ドライブイン安土 新生6-3

 「た、尊の旦那・・・こ、これはどういったことで・・・」


 「ほぅ?その方が近江の鍛治師か。元は浅井家のお抱えか?」


 「め、滅相もございませぬ!じ、自分はそこら辺の野良の鍛治師でございます!!」


 「野良鍛治師にこれは打てん。それに・・・尊。この女は町娘と言ったが本当か?出立ちが整っておる。町娘ではなかろう?」


 「織田の殿様。直答お許しください」


 「構わん」


 「私はただの娘です。織田様が気になるような女なんかではございません。ただ、尊様の相棒と言えばよろしいでしょうか。未来では男女で仕事仲間になる事は珍しくありません。寧ろ普通でございます」


 カナは何言ってんだよ!?当初はこの時代の町娘設定だったろう!?何で変えるんだよ!?


 「やはりな。お主がワシらと似ておらんと思うておったのだ。なら最初から言えば良いであろうが」


 「申し訳ございません。その私が、少し知識を源三郎様に披露し、作り上げた刀が織田の殿様が疑問に思われている事でございます。源三郎様。お出しなさい」


 「うん?」


 「わ、私が作り上げた・・・一振りにございます!ぜ、是非にこれを献上したく・・・気に食わなければ打ち捨てていただいて構いません!お代もいりません」


 カナと源三郎さんがそう言うと、木箱を信長に渡した。見るからに刀だと分かる。まぁこうなる事はカナが予想したんだろう。だから、もう一つ作らせたのかな?


 「近江の源三郎の心意気、確と受け取った!(スチャ)」


 こういう時って形式なんかがあるのかな?信長は決め台詞のような事を言って、木箱を受け取り、中身を確認した。


 「こ、これは・・・」


 信長の刀はオレや、清さんが貰った刀とは違っていた。長さや太さの基準がどのくらいが普通なのかは分からないが、少し大きいように見える。

 刀身は、現代のCDの裏側のようなマジョーラカラーのようで、七色に輝いている。柄の目貫の所に関しては織田木瓜紋だ。そして、最後部の頭の部分には髑髏があしらっている。

 素人のオレでも分かる。これはヤバイやつだと。そして、この独創的な刀を信長が・・・


 「源三郎ッッ!!大儀である!」


 嫌う訳がない。寧ろこういうのこそ、信長は好きだろう。黒歴史全開の信長だ。現に、髑髏の刺繍入りのマントをよく装備しているし。返答に関してもこれ以上ないくらいのニコニコ顔だ。


 「尊!少し付き合え!」


 「え!?あ、は、はい!」


 信長に唐突に言われ、表に出る。そして・・・


 「抜けッ!」


 いきなり刀を抜けと言われた。最近も継続して訓練はしているけど、無理無理!上達していないんだぞ!?手加減してもらわないとマジで死ぬよ!?


 信長が『抜けッ!』と言うと、濃姫、お市、側室さん達、お登勢さん。護衛の女武士の人達全員がオレと信長を円陣にて囲む。マジで勘弁してください!


 「貴様は構えておけ。安心しろ。斬りはしない」


 信長がドス黒いオーラのような物を放ちながら言った。全然、安心なんてできない。


 「あっ、すまん!しくじった!」

 

 とか、言って斬られたらどうすればいいんだよ!?誰も信長の事を裁けないだろ!?


 「(スチャ)」


 そんな事を思いつつも一応、清さんやカナ、偶に慶次さんに教えられたように抜いた。右構え上段だ。




 オレは何回も言うが素人だ。素人のオレが連続技なんてできる訳がない。なら、オレは何ができるのか。 あれはとある日の訓練での事だ。清さんの鬼畜筋トレのあと、カナとのスパーリングのような乱取りだった。この日はオレからすれば地獄のようなメンツが集まった時だった。


 この日は丹羽さんは穴太衆と石垣の事の話を詰めるため、いつもより早く来店し、丹羽さんも『訓練を見てやろう』と言われたのだ。


 何回も何回も入れ替わり立ち替わり乱取りが続いて、カナがオレに言った。


 「マスターは一撃に全てを掛ける刀法が似合ってると思います」


 「うむ。カナとやらはよく見えているな。今しがた、ワシもそう思った。それに、お主のような女が居るなぞ聞いた事無かった。清よりもやるんじゃないのか?」


 「いえ。私は清様の足元にも及びませんよ」


 「・・・・もぅ勘弁してください」


 「なりません!」「ならぬ!」


 「そうですよ!尊さま!限界を超えた先に成果があるのです!」


 「・・・仮に一撃に全てを賭けたとして・・・しくじったらどうすればいいの!?」


 「わっはっはっはっ!その時はサパッと死ねばいいのさ!その悔いもないような一撃を相手に御見舞いしてやればいいのさ!このようにな!(ドガンッッッ)」


 「はぁ!?何で石を斬ってるんだよ!?おかしいだろ!?」


 「いやぁ〜。源三郎が打った、この剛の刀は凄いぞ!わっはっはっはっ!」


 「まぁマスターにも分かりやすく言えば、示現流と言えばいいでしょうか。島津の刀法のような感じです」

 

 あの日は本当に地獄だった。慶次さんが石を斬ってから、何故か目標が変わったからだ。オレも石を斬れるまで訓練は終わらないと言われたからだ。昼過ぎにほんの少し石を斬って訓練が終わった。

 だが、あれは石が欠けただけのように思う。それに島津の示現流は聞いた事がある。言われた事と同じような、一撃の刀法だっけ?確か『チェスト!』とか叫ぶんだっけ?

 なにより1番凄いのは源三郎さんが作った刀だ。あれだけ石相手に叩き付けてもまったく刃毀れしないのだ。


 「ほぅ?貴様も訓練しているようだな。右構え上段。変わり構えか。ならばワシは真っ向斬りの構えだ」


 信長は低い声でそう言うとは体の真ん中に刀を構えた。店の外にある電球の明かりに灯された信長はその獲物の刀と相まって、一段とヤバさを感じる。


 信長の構えが終わり、少し時間が流れる。恐らく数秒の出来事だろう。だがオレには何分も構えているように思えた。そして、その時は来た。


 「うぉりゃっ!」


 オレが教えられたのは1対1の場合、先手を取られた場合は、相手の斬り口には反対の刀で防御すると教えられた。つまり、信長は今は兜割りのように振ってきた。この時の防御の正解は刀を横にして相手の刀を受ける。もしくは避ける。


 その後、オレが教えられた事は受け止めた後、オレの身長を生かし、そのまま跳ね返す。相手が後ろへ下がるのを逃さず、一撃を返すという事だ。


 ガキンッ


 オレの黒刀と信長の七色の刀が混じり合う音は聞いた事のない金属が擦れ合う音だ。しかも少し火花まで出ている。


 オレは刀を受け止めた。ここまでは良かった。そしてそのまま現代のパワーリフティングの選手のように自分の刀を両手で支えたまま押し返そうとしたのだが・・・


 「(スチャ)ふん。甘いな。ワシの一撃を受け止めた事は褒めてやろう。まぁ、3割の力も出さなかったのだがな」


 信長はオレに押し当てた刀を直ぐに引き、オレの首に切先を当てた。


 「それまでッ!お館様もどうかその辺に・・・」


 清さんの声でこの試合が終わった事が分かる。ワンチャン、勝てるかな?の思っていたのに・・・。少し悔しい。


 「いや、面白い余興だったぞ?まさかワシの気に充てられ言葉も出なかった小僧がここまで短期間で成長するとはな。じゃが、経験が違う。我こそは右近衛大将、権大納言ぞ!昨日や今日、刀を覚えた者に遅れは取らぬ!」


 いや、素直にカッコいいわ。勝てる訳がないよな。それに・・・よくよく考えてみれば、オレが作った飯食ってるんだからオレが勝てる訳ないんだよな。あの3割というのも嘘ではないんだろう。


 「参りました」


 「ふん。食後の良い運動となったわ。源三郎!お主はこれより国友衆と合流せよ。そして、お主はお主で独自の鉄砲を作れ。銭は好きなだけ使って良い」


 「え!?は、はっ!」


 「工房には何人居るのだ?」


 「じ、自分1人でございます」


 「あん?1人だと!?これを1人で作り上げたのか!?誰ぞ旧知の信用できる者が居るなら5人程見つけろ。居らんのならワシが下に誰が付けてやる」


 「む、昔の知り合いが近江に居ります!」


 「良きに計らえ。名目上は尊の下じゃ。尊はこの源三郎等を厚遇せよ!そして・・・カナ!」


 「はい」


 「お主は『知識を少し披露した』と言うたな?つまり他にもまだ隠している事があるという事だな?」


 「はい。隠すつもりはありませんが全て、マス・・・ゴホンッ。尊様も知り得ている事です。私は知識に関しては尊様の足元にも及びません」


 うん。嘘ばっかりだ。カナの方が凄い知識を持っているのは知っている。オレの方がハナクソのようなものだ。


 「良い。お主等は織田家に役に立つ物を何でも良いから作れ。お主らも銭は好きなだけ使え。ワシが許可する。それと・・・100貫の貸しだが、此度の源三郎の褒美として債権は源三郎とする」


 「はぁ!?え!?って事はオレは源三郎さんに100貫を渡すって事ですか!?」


 「その通りじゃ!源三郎も、よもや100貫で足りぬとは申さぬよな?」


 「・・・・・・・」


 源三郎さん・・・銭100貫って聞いて気絶していた。


 「誠、面白い。天下布武も佳境となってきた!名実共に織田の名が日の本に響き渡ってきた頃に貴様等だ。まだまだ織田は大きくなるぞ。明なんかには負けぬ日の本にせねばな。皆の者、少し下がれ」


 信長はそう言うと、オレ達を下がらせた。そして・・・


 「(ブォォンッ!!!)うぉりゃッ!!」


 大きく刀を振りかぶった。


 「「「「おぉ〜!!!」」」」


 「殿!!」「お館様!カッコいいです!」


 「兄上〜!妾もその刀が欲しいです!」


 信長は大きく刀を振りかぶったのだが、オレは目を疑った。距離にして10メートルくらいだろうか。その10メートル先にある店の看板・・・


 《ドライブイン安土》


 と、清さんが書いてくれた看板を斬ったのだ。なんて言えばいいだろうか。飛ぶ斬撃と言えばいいだろうか。


 「な、なんですか!?今のは!?」


 「ふん。なんとなくこの獲物ならできるかと思うたのじゃが、できたようじゃ」


 「できたようじゃ!じゃないですよ!看板どうするんですか!?」

 

 「な・・・許せ!我こそは権大納言ぞ!」


 「権大納言だろうが大将だろうが関係ないです!明日からどう営業すればいいんですか!!」


 オレは清さんとの初めての共同作業の看板を斬られ思わず口答えしてしまう。いや、だが当たり前だ。何でわざわざ看板を斬るんだよ!?他の物でもいいだろ!?


 「遠藤ッ!!遠藤はどこぞ!!」


 「はっ!上様!ここに!」


 「直ぐに上等な木と墨を持ってこい!」


 「じょ、上等な木ですか!?」


 「早うせい!」


 信長は遠藤さんに無茶振りし、遠藤さんはどこで見つけてきたのか分からないが、看板にちょうどいい大きさの木と墨と筆を持ってきた。この時間で10分くらい。流石、筆頭小姓と言われるだけある。


 「(ザッ ザッ ザッ)これで文句はなかろう!ワシの直筆だ!末代までの誇りとなろうぞ!これで客足も倍・・・いや、貴様はこれからは寝る間もないくらいに忙しくなるだろう!」


 信長は大きく書いた。


 《ドライブイン安土》


 と。ただ・・・織田木瓜紋+髑髏。


 これまた器用に描かれている。描き慣れているのが分かる。威圧感丸出しの看板・・・。間違いなく後世では国宝級じゃないだろうかと思う。

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