ドライブイン安土 邁進4-1

 岐阜城で一泊した。が、まぁ日付けは1月2日だ。朝日が登る前からオレは岐阜城の台所に居る。クーラーボックスに入っている魚の姿盛りを作るためだ。

 ここの料理頭は金右衛門という人らしい。もうね。1発で名前覚えたよ。


 〜1576年12月28日〜


 「金右衛門様?本来の謹賀の儀のご飯とはどういう物なのでしょうか?」


 「うん?それは御膳に盛り付け、鯛を蒸し焼きにしたり、煮物を作ったりとしている。食材は必ず痛みのない物を用意し・・・」


 「あ、分かりました」


 「なんじゃ!失礼な奴め。お前が聞いてきたから答えてやったのだぞ?いくら安土で有名な飯屋を営んでいるからと言ってもそんな口の聞き方は許さんぞ?」


 「すいません」


 「ふん。で、どうするのだ?お主の店のような物を作るのか?ラーメンなら皆も喜ぶと思うぞ?ははは」


 この岐阜城 料理頭の金右衛門さんは、オレの店に何度も来てくれているらしい。生憎、甲賀に行ったりとオレは見た事なかったが、早朝のドライブスルーで、カツサンドも食べた事があるらしい。

 だから、今回の謹賀の儀で、仮初めではあるが、オレが頭になる事を二つ返事で了承してくれたのだ。


 「さすがに、ラーメンはいかんでしょう!?ですが・・・正直、正月料理って腹太りませんよねぇ〜。ですので、少し・・・趣向を変えましょう」


 「趣向を変えるだと!?どういう風に!?」


 〜1577年1月2日〜


 「まずはこの特大の舟に魚を盛り付けます!鯛の頭と尻尾は捨てないように!大根のつまはできる限り細く切ってください!そこ!つまの上に青シソの葉を置いて!見栄え良く!刺身はイサキ、鯛、シマアジと他にもちゃんと種類に分けて分かりやすいように盛り付けて!」


 「は、はい!」


 「おーい!尊!そろそろ出汁を取り切ったと思うがいいか?」


 「金右衛門さん!そのくらいで!ちゃんと濾してください!その後、再度鍋に濾した出汁を入れて、薄く切った大根と人参と蒲鉾を入れて、一口大に切った餅を別の火口で焼いた物を入れてください!」


 「尊様!エビの甘煮ができました!」


 「了解です!大皿に盛り付けてください!」


 一之介さん一派が獲って来てくれた魚は多岐に渡る。鯛はやはり、この時代では特に定番だから念を押したが、他にもエビ、メバル、カサゴ、メジナ、などなど。貝類まで牡蠣、サザエなんかも獲ってきてくれたのだ。


 そして、正月メニューをどうしたか。定番ではやはり御膳に乗せて、煌びやかに厳格なメニューが当たり前だろう。だが、オレは敢えてそれはしないようにした。正月メニュー・・・現代の御節なんかは洋風な物も多いだろう。だが、謂わゆる、定番の御節はオレはあまり好みではない。3万も4万もするようなやつを購入しても、半分以上は残ってしまう事がある。

 だから、この岐阜城での謹賀の儀で出す物は・・・


 「皆の者!本丸正門に騎馬が見えた!これからどんどんと人が来るぞ!急げや!急げ!尊!ばいきんぐ・・・成功させようぞ!」


 「はい!」


 そう。ビュッフェ形式にしたのだ。ゴロゴロの付いた台に大皿を乗せて、オレ達、料理人が来場者の前を回るのだ。他の料理メニューにはオレが齎せた調味料を惜しみなく使い、魚系はメバルの煮付け、カサゴ、鯛の天ぷら、メジナのカルパッチョ、お造りは、鯛、シマアジ、メジナ、メバル、カサゴ、カワハギだ。他にも小魚でスズメダイなんかもいたし、ゴンズイもいたが、ゴンズイは毒もあるし、スズメダイは三杯酢にすれば絶品ではあるが、今回のメニューからは外した。

 続いて他料理だ。敢えて、正月というのに囚われないようなメニューにした。と言っても、ある程度は考えたけど。まずは、大きさもバラバラでなんなら可哀想なくらい小さな個体も居るが、伊勢海老だ。その伊勢海老のクリーム煮イクラ乗せ。このイクラはタブレットから購入した物だ。

 本来御節とは歳神様に捧げる供物だから肉は禁忌なはずだ。が、オレは・・・


 「尊様!このような巻き方でよろしいでしょうか?」


 「五郎兵衛さん!それで大丈夫です!アスパラはちゃんと塩を入れて湯がきましたか!?」


 「はい!小匙一杯の塩で湯がきました!ベーコンの中にチーズも入れてます!」


 「よし!アスパラベーコンチーズ巻きは完成です!次をお願いします!」


 肉も関係なく作る事にした。さすがに、焼き肉だ!ステーキだ!なんて事はしないが、信長もオレに任せた以上はこうなる事くらい予想しているだろう。なんせ、肉食をオレは推奨しているし。


 「マスター!田作りの味見をお願いします!」


 「(ハムッ)うむ!美味い!オーケー!カナはそのまま黒豆を煮てほしい!」


 「尊さま〜!かずの子はそのままでいいのですか!?」


 「うん!そのままでいいよ!花柄のお皿に盛り付けて!清さんは次は牛肉と牛蒡のしぐれ煮を作ってほしい!オレはビワマスに取り掛かるよ!」


 秀吉が乱獲してきたのか!?ってくらいにビワマスも獲ってきてくれた。店の冷凍庫で2日間寝かせたから、仮に寄生虫がいたとしても大丈夫だろう。UVライトも持ってきているから、3枚に卸してライトを当てて見えた寄生虫はピンセットで取り除く予定だ。ビワマスをどうするかって?決まっている。


 別皿にビワマスはビワマスだけ盛り付けて、刺身、塩焼き、レアカツ、バター焼きだ。惜しげもなく全部使わせてもらう。これはオレが最初から最後まで1人で作る予定だ。案外サーモン系は身崩れしやすく、捌きにくいしな。


 「尊殿!そろそろ別室から大広間に皆々様が移動する頃合いです!」


 「ありがとうございます!遠藤さん!?ちゃんと、ハロゲンヒーター、電気カーペットは敷いてますよね!?電源も入れてますよね!?」


 「もちろんです!」


 この時の為に、ポータブル電源を購入し、未来の文明の利器も惜しげもなく使う。オレができることは何でもする。総力戦みたいな感じだ。

 

 その後は残りの料理を素早く皆で作った。栗きんとん、伊達巻き、紅白なます、海鮮巻きだ。この時代の人はとにかくお米をよく食べる。清さんですら・・・いや、清さんはこれまた特別かもしれないが、清さんですら夜ご飯は1人で1合は軽く食べている。

 なので、海鮮巻きに関してはかなりの数を作った。来賓は50名と聞いているが、1人2本計算で100本は作った。

 もし、これで米物が足りなくなったり、腹が膨れないなんて言われようもんなら必殺のカップラーメンを出す予定だ。まぁ、餅もあるから多分大丈夫だろう。


 「尊殿!お館様の挨拶が始まりました!廊下に待機お願い致します。手を叩くのが入室の合図です!」


 「了解です!金右衛門さん!それに、皆!よく頑張りました!偉そうにいう訳ではありませんが、間違いなく日の本一、豪華な正月料理だと言えるでしょう。 初めての調味料を使い、よくここまで作っていただきました!改めてお礼申し上げます。簡単な物ではありますが、皆様には皆様にオレから贈り物がございます。この会が終われば打ち上げでもしましょう!」


 「「「「オォーーーー!!」」」」


 「うむ。よもや、この歳にもなって、更に料理の道を学ぶとは思わんかった。尊!こちらこそ礼を言うぞ。できる事なら、ワシは醤油、味醂、砂糖を頂けると嬉しいのだが」


 「金右衛門さんはさすがですね。その事も今後を含めて全て終わったら話しましょう。では・・・行きます!」



 ゴロゴロゴロゴロ


 廊下を料理を運ぶ荷台に乗せて移動する。この荷台は源三郎さんに鍛治の片手間で作ってもらった物だ。下のローラーだけタブレットで購入し、ネジで取り付けた簡単な物だ。それに、白いテーブルクロスを敷いて、宛ら洋食屋のような感じだ。


 「能書きをばかり言っても腹は満たされぬであろう。まずは食べようか。料理をこれへ!(パンッパンッ)」


 信長から手を叩く音が聞こえた。そして、遠藤さんがすかさず襖を開く。

 一瞬皆がオレの方へ向き、騒つくがすぐに静かになる。錚々たる顔触れだ。知ってる人は信長の近い所に座っている数人・・・。後は知らない人ばかりだ。


 「失礼致します。明けましておめでとうございます。正月料理をお持ち致しました。料理人の尊と申します」


 「うむ。皆の衆!此奴の料理は日の本一だとワシが保証致す。これから配膳される物を食・・・」


 「織田様。お待ちください。私がお出しする料理は恐らく初めてばかりの物かと思います。好き嫌いもあるでしょう。ですので、皆様の前をゆっくり周ります。料理の説明も致します。好きな物を好きなだけお取りいただくようにしました」


 「ほぅ?ワシの話を遮るか」


 「う、上様!?」


 オレは一瞬、マズったか!?と思ったが、そうでもなかった。確かにお歴々が居る中で信長の話を遮るなんて自殺行為だ。『無礼者!』と言われ、斬られても文句は言えなかったよな・・・。あぶねぇ〜。信長が上機嫌で助かったぜ。言葉こそ怒ってはいるが、威圧感はない。


 「良い。ワシが此奴に正月料理をと、何も言わず準備させたのじゃ。これは南蛮式か?」


 「はい。南蛮式でビュッフェと言います」


 「そうか。分かった。始めよ」


 ちなみに、飲み物はかなり用意している。酒は当たり前だが、ビール、焼酎、ウィスキー、清酒、果実酒、酎ハイだ。酒が飲めない人も居るだろう。ジュースも用意している。コーラ、サイダー、オレンジジュース、ぶどうジュースだ。

 オレがタイムスリップして分かった事。この時代の人は自分の限界を超えて飲む人が殆どだ。だから、グラスに関しては・・・失礼。この時代では湯呑みだが、その注ぐ入れ物はオレの店から持って来た物を用意した。

 どうせ飲みまくるだろうと思うから皆、中ジョッキだ。ビールだろうが他の酒だろうが、なみなみと注ぐようにお酒担当のカナに言っている。


 席順は信長は畳一段高い所に居る。後は部屋を四角く囲むように座って貰っている。その中をオレ達が皆の前を通る形だ。1番手前に居る人から自己紹介しながら料理の説明をする。


 「う、うむ。ワシは元〜〜家の〜〜で・・・」


 うん。ぜっんぜん知らん人だ。けど、1番信長から遠い席だとしても呼ばれているくらいだから凄い人なんだろう。


 「まずはこの伊勢海老なんていかがですか?まろやかな味で美味しいかと思いますよ?」


 「・・・・・・・・・」


 「おい!武井!お主がそこで黙っていては皆に行き届かないではないか!」


 「う、上様!そう言われましてもですね・・・」


 「騙されたと思い、全て一品ずつ取ってみろ!また食いたいと思う物は2週目に取ればよかろうよ!尊!回れ!」


 信長のこの一声で緊張していた皆の表情が変わった。確かに初めて見る物だから迂闊には取りにくかったよな。これはオレのミスだ。だが、その信長の声の通り、皆は一種類一つずつ取るようになっていた。


 少しずつ信長に近くなっていく中に一人・・・秀吉の隣にそれは居た。この時代では珍しく少しぽっちゃり体型。なんとなくオレは誰か分かった。

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