ドライブイン安土 開店8

 「ぬぉ!?ここはなんぞ!湯が張ってあるではないか!なに!?ここに浸かるのか!?この粉はなんぞ!?お!?みかんの匂いがしよるぞ!何をしておる!はよう身体を洗え!」


 「おぉ・・・良い!良いぞ!身体がスッキリするようじゃ!前はよい。清を呼んで来い」


 「はっ。清はここに」


 「前を洗え」


 「はっ!」


 クゥ〜・・・・何でオレが信長の頭と身体を洗わなければならないんだ!しかも!しかも!!前は清さんにだと!?うらやま・・・けしからん!!どうせ帰れないならオレも好き放題してしまうか!?あん!?信長をバックに立身出世して、城で女を侍らかせるか!?あん!?酒池肉林でもするか!?


 だが、信長の信長はビッグマグナムだったな。あれで側室なんかもヒィーヒィー言わせているんだろうな。


 「織田様。着替えはここに置いておきます。自分の服ですが、申し訳ありません」


 「良い。そこら辺に置いておけ」


 オレは信長が着ていた服を洗濯機に入れて洗う事にした。清さんが着ていた服よりかなり丈夫そうな作りだ。

 そういえば、清さんは下着類は着たのだろうか?着方とか分かったんだろうか?まぁその辺はいいか。おっ!?


 オレは一階に戻り、タブレットをなんとなく見るとレベルのところが《LV3》となっていた。

 いやマジで法則が分からん。なんでレベルが上がったんだ?


 タップして、ざっと何が変わったか確かめる。すると、項目の所に《薬》と出ていた。


 「おいおい・・・。まんまこれネットスーパーじゃねーか!」


 そして、更によく見るとレベルの横が点滅し、《ヒント》というのがあった。すかさず、タップしてみると、どうやらレベルが上がる理由が分かった。何度もいうが、原理は分からない。が、レベルが上がる理由はオレの飯を・・・というか、【ドライブイン武田にまた来たいと思う人が増えるとレベルが上がる】と書いてあった。ヒントどころか、まんま答えじゃん!?とオレは思う。

 つまり、清さんは・・・確定だと思うけど、信長か、丹羽さんか池田恒興?の誰かがまた来たいと思ってくれたって事だよね!?


 これ・・・この時代のお金を入れたらどうなるのだろうか。近々、信長がお金をくれるらしいから試してみよう。それと、どうせだから献上しようと思っていた物は渡そう。格安でオレは補填できるようになった訳だし。


 「尊!どこに居る!」


 「あ!は、はい!」


 2階から信長の声が聞こえた。かれこれ、1時間は入っていたんだな。


 「実に良かった。あのような湯に浸かったのは初めてだ。疲れも悩みも全てを忘れさせてくれた。ここを放置するのは危うい。それに流石に清1人ではいかぬ。早急に見張り役を寄越してやるから、貴様が差配してみよ。ここは飯屋なんだろう?城が出来れば町も出来る。人の往来も増える。畿内は落ち着いては来たが、まだまだ油断できぬ。貴様はここで商売もしろ。ワシが呼んだ時はすぐに来るように」


 「わ、分かりました!」


 「うむ!決心した顔になったな。まずは配下に顔見せせねばなるまい。落ち着けば皆を呼び寄せ、ここへ連れて参る。ここを見れば皆も貴様を分かるであろう。小難しい話は終わりだ!寝床を用意せい!清に聞けば、なにやらふかふかと申す物があるのであろう?ワシが試してやろう!」


 いやいや、もう寝るのかよ!?まだ20時だぞ!?しかもふかふかて・・・。布団だろ!?


 「なっ!これは良い!実に良・・・い・・・(ガァー) (ガァー)」


 「いやもう寝たのかよ!?」


 「(クスッ)静かに・・・。下へ参りましょう」


 清さんはさっきまでの顔と代わり、優しい顔でオレに話しかけてくれた。


 「はい。清さん。お疲れ様でした」


 「いえいえ。尊さまの方が疲れたのでは?それに良かったです。もしお館様が尊さまを気に入らなければ、私はお館様に刃を向ける覚悟がございました」


 「え!?それはダメだよ!オレなんか本当はこの時代の人間じゃないんだし・・・」


 「そんな風に私は思っておりません。私はここが好きです!なんならここで住みたいくらいです・・・」


 あれ!?何か寂しそうな顔だけど・・・。


 「いつでも来ていいですし、清さんなら歓迎しますよ!」


 「ありがとうございます。ですが、先程の湯の時に大殿に言われました。『下女腹の生まれとはいえ、お前は丹羽家の姫だ。いつまでも男のようなままではいかんだろう。直ぐにではないがワシが縁談を纏めてやる。それまでここで彼奴に武芸を教えてやれ。それが終わればお前は女として生きろ。子を産み、家を守れ』と言われまして・・・」


 なんだろう・・・。急にこの時代で1人になったような気がした。ぽっかり心に穴が空いたような気分だ。この子とはまだ知り合って2日と経っていないのに、不思議な気持ちだ。恐らく少し・・・好きになってきているのだろう。

 この子と喋っていると、少しドキドキするし。けど、時代の異物であるオレが、好き勝手するのは・・・よくないよな。それに伝助君も・・・。いや、あれは無理だろうな。


 「そうですか!良い話じゃないですか!清さんなら良い奥さんになりますよ!優しいですし、綺麗ですし!いやぁ〜、旦那さんが羨ましいですよ!」


 「・・・・・・ありがとうございます。ま、まぁ、暫くはまだ居ます!それに尊さまに武芸を教える役目も授かりましたし!明日から早朝に素振りから始めましょう!」


 「あれ・・・マジなんだ・・・。オレは武芸なんか・・・」


 「そんな事言ったらいけませんよ!殿方は刀は少しくらい出来て当たり前です!」


 いや、本当に遠慮したいんだけど。なんなら鉄砲の方がいいんだけど・・・。ワンチャン、タブレットのレベルが上がれば武器とか出ないだろうか・・・。


 《・・・・・・・・・》


 

 「(おはようございます!尊さま!)」


 耳元で何か囁かれた。


 「うん?え!?あぁ・・・おはようございます。もう朝ですか!?」


 「はい!大殿はまだ眠っております!さぁ!稽古の時間です!」


 オレは時計を見た。朝の3時50分だ。最早、早朝ではなく夜中だ。ちなみに、信長は親父の部屋に寝かせた。清さんはオレの部屋。オレは居間で眠った。この時代の人の夜は短い。信長は言わずもがな。清さんも9時には眠ると言ったから、オレも居間で横になると、自然と眠っていたようだ。が、この時間に起こされるとは思わなかった。

 顔を洗い、歯磨きしたあとに外へ出る。時間はなんとなくだが、オレが居た未来とリンクしてるように思う。日付けは分からない。確かユリウス暦やグレゴリオ暦とかあるけど、その辺は分からない。が、カレンダーで今日は5月4日だ。


 外は少し寒い。オレはジャージに着替えて出ると、清さんは屈伸をしていた。


 「まずはこの刀を私のように振ってください」


 オレは適当に真似をしたのだが・・・


 「尊さま?やる気あります?真面目にしてください!こうなれば徹底的に教えます!まずは、刀より体力から始めましょう!走りますよ!」


 オレが適当にしてた事が気に食わなかったようだ。


 これから3時間が地獄の始まりだった。


 「尊さま!もっと早く!」


 「離れてますよ!このくらいで根を上げてどうするのですか!」


 「このくらいなら、岐阜の城下の童でも付いて来られますよ!」


 「まさか、駆け比べもされた事ないのですか!?」


 「次は私を背負って屈伸です!私は背が高いから重いですよ〜」


 「これに関しては素晴らしいですね!大抵の男なら5回で諦めるのですが・・・凄い!凄い!30は超えてますよ!」


 「次は綱引きです!この〆縄を引っ張り合うだけです!よーい!どん!あれ?軽く引っ張っただけですよ?さぁもう一度!」


 「次に刀です!疲れているでしょうが、この時が1番集中力が養われます!限界を迎えてこその鍛錬です!(ブォンッ)(ブォンッ)はい!止まってください!その体勢で少し待機!」


 「はい!少し休憩しましょう!・・・・はい!続きを始めますよ!」


 いや、もうね・・・。マジで無理。清さんをおんぶして屈伸は本気を出したよ。最初は剣道部の臭いだった清さんだったけど、今はフローラルなシャンプーの匂いがして、俄然やる気になったからな。けど、他のは無理。

 しかも、この時代って意味の分からない訓練かと思いきや、この人に限っては凄い合理的な現代の筋トレのような感じなんだもん。


 オレが倒れ込み、朝日が顔を出す前だ。清さんが槍を持ち、オレに話しかけて来た。


 「尊さま。中へお入りください。なにか殺気が向けられております」


 「へ!?殺気!?マジすか!?」


 「誰ぞそこに居るのは!」


 「「「へっへっへっ」」」


 「チッ。野伏りか。斬られたくなければ近付くな。近付けば賊として斬るッ!!」


 いやいやマジかよ!?見るからに臭そうで悪そうな男達が現れたんだけど!?

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