ドライブイン安土 開店7

 〜am5:00〜


 「そうか。武士の時代は終わったのか」


 「なに!?これより200年程は分からないのか?文献も残っていないと?何が起こったのだ?」


 「世界で戦とな。しかも2回も」


 「飛行機?車?バイク?列車?な、な、なんじゃこの箱は!?なに!?これが飛行機だと!?待て!これはどういうカラクリだ!?」


 〜am8:00〜


 「これが未来の鉄砲か。弾込めは?なんと!?既に装填されてあるのか!?連射だと!?」


 「これと似たような物を持っておるのう。耳に当てて何をしているのだ?なに!?喋っているだと!?しかも遠くの相手とだと!?伝令が要らなくなるではないか!原理は!?」


 〜am10:00〜


 「この赤い髪の女子や、青い髪の女子は南蛮の女か?なに!?日の本の女子じゃと!?何故こんな髪をしているのだ!?病気なのか!?」


 「破廉恥である!女子共は羞恥心を忘れたのか!?だが、偶には有りでもある。・・・今のは聞かなかった事にしておけ」


 「う〜む。奇天烈な世界じゃのう。何故、そのあめりかなる国の奴隷のような環境になるのだ?そんな国は国とは言わぬ!属国ではないか。日の本の領土に来た外国の船を何故沈めぬのだ。宣戦布告と同義であろうが」


 「そうか。戦で負けたからか。装備や国は違えど、貴様のいう浮世の話でも考えは似ておるのう。攻め滅ぼすならば苛烈に手加減せず、仲良くするならば相手の牙を徹底的に折り、言葉巧みに操り、美味い汁だけ吸うと」


 〜am11:00〜


 「お館様!?白熱されておるようですが・・・」


 「黙れ。他愛ない。まだ話しておる。今日はここから動かぬ。お主等は城の者へ伝えて来い。ツネも戻っておれ。清!お前は護衛じゃ」


 「は、はい!」


 「ま、待って下さい!流石に清だけでは・・・」


 「構わぬ!お主も最近は打ち負かされていると聞いておるぞ?娘だと手を抜くなぞお前はせんだろう?そのお前を打ち負かす腕のある者が護衛だというのは心強い。分かったなら下がれ。明日に迎えに来い。ワシは此奴に興味が沸いた」


 マジで・・・怒涛の質問攻めだ。疲れたわ。しかも泊まる系なのか!?一応、これから200年の歴史は知らない振りはしたけど・・・。まさか徳川が天下取る。その前に豊臣が・・・なんて言えないよ。


 〜pm12:00〜


 「面白い。実に面白い。厠はどこだ!?なんじゃこれは!?」


 「尻が!尻が!うほっ・・・なんのこれしき!」


 〜pm15:00〜


 「ほぅ?ぷりんなる物の他にも甘味があるのか。む!むむむ!これは非常に良い!この白いのが甘くて美味い!家臣の褒美としても使えそうだな!いや・・・京の公家連中の餌にも使えそうだ!」


 「ぬぁ!?この黒い水はなんぞ!?口で暴れよる!それに甘くて美味いではないか!(グァー!)失礼」


 〜pm16:00〜


 「では、言葉や絵で分かるというのか。作り方までは知らんのか?らいふりんぐかこう?それはなんじゃ?知らんと言いつつ知っているではないか」


 「クロスボウ?南蛮弓のようなものか?焙烙玉?あれなら雑賀の村にあった気がするが、不発が多い」


 〜pm17:00〜 


 「うむ!これが牛の乳とな?悪くないな。それと気になったのじゃが、それはなんぞ?」


 「これは時を表す時計です。今は時刻は17時で・・・少しお待ちを」


 オレはこの時代の時間の表し方が分からない為、ネットで調べた。するとすぐに出てきた。


 「今は昼7つ半刻です。その事を未来では24の数字で表します」


 「ややこしいな」


 「自分からすればここの方がややこしいです。短い時間の表し方などないのでしょう?それより・・・すいません。流石に自分も疲れてしまいました。一度休憩しませんか?清様もかなりお疲れのように・・・」


 「(ペチン)貴様が仕切るな!調子の良い奴だな!これは1日では足りぬな。夕餉を用意致せ!それと酒だ。久しく酒など飲みたいと思わなかったが、今日は少し飲みたい」


 「え!?織田様は酒がお嫌いなのでは!?」


 「な、何故知っておるのだ!?まさか未来とやらで有名なのか!?」


 「まぁ・・・甘い物の方が好きな方かな?と伝えられています」


 「チッ。兎に角、酒を出せ!そして、まだ食った事のない物に致せ!清!お前は昼も食っておらんだろう。お前も食え」


 「え!?流石に見張りが誰も居ないというのは・・・」


 「あぁ、清様。大丈夫ですよ。入り口は閉めておきますので」


 2人の時は、清さんと呼ぶが、さすがに信長が居る時は清様じゃないといけないよな。


 オレもこんなに話したのは人生で初めてだ。本当に今日は疲れた。命の危機?いやいや。既に危機は脱した。だが、今は信長の怒涛の好奇心の波に襲われているのだ。

 この信長も一つ返せば10・・・いや、20の質問が返ってくる。オレが分からなかった事は即座にネットで調べてオレが分かりやすく言っている。

 一度、『その箱を貸せ!』と言われて取り上げられたが、どうやら楷書文字が分からないのと、左から右へ向いて読む事が分からないらしく、『なんぞこれは!壊れておるのか!』と言われたのだ。


 充電も何故か一切減らないし、この時代の未来の事象に関しては相変わらず調べられないけど、間違っても壊さないでほしい。これもオレの生命線の一つなのだから。


 夜飯はチャーハンにした。カツ丼や、焼肉丼なんかでもいいかな?と思ったが、まずはオレが自信のある食い物を一通り食べてほしいからだ。


 ジュワ〜


 「うむ!なんぞ香ばしい匂いがしている!既に分かる!それは美味いやつだな!」


 「ははは。ありがとうございます。もう少しで出来上がります」


 ガーリックとネギの匂いが充満し、作っているオレですら美味いと分かる。


 「お待たせ致しました。チャーハンになります。そして、酒の方はビールになり・・・ます」


 信長はビックリだ。然も当たり前かのように、おでんを既に食べていた。しかも何が禁忌だ。スジ肉も卵も普通に食べているし。


 「ふん。朝食べた時より、おでんなる物は更に美味くなっている。味が濃くなっているな」


 「恐らくそうですね。では・・・自分もいただきます」


 「「「(ハスッハスッハスッ)」」」


 オレ、信長、清さんと無言で口にかっこむ音が響く。食べるスピードで『美味い』と言われている気がした。


 「(ゴグッ)うん?これはなんじゃ!?苦いと思ったが、案外喉越しが良いではないか!いけるな!」


 おっ!?初見でビールの良さが分かるのか!?さすが未来の日本企業だ!銀色のやつだけは裏切らないな!


 「(プッハー)良きかな!」


 「お待たせ致しました。チャーハンには餃子。餃子といえばチャーハン。こちらの黒い汁、酢醤油に漬けてお食べください」


 「ほう?これまた初めて見るではないか。うむ。いただこう。それと飯の後にまた甘い物を所望する。5つ程持って来い」


 いやどんだけデザート食べるつもりだよ!?


 「尊さま!どれもこれも非常に美味です!」


 信長が居るのに、我を忘れたかのような勢いで餃子を頬張りながら言って来た。ハムスターみたいでこれまた可愛い。

 

 「清。控えよ。いくら飯屋の男じゃ、得体の知れぬ男じゃろうと諱で呼ぶ事は許さぬ」


 「す、すいません!」


 「いえ。織田様。自分は気にしません。寧ろ自分の居た世界では諱?などはありませんでした」


 「そんな事は知らん!ワシは決めたのじゃ。貴様が未来から来たと抜かすのは誠のように思う。じゃが、ワシは予め天が決めておるような事はせぬ!清!お前もよく聞け!武士が居なくなるのは致し方あるまい。

 時代は変わるものじゃ。今も古の大名からすればだいぶ変わっておろう。その最たる信玄坊主も死んだ。ワシが変えていくのだ。

 織田がこの先どうなったかは知らぬ。じゃが、貴様の世では居ないのであろう。それも致し方あるまい。

 じゃが、弱い日の本になっておる事が解せん。何故、他国の顔色を伺わねばならぬのだ。何故、あめりかとやらに守ってもらわねばならぬ!その、にせんおくえんというのがいくらの銭かは計り知れぬ。何故、銭を出してまで守ってもらわねばならぬのだ!

 しかも日の本に居る南蛮の者は略奪や女子に狼藉しても殆どが裁かれないそうではないか。ワシはそんな日の本にはしとうないぞ!」


 現代の日本人なら、『なーに言ってんだこの人は?』と思うだろう。はたまた、『よっ!よく言った!おっさん!』とも言う人も居るだろう。だが、どう足掻いても、この事実を変えられる人は日本人には居ないだろう。

 もう一度戦争して、アメリカに勝てば変わるかも知れないけど、そんな事は無理な話。犯罪に関しては、国同士の問題もあるから一概には言えないが、ただ、一つ言える事としては・・・政府が無能。検察のやる気の無さだろう。

 まぁこれに関してはここで議論しても仕方がない。オレは一般人だし。

 

 「おい!今後、決められたような未来の事象はワシには言うな。そりゃ偶に助言は聞くやもしれん。じゃが、ワシが思う日の本を作るのじゃ。南蛮にも負けん、日の本は誰にも支配されぬ。そんな日の本をワシは作る!貴様はその箱を使いワシを・・・織田家を補佐せよ」


 「え!?いや、自分はただの一般人なのですが!?」


 「関係ない。ワシは出来ると思う者にできると思う事しか言わぬ。何も貴様に誰かを討ち取れなぞとは言わぬ。貴様の世は戦なぞ無かったのであろう?平民が武器を持つのは処罰の対象だったのであろう?ならば、武が出来ぬのも道理じゃ。暫くは清に武芸を教えて貰え。自分の身を守る事くらいは出来ねば男ではない。この清はそこら辺の男の武者なんかより遥かに強い。身長も巨人のようじゃしな。だから嫁にも貰ってもらえぬのじゃ」


 「あぁ〜!大殿!その言い方はあんまりです!!」


 「クッハッハッハッ!許せ!」


 案外、苛烈な人かと思いきや、そうでもないのかな?清さんにも慕われている気もするし、冗談も通じるみたいだし。


 「そうじゃ。貴様の事はなんと呼べばいい?」


 「え!?普通に尊とお呼びください」


 「で、あるか。貴様が良いというならばそうする。飯だけでなく、貴様の才を見せてみよ。ここはワシが天下を統べるに値する城を築城中じゃ。ここで暫くは賦役中の者に飯を食わせてやれ。後日、前金を持って来させる」


 なんか知らないけど・・・マジで仕える事になったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る