第二章 始動
ドライブイン安土 始動1
「いらっしゃいませぇ〜!」
「「「「いっらっしゃいませッ!!」」」」
「ありがとうございました!またよろしくお願い致します!」
「「「「ありがとうございましたッ!またッ!よろしくお願い致しますッ!」」」」
営業は開始した。開始したが、もちろん客なんか来るわけがない。
そりゃそうだ。まったくお触れも出していないからな。だから、今はいつ客が来てもいいように掛け声の練習中だ。ちなみにだが、メニューに関しては半分以上隠す事にした。カツ丼、牛丼、焼肉定食などなど、他にもあるけど殆どが肉料理だからだ。
実のところでは食べてる人が多いだろうが、こういう所では中々食べたくても周りの目があるから食べにくいだろうとの事で、まずはうちに慣れてもらう事も含め、チャーシューや、焼き豚の量を少し減らした、焼き飯、肉うどん、ラーメンを提供する事にした。おでん?あれはいつでもグツグツ煮ているさ。
どうやら、桜ちゃん、梅ちゃん、太郎君、次郎君皆がかなり気に入ったようで・・・
「尊様!よろしければ、このおでんなる物を一つ頂いてもよろしいでございますか!?」
「うん?そんなのでいいの?朝飯ならちゃんと作るけど?」
「いえ!自分はこれと、鮭の握りで大変喜びます!」
「ちょ、ちょっと!太郎!鮭の握りってなんの事!?ここには鮭があるの!?」
「尊様に聞け!自分は食べさせてもらっただけだ!」
と、鮭もこの時代は高価・・・というか、非常に高価らしく、なんなら権力者でも早々には食べられないくらいだそうだ。冷蔵庫に鮭フレークなら普通にあるけど。その握りもかなり好評だ。どうせなら、お握りのメニューも作ってよさそうだとも思う。テイクアウトに持って来いだよな。
まぁ、そのおでんだが、30分に一度皆がつまみ食いするのだ。まぁどうせ、客なんか来ないから腐らせるよりはいいから、今は許している。
それと、タブレットの件だ。オレは現代に帰れないと思い、家の中にあるお金を10万円少々だけ残し、金庫の中に入ってある80万をチャージした。この時代で生きるという事を決意して。信長がいつのまにか盗んでいた1万円は返らずだ。
何の為に部下の金を盗むのか。今度来た時に言ってやろうと思う。
〜岐阜城 大広間〜
「チッ。折角、面白い事を成そうとしておったのに糞坊主は止まらぬか」
「え!?何の事でしょうか!?天王寺砦から佐久間殿の倅と交代し、急ぎ戻って来た次第ですが・・・」
「うむ。造作をかけた。これをお前に渡しておく。新しき銭の参考にせよ」
「なっ!?こ、この紙切れは何でしょうか!?それにこの男は!?髭も生やさず澄ました顔をしておりまするが・・・ふくざわ・・・ゆきち?それにしても精巧な姿絵・・・絵師は誰でしょうか!?」
「其奴の事は気にしなくても良い。銭を大量に取引に使うのは時代遅れだとは思わぬか?いや、それは此度の戦が終わってからで良い。無くすなよ?いちまんえんは高価らしいからな」
「え!?あ、は、はい!」
「うむ。して、状況は?」
「はい。いつ激突してもおかしくないかと思われます」
「で、あるか。こちらから仕掛けるのは早いか?」
「いえ。坊官は毛利から補給を受けておりますので、膠着するよりかは良いかと」
「相分かった。其方に会わせたい者が居る。それよりこれを見よ」
「それは!?」
「確か彼奴が言うには・・・(カチッ)ふむ。こうだったな。尖っている方を先にして・・(カチャカチャカチャカチャカチャカチャ)これで良い。お主は織田家随一の射撃の名手だ。これを持ち、天守からあの下の木を撃てるか?あぁ。待て。誰ぞある!」
「はっ!」
「なんぞ的を下の木に括り付けよ」
「はっ!」
「お館様・・・これは・・・」
「片手銃だ。とある者から譲り受けた。まずはお前が試せ」
「お館様!これでよろしいでしょうか!?」
「それで良い!皆を退かせろ!その引き金を引くと弾が出るそうじゃ」
「誠にこれで狙えと!?些か狙いにくいですが・・・」
「当たらなくともお前の腕ならば近くには飛ばせるであろう。撃ってみよ」
「では・・・(スチャ)スゥ〜・・・・(パンッ)」
「め、命中しております!」
「そのままもう一回引き金を引いてみろ」
「え!?弾込めは・・・いえ。申し訳ありません。続けます。(スチャ) (パンッ)」
「二射命中!さすが明智様!」
「お館様!?まさかこれはまだ撃てるのでは!?」
「うむ。後、4発は撃てる筈じゃ」
「(パンッパンッパンッパンッ)これは・・・凄い・・・」
「で、あろう?長篠にてワシが鉄砲を前に出した戦をした。が、それらですら古くさせてしまうとは思わぬか?わざわざ射撃者、装填者と必要無くなるとは思わぬか?」
「それだけではございませぬ。弾は真っ直ぐ飛び、不発もありませぬ!これはどこから!?南蛮でしょうか!?」
「光秀ともあろう者が取り乱しておる。そのいちまんえんの持ち主じゃ。合戦前に会わせてやる。寧ろ会わなければならぬ。此度の戦には間に合わぬだろうが仕方がない。武士とは程遠い男だ。それに血を嫌うような男でもある。だが、これは彼奴にしか出せぬ代物だ。国友も直ぐには作れまい。あぁ。長秀のあの娘が居たであろう?あの女武者を喜んで嫁に迎えた男だ」
「なんと!?あの背の高い娘子をですか!?それは・・・少々変わり者・・・いや。失礼」
「クッハッハッハッ!笑いはここまでだ。これを国友に見せ、量産させよ。ワシは彼奴にもっと武器を吐き出させる。彼奴の知識は異常じゃ。では向かうぞ。誰ぞある!具足を持て!出陣じゃ!」
〜ドライブイン安土〜
「大変だ!大変だ!」
「お!?いらっし・・・いませ。なんだ。伝助君か」
「なんでガッカリするんだよ!あれ?新しく人を雇ったのか!?」
「そうだよ。丹羽様がね。あの品物は渡してくれたかい?」
「ちゃんと渡したさ!それにしても本当に結婚したんだな!」
「なんだ!文句あるのか!?飯食わせてやらないぞ!?」
「え!?いや、そんな事より!大殿も動くって!」
「織田様の事?どこに動くの?」
「だから!戦だって!京の近くで本願寺の坊主とやり合うんだ!俺も雑用だけど行く事になった!まぁ俺は小物だから戦う事なんてないと思うけど、帰って来たらまた美味しい飯を食わせてくれ!」
「え!?ちょ!?マジで戦!?」
「偶に訛りが酷くて聞き取れない事があるけど、多分まじで戦だ!」
待て待て。長篠の後の戦って・・・あぁもう!何か分からん!こんな事ならもっと歴史を勉強しておけばよかった!
「尊さま・・・」
「清さんは行ったらだめだ!」
「いえ、勝手に参加するのは怒られると思います。尊さまの勢いが参加しそうな感じがしましたので・・・」
え!?戦に参加するにも許可がいるのか!?いや、参加するつもりはないけど、伝助君が・・・。
本当に次から次へとイベントばかり始まるな。
オレはタブレットの武器項目をタップした所で、数十人の騎馬武者がこちらにやって来ているのが見えた。
タブレットの項目に目をやる。ピストルの所を見ると、例のリボルバー拳銃は黒くなり、《売り切れ》と書かれていた。
「いや、一丁しか売ってないのかよ!?」
思わず1人ノリツッコミを入れてしまう。
「え!?どうされましたか!?」
「いや、何でもない。とりあえずこれでいいや!一つ、5斤・・・5千円って事か。30個くらいあればいいかな?」
謂わゆる、
「尊さま。大殿と明智様からの速馬です」
あの一団は味方だったか。いやまぁ、本当に背中に家紋のついた旗を挿しているから分かってはいたんだけど。
「ここの店主はどこに座す?某は明智十兵衛様配下 斎藤利三様支配内 安田国継でございます。殿と大殿が参るそうで、その折にらあめんなる物とぷりんなる物を所望しているそうでございます」
「御苦労様です。自分が店主の尊です。伝令、確と賜りました。桜ちゃん、皆!この人達に冷たいジュースでも渡してあげてくれる?」
「はっ!」
「と、殿!?この湯呑み、ビードロで出来ておりますぞ!?」
「それよりこれを見よや!氷がある!透き通った氷だぞ!?」
「店主?この水はなんだ?舐めているのか?黒い泥水か?」
「いえ。騙されたと思い、お飲みください。不味ければ吐き出してもらって構いません」
「大殿から『粗相のないように』と言われているが、これは些か・・・(ゴグッ)なんじゃこれは!?甘い!甘いぞ!何杯でも飲めそうだ!いや、失礼致した」
だろうな。炭酸が苦手な人以外、というか、コーラ嫌いな人をオレは見た事がない。この時代でこれと同等の飲み物は絶対にないと思う。
「参考までに・・・ここは何をする所なのだ?どらいぶいんと、看板には書いてあるが?」
「ここは飯処です。これから戦だと伺っております。もしご無事にお帰りなさればお越しください。今なら全品1文で提供しております。あっ!ちょうどいいや!清さん!例の具沢山お握りを渡そう!」
「はい!」
客が来てもいいように米は炊いていたが、京都からここまで距離はあるけど客なんて来ないし、米をダメにするよりかはいいや。
オレは清さんと仲良く塩昆布お握り、鮭フレークお握り、梅おかかお握りをラップに包み渡した。清さんは手先が器用なのか、教えた通りにできた。まぁ握るだけだけど。
「うん?握りか?くれるのか?」
「はい。色々な具の握りです。戦場前?後にでも腹が空いたらお食べください。御武運をお祈り致します」
「うむ!恩に着る!ここは大丈夫さ!寺の坊主相手の戦だ!俺達が敵を倒してやろう!皆の者!一同ッ!礼ッ!」
お握りを皆に渡し終えると、馬から降りて、非常に綺麗なお辞儀をされた。
それにしても寺の坊主相手・・・本願寺・・か?
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