ドライブイン安土 不退転11
オレはカナと思案する。あれ程、誰にも言わないと思っていた本能寺の変の事をこの短期間で清さんの他、同盟して味方になったとはいえ、慶次さんや小川さん達でなく謙信に言っていいのだろうか。
言えば言う程、リスクは高くなるというのに、謙信ならどう答えを出すのか気になる。
それと直江景綱だ。この人もこの人だ。基本的にポーカーフェイスで、表情が変わらないから歳の事もあり、少し怖く見えるが、考える事は非常に合理的だ。
誰があの短期間で胸当てを3枚とか考えるんだよ。
「ふん。言いにくい所を見ると余程大切な事なんだろう。まぁ、大方予想は付くがな」
「予想ですか?」
「武田の言を信じるならば・・・否!信じざる得ない事ばかりだからな。まぁその武田の言う、未来から来たという事だ。恐らく武田の知る未来とやらで誰か大切な者が殺されるのではないのか?」
「「・・・・・・・」」
もうね。オレとカナは黙る事しかできない。ほぼどころか、まんま当たりだからだ。
「その場所が、先の場所。違うか?」
「カナ?もういいかな?」
「マスターにお任せ致します」
「上杉様。それに直江様。二人を信じて言います。これは味方にも言っておりません。いえ、オレの妻である清さんにだけ伝えている事です。これから5年後にオレの殿である上様。つまり、織田信長は謀反に合い亡くなります」
言ってしまった・・・。もう後には退けなくなったぞ。
「ほう?続けよ」
「犯人はオレが居た時代でも誰か分かっておりません。いえ、通説では家臣であり、オレの上司?の明智光秀という男だと言われております」
「明智なる男か。噂に聞けば、何でも卒なく熟す男だと聞いている。先の織田を攻めるにあたって、我の注意人物の一人だな。
で、その謀反の犯人が分からないと?それを未然に防げば良いのではないのか?」
「確かにそうかもしれません。それが1番なのだと。ただ、もし未然に防ぐとすればその時は大丈夫でしょう。ですが、いつか似たような事が起こるのではないのかとオレは思っています」
「ゴホンッ。某が思うのは、要は其方がある程度知っている、先の寺1寺2の折に謀反をさせ、それを撃退するという事なのか?」
「簡単に言えばそうです。ただ・・・織田家に居る自分としては明智様が謀反は今の所は除外しております。そういう感じではないからです。
オレが居た時代では他の犯人としては、朝廷、将軍とありまして」
「それだけか?そんな訳はないであろう?謀反とは不遇している者、信が無い者、織田が居なくなり得をする者を考えるべきだな。我は織田と直接話したが武田程は知らん。
が、少し話しただけでも分かっている事はある。我でも分からない銭での戦は織田家内部でも分からぬ者も多いであろう?ましてや、彼の者は口数が少ない男に見受けられた。あれやこれやと直接の指示は出さぬのではないのか?
我のように景綱のような男が近くに居るならば下の者にも理解が得られようがそういう男は織田の下には居ないと見える。
理解してもらえる友が居ないというのは存外に辛いものぞ?特に上に立つ者とすれば弱味は見せられぬからな」
「ちなみに、上杉様は軒猿に調べさせた限りだと・・・」
「織田の軍の中で言えば、羽柴、松永、明智も言われてみれば無くもない」
「その理由は?」
「そこ元の玄武に聞いたであろう?怪しい者が居たと。調べはついている。が、先の折は上杉に与した動きをしていたから敢えて放っておいた。
松永は言わずもがなだ。明智は武田に言われて可能性としてあると思ったまで。後は、浪人衆を使った将軍などもありそうじゃな。
織田は敵が多い。近江、越前、伊勢と平定したであろう?そこに溢れた小物等は浪人となっていよう。将軍なら目的の為なら誰でも使うだろうよ」
「お待ちを。そもそもの何故あのような小規模な人数なのかを考えるべきかと。御実城様はお分かりかとは思いますが」
「そんな事言われなくとも分かるだろう。遊興でもしていたのではないのか?即応できる軍が近くに居ない。織田と世継ぎが近くに居て、両方討てる。その後の朝廷への根回しもできる人間も近くに居るという事、もしくは誰かの命にて動いているという事」
何度も言うが、この人は凄い。不確かな事なのに、まるでパズルのピースを嵌めるかの如く謎を解いていく。それが当たりかどうかは分からないが、本当に味方になってくれて良かった・・・。
「こちらの方は暫く猶予がございます。また色々と御教授してくれれば助かります」
「そうよのう。我は織田と同盟は結んだといえど、信用しているのは武田。お主ぞ。それはそうと・・・我は北条にも挨拶せねばならぬのだ」
「北条ですか!?」
「あぁ。後継者争いの一人の子がな。北条の人間だからな。飽くまで上杉は実力主義だ。推移も確認せねばならぬからな」
「ちなみに、今の武田家と北条家、上杉家の関係はどうなのですか?」
「宿敵の倅は我ではなく、北条を頼った。寂しいものよ。上杉と織田も今じゃ同盟者同士だ。越後が潤うならば何も言わん。今じゃ無いにしても、織田としては武田は邪魔なのであろう?お溢れくらいは簒奪するかもしれんがな」
「は!?」
「我はお主との約束で隠居せねばならぬであろう?ならば上杉家の運営は次代に任せば良い訳だ。我が春日山城に居る意味はない。お主の下で上げ膳据え膳でも良いのではと考えているのだ。その中で我は上杉家に感しては余程のことではない限り口を出さぬ。
要は我が一兵卒として武田の兵になっても良いという事だ。のう?景綱?面白そうではないか?武田の口振りだと織田に居ればまだまだ闘争は続くと思わんか?」
この人は何を言ってるんだ!?頭おかしいんじゃねーの!?
「えぇ。織田の中に居れば御実城様の闘争はまだまだあるのではと思います」
「そういう事だ!我も甲賀に住み、我の武働きが要るようなら声を掛けよ!その方がお主の殿も安心なのではないのか?いつだって我を殺せる範囲に居るって事になるのだからな!」
「いやいやそういう事ではなくてですね・・・こんな事オレの一存では・・・」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「チッ。誠、上杉という男はこうも面倒事を増やしてくれるな。何が一兵卒としてじゃ!」
「そんな難しく考えるでない!我とこの直江は上杉家では重鎮ぞ!その二人が織田の領内に居るということは、姉者だけではなく我も人質みたいな事ではないか!ふぁっふぁっふぁっ!」
「重鎮だと!?馬鹿を抜かせ!当主が人質なぞ聞いた事がない!」
オレはトランシーバーで事の次第を信長に伝えた。鼓膜が破れるかの声の大きさで文句を言われ、直ぐに甲賀へやって来た。もちろん、オレの家にだ。
「その聞いたがない事や前例のない事をしでかしている織田がそのような事を言うのか?安心せよ。もし上杉が我を奪還しようと勝手をするならば我は織田側に立ち、上杉を討ってやろう。それに、別に特別な待遇にしろとも言わん。寧ろこの者の一兵卒でも構わん」
「チッ。もう良い。此奴の下でなら許す。約束は前に書状で決めた通りで良いのだな?」
「あぁ。次代の上杉が勝手をするなら織田の兵は借りる事になろうが、我が鎮圧してやろう。我は約束事だけは死んでも守る男だ」
上杉謙信という男は謎だ。戦えば間違いなく強い。それもオレが知ってる限りだとNo. 1だ。
軍を動かした戦いでも統率力もNo. 1だと思う。あの織田信長という男より。だが、その上杉謙信の考えている事は分からない。
着飾ったりもしなければ、特別豪華な飯を用意しろとも言わない。いや、酒だけは毎日所望はされるけど、それでも『今日はここまで』とオレが言えば、飲むのを辞めるし、身の回りの掃除やなんかも自分でする人だ。
上杉家の当主だったかと思えば、『約束を反故にすれば義息子でも討つ』と断言するくらいに義の人に見える。つまりは・・・
「上様。オレが上杉様、直江様の面倒を見ます。どうか御容赦願います」
「一端な事言いやがって。犬猫の世話するのとは訳が違うのだぞ。だが、適任も貴様以外に思い浮かばぬ。怪しい行動を取れば即座に首を刎ねるぞ。それでも良いなら、お主等の滞在を許す。後、軍事的な事を他国に漏らすようでも同じだ」
「ふぁっふぁっふぁっ!そんなつまらぬ事なぞせぬわ!戦とは戦う者の知恵比べよ。勝つべくして勝つ。他人の意見を信用して軍を動かすようでは二流よのう」
「ふん。言われなくともワシは予言や甘言の類は受けぬ。時折り顔を出す。落ち着けば茶でも振る舞おう」
「酒にせよ!酒ならいつでも我は付き合うぞ」
「ワシは酒は嫌いじゃ。尊!何かあれば知らせよ」
「大和や河内であろう?手を貸してやろうか?」
「ふん!抜かせ!上杉は甲賀で酒でも飲んでおけ!織田の神速の戦いの報でも待っておれ」
「良い肴になる話になれば良いがな。松永を侮るなよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから暫くの間、上杉謙信、直江景綱な二人は本当に気ままな生活に入った。信長からは毎日毎日電話だったりトランシーバーだったりと報告を迫られ、特に謙信に関しては例の仮想軍事施設に嵌った切りになり、1日の大半はそれに費やしている。
直江は甲賀の皆の識字率に驚き、なんと直江自身も楷書体を覚えるとの事で、カナが作った学舎にて色々と勉強している。
オレものらりくらりばかりしておらず、自分の店の事、松永討伐に向かう軍の兵糧などなど・・・。まぁ本職の飯に関しての事など真空パック機にて作った色々なオカズをとんでもないくらいに作ったりと忙しくしている。
出師表なんか見てみると、信忠、信長の本軍だけでも1万の大軍だからな。少々の飯なら速攻で無くなってしまうからな。
今回はオレは参加しなくて良いそうだ。その代わり、『小荷駄隊として人員は出せ』と言われており、経験を積ませるために、オレの右腕となりつつある太郎君を小荷駄隊の頭にし、護衛は変わらず慶次を大将に甲賀の兵を付ける事にした。
上杉が織田と同盟したという情報を西側の人達がキャッチしたかは分からないが、松永も松永で退く気配がないらしい。そして、本願寺側も信長は同時に攻撃するようだとのこと。史実とかなり変わった戦になりそうという事だ。
信長がオレに言った事は、『この先で織田と武田は絶対にもう一度戦う事になる。その時の総大将はワシと信忠ではなく、信忠一人となる。その時は貴様も必ず出陣せよ』と言っていた。これは史実の甲州征伐の事だろう。
そしてオレが持っている、もしくは作っている兵器で信忠を必ず死なせず補佐せよ。という事だと思っている。
そんな中、突如として謙信は大胆な事を言い出した。
「さて・・・我もそろそろ動こうか」
「はい?動くって・・・なんかするのですか?」
「いや、玄武等は信用しておる。その玄武等から連絡が来ていない」
「確かに、最近あの3人は見てないですね」
「うむ。ちと遠回りになるが、小田原でも物見でもして帰ろうかのう。それに引っ越しもしなくてはならんしな」
「は!?本当に二人で北条に行くんですか!?」
「ふぁっふぁっふぁっ!大人数なんかで動くより普通に飛脚に混ざり少数で動く方がバレにくいってものよ。現に織田領にも最初はそうだったであろう?」
「まぁ・・・そうではありますが・・・」
「武田の飯を食ってからというものの、身体の調子がやけに良くてな。景綱もそうは思わんか?」
「えぇ。同じく。少し速駆け程度で今日には小田原に遊山できそうなくらいですな」
例のスーパー強化か。とうとうこの二人にも現れたか・・・。
「いつくらいに戻って来られますか?一応、上杉様ってオレの下って事ですよね?」
「冬までには戻る。次代の上杉は自分で腹心を集めさせるように言う。それに上杉家内でも相続させねばならぬ物があるからな。案ずるな。古いしきたりみたいな物だ。我が手塩にかけて育てた軒猿10名、我と直江は必ず冬までに戻る。
それからどこへも行かん。カナが言っていたからな。
『上杉様は全てにおいて能力が秀でていますので、バトルオブセキガハラという新作を作っておきます』
とな。我はそれが愉しみで仕方ない!」
「あぁ・・・関ヶ原ですか。相変わらず飽きないのですね」
「うむ。心配なら配下も数人なら連れて行くがどうする?」
「いえ。オレは上杉様も直江様も信じておりますので構いませんよ。それと・・・これをお返し致します。これでオレがどのくらい上杉様を信頼しているか分かるかと」
「なっ・・・山鳥毛か!?折れておっただろう!?直したのか!?いや、直せたのか!?」
「これより先は上杉様の考えにより変わるかと思いますが・・・てるさん。入って来て」
例の預かっていた刀だ。
「む・・・。まさかこの女が打ち直したというのか!?」
「女が刀を打つなど・・・と思うかと思いますが、まずは構えください。さすれば、それがどのくらいの業物かと上杉様なら直ぐにお分かりになられるかと思います」
「(スチャ)なっ・・・これは・・・。刃に吸い込まれそうな気がする。このような刀は初めて見るぞ・・・。女!名前はなんという?」
「はっ。てると申します」
「良い!これは良い!武田ぁぁ!!抜けッ!!」
いやいや『抜けッ!!』じゃねーよ!?誰が抜くかよ!
謙信は誰がどの角度から見ても・・・寧ろ100メートル先から見ても超超御機嫌になり、とある所にブンブン刀を振り回した。
そのとある所とは、余興として甲賀村のど真ん中の、カナがなんのためにこのような物を置いたかは分からないが、漫画とかでよく見るようなウンチのよう形をした刀斬り石を叩きまくった。
要は遊びに来た男達に刀でこの石を割ったり、斬ったりできれば慶次のお店に居る女の人全員と遊んでもタダという触れを書いている。本当に余興だ。
まぁだがこの石は簡単に斬れない。なんせ、聖白バトルウルトラマリンという意味の分からない名前の石だからだ。
聞けば、神界一硬い鉱石だそうで、ただ硬いだけで柔軟性がなく加工もできないゴミなんだとか。それはカナですら直線的な加工ができない石だが、上手にウンチのような形に削ったモニュメントだ。
ガキンッ ガキンッ ガキンッ ガキンッ
「(ガキンッ ガキンッ ガゴッ)ふぁっふぁっふぁっ!やったぞ!どうだ!武田!見たかッ!!」
「はぁ!?え!?嘘!?」
謙信はそのモニュメントの端をまぁカケラではあるが削ぎ斬ったのだ。もう人間離れもいいところだ。
だが、謙信は女遊びには興味がないらしく、更に上機嫌になり甲賀を後にした。
とりあえず、金輪際あの人と戦ってはダメだという事が分かった。
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