ドライブイン安土 邁進4-4
〜本願寺〜
「ハァー・・・。腹が減ったなー」
「正月だというのにな・・・」
「わっはっはっ。そんな湿った顔するんじゃねぇ〜!ほらよ!お前達の為に餅を持って来てやったぜ?」
「うん?あんさんは誰でぃ!?」
「俺か?俺っちは名無しの権兵衛さ!お前達に飯を食わせてやろうと思ってな?いらないのか?」
「い、いいのか!?」
「あぁ。たらふく食える程はないが、一刻の腹の足しにはなるだろう」
「なぁ?オラの事覚えてねぇーか!?」
「うん?お前なんて・・・おっ!?まさか!?」
「そうだよ。お前さんに傷を治された者だ」
「し、死んだんじゃなかったのか!?」
「あん?死ぬるだと!?んな訳ない!今はとある方の元で面倒見てもらってるのさ!そこは食べる物が溢れ、新品の南蛮服までタダで貰えるのさ!良ければこんなところ、放ってお前達も降らないか!?」
「そ、そんな極楽のような場所があるのか!?」
「あぁ。それがあるんだよ。実際オラを見てどう思った?」
「・・・・・」
「その御領主の尊様は人手を求めているのさ。仕事も色々あるんだぜ?畑を耕せなんて言われないし、いや、正確には畑仕事もありはするのだが、無理強いはしてこないし、鉄屑だっけかな?鍛冶の下働きや、次郎様と呼ばれる方の下で料理だって学んでいる奴がいるんだぜ?」
「そんなにも降ったのか!?うん!?って事はある日の夜に弱った人間が消えたというのは・・・」
「あぁ。オラ達の事だと思う。尊様の元に降ったのだ。このお武家様に導いてもらってな」
「よせよ。喜助!導くだなんて、照れんじゃねーか。それより・・・あんた?名前は?」
「お、俺は権助だ!で、です!」
「権助か。お前はどうする?俺達に着いて来るか?」
「着いて行っていいのか・・・ですか!?」
「あぁ。だが、勝手に人を誘うなよ?信用がある者にしか言わない。お前に関しては喜助が誘ったのだ。」
「な、なぜ!?」
「お前は・・・医者じゃないのか?いや、元医者か?喜助が皆から殴られたあと、お前は喜助にヨモギか何かで治療しようとしただろう?」
「・・・・・・」
「お前が何故こんな所に居るかは分からないが、医者は誰でもなれるが、本物の名医になるには学を積まないとなれないよな?尊の所ならそれができるぞ?カットバンにヌメヌメした軟膏という薬とか色々あるぞ?尊は身分で学ぶ事を咎める事は言わん。寧ろ、学べ!という奴さ。特に医者は甲賀に居ないから重宝されるんじゃないか?今ここで選べ。どうする?」
「俺は・・・俺は京で医者の丁稚をしていた。けど、とある一派に『適当な治療をしている』と噂を立てられ、色々とあり、ここへ流れ着いた。俺は日の本一の医者になりたかった・・・」
「わっはっはっ!なれるさ!齢なんて関係ねぇ〜!これからのお前の頑張り次第さ!まぁ、ドライブインの救急箱を見たら驚くぜ?切り傷なんて、あのヌメヌメした薬を塗れば次の日には塞がっているんだからな!よし!お前は決定だな!」
「よろしく頼む・・・頼みます」
「おぅ!任せておけ!明日の早朝までに出るぞ。気取られるなよ?」
〜奥の間〜
「父上。下々の門徒がなにやら騒がしいように見えますが?」
「放っておきなさい。変に騒ぎを聞きつけ従わせるのは愚策。我々は今は耐えるのです」
「蓮如様。それに、教如様」
「頼廉。どうしましたか?」
「どうやら鼠が入り込んでいるようです」
「鼠とな?それは何の鼠ですか?」
「行商人を装った鼠です。堺の何某からと言いつけ、入り込んでいるようです。先にも一度そういう輩が居ましたが、特段、害がある者では無かったので好きにさせました。ほら。あの例の澄み酒やら、白米を持って来たあの者です」
「あぁ〜。あの体格の良い男ですか。此度も何か持って来たのですか?」
「はっ。此度は餅を大量に持って来たようで、下々の門徒に配っておるようです。不満が少しは和らぐのでそのままにしておりますが・・・」
「・・・・教如。あなたは退席しなさい」
「ち、父上!何故、私を退席になさるのですか!?」
「あなたは、門弟達に統制を取るように言いつけなさい。この場所で奪い合いは許しませんとね」
「・・・畏まりました」
「「・・・・・・・・」」
「はぁ〜。で、頼廉。織田の目論見は何か?」
「結論付けるわけではございませんが、以前の時もそうでしたが、少し人が少なくなったような気がします。特にボロを纏っていた者があの一団に混ざっていると」
「ボロ?そんな風には見えないが?」
「いえ。以前、ここに居た身寄りのない男女等です。あの京の曲直瀬一派を破門にされた男が居るでしょう?あの男と話している行商の男。あれは間違いなくこの間までここに居た者です。民の不満出しのために暴行を黙認したあいつです」
「う〜ん。きな臭いな。で、あんな者を織田は取り込んで何するつもりか?」
「そこまでは分かりません。ですが、私の個人的な高弟を下々の門徒に潜ませております」
「さすがは頼廉です。まぁ今の織田にとっては大きな打撃にもならないやもしれんが、嫌がらせくらいにはなるであろう。あの大男は誰の配下か分かりますか?」
「それは・・・分からないのであります。明智でもなく、松永でもなく、滝川や織田直臣という訳でもないようです」
「はて?他に搦め手を使ってくる・・・且つ、堺と間を取っている者が織田軍に居たでしょうか?羽柴・・・か?」
「御冗談を。あの者自身が下々の出だというのに、有益な者ならばいざ知らず。役に立たない者を使うなぞありえんでしょう。それは顕如様も以前言っていたでしょう。織田のうつけには従順だが、隙を見せればあの者は内から食い破る蟲になると」
「えぇ。あの羽柴なる者だけは信用してはなりませんと、言いましたね」
「もう少し調べましょうか?」
「いや。怪しまれたくない。今は嫌がらせ程度でも良い。もう少しすれば毛利からまた物資が届く手筈となっている。門弟達に貯め込んだ銭を出すように言いなさい。織田を倒せば織田の銭から返すと。下々の者からは・・・」
「えぇ。分かっております。もう少し締め付けを行いましょう。配られた物はどうしますか?」
「全てを言わなくても頼廉なら分かるでしょう?下々の者が酒を飲むなぞ早い。あれを味合わせる訳にはいけませんよ。そうですね・・・。200名程連れて行けるように手配しなさい。あなたの高弟に指揮をさせ、誰かは分かりませんが、その奇特な考えの持ち主を殺しなさい」
「御意。敢えて見張りも少なくしておきましょう」
「いえ。それには及びません。見張りもそのまま通常通りに。ですが、その一団を見ても手出し無用にしなさい。要は気付かない振りです」
「畏まりました」
「おいおい・・・喜助よ。それに権助よ。やけに多くなったな。100近くは居るんじゃないのか?」
「いや、オラだけじゃなく、あの男・・・吉之助が方々に声を掛けて・・・」
「うん?お前は剃髪してるのか?坊さんか?」
「これはいつぞや坊官の人が暖を取るため燃やす物がなく、俺の髪を剃られ燃やされてしまいまして・・・」
「ふーん。そうか。苦労したんだな。まぁいい。こちらに抜け穴があるんだ。着いて来い。皆の者も静かにな」
「(チッ。こんなところに抜け穴だと!?我等でも知らない道があると・・・。この大男は尊と抜かす織田の家臣の者だったな。まずは、懐に入り込み奪える物はできるだけ奪い、下間様や顕如様に献上しなければ。とりあえず、今分かった事だけでも・・・米はほぼ無限にあり。酒も大量にあり。武器開発の人手も足りないと・・・)」
「よし。ここからは速駆けだ!」
「(なっ・・・誠に抜け穴があるだと!?)う、うむ。俺が最後を歩く。お前達は早く行け!(この間に誰ぞ高弟に文を渡しておこう)」
〜謹賀の料理が終わった直後〜
「う〜む。やっと集まったか」
「上様!?それはまさか明の船に装備されてある・・・」
「いや、違うな。これは此奴の配下が作った物だ。青銅砲と呼ばれる大砲だ」
正確にはオレではなくカナと源三郎さん達が作った物だ。油和紙を使った鉛弾を使用する。安価で量産しやすいからだ。前装式で、砲身の後方に麻暇に火薬と油を塗し、砲身の角度を決めたら後は、着火するだけだ。
「1番砲!用意致せッ!!」
「「「はっ!」」」
この時の為に、甲賀村から選抜して小川さん、大野さん、そしてお婆ちゃんの牧村さんって方が何故か名乗りを上げ、登城を許されている。
「大殿様。準備できました。目標はあの60間程離れた土嚢に致します。念の為、後ろの壁が木っ端微塵となるといけませんので、土嚢袋5段構えと致しました。それと、通常より弾頭の鉛を減らしております」
「うむ!貴様は大野と申したな?」
「はっ。覚えていただき光栄でございます」
「良い。お主は今後この砲撃隊の指揮を取れ。尊から更に量産し、練度を高めておけ」
おっと!?まさかのここに来て大野さんが出世か?寡黙な人の大野さんだが、この人もオレの事を疑わず、甲賀村に居る時はいつも側に居て、雑用をしてくれる人だ。小川さんはって?あぁ。あの人は・・・
「大殿様!わ、ワシも何か特別な役をください!この通りですじゃ!(ズサッ)」
「お主は歳を感じさせない覇気がある!見事な土下座だな!これからも尊を支えてやれ!そうだな・・・お主は傅役だ!クッハッハッハッ!」
信長も小川さんの事を面白がっている。
「うむ!冗談はこれまで!皆の者ッ!刮目せよッ!大野!放てッッ!!!」
「はっ!点火!」
本当はこの大野さんの掛け声の『点火ッ!』で即座に撃てるとカッコいいのだが、撃鉄、撃針、雷管と作れていないからな。少し発射までラグがある。
「不発か」
「お待ちください!」
導火線に点けた火がジリジリと砲身に装填された弾丸のお尻の部分へと進む。そして待つ事10秒ほどだっただろうか。
理論としてはカナからオレも聞いた。導火線から弾丸のお尻の部分に火が点く。その弾丸のお尻には油紙で巻いた火薬が装備されている。その火薬が砲身の中で燃やされ、圧縮されたガスの力で弾丸が飛ばされると聞いた。
そして・・・それは・・・突如として火を穿いた。
ズドォォォォーーーーーーンッッッ!!!!
「「「ぬぉ!!!?」」」「「「ぬっ!!!」」」
「ぬぅぁんだぁ!?これは!?」
信長が1番驚いている件について。オレ?オレも驚いている。驚いてはいるけど、生で見た事はないが、現代兵器を知ってるオレからすれば大した事はない。火薬量を減して、威力を落としているというのもあるが、驚くほどではない。
だが本丸の壁を壊さないように土嚢袋で作った5段壁の内、2段は崩している。まぁ、弾頭の鉛も一つだけと聞いていたからな。この弾頭も鉛玉をたくさん詰め込んでいれば、殺傷範囲は更に広がるだろう。いや、人相手ならば致命傷では済まない。肉が引き千切られるだろう。
他にも方法はある。弾頭も同じように油紙で包み、その中に木屑や鉄屑を入れて撃てば、怪我人続出となり、戦の時ならば敵の継戦能力が落ちる事間違いなしだろう。
「どうでしょうか?青銅砲・・・いや、野戦砲は?そんなに高価でもなく量産も間近と聞いております」
この青銅砲ならぬ、野戦砲はその名の通り・・・青銅を使っている。史実でも江戸時代の初期には作られる物だ。ほんの少しだけ時代の先取りをしたわけだ。
日本では家康が徹底的に鎖国主義を取り、戊辰戦争くらいまで使用された。
世界的に見れば、比較的安価と言っても、それなりにお金は掛かるだろう。青銅は融点が低く、木炭などの炉でも簡単に溶解でき、鋳造できる。だが、不純物も多くこの野戦砲も何発も撃てば砲身が曲がったりして暴発する危険がある。カナが言うには・・・
「念の為、100発を目処に交換致しましょう。タイヤの方はそのまま使ってもらってもかまいません」
とのこと。
だが、既に次代の野戦砲の製作にも取り掛かっている。まずこの青銅砲はこの正月に御披露目するために作られた物だ。これを誰にどこにいくらで売るかは信長次第だ。これは売ればオレ達はどうするかって?そんなの決まっている。
オレ達は鉄の野戦砲だ。カナの教育的指導の元、徹底的に教えを叩き込まれた国友一派と源三郎一派。数発如きで撃てなくなったり、暴発の心配なんてしなくて良い砲を製作してくれている。なんなら、そろそろ出来上がっていたりするかもしれない。
本来ならこの鉄の大砲は19世紀に起こる産業革命まであまり出てこないだろう。鋳造技術が世界ではまだまだだからだ。だが、甲賀ではこの時代ではありえない機械が山のようにある。主にカナだ。
この前なんて・・・
「あっ!尊様!こんにちわ!」
「えっと・・・確か鍛治見習いになった金蔵さんでしたっけ?」
「はい!名前を覚えていただきありがとうございます!」
「いえいえ。何してるのですか?」
「あっ!これですか?木を加工しているのですよ。実は女達から要望が出まして、尊様が料理に使う調味料など色々齎せてくれるでしょう?置くところがないとのことで、自分が簡単に作っているのですよ」
「うん?ならその・・・旋盤でしたっけ?そちらは?」
「あ!これは耐震金具ですよ!カナ嬢様が地震が起こっても大丈夫なように家も少しずつでいいから補強するように!との事で、少しずつ加工の練習も兼ねて作っているのです!」
このように、現代の工場作業員かのように、然も当たり前に機械を使いこなしていたのだ。このペースならオレが居た時代に近付くのもこの世界では早いかもしれないわけだ。
「うむ!素晴らしい!皆の者もどうじゃ!これが尊を重用する理由じゃ!佐久間も分かったか?お前にこれが作られるか?できぬであろう?ならば二度と軽んじる事を言うな!今日皆をこの雪のチラつく寒い中、外に呼んだのは他でも無い。この野戦砲・・・欲しくはないか?」
「え!?上様!!?これを頂けるのですか!?」
「サル!誰が与えると言った!これはワシが尊から購入するのだ!それをワシが買いたいという者に売るのだ!文句あるか!?」
「えぇ〜・・・そんな・・・」
「なんじゃ?欲しくはないのか?確かに運用するにはそれなりに刻も掛かろう。あの横の丸いのを回せば角度が代わり、着弾位置も変わる。こういう説明をする教官も付けてやる!」
「で、織田殿。これはいくらになるので?」
「うむ。たぬきは流石にこの可能性に気付いたか。そうだな・・・一門、10万貫じゃな」
「じ、じゅ、じゅうまんかんですとぉぉ!?」
オレも驚いた。天文学的数字だ。売る気あるのか!?
「いや、待て待て。これは売ればの話じゃ。ワシは考えたのじゃ!いつぞやこの尊から聞いた、南蛮式の高い物の買い方みたいなものじゃ。さぶすくりぷしょんなる物じゃ!」
「「「「さぶすくりぷしょん!?」」」」
見事に皆がハモった。そもそも南蛮式でもないし、信長とオレが未来に居た時代の事の雑談の時に少し出た話なんだけど、この人は覚えていたのか!?確かに色々な事を聞かれたけど・・・。ってか、マジでよく覚えていたな!?信長は聖徳太子か!?
「うむ。30日に一度、決めた額を織田家に納めろ。さすれば、これを撃つ人員と修理、補修は織田家が持とう。それに・・・新式の武器が出れば即座に使わせてやる。どうじゃ?悪い話ではあるまい?」
「ま、待ってください!まさかその額も10万貫などという・・・」
「慌てるな。これはお主等、他の領地との兼ね合いじゃ。例えば仮にこの野戦砲を他の地で作られたとする。そうだな・・・。三河にしようか。そして、たぬきがこれを売るにはワシに10万貫と言ったとしよう。ワシならば10門は購入するだろう」
うわ・・・。これ程清々しいまでの上から目線は初めて聞いたぜ。他の人なんてドン引きしているよ・・・。
「そんなの流石の上様でも・・・」
「舐めるな。ワシが日にいくら入ってきているかお主等は知っておるのか?ここぞという時のために普段は質素倹約。使う時には銭は有効活用せよ。これが親父からの教えだ。桶狭間で今川を破った時購入した鉄砲。当時、一丁、3万貫もした。だが見てみろ。あのおかげで今の織田家がある」
「「「・・・・・・」」」
まぁ話の仕方が上手い上手い。さすが信長だわ。
「それで・・・いくらになりますかな?」
「やはり、たぬき・・・いや、家康。お主が1番可能性を見るか。一門、30貫!」
「ふっ・・・。さすが銭の事に関しては絶妙な額ですな。10門お願い致しましょう」
確かに絶妙だな。30貫・・・タブレット円計算なら30万。確かに高いのは高いが、敵から身を守るには普通に大名クラスなら余裕で払えるだろう。しかも、家康には取らぬ狸の皮算用ではないが、カナから仕事も振られる予定だしな。
「太田!太田はどこぞ!今すぐ墨と紙の用意じゃ!」
それからは市場のような活気となった。誰もが手を上げ、証文役の太田牛一さんがせっせと皆に紙を書いていた。オレは・・・これを量産しないといけないんだよな・・・。はぁー。これは大事だ。
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