ドライブイン安土 邁進4-2
「カッカッカッカッ!ほら!三河殿!三河殿も遠慮せず取りなされ!」
秀吉の粘っこい笑顔と話でオレの予想は当たっていた事が分かった。この人が徳川家康だ。
「ワシは三河殿ではなく徳川だ。のう?木下殿・・・おっと・・失礼。今は羽柴殿だったかのう?」
うわ・・・バチバチやり合っているわ。秀吉がおちょくりすぎな?家康も秀吉を格下のように見過ぎな?
「尊と申します。丹精込めて作りました」
「初めて見る顔だな。徳川三河守家康である。其方は料理人だけではあるまい?戦う飯屋店主、武器開発兼飯処店主などと聞いている」
いやいや、どこでそれを聞いたんだよ!?事実かもしれないけど、この人も間者とか忍ばせているのか!?しかもまったく表情を変えない人だな!?これがタヌキと言われる所以か!?
「一応、武器開発及び、少しの配下を織田様から頂戴しております」
「そうか。すまぬが、取り分けてもらえぬか?」
「あ、すいません!確か・・・あ、いえ。何でもありません。よければ・・・鯛の天ぷらを少し多めに入れておきます。堪能してください」
確か鯛の天ぷらが好きだったんだよな。だが、この時代の天ぷらとオレが作った天ぷらは違う。このような衣はオレが初だろう。
「見た事ない物だ。ありがとう。食べさせてもらう」
「カッカッカッカッ!徳川殿は食べる事が好きなようじゃ!あまり食べ過ぎると肝心の時にその腹が邪魔で動けませぬぞ!」
「これはこれは手厳しい。ワシは家臣や料理人、領内の者が是非、食べてほしいと献上してきた物は絶対に残さずに食べる主義でしてな。いや〜、特に三河領内の者が毎日毎日色々と献上してくれるからのう。こんな腹になってしまったのじゃ。時に・・・きの・・・ゴホンッ。羽柴殿は贈り物なぞ食い物でも食べぬのか?」
「・・・・アッシは下々の出ですからな!米が殆どですじゃ!いや〜、三河の民は誠に良い領主に恵まれておりまするな〜」
この雰囲気はダメだ。決定的にこの2人は仲が悪い。本来は家康の方が絶対に格上だ。が、秀吉は長浜を治めた事で天狗になっているのか。はたまた、対抗心を燃やしているのか。いや、演技という線もある。
「先程、信長殿と話をした。其方の配下は草の集団らしいな。いや、侮蔑するつもりではい。ワシの配下にも伊賀者が居るでな」
家康の諱呼び・・・。信長と家康の仲の良さが分かる。
「おい!タヌキ!そこで尊を足止めさせるな!ワシに飯が回って来ぬであろうが!」
「ははは。これは失礼した!どれもこれも美味しそうに思えた故ですじゃ。さぁ、他に回りなさい。また話そうぞ」
オレが受けた家康の印象・・・。言葉の抑揚も然程、無い。顔はポーカーフェイス。当たり障りの無い事を言ってるだけかと思いきや、最後だけ、包み込まれるような言葉のトーン。これだけで分かる。信長にも秀吉にもない何かをこの人は持っている。史実で約260年もの平和の礎を作った事がなんとなく分かった気がする。
オレもこの人ともっと話してみたいと思う。
「やっとワシの番が来たか。本願寺の阿保共を閉じ込めておく作戦でな。ろくな物を食べていないのだ。これはなんという物だ?」
「佐久間様。お久しぶりです。そしてお疲れ様でございます。これは、栗・・・」
「佐久間ぁぁぁ〜〜!!!能書きは良い!全部一つずつ取れと言ったであろうが!!!ワシのはまだか!!」
佐久間・・・・惨い。信長は腹が減っているんだな。だからイライラしてるのか。いや、ガキかよ!?
それから信長にも同じように一品ずつ取り分け、反対側の人達の所を回る。反対の席の1番信長に近い人も見た事ない人だ。服装が明らかに違う。
現代の時代劇や、歴史関連のテレビなどで見る公家と分かるような出立ちの人だ。
「ほっほっほっ。初めましてですかな?」
公家らしき人は二人居る。その内の老齢の1人が優しい口調で話しかけてきた。
「うむ!皆の者ッ!配られた者から食べて良い!」
信長の配膳が終わると、元気よく言い、食べ始めた。最初に配膳し終わった武井さんって人は手をつけずに待っていたのにな。
「はい。初めましてです。安土で飯処を営んでおります、尊と申します」
「ふむふむ。見た事のない飯ばか・・・」
「うっめぇ〜!!あ!おっと・・・失礼しやした!」
「おい!サル!もそっと静かに食わんか!」
オレと公家の人が話していると、秀吉が大袈裟な声を出した。佐久間が諌める言葉を言うが・・・まぁこれが演技なんだろうな。現に、秀吉のその大袈裟な言葉から他の人も食べ始めたし。
「恐らく、この料理を作れるのは日の本で、ここしかないかと思います。ごゆるりとお楽しみ下さい。食後には甘味も御用意しております。外は寒いのに中では暖かい。そんな中で冷たい物を食べるのは背徳感があり、面白いですよ」
「そういえば・・・この敷き物も暖かいな。気が付かなかった。それに、部屋の四隅に置いてあるあの四角い物からもなんぞ音がしておる」
「コッコッコッ。山科卿・・・大概にしてほしいでおじゃりますなぁ〜。麿も早く食したいゆえ・・・」
「これはこれは。近衛卿。其方はそれ程、食べ物に興味なんぞ無かったのでは?」
「コッコッコッ。それは異な事。人は食べなければ活動できませんからな。わざわざ九州に"とある仕事"で出向しておりましたが、風の噂で、極楽の料理を作る者が居ると聞いて、内緒で戻ってきたのですよ。明日には九州に再び戻りますがね」
山科言継と近衛前久か!?めっちゃ大物じゃないか!寧ろ、この時代の公家で1位、2位レベルに有名な人じゃん!で、近衛前久って九州に居たのか!?どうやって噂を聞いたんだよ!?
「ほっほっほっ。では、西から東から・・・(パンッ)と、いう感じですかな?」
山科は手を軽く叩いて何かを言っている。オレは意味が分からなかった。が、どうやらこの2人には分かるらしい。そもそも、近衛が強調した、とある仕事ってのは何だ!?史実では当初は、信長と敵対していたと記憶があるけど、ここに居るという事は今は違うって事だよな?
「コッコッコッ。まぁそんな感じです。ですが、中々に骨が折れる話でおじゃる・・・」
近衛はそう言うとチラリとオレを向いて、わざとオレに聞かせるように話し始めた。
「なんせ、義久公は飲む飲む。その時の酒の席ではここの所連戦連勝、しかも薩摩統一をしたばかりもあって、皆が血気盛んなもんで。義弘公も中々にお凄い豪傑な方でしたし、歳久公も家久公も負けず劣らず」
「で、成果はあったのでおじゃるか?」
「まだ何とも言えないのでおじゃる。ですが、信長公の人を見る目はやはり日の本一でおじゃる。島津家には万夫不当の豪傑ばかりでおじゃる。下々の兵まで忠誠心があり、規律も取れておいでじゃ。故に、御するのが難しい。何か一手があれば、今後、織田家に与してくれるやもと思うのでおじゃるが・・・」
近衛と山科がチラッチラッとオレの方を見ながら話し終えると、近衛からオレに話し掛けられた。
「なにやら其方は信長公から並々ならぬ信頼を勝ち取っているみたいでおじゃるな。また後程・・・話をしましょうかのう」
話し掛けられたと言うより、『後で絶対に話そうぜ!俺の言う事を聞いてくれよ?な?』的な感じがした。見た目は公家。話し方も公家。だが、この人の纏うそれは信長や秀吉のような武将のソレのようにオレは感じた。
その後は一礼し、残りの人に配膳を始める。後の人は、商人の人だそうだ。こうやって軽く言っているが、史実で名前が残る人も居た。今井宗久、津田宗及、千宗易だ。
この千宗易だけガタイがおかしい。現代のアメリカ人のような体格だ。だが、3人共にオレと軽く挨拶したのみで、オレなんて眼中にない。と、いうような印象を受けた。まぁそりゃそうだよな。たかが料理人の一般ピーポーだもんな。けど・・・できる事なら一杯だけでいいから、千宗易のお茶を飲んでみたいと思った。
配り終えると、少しの時間差から2週目に入る。が、刺身がかなり好評だ。季節は冬。領内によっては氷室を作ってる人達も居るが、それでも氷は珍しいらしい。演出をかねて、オレはタブレットで購入したドライアイスをかなり敷き詰めている。それを舟の下に入れて、モクモクも煙を出して運んでいる。
その事もあってか、皆が本当に驚いているのだ。生の物を食べるのはかなり勇気がいったみたいだが、信長が食べ、秀吉が食べ、家康はポーカーフェイスでさっさとお代わりのビワマスを手に付け始めると反対の武将ではない人達や、後ろの文官の人達もお代わりを始めた。
信長はって?あぁ。あの人はさっさと好きな物を食べ、一応、小鉢に海鮮サラダを盛っていたのに、まったく手を付けずに・・・
「尊ッ!!でざあとをこれへ!はようせい!」
さっさとデザートを所望していた。そして、お膳の上には中ジョッキが3つ。黒い液体と透明の液体、オレンジの液体。コーラ、サイダー、オレンジジュースだ。既に全て2杯ずつお代わりしているのをオレは知っている。いやぁ〜。オレじゃなきゃ見逃しちゃうね。
信長は本当に酒が飲めないんだな。
実はデザートが1番種類を多くしている。今回の謹賀のこの会において、信長はオレにどうしろとは殆ど言われていない。寧ろ、『好きにして良い。良きに計らえ』と言われてはいたが、ただ一つ、『長篠で武田を敗走させた今、織田家ここに在り。と分からせるように致せ』これだけ言われたのだ。
考えた抜いた結果、カナからアドバイスをもらったのだ。
「料理もそうですが、やはり甘い物が、1番驚かれるのではないでしょうか。料理に関しては案外、マスターが作る料理の原形はこの時代にあります。ですが、甘味に関してはそうはないですよ?」
と、言われたので、デザートに本気を出している。ただ、お菓子作りはクッキーなど小麦粉を使った物ならある程度はオレでも作れるが、専門外だから、タブレットで購入した物ばかりだ。ケーキや、ゼリーなんかも作ろうと思えば作れるが、砂糖ドバドバのただ甘いだけの、品がない物しかオレは作れないからな。
「ほぅ?いつぞやのイチゴのケーキか。良いではないか。一つだけか?こんな時にも糖尿がどうとか言うのか?」
いや、何個食うつもりだよ!?いつでも糖尿は気にしておけよ!?だいぶ歳だろ!?
「ケーキの他にも今日は色々と用意してあります。食べ過ぎはやはりよろしくないかと・・・。早死にしてしまいます」
「ふん。そうか。ならば、今日はケーキ3個、ばにらあいす10個で堪えてやろう。はよう持って来い」
「ダメです。アイスも1つまでです」
「ワシに指図するのか?」
「はい。これは何度でも言います」
「おい!尊!貴様がどれ程の者かは知らんが無礼過ぎる!上様が許してもワシは許さん!どこの馬の骨かも分からん貴様が何故重用されておるのだ!新参の癖に、料理人風情の貴様は上様が所望しておる物を文句言わず持って来い!それと酒のお代わりだ!金色の酒を持って来い!」
また佐久間のヨイショヨイショか。酒も入って言っているんだろうけど、なんか、いい加減この人に下に見られるのが馬鹿らしくなってきた。本願寺を見張る役だっけ?慶次さんに関しては既に1往復してるんだぞ?警備がザル過ぎるだろう。
「ハァー」
「ぬぁ!!?なんだ!貴様はッ!!!その溜め息はどういう意味じゃ!!」
オレは心の中で溜め息を吐いたつもりが、現実で吐いていたみたいだ。
「まぁまぁ、佐久間殿!ここはアッシの顔に免じて許してくだせぇ〜。尊もこの会の準備などで疲れておるのです!今のは疲れからくる溜め息よのう?皆の者見てくだされ!このサルが踊るサル踊りですじゃ!ウッキッキッ!」
秀吉がオレの為に、この場を収めようとしてくれている。喋ったわけではないが、失言みたいなものだよな。溜め息なんてあり得なかったな。
「佐久間様。申し訳ございません。少し疲れが出てしまったようです。他意はございません。織田様のお身体の事を思っての事です」
「料理人の仕事はなんだ!料理を作る事だろうが!そんな事で疲れが出るとは言語道断だ!上様!某はこの席をお借りして申し上げたい事がございます!」
「なんぞ」
はぁー。マジでめんどくせぇ〜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます