ドライブイン安土 開店12 終

 「私は桂峯院様、側仕えの深芳野様付きの元で下働きをさせていただいておりました、桜と申します」


 「同じく、梅と申します。本日から清様付き、側仕えとして、桜と共に精一杯御奉公させていただきます。よろしくお願い致します」


 「手前は丹羽長秀様与力、粟屋越中守勝久様配下 木野義信様付きの元で丁稚をしておりました、太郎と申します」


 「同じく、次郎と申します。尊様の元で、手足のように働けと大殿様から申し付けられました。飯炊きから雑用まで何なりとお申し付けください」


 これまた長い長い口上だ。誰々の〜支配内〜与力とかもう訳が分からん。


 「オレが、たけ・・・尊と申します。よろしく、お願い致します」


 信長や丹羽さん含め、オレは武田という名字を言うなと言われた。まぁ関係ないとはいえ、情勢的に仕方のない事だと分かっている。


 「桜!梅!久しぶり!この度、私は嫁ぐ事になったの!」


 「お久しぶりにございます。清様」


 「もう!前みたいに友達のように接してくれていいのよ!」


 「そういう訳にはいけません。これからは私達が清様及び、尊様をお守り致します故。どうかこれでお許しください」


 どうやら2人は旧知の仲みたいだ。そりゃ、丹羽さんの家で働いていたんだから知ってて当然か。それにお守りって・・・。この子達も同じ歳くらいだろ!?男の子の方も高校生くらいかな。男の方は短刀ぽい物を挿しているから武士?かは分からないが、多少は強いのかもしれない。


 女の子の方はオレの方が強そうだ。いやだって、かなり細いからだ。


 「尊さま!この子達は元は甲賀の出身で、上忍に皆伝を授かるくらいの子達です!中へ入っていれば、夜も安全やもしれませんが、念の為に夜も見張を立てましょう!もちろん、交代でです!」


 オレの聞き間違いだろうか。甲賀と言えば伊賀に並ぶ忍者の里だろ!?まさか本当に忍者が居るのか!?このか弱そうな子達が免許を授かるくらいだと!?


 「ゴホンッ。少し手合わせを・・・」


 オレは何を言っているんだ!?清さんにすら赤子を捻らるレベルなのに・・・。けど、本当にこんな子が強いのか気になる。太郎君と次郎くんはって?そんなの見たら分かる。勝てるわけない!


 「やめておいた方がよろしいと思いますが・・・」


 「清様。これから仕えるお方に私達の武を見て、信用していただかないといけません。尊様の獲物は?」


 「獲物?あぁ・・・清さん?槍貸してくれませんか?」


 「いいですけど、本当に大丈夫ですか?」


 素直に既に『すいませんでした!』と言いたい気分だ。だって、信長さんとは違う、恐怖するオーラではなく、確実に命を刈り取られるようなオーラを感じるんだもん。まさか・・・


 『こんな弱い殿に仕えるなんて真っ平御免です!天誅っ!!』


 なんて、されないよな!?


 オレ達は表に出た。そして、借りた槍を、早朝に特訓し、教えられた構えをする。が・・・


 ズドンッ


 「え!?」


 「尊さま!?」


 「ゴホンッ。足を滑らせたようだ」


 これはヤバイかも。清さんより凄そうだ。


 「次は打根を使います」


 桜ちゃんがそう言うと、懐から弓矢に使う矢を小さくしたような物を出した。もちろん、矢の部分は布で隠してある。


 「いつでもどうぞ」


 「ック・・・」


 思わず力んだ。けど、気付けばかなり強い衝撃を受けた。


 ドスンッ


 「尊さま!」「尊様!?」


 「も、も、申し訳ありません!まさか真正面から向かって来るとは思わず、何かしら仕掛けて来られるかと思い、受けようと思いましたが、私の打根の打撃をそのまま受けられるとは思いませんでした!!」


 あぁ・・・真正面・・・仕掛け?んなもん分かるかい!気持ちの良いくらいに勝てん!100回してもこれは勝てないわ。


 「おぇ〜・・・。一瞬、息が止まった気がした。すいません。調子に乗りました。このようにオレは弱い!そこらへんの子供にすら負けるくらいに弱い!」


 「そ、それは・・・」


 嘘でも否定してくれないのね。いや、そりゃ、この時代の子供って昨日ネットで見たけど、戦のために石合戦遊びや、そこら辺の木の枝で戦う遊びしてるんだろ!?オレより強いのは間違いない。こちとら、令和からやって来たんだぞ!?


 「だから・・・梅ちゃんも、桜ちゃんも、太郎君も次郎君もオレを守ってほしい。その代わり、毎日、朝、昼、晩とご飯は作ってあげるから!」


 「そ、そうよ!尊さまの料理は日の本一なんだよ!本当に美味しいんだよ!料理なら尊さまに勝てる人はいないんだよ!」


 清さんの言葉が胸に刺さる。料理なら・・・。うん。料理だけの男なのね・・・。いや、それより本当に奥さんになったんだよね!?付き合うのじゃないよね!?少し・・・いや、かなり嬉しいかも!


 それから、軽く家の中を紹介し、部屋はそんなにないから、婆ちゃんの部屋を桜ちゃん、梅ちゃん、清さんに。物置きで使ってた部屋を太郎君、次郎君に。オレはオレの部屋という事とした。清さんと同じ部屋になりたかったが、丹羽さんとの約束もあるし、仕方ない。


 それと、どうやらこの子達は字が読めないらしく、追々それはオレが教える事にした。清さんは普通に書けるらしい。試しに適当に書いてもらったのだが・・・


 「え!?これは・・・」


 「はい!『八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣つくる その八重垣を』と書いております!古事記に伝わる和歌です!」


 まったく読めん!ミミズが張ったような字をどう読めと!?オレがこの字を習うべきだろう。だが、これだけは無理だと思う。それに、これも昨日ネットで見たけど、手紙のやり取りが盛んな大名間で、伝わり方が変わったり、ニュアンスが変わったりしてそれが元で戦になる事もある。と見た。だから、オレはこの子達にだけでも絶対に絶対に楷書文字と足し算、引き算は最低でも教えようと決意した。


 夕方前には『ドライブイン武田』この看板を除ける事にした。もしも、字が読める人が来てもいけないからだ。いつか・・・いつかまたこの看板が掲げられる事を信じて、店舗横の物置き部屋に置いておくことにした。

 後は、太郎君に言って、木版を用意してもらい、サイズは小さいが、木版いっぱいっぱいに・・・


 《ドライブイン安土》


 と、いう看板を作った。


 「まぁ!これは立派です!」


 清さんの大袈裟な言葉が痛い。だが、この時代ではこれでも本当に立派なんだろう。位階時代全盛期のこの時代で、朝廷に縁もゆかりもない無官の男が、店を持っている事は可笑しいだろう。だがオレはこれから清さんを幸せにしないといけない。

 信長に借金も返さないといけないし、この4人にも早く給料を渡さなければならない。


 明日から営業開始だが、間違いなく客なんか来ないだろう。だが、いつか飯時にはこの店いっぱいの客を入れてみたい。



 夜になり、風呂の入り方を教えた。まぁ誰も彼も同じような事を言っていた。


 「なっ!?こ、これは!?物怪か!?」


 「この中に入って居る者よ!姿を現せッ!!」


 などなど・・・。梅ちゃんはシャワーの中に人が居るように思ったらしい。太郎君は物怪?と思ったらしい。いやいやいや。そんな中に人なんて居ないし、寧ろどうやって入るのか教えてほしい。それに物怪とはなんぞや!?と、問いたい。


 ちなみに夜飯はチャーハンだ。本当は少し手の込んだ物を食べた貰いたかったが、なんせこの子達は未だオレに慣れていない。この店舗兼住宅に慣れていない。だから、まずは米メインの食べ物にした。


 「「「「「(ハスッハスッハスッ)」」」」」

 

 清さんに関しては昨日か一昨日も食べた筈だけど、同じように無言でがっついていた。


 それから少し休憩してもらい、簡単に店の雑用を教えた。料理は中々難しいから少しの間は見て学んでもらう事にした。

 

 「まずは掃除は徹底してほしい。汚いお店には来たくないでしょう?」


 「「「「はっ!」」」」


 「次に、来店した客に1番に、手拭きとお水とグラスを出す。メニュー・・・品書きは今、大急ぎで清さんに書き直してもらってるから、その品書きから客に食べたい物を聞いてほしい。横に数字を書いているから、汚くてもいいからこの紙に数字を書いてオレに伝えてほしい」


 「「「「はっ!」」」」


 まぁ皆の返事が痛い。もっと崩してほしいんだけどな。


 「もっと、普通にしてくれたのでもいいよ?」


 「いえ。尊様と我等は主従関係ですので」


 「そっか。オレはそんなの気にしないから慣れればもっと崩してほしい。それと後は金額なんだけど、これもやり直さないといけない。普通の飯屋の相場が分からないから、一先ずは赤字覚悟で、どれもこれも1匁くらいでどうかな?」

 

 タブレット計算の円に当て嵌めると10円だ。価値がどのくらい違うかは分からない。何やら4人がブツブツ言っているが、タブレットに載っていない《文》まで出て来ている。

 オレは普通に四則演算はできると思ってはいるが、単位が変わるだけでこんなにも難しくなるとは・・・。

 いや、もしかして・・・1匁でも高かったという事か!?


 「代表して自分が言います。匁は重さの事ですので一概には言えませんが、恐らくその値段で飯屋を開くとなると、誰も来られないのではと思われます。いや、一度味わえばまた確実に来たいと思う飯ですが・・・」


 「参考までに豆腐ってあるよね?豆腐を買おうとすればいくらくらいかな?」


 「はっ。一丁3文前後くらいかと」


 「その3文は何匁なのかな?」


 「えっと・・・」


 太郎君は分かりにくそうだ。


 「ここからは私が・・・。私もはっきりとは言えませんが、匁とは主に銀取引で使われるかと・・・。大店の商人とかです。堺や近江商人なんかが使うかと」


 もう訳が分からなくなった。タブレット計算は飽くまで、タブレットの中での買い物の値段表記という事なんだな。それを度外視して一度計算しないと、売れば売るほど在庫はなくなり、補充しようとしても、現代通貨の円は増える事はないのだから減る一方だ。


 そして、オレは太郎君に言って、1文を借りる事にした。この時代のお金をチャージするといくらに変換されるか分からないからだ。


 「ごめん!直ぐに返すから!」


 「い、いえ!いつでも構いません!」


 この子からすればこの1枚でも失いたくないだろう。だが、すまん!倍にして近々返すから!と心の中で唱えながらチャージしてみる。


 タブレット残チャージは990円だ。そしてチャージをし終えると・・・


 チャリン


 《残クレジット1990円》


 「いや高ッ!なんであんな擦り減ったような金が1000円も価値あんの!?未来の金より高価じゃん!」


 「えっと・・・」


 「太郎君!君のお金は非常に価値があるようだ!ちなみに今のが1文だよね!?」


 「は、はい!」


 「そうか。君達!喜べ!これは勝つるぞ!なんとかやっていけそうだ!!」


 レートとか絶対におかしい。何であれがあんな値段なんだ!?ってか、あれ!?


 オレは更にレベルが上がっている事に気づいた。レベルは現在LV7になっていた。そして変わった所がある。その下に・・・


 《レベルupに伴い銭チャージ100倍増額》

 

 《レベルupに伴い買い物金額7%還元》


 と、書かれていた。


 って事はな・・・元は1文、10円って事だよな!?何これ!?なんてチート!?現代の円よりこちらのお金の方が価値が圧倒的に高いじゃん!しかも、地味に7%は大きい。と、思ったがどうやらそうでもない。

 円で購入すれば卵1パックが10円だったが、これは適用されずそのままの値段だった。だが、円ではなくこちらのお金で買おうとしたら、ちゃんと単位も、文と出て、500文と出た。7%適用されてこれだ。


 1パック500円の卵は、現代スーパーではブランド卵なら普通だろう。いや、少し安いくらいだ。ノーマル卵なら少し高いくらいだ。だが、こちらの金で500文ならかなり高いと思う。巷では豆腐が3文で、このネット販売では卵1パック500文。

 これは明らかにこちらの銭をチャージして円で購入しろと言われているような感じだ。

 他にも新しい項目で・・・


 《レベルupに伴い買取システムが使用可能》

 

 という物まであった。


 これはマジで勝つる!これも後で検証だ。


 「尊様!?」


 「桜ちゃん!そんな心配しなくても大丈夫!オレに任せてくれ!値段のは全て1文!暫くはこの値段でいくぞ!オープニング記念だ!ドライブイン安土!始動!」


 「「「「はっ!」」」」

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