ドライブイン安土 新生7

 信長と濃姫やお市、側室さんと来訪してから1ヶ月程過ぎた。季節は秋に差し掛かり、暑さも和らいできた所だ。オレは相変わらずだ。

 慶次さんに関しては、現代のような移動と違う為、暫く会っていない。まぁ、これに関しては仕方がない。それにオレ自身もそんなに焦ってはいない。


 まずはこの1ヶ月の出来事を言おう。

  

 この1ヶ月で色々と変化が現れた。店の事に関しても軍事に関してもだ。まず、例の信長が女ばかりを連れて来てから、例の試合の後の事だ。


 「食後の良い運動となったわ!汗が出た。今一度、風呂に浸かりたい!用意致せ!」


 「わ、分かりました!」


 オレとの試合が終わり、上機嫌となり濃姫ともう一回風呂に入っていた時のこと。


 「太郎君、次郎君?何か簡単に作ろうか」


 「え?何を作るんです?流石に、皆も食べられないのではないですか?」


 「違う!違う!外の女武士の人達にだよ!多分、寝ずに見張りをさせられると思うんだ。食べ物がないのは可哀想だろう?」


 「(クスッ)やはり、尊さまはお優しいですね!」


 「いや、優しいも何も、普通だと思うよ!?何がいいかな?」


 「あっ!それなら自分が作りたいっす!」


 「へぇ〜。次郎君が作りたい物があるんだ?何かな?」


 「はっ!この料理本に書いてある、とるてぃいやなる物を作りたいっす!」


 「トルティーヤね。確かに今ある材料でそれなりのは作れそうだけど、大丈夫?」


 「大丈夫っす!あ、いや、できれば尊様も手伝っていただけたら助かります!」


 「まぁな。ただ、食材を乗せただけでも身体が強化される謎仕様だもんな。よし!作ろう!」


 この時作ったトルティーヤは店に置いてあったレシピ本に書かれていた通りに作った。本場のトルティーヤは食べた事ないからどうかは分からないが、味見してみた限りでは普通に美味かった。

 ラーメンに使うチャーシューを乱切りにし、小麦と卵、塩、胡椒を混ぜて、フライパンに薄く生地を伸ばして焼いた物だ。

 表面に少し焦げ色が付いたら、オリーブオイルをハケで塗り、レタスの葉を敷き詰めて、肉を乗せ、カレーのルーを薄く滴らした物だ。


 「何を作っているのじゃ?」


 「こら!市姫!邪魔をしてはなりませぬぞ!」


 「あっ、お登勢様。別に構いませんよ。ちょうどお夜食分も作りましたので、食べられますか?」


 「夜食!?やったぁ〜!妾は食べるのじゃ!」


 もう、お市が優勝でいいや。少しポッチャリはしているが、それはこの時代でということ。現代なら普通体型くらいのお市だが、いったいその体の、どこに入っているんだよ!?ってくらいに食べる。


 最初に出したメニューの半分はお市が食べたんだからな。濃姫も少し引いている顔だった。そしてこれだ。お市はまだ食べるらしい。


 「(ハムッ!)う〜ん!美っ味い!絶品じゃ!登勢も食べてみやれ!」


 「い、市姫!!て、手で食べるなんて端ないでございますぞ!!」


 お市がオレから受け取り、そのまま手で食べていたのだが、オレは当たり前過ぎて気にしなかったのだが、どうやらこの時代では権力者は手で食べるのは礼儀的にダメみたいだ。一つ勉強となった」


 「ゴホンッ。これは本来、手で食べる物ですよ。まぁ、中にはそうじゃない人も居るかもしれませんが」


 未だ、ナイフとフォークは教えていないからな。早く教えてもいいかもしれないな。

 

 「そ、そうですか。尊殿がそう言うなら・・・」


 「はい。どうぞ。お登勢さんの分です」


 「ほんに、いいのですか!?」


 「えぇ。寧ろ味をお聞かせください!」


 「それでは・・・(ハムッ)こ、これは・・・美味しい・・・非常に美味にございますよ!」


 信長の前では随分話し方が変わる人だな。最初は優男とか線の細い男とか言っていたのに。


 「ははは。良かったです!これを見張りの人達にお出ししようと思っております。構いませんか?」


 「なんじゃ?腰元の兵に配るのか?てっきり、妾の物かと思うたのじゃが・・・」


 思うたのじゃが・・・じゃねーよ!どんだけ食うんだよ!?


 「あまり食べ過ぎるのは良くないですよ?また、いつ来られても食べ・・・あ、いや、すいません」


 オレは途中で思い出した。自由に出歩けない人で、今日来店した事も信長が決めた偶々だったんだよな。


 「嫌な事を思い出させる男じゃな。じゃが、感謝しておるぞぇ。長政様の元へ嫁いだ時以来の幸福じゃ!長政様が捌いてくれた鯛は美味であった!・・・グスン・・・お・・・あれ!?」


 浅井長政と夫婦仲がよかったのは本当なんだな。思い出してしまったのか。申し訳ない事をしてしまったな。


 「(パサッ)市姫は疲れてしまったようですじゃ。尊殿。この事は他言無用に」


 「えぇ。皆も何も見ていないな?」


 「「「「はっ!」」」」 「はい!」


 「清さん?2人にアイスクリームでも出してあげて」


 「(クスッ)畏まりました!」


 この後、オレと次郎君、梅ちゃんは外にトルティーヤを持って行った。表に出た瞬間、綺麗に整列し直してくれたが、女なのによく訓練されてあるとオレは関心した。


 「えぇ〜、ここの隊長?さんは居ますか?」


 「はっ。私が、頭をしております!」


 「お疲れ様です。よければ、腹の足しになるかは分かりませんが、南蛮の食べ物です。お市様とお登勢さんは美味しいと言っていただきました。よければ、お食べ下さい」


 「いえ。御勘弁ください。私達はそのような・・・(ゴグン)」


 今、唾を飲んだな。食べたいんだろう。


 「別に禁止されてる訳でもありませんし、食べた方が元気も出ると思いますよ。織田様に何か言われてもオレからの命令と言ってもらってかまいません」


 「そ、そこまで貴方様が言われるなら・・・」


 「た、カヤ様!?」


 「構わん!ここの店主殿の命令なのだ!仕方がないであろう!(ハムッ)美味い!?美味い!!(ハムッ!ハムッ!)皆の者も食べろ!美味い!」


 「(ハムッ!)」「店主殿!?こ、これは!?」


 「トルティーヤという食べ物です。横に居る、この次郎君という子が是非あなた達を労いたいと言いましてね」


 「た、尊様!?」


 ふん。オレは知っているぞ。結構居る女兵士の中で、真っ先に迷わずトルティーヤを手渡ししていた子が居る事を。次郎君も中々やるな。


 「えっと・・・お味はいかがですか?」


 「へ!?あ!?え!?わ、私ですか!?」


 「そう!あなたです!」


 「ひ、非常に美味でございます!」


 「そっか。次郎君?おいで〜。この子と一緒に紙皿の回収しておいてね〜」


 「あ!ちょ、ちょっと尊様!?」


 青春だ。


 「ちょっとぉ〜!なーによー!少しくらいいいじゃなーい!」


 「ご、御勘弁を・・・」


 「へぇ〜。太郎君?」


 「た、尊様!ち、違うのです!」


 「えっと・・・あなたは?」


 「ちょっと聞いてよー。あなたここの店主なんでしょ?アタイはこの男に食べ方を聞いたのに教えてくれないのよー」


 「いや・・・手で食べると言ったではありませんか」


 「えぇ〜。アタイ、それだけじゃ分からないのよぉ〜。食べさせてほしいのよー。アタイは女角力の優勝戦の時に手を怪我して上手く持てないのよー」


 この女性は見たままだ。言われなくても相撲が強そうな人だ。まぁ、そのなんだ。うん。太郎君。頑張れ。


 「太郎君!優しく教えてあげなさい!そして食べさせてあげなさい!」


 「そ、そんな・・・尊様・・・」


 「さすが店主!話の分かる男だねぇ〜!」


 青春だ。


 まぁ、長くなったが、この女兵士の人達が方々で話してくれたおかげで、女性客がかなり増えた。前にも言ったが、案外、女性の兵士もそれなり居るみたいで、先の相撲が強い女性なんかもかなり慕われているみたいで、舎弟と言われる女性達が結構な頻度で来店してくれているのだ。


 次郎君が相手していたあの子。オレが見ても可愛らしい子だ。名前はアヤちゃんというらしい。この子のお父さんは古くから岐阜城に勤めていたらしく、番頭という身分らしく、一般兵よりかはかなり上の位の生まれみたいで、鍋さんの側近女兵士の1人なのだそうだ。

 それで、このアヤちゃん。そこそこの有力者の女友達が多いみたいで、この子もかなりの人を連れて来てくれている。お市に負けず劣らずの大食いだ。なのに細い。


 太郎君?あぁ。あれはまぁそのなんだ。頑張れという他ない。


 「太郎きゅ〜ん!」「こっち向いてぇ〜!」


 こんなやり取りが店の中で行われている。青春だ。


 慶次さんが居ない中、オレが独断で進めている事もある。甲賀村から健脚の人を更に選抜して、創設した遠征行商人だ。野田さん、小泉さん、青木さんという3人だ。

 何をしているか。それは甲斐への行商だ。各々に、栄養ドリンクを5本。これは自分だけが飲むように伝えている。もしもの時の為だ。


 荷は真空パック機にて次郎君や太郎君が作った、豚肉の角煮や、コイの塩焼き、焼き鳥などなど。一度、火入れした食べ物を売ってもらう為だ。何故、甲斐?と思うだろう。それは・・・


 「できれば、権力者に売って、代金は甲州金にしてもらいたい。金は古今東西裏切らないからね」


 「食料で金取り引きは中々難しいように思いまするが・・・」


 「ふふふ。侮ってもらっては困るのだよ!その為に・・・これだ!オレがマウンテン富士にて会得した技で取り寄せた物だ!


 《二十六年式拳銃》


 という片手銃だ!」


 「ぬぁ!?それは大殿や尊様がお持ちになっている片手銃では!?流して大丈夫なのですか!?」


 「大丈夫だ!カナと源三郎さんの完全な指導の元、ここのラッチと呼ばれる所を削ってもらっている。つまり・・・カナの計算では20発程撃てば不具合が起きるそうだ。甲斐で試し撃ちで数発撃ち、実演してもらう。まず、この片手銃の魅力に取り憑かれるだろう。あわよくば、『言い値で構わん!』と言われるかもしれない」


 「本当に大丈夫なのですか?」


 「大丈夫だ。カナからお墨付きを貰っている。売った後は、直ちに3人は甲斐を脱出。直ぐに甲賀に帰ってくるように!それと・・・


 《S&W M28》


 これを君達に授けましょう!別名、ハイウェイパトロールマンと呼ばれる回転式拳銃だ!」


 「こ、これを・・・」「わ、我等に・・・」「構わないのですか!?」


 「あぁ。弾薬は.357マグナム弾と呼ばれるこれだ。1人一包。60発入っている。別途、ここに200発程あるからカナにも言ってるから必ず、リロードと分解掃除、組み立ての免許皆伝を貰うように。

 その皆伝次第で、遠征に行ってもらいたい。極力、この鉄砲は出さないようにしてもらいたい。だが、命の危機や、危険を感じれば迷わず使っていい。絶対に誰も脱落せずに帰ってくること!これがオレとの約束だ!」


 「り、了解致しました!必ずや甲州金を根刮ぎ!」


 いや、根刮ぎまでは要らないけど。オレが何故、金を必要としているか。それは、カナの金遣いの荒さのためだ。あればあるだけ使うカナ。最近に関しては最早報告すらしてこない。この前までは事後報告ではあったが、ちゃんと報告してくれていたのにだ。

 この金をタブレットにクレジットして売り払おうというオレの安っぽい考えだ。


 ちなみに、他の甲賀村の人も負けていない。源三郎さんに弟子入りした人多数。そして、近江で鍛治職をしていた旧知の人を迎え入れている。カナの圧迫面接に合格した人達だから恐らく素性は大丈夫な筈だ。

 他にも、オレの店で働きたいという人がかなり・・・いや、連日のように来ている。が、これは清さんが追っ払ってくれている。そんな余裕はない。


 そして今・・・


 「では、尊様。必ずや甲州金とやらの山をお持ち致します故。御免!」


 「尊様!行って参ります」


 「安心してください!必ずやこの任務を果たします!」


 「そこそこでいいからね!?絶対に命大事にですよ!?イケイケドンドンはダメですからね!?」


 カナから皆伝を貰ったらしく、3人は旅立って行った。一方、そのカナの方だが、最近は甲賀村の中に一つだけ歪な建物がある。ここは24時間、誰かが必ず全方位守っているカナのラボだ。そこにオレは呼ばれた。


 ガラガラガラ


 引き戸を開けるとそこに・・・


 「なっんじゃこりゃぁぁ〜〜!?」


 「ふふふ。マスターも驚かれましたか!」


 再び現れたカナの今世紀最大のドヤ顔だ。

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