ドライブイン安土 邁進5
謹賀の儀が終わり、じゃあバイバイとはならないみたいだ。いや、オレは帰っても良いみたいだが、国持ち大名の人達はお茶会やら、公家の人達との和歌や、連歌会?的な事もするようで、暫くは岐阜城に留まるみたいだ。
オレはその日の内に店に帰る。あ、金右衛門さん達料理人の人には色々と調味料を渡す約束をしている。特に金右衛門さんは簡単に作れる果実酒セットも所望していたし、醤油も作りたいと言っていた。
で、帰ったオレはゆっくりできるか?と聞かれれば答えはノーだ。信長から手紙を貰い、オレだけ特別な仕事を振られた。
『直ぐに、野戦砲を量産せよ。鍛治の一団をもっともっと雇え。船もカナに言って直ぐに造船せよ。そのワシの一番艦には新式の野戦砲ならぬ、海戦砲を装備させよ。畿内から堺の制海権は織田家のものとせよ。九鬼とも連携せよ』
もうね・・・。完全なブラックだよ。一応オレは飯屋の店主なんだけど・・・。
「(クスッ)尊さま!佐久間様と問答してる時はヒヤヒヤしましたが、カッコ良かったですよ!私もあの方は苦手ですから」
「まぁオレもあの人は嫌いかな。お近付きにもならなくていいかな」
「私は羽柴様のイヤラシイ目つきが苦手です」
「確か、カナはお尻を褒められてたよね」
「はい。マスターならばまだ良いですが、あの人は依代だとしても勘弁願います」
いや、オレならいいのかよ!?いやいや・・・オレは清さんだけだ。だが、最近、清さんと交わっている時にふと廊下や隣の部屋にカナが居るような気がする。覗きか!?まさか混ざりたいのか!?なんて思ったり・・・しないな。
だが、カナにはお世話になってばかりだ。今度喜びそうな物をサプライズで渡してあげよう。ここから大忙しだしな。
もう遠慮はしない。未来の利器を購入し、使いまくる!
「とりあえず・・・太郎君!織田様から貰った銭を!」
「はっ!(ドサッ ドサッ ドサッ)」
「あっ!尊様!それにカナ様に奥方様!お帰りなさいませ!」
「おぉ。滝ちゃんに吉ちゃん!珍しくジャージ姿じゃん?正月だから部屋でマッタリしてたの?」
「はい!こんな微睡んだ日を過ごしたのは初めてでした!ポテチとコーラを片手に筋肉隆々の南蛮男が連射銃で敵を倒す映画は最高です!」
「◯ンボー怒りのアフガンかな?あの俳優さんも確かに筋肉凄いよね」
この2人の正月の過ごし方は男のようだ。まぁ好きにしたらいいけどさ。
そして、信長から更に渡された大量の木箱。そう。中身はお金だ。『たぬきが、さぶすくりぷしょんに入るからその銭を先に』だそうだ。しかもあの家康がサブスクを決めた後はメンツを保つ武将ならではの・・・
「カッカッカッカッ。ではアッシは20門お願いしましょうかのう。よろしいですか!?上様!?」
「ふん。その銭があるならば許す!」
「なっ!?チッ。ならばワシがサルに遅れを取るわけにはいくまい。ワシは30門だ!」
「五郎左!お前はそんなに備えなくとも良いであろうが!」
「いやしかし・・・」
「貴様は10門にしておけ」
「わ、分かりました」
と、このように一気に注文が増えたのだ。そのお金が今・・・・
「うわ・・・こんな大金がクレジットに入るなんてね」
「まぁ!?徳川様からの注文の30貫×10、丹羽様からの30貫×10、羽柴様からの30貫×20・・・」
そう。円表記で1200万円だ。カナが嬉々とした顔で見ている。織田家が野戦砲をオレから買い取り貸し出すと言っていたが、その最初のお金は丸々オレにくれるらしい。どういう形態になるかは分からないが貰えるお金は貰う。で、このお金を何に使うかというと・・・
「マスター!お願いします!この汎用工作機械を買ってください!この通りです!」
カナはよほど、汎用工作機械が欲しいのか、小川さんに使う色仕掛けのように着物の裾を捲り、内腿をオレに見せてきた。そんな事しなくてもカナの為なら購入するつもりなのにな。
「分かったよ。400万円ね。他にも欲しい物あるなら言ってくれ。このお金はカナだけに使うつもりだから」
「ありがとうございます!では・・・」
「はい。うん。あ、はい。これ!?こんなの何に使う!?あ、うん。分かったよ」
買った。買った。いや、買わされたというべきか。まずは、汎用工作機械から始まり、ウォータージェット切断機、大型3Dプリンター、プレス機、溶接機、ローリングマシンだ。
「マスター!本当にありがとうございます!これで何でも作る事ができます!」
現代の工場の中は見た事がないが、今までで、購入した機械と今回購入した機械を合わせると、現代の工場となんら遜色ないんじゃないだろうか。特にローリングマシン。これでネジが作れるし、鉄砲も精密に作れ、暴発や不発の心配もなくなるんじゃないだろうか。
逆に言えば、作り方が複雑になり、次世代の鉄砲の量産は遠のくのかもしれないけど。後は3Dプリンターだ。原料は樹脂なのだそうだ。オレも知りはしていたが、樹脂というのは初耳だ。
PLA樹脂やABS樹脂という物を一緒に購入させられた。他にも・・・
「マスター!耐候性の強いASA樹脂や、耐熱、耐薬品性の強いPP樹脂と、エンジニアリングプラスチックのPC樹脂やナイロン樹脂もお願いします!あと、アクリル樹脂、PETG、熱可塑性ポリウレタンもお願いします!これが揃えば金属なども造形できます!」
もうね。興奮度合いが違う。カナが何を司る神かは分からないが、物作りの神様じゃないんだろうかとすら思う。
「まぁ!?カナ様!これはなんなのでしょうか!?」
「ふふふ。清様!よくぞ聞いてくださりました!これはこの機械で、ここをこうやって操作すれば自動で色々な物を作るのです!」
「え!?まさか!?原理はなんですの!?」
「ふふふ。ここの先から液状の樹脂をノズルから吐出し、紫外線を照射して硬化させることで立体造形物を製造でき・・・」
あぁ〜あ。清さんの沼に入ったな。カナ・・・多分、質問からの質問で1日が終わってしまうぞ。
「さて・・・あの2人は暫くあぁだと思うからオレ達は・・・」
「尊様。お伝えしたいことがございます」
「うん?五郎君か。珍しいね。どうした?」
「あ、いえ。実は源三郎様が片手間で面白い物を作ったそうで、一度見てほしいそうです。焙烙玉を作ったそうです」
「嘘!?マジで!?分かった!直ぐに行くよ!」
オレは急いで、外に居るノアに向かって話し掛ける。
「ノア!全速力で甲賀に向か・・・」
オレが言い掛けて、ふと思い出した。このノアの全速力はヤバイと。だが、時既に遅し・・・。被せるように返答があった。
「(キャハッ♪全速力ね!オッケー!久しぶりに・・・へーんしんッ!)」
ノアはオレの頭に語り掛けてくると、大きくなり、頭から一本の角が生えた。どうやらこれが本来の姿らしい。
「お、お手柔らかに・・・寧ろ、やっぱゆっくりでもいい・・・か・・・」「いっくよ〜♪」
バシューーーーーーーーーーーーーン!!!!!
オレの言葉虚しくノアは走り出した。
〜ドライブイン安土 物陰〜
「クッフッフッ。本当に巨躯の馬ですね。あの男にはもったいない。今年はあの男中心に織田家は動くと兄者は読んでいる。もう少し人を潜り込ませなければいけませんね」
「あのう・・・なにか?」
「おっと・・・これは失礼。私は羽柴藤吉郎が弟、羽柴小一郎と申します。以後お見知りおきを」
「清様!カナ様!羽柴様の弟様が参られました!」
「おやおや?お取り込み中でしたかな?奥方様に、侍女のカナ様。お久しぶりにございます。先の数人の人の受け渡し以来ですかな?」
「あ!羽柴様!お久しぶりでございます!」
「クッフッフッ。本当にいつ見てもお美しい。尊殿が羨ましい限りですよ」
「またまた〜!社交辞令が上手ですね!でもすいません!尊さまは今しがた甲賀に向かったようです」
「いえいえ。実は大殿様の言を聞き、開発するのにもっと人手が必要かと思いましてね。実は長浜で手の空いた鍛治師が居ましてね。遊ばせるのももったいないと思い、どうせなら尊殿の役に立ってもらった方が良いのでは?と思いましてね。なんと言っても兄者の友達ですからね。クッフッフッ」
「まぁ!本当ですか!尊さまも喜びます!ちょうど人手の話をしていたのですよ!帰ってくれば私の方から伝えておきますね!で、その人のお給金などはどうすればよろしいですか?」
「いえいえ。その事には及びません。こちらが勝手に出すのですから、もちろんこちら側で持ちますよ」
「いや、それは尊さまは嫌がると思いますよ?」
う〜ん。あの男の嫁は警戒はしていないように見えますね。ですが、あの侍女と呼ばれるカナという女は違いますか。ただの侍女ではないようですね。この私が全力に警戒しないといけないように思うのは久しぶりですか。もう少し入り込んでみましょうか。
「クッフッフッ。それとこれは個人的なお願いなのですが、もう一つ構いませんか?侍女のカナ様。あなたは侍女と大殿様にで呼ばれているのに登城を許され、酒の配膳を任されたそうですね?いや〜、よければ皆に好評だった酒の作り方を御教授願いたいのですが?」
「いえ。私は尊様に命令されただけですので」
食い付かないか。この手は使いたくなかったが致し方ない。この私をこれ程までに警戒させる女だ。
「実は、先のマスの魚を獲らえさせたのは私の部隊でしてね。これは個人的な我が儘なのですが、よければこの飯屋にも数人で良いので働かせてやってほしいのですよ。いや、丁稚で構いません!」
「・・・・なんのおつもりですか?」
「クッフッフッ。これは手厳しい。いや、こんな事、大殿様にバレるとタダでは済まないとは分かっておりますが、実は私は無類の酒好きでしてね。ここで私の知り合いで働く者が居れば、酒の取り引きもしやすいかと思いましてね。兄者も酒は好きなのですが、あまり私が飲む事を許してくれないのですよ」
「何故ですか?」
「いや、酒を飲めば判断が鈍ると言いましてね。けど、私は美味しい肴で美味しい未知の酒を飲むだけで幸せなのですよ。本来、私は戦や乱取りなんて嫌いな性分ですからね」
「カナ様!いいじゃないですか!私が面倒見ます!羽柴様は数少ない、織田家で新参の尊さまの味方を皆の前でもしてくれたではありませんか!」
「クッフッフッ。実は兄者も、『ワシも尊のように飯屋でもやってみようか』なんて言ってるくらいですからね。まぁ本心を言えば、尊殿と誼みができると色々と融通してくれるやも・・・と、打算的な考えも無きにしも非ずですがね。これが私の本音です」
「清様が良いならば私は何も言いませんよ」
「クッフッフッ!カナ様もそう警戒しないでいただきたい。何かあれば全力で私をお使いください。明日、明後日くらいまでには人を寄越します。今後も末長くお付き合いください。では・・御免」
「カナ様は何であの方にあそこまで警戒しているのですか?」
「・・・・私が信用している方はマスターやカナ様、後はここで働いてくれている皆だけです。いくら名のある方だとしても、味方だとしてもです。ですが、清様が信用できると言うならば私は従うまでです。では・・・私も甲賀へ向かいましょう。夜までにはマスターも連れて戻りますね!」
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