ドライブイン安土 開店10

 「むほっ!これは、いつかの宣教師共が献上してきたパオンではないのか!?」


 「権六!その野人のようなガッツキを見せるでない!」


 「宣教師の者達のより柔らかいですな!しかもかなり柔らかく、ふわふわですな!」


 「塩っ気ではない。これはなんだ?ほう?バターというものか。これを城に回せ!あん?その目はなんだ?ワシが食いしん坊だと思っているのか?さっきまでピーピー言っておったくせに。権六よ。此奴は童のようにピーピー言っておったのだぞ?ただの野伏り如きにだ」


 「肝の小さい奴じゃのう。そんな線の細い身体じゃ。どうせマラも小さいのじゃろう。ほれ!脱いでみぃ!ワシが貴様の見てやろう」


 「良いではないか。組敷こうなぞとは思わぬ。マラを見せぃ!ぬっ・・・貴様、中々の物を持っておるではないか」


 「権六。その辺にしておけ。飯が不味くなる。妻に操を立てるのは良いが、男色ばかり致すな」


 クッ・・・。まさか男に襲われるとは思わなかった・・・。本気で怖かった。あの髭もじゃおっさんが無理矢理ズボンを降ろしてくるなんて思わないだろう!?確かに戦国時代では男同士のアレも盛んな時代だったよな・・・。オレは女の子が良いんだけど。


 朝飯はパンをオーブンで焼いてバターを塗っただけだ。流石に作る元気はなかったからだ。そして、あの関ヶ原の戦いで有名な石田三成の居城である佐和山の城は、現在丹羽さんが城主らしい。

 何故、知ったかというと・・・


 「この丹羽五郎左長秀一生の不覚。まさか安土に程近い場所で賊や野伏りを見逃すなぞ・・・。斯くなる上はこの腹掻っ捌いてーー」


 「長秀!そういうのは良い。求めていない。賊は元浅井家の者だったと聞いた。近江出身の奴等なんだろう。ワシは無傷だ。気にしていない。だが、今後は許さぬ。どこぞにネズミが潜んでおる。賦役を課している者を今一度精査しろ。ワシがここに居る事が分かっているようじゃった」


 「はっ!今一度徹底的に調べあげまする。そして、周辺をくまなく探し、怪しい者は厳しく詮議致す事とします」


 「うむ。良きに計らえ。佐和山の方は問題ないか?」


 まさか、丹羽さんがこんなに熱くなる人とは思わなかった。で、話の中で佐和山と出て、今は丹羽さんが佐和山城の城主なんだと分かった次第だ。


 オレは激甘コーヒーとパンのお代わりを皆に出して、隠れてタブレットを弄る。深手ではなさそうだったが、清さんは腕を斬られたのを見たからな。破傷風なんかになればオレは一生後悔するからな。


 すかさず、薬の所をタップする。


 縫わないといけないレベルならオレは何も出来ないけど、血がポタポタって事もなかったしな。

 オレは・・・

 《ゲンタシン軟膏》3斤

 《包帯》300両

 《消毒薬》300両

 

 この3つを購入した。どうやら織田家おっさんズは拳銃について、何やら真剣に話しているみたいだ。後で、装填をしないとオレも撃てないからな。弾倉に弾はもうないから、おっさんズは放っておいて大丈夫だろう。


 「清さん?大丈夫ですか?」


 「あっ!尊さま!」


 「あぁ〜ぁ!手がこんなに・・・」


 どうやら、死体を埋めたぽいのだが、明らかに手で掘ったように見えた。だって手が泥だけだからだ。

 オレは店の裏手にある蛇口を捻る。もしこれで水が出なければどうしようかと思ったが・・・


 ジャーーー


 問題はないみたいだ。それと・・・原付きも置いてあった。全然気にしてなかったから分からなかった。これも皆が帰ったら使えるのか検証だ。


 「そ、そんな尊さま!?私如きに大袈裟な・・・」


 「はい!そんな事言わないで下さい!手も捲りますね?傷の方は・・・」


 縫うほどではなさそうだが、20センチくらいの傷だ。血はまだ乾いてなさそうだが、止まってはいるみたいだ。


 「そそそんな・・・殿方の方からお手なんか・・・」


 オレも彼女ではない女性にここまでしたのは初めてだ。けど、オレがしてあげたいと心から思っての行動だ。まずは、ホースの水を手に出して、厨房から取ってきた石鹸で綺麗に洗う。


 「少し染みるかもしれません。我慢してください」


 「はぃ・・・」


 清さんは少し顔が赤くなってるように見える。信長さんの身体を洗ったのに何故だ?

 

 傷の方は見事に肘当てでガードしたみたいだ。肘当てに傷も付いている。そのまま腕の方まで刃を逃したような傷に見える。

 傷も軽く水で流したあと、消毒薬を斬れている所に付ける。


 「うっぐ・・・」


 流石に染みるのだろうな。けど、我慢してもらわないと。


 「これから切り傷の軟膏・・・まぁ、薬を塗ります。これも染みるかもしれませんがーー」


 「く、薬なんてそんな高価な物はもったいのうございます!」


 「え!?でも3000円くらいですよ?あっ、分からないですよね。まぁ、そこそこの値段ですけど、未来では普通の薬です!では塗りますね」


 オレは半ば強引に塗りたくった。そしてその上から包帯で優しく腕を包み、包帯の先に付いてあるテープで固定させた。


 「はぅ・・・」


 「痛かったですか?」


 「い、いえ・・・」


 「とりあえず、ここに居る間はオレが傷の事は面倒見ますので、あまり濡らさないようにだけお願いします。夜にまた新しい包帯を巻きますので」


 「あのう・・・尊さま?」


 「はい。なんでしょう?」


 「尊さまの居た世界とここは違います。人を殺めた事で思い悩んでいるなら私に言ってください。そりゃ私は尊さまのように頭は良くないですし、武芸しか得意ではありませんが、それでも話は聞けますので!」


 「・・・・何も思っていないと言えば嘘になります。けど、オレがあの男にトドメを刺した理由は・・・清さんです。清さんが織田様に怒られる、織田様に斬首されると思い、オレがあの男にトドメを・・・しました」


 「え!?わ、私ですか!?」


 「はい。清さんが・・・。清さんと知り合ってまだ3日ですよね。ですが、親近感と言いますか。清さんが居なくなる事を考えると・・・少し・・・寂しく思ってしまい、勇気を出してあの男を殺しました。後悔もしてません。もしあの殺気が清さんに向けられたならオレは迷わず・・・相手を殺します」


 自分で言って、なんじゃこりゃ!?と思った。告白に近い事を平気な顔して言ってしまったようなものだ。だが、清さんは丹羽さんの娘。下女身分の生まれだとしても姫は姫だ。オレなんかにゃ無理だよな。ましてや、信長が縁談を見つけるとか言ってるんだし。


 「尊さま・・・」


 ドタドタドタドタ


 「え!?ちょ、どこ行くんですか!?」




 〜20分前 尊が薬をタブレットで購入しようとしている時〜


 「これが銃ですと!?しかも片手で発射できるのですか!?」


 「うむ。彼奴が撃っておった。5発くらい片手で、しかも連続でだ。不発はなし。しかも狂乱に近い感じで適当に撃っておったが、真っ直ぐ飛んでおった」


 「「「誠ですか!?」」」


 「ふん。3人も同じ感想か。実はワシも見た瞬間は焦ったわ。これがあれば我が軍は更に強くなる。射程がどれ程かまでは分からぬが、この小さい片手銃で威力は敵の着込みを貫通しておった」


 「着込みを!?貫通!?恐ろしや・・・」


 「この小さい銃があるなら大きい銃もあるよのう?武田は脅威ではあるが、以前程ではない。じゃが、上杉が残っておる。権六は加賀をはよう平定致せ」


 「はっ」


 「皆に聞きたい。彼奴を野放しにしておくのはちと危険よのう?」


 「えぇ。肝の小さい男のように思います。誰かに唆されると、少し面倒かと」


 「うむ。奴はワシに『仕えさせてくれ』と言ってきた。あの眼に嘘はないと思うたから許可致した。まぁたかが飯屋の男と思うておったが、誠、長秀は良い拾い者をした。銃があるならば他にもあるはず。じゃが彼奴は人を殺生するのを躊躇う。だが、清に関しては思う所があるようじゃ」


 「え!?某の娘にですか!?」


 「ワシが中々トドメを刺さない彼奴を試したのだ。彼奴はワシの前だと『清様』じゃが、二人の時は『清さん』だ。それを、清自身も許している。この2階に湯殿があるのじゃが、ワシの身体を清に洗わせたら彼奴は嫌な顔をしよったわ」


 「それはなんとも・・・。まさかあの女っ気のない娘を・・・」


 「ワシは献身的に働く清に報いてやろうと縁談の話をしたのだが、言葉では了承しておったが、本音はどうであろうな。長秀は清を尊の繋ぎで出すのは嫌か?」


 「・・・・親心としましては、やはり少しでも良縁にと思っておりますれば。未だ16です。急がなくとも良いかと思っておりましたが・・・」


 「で、あるか。そうよのう。何も持たぬ飯屋の男に嫁がせるのは無理な話よのう。じゃが、ワシとしては彼奴にはそれくらいの価値があると思っておる。下女に手を出した時にできた娘だろう?それでも嫌か?」


 「お館様。流石に五郎左でも、その言い方は・・・」


 「権六は黙れ。今は長秀に聞いている」


 ドタドタドタ


 「失礼しますッ!!」


 「清か。控えろ。今は大事な話をしておる」


 「ちょ、清さん!?・・・清様!」


 

 〜丹羽長秀 目線〜


 我が娘ながら男に負けぬ武者のようになるとは思わなんだ。思えばあの女もかなりお転婆だったな。おっちょこちょいな面もあったが、そこが愛い様に見え、手を出してしまった。

 だが、清を産み、まさか死ぬとはな。母親が居らぬのは少々惨いからそれなりに目を掛けてきたと思う。じゃが、女の習い事を覚えさせようとすればする程、清は武芸に打ち込んでいた。


 ついぞや、飽きる事なく今と相なった。少し前に有能な家臣に縁談の話を持ちかけたが、皆が将来、尻に敷かれると思い丁寧に断ってきた。

 ワシでも奴等の立場ならそうする。ワシの家臣で清に勝てる者は居ないだろう。皆一度は組手にてやられている。

 日の本はお館様の天下に近づきつつある。そうなれば武芸の立つ男では食えなくなる。これからは銭のある家が強い立場となる。

 この男は銭は無さそうだが、凡人のワシから見ても将来はこの飯処にて銭を稼ぎそうだ。それだけではない。

 酒やあの砂糖なんかもかなり持っている。なんなら既に蓄えも多いやもしれぬ。

 それ以前に、知識が凄い。あの片手銃も然り。台所番を何人かこの者に修行に出すのも良いな。安土城が出来れば南蛮の宣教師だけでなく、色々な者も訪れよう。この者の料理が役に立つ。

 身分こそあれだが、所詮は清も下女腹の生まれ。もしかすればツリが出るやもしれぬな。


 ドタドタドタ


 「失礼しますッ!!」


 うん?清は何を怒っているのだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る