」


 「もちろんにございます」


 今井が動けば津田も動く。巨大な金を動かし、俺が堺の二代巨頭を手足の如く使ってやるのだ!まずはあの澄み酒。惜しい事をした。まさか、寺の坊主があのビードロに入った酒に一つ200貫も払うとはな。その代わり、あの塩漬け肉・・・建前では禁じているはずだが、本殿奥に獣の臭いもしたが、まさか買い叩かれるとはな。

 じゃあきいと言ったか?あれ程塩が効いて、美味い肉なぞ他にないというのに。まぁこれは仕方がない。俺が味わって食べる。それに女も相当数居た。あの乱れ具合・・・淫乱坊主もいいところだ。大概無茶させてるのだろう。あの女も俺の手に入れば・・・。

 織田が本願寺を滅ぼす前にあの女等を俺が助ける。そのまま俺が引き手となれば・・・春町だってオレが差配できる。クックックッ。面白くなってきたな。

 



 〜ドライブイン安土〜


 「ウンッフ・・・尊さま〜!お股を狙うなんて卑怯れすぅ〜」


 あぁ〜あ。清さんはなんちゅう寝言を言っているんだよ・・・。


 昨日は、本当に何度も何度も信忠、林と押し問答をし、店へと帰った。やれ早朝に安土だとか、やれ国友と会うのを1日ずらせなどなど。信忠が書状を書いて、1日ずらせるとか我が儘言っていたが、丁寧にお断りした。途中、城の勤めと言っていた、この時代での美人な人を3人連れて来て・・・


 「今宵、ワシの話し相手となってくれるならこの3人のどれかを・・・いや、奥方に内緒で全員を寝屋に連れてってもらっても構わん」


 と、男なら誰しも悩む事を言われたが、本当に断腸の思いで断った。少しだけ味見してみたかった・・・ゴホンッ。本当に正月まで時間がないからだ。オレは清さん一筋だ。


 去り際に・・・


 「必ず・・・必ず私は若様とお話し致します!必ず岐阜城に舞い戻ります!その時は・・・(パチン)」


 「う、うむ・・・女だな!?尊殿も好きものだな?相分かった。奥方には内緒にしておこう。男同士の約束だ」


 オレがなれないウィンクをしたら分かってくれたようだ。清さん一筋じゃないのかって?それはアレだ。お喋りしてお酌くらい・・・って感じだ!


 そして今・・・


 「はよ!清さん!起きるよ!」


 「う〜ん・・・尊さまにチュウしてもらわないと起きられませ〜ん」


 毎朝、清さんは甘えてくる。本当に朝だけではあるが、この甘えてくる仕草がマジでオレは好きだ。昨夜も事を致したわけだが、清さんも本当に好きな女だ。基本的に男女が満たされる娯楽がないからな。

 嫌かって?全然嫌じゃないです。寧ろ土下座案件です。


 朝のいつものプチミーティングを行い、国友の到着を待つ。太郎君、五郎くん、桜ちゃん、梅ちゃん、吉ちゃんが出店隊だ。滝ちゃんは、ドライブスルーの店員。これは朝だけで終わるからその後はオレ達の雑用係となっている。


 だが・・・1人呼んでもいないのに来た人が居る。


 「がはっはっはっ!!我が君!おはようございますですじゃ!小川三左衛門!この小川三左衛門が朝の挨拶に参りましたぞ!!」


 「あ、うん。おはようございます」


 「何でそんなガッカリ顔をされるのですか!?」


 「クァ〜。小川の爺は朝から元気がいいな」


 「慶次坊は黙っておれ!これはワシと我が君との南蛮言葉でいう、すきんしっぷとやらだ!」


 「(プカー)はいはい。この後、鍛治集団が来るんだからよ?静かにしておけよ?」


 このように、何故かオレ達の中に加わったのだ。まぁ別にいいけど。


 「(尊っち〜♪おはよぉ〜)ヒヒィーンッ!」


 「(ノア。おはよう。普通に頭に話しかけてくるんだな?)」


 例の栗毛の馬だが昨夜帰って、ご飯を皆と食べた後に名前を決めたのだ。


 「そういえば名前を決めないといけないんだ。あの馬ね」


 「「(ヒヒィーンッ)」」


 「(ゴグッ ゴグッ)プッハー!尊の好きに名付ければいいと思うぞ?そうだな・・・。どうせなら尊らしく、南蛮風な名前なんてどうだ?」


 「南蛮風?」


 「そうだ。カナ嬢の馬も、気性こそ大人し目だが、立派な体躯をしている。それに、尊や奥方の刀なんかも兄弟刀みたいなものだろう?なら馬も似た名前に皆がすればいいんじゃないか?絆も深められると思うぞ?(ゴグッ ゴグッ)」


 「なら、慶次さんの松風も名前変えます?」


 「松風か?あぁ。彼奴はあのままさ。彼奴とは古い付き合いでな。昔、放浪中に上野国で暴れていた馬なのさ。(ゴグッ ゴグッ)少し語ろうか・・・」


 慶次さんは話し出した。この人がこんな風に話すのは初めてだ。


 昔、上野国のとある場所にて暴れ馬として有名だった松風。何人もの武将が捕まえようとしたが、捕まえられず、ついに捕縛を諦め殺す事となった訳だが、その討伐を引き受けたのが、放浪中の慶次さんだったらしい。

 慶次さんは松風を見るや否や、立派な体躯、立派な黒毛に惚れ込み、討伐を辞めて、10日間も馬と寝食を共にし、ついぞや跨る事を許されたそうな。


 「(ゴグッ ゴグッ)松風はな・・・群れの中で仲間外れだったのさ」


 「仲間外れ?」


 「あぁ。彼奴だけ体躯が違うだろう?従来の馬と違ってな」


 「マスター?それに前田様。恐らく松風は南蛮の馬の子孫かと思います」


 「南蛮?」


 「はい。今から言う事はマスターしか分からないかとは思いますが、恐らく我々が居た時代のフランス原産のペルシュロン種の血が入っているかと。ここからは私の仮説ですが、スペイン船やポルトガル船などでやってきた宣教師の馬が逃げ出したか、病気やなんかで捨てられ、日本の在来の馬と交配したのが、松風では?と推測します」


 「そんな事があり得るの!?」


 「尊?それにカナ嬢?俺ぁ〜、そんな事ぁ〜どうでもいいんだ。松風に俺が惚れ込んだ。身体付きが違う?性格が違う?暴れ馬?人殺し馬?俺ぁ〜、そんな事気にしない。他の馬と違うのは当たり前さ。尊と俺だって違うだろう?なら馬だって違うさ。中々命令を聞かない。松風は未だに自由奔放だ。だが・・・それが良い。気の赴くままに俺は松風を走らせるのさ」


 「カッコいい・・・・」


 「ふん。カッコよくなんてないさ。要はどれだけ馬と心通わせられるかだ。松風はな・・・(ゴグッ ゴグッ)俺が思う所に走ってくれるんだ。名前も本人が気に入っている。だから松風はこれからも松風だ」


 と、珍しく少し酔っていた慶次さんが語った松風との馴れ初め。本当に絆があるんだと思う。他の馬より5倍くらいプレミアムチモシーをムシャムシャ食べているけど。馬の餌代だけで、タブレット円換算で50万も一月に使っているんだけどね。


 それで、オレとカナ、清さんの馬の名前を考えた。清さんは、〜号と付けたがる節がある。が、オレは決めていた名前がある。何故か、その名前が浮かんだのだ。


 「清さん?ごめん。実は決めている名前があるんだ。もうこれしか考えられないんだ」


 「あ、そうなのですか!?ならばそれでいいです!尊さまにお任せ致します!」


 「私もマスターにお任せ致します」


 「うん。オレの我が儘でごめん。オレの馬はノア。カナの馬はセム。そして清さんの馬は・・・」


 「エムザラですか?」


 「あれ!?なんで、カナは分かったの?あっ、そうだよね。そうだそうだ」


 「その思っている通りです。いいと思いますよ?私は他の国のアレですので関わり合いはないですし」


 そう。何故か頭に浮かんできたこの3つの名前。神話に出てくるノア。何故かこれが頭に浮かび、それに関係する2人の名前が出てきた。カナも元は神様だもんな。そりゃ分かるよな。


 「エムザラ号ですか?本当に南蛮の名前ですね!」


 「あ、いや、号はいらないんだけど・・・」


 「今日からあなたはエムザラ号よ!」


 「ヒヒィーンッ!」


 「わっはっはっ!本当に南蛮みたいな名前になったのだな!ノア嬢に、セム号に、エムザラ号か!良い名だ!」


 《ヒッペー一族との血の繋がりを確認致しました。これより血族の進化を開始します》


 この時に、カナがまだ身体が無かった時のような声が聞こえ、セムとエムザラが発光し・・・

 

 「うむ!尊!久しぶりじゃ!国友を連れて来たぞ!それにしてもなんじゃ!?この馬達は!?こんな馬なんて居たか!?」


 「は、羽柴様!?」


 そう。秀吉も驚く、サラブレッドでもなく、慶次さんの松風の種のペルシュロン?の中間のような大きさになったのだ。カナ曰く、


 「神馬と近い存在になりましたので、大きさは言えば変化させられるようになってきます。他にも、セムもエムザラもかなり頭が賢くなりましたので、人間の言葉こそ話せませんが、理解はできますよ」


 と、言われた。まぁ何はともあれいい感じになったみたいだ。せっかく、朝一に五郎君がブラッシングしてくれてたのに、全頭が寝転がり、身体に砂を付けているけど。

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