ドライブイン安土 邁進7-1
実に素晴らしい新年のスタートを切った。慶次さんが連れて来た本願寺の信徒の人達。その中の吉之助さんという、燃やす焚き火代わりに頭を剃られた可哀想な人が信徒達を纏めてくれるというので、任せていたのだが、新しく来た人、最初に降って来た人と本当に良く纏めてくれている。
まずは生活に馴染んでもらうために、特に仕事なんて振り分けていないというのに、道を綺麗にするやら、掃除をすると自らオレに言って来て、率先して色々と動いてくれる。
夜には降って来た人達でミーティングのような事をするというので、オレは許している。徐々にだが、酒も用意し各々の英気を養うためにだ。ずっとこんな生活はさせてあげられないが、これからどんどん働いてもらわないといけないからな。
で、例の焙烙玉だ。オレは嬉々として皆に見せた。
「おぉ!我が君!新しい焙烙玉ですかな!?」
「その通り!小川さんも投げてみます?」
「よっ!さすが源三郎!」
「源三郎こそ甲賀一の武器屋だな!」
と皆々が口を揃えて源三郎さんを褒めていたのだがカナはそんな事なかった。
「源三郎様?焙烙玉を作るのは良しとしましょう。ですが、こんな物誰に配備するのですか?油紙で包むのは良い判断です。ですが、こんなにも大きくなった玉を投げるのは些かしんどいのではありませんか?」
「おいおい・・・カナ嬢よ。それはさすがに可哀想じゃないか?源三郎は片手間でこれを作ったんだぞ?」
「前田様はお待ちください。私の教え子がこれで満足するようじゃいけません。わざわざ丸に拘らず、マスターが出したペットボトルを再利用した爆弾も作れたはず」
いやいやカナよ・・・。源三郎さんが涙目になってるぞ!?これはこれでオレは満足してるんだけどな。
「いや・・・確かにグリセリンを使い・・・四角い箱で粘土・・・」
あぁ〜あ。また源三郎さんのブツブツ声が始まったわ。
「その通り。源三郎様はまた作り直しなさい。次は私も驚くような物を!けど・・・これはこれで良い物よ」
「はっ!カナの姐御!」
「ケッ。カナ嬢は顔に似合わず中々にキツイ性格してるな。俺ぁ〜、これでも満足なんだがよ?源三郎が何やらブツブツ言ってたからこれも旧式になるのか?」
「確かにキツイ言葉かもしれませんが、雨の日ならこんな物使えませんよ。油紙で多少は水を弾くでしょうが、不発を起こし、敵に回収されればこれならすぐに解析されますよ。まぁ、不採用武器の小屋行きですね」
「不採用武器の小屋?」
「あれ?マスターは知りませんでしたか?見てみますか?」
「あっ、尊様!本日の家の掃除終わりました!」
「え!?もう終わったの!?早いね。吉之助さんも暇つぶしに来るかい?ここの鍛治の人達の失敗作を集めた場所だって」
「おい!尊・・・」
「大丈夫だって。吉之助さんは頭剃られてその髪の毛を燃やされた可哀想な人だよ?それによく働いてくれるし、人の統率も凄いんだから」
「・・・まぁ、尊がそう言うならいいけどよ」
慶次さんの考えを退け、オレ達はその小屋に向かう。普通の荒屋のような所だ。例の地下施設に通じる荒屋の横にあった。
「ぬぅぁ!?はぁ!?これはなんだ!?」
「マスターは驚き過ぎです」
カナに諌められたが、そりゃ驚くさ。西洋のプレートアーマーのような物や、現代兵器のRPGのような物まで色々とある。かなり大きい弓矢のような物まで・・・。
「こ、このアーマーはなんだよ!?」
「え?プレイトメイルですが?」
いや、普通に答えるなよ!
「何でこれがガラクタになるんだ!?」
「これは鉄砲が主流となりつつあるので、歩卒に装備させようと鋳型を作り、簡単に量産しようとおもったのですが、評判が悪くてお蔵入りになりました」
「え!?これが評判悪いの!?」
「えぇ。股が痒いとか背中が痒い言ってですね・・・。痒くても搔けませんからね。それに鉄砲は軽く弾きますが、素早く動く事ができませんので、1対1ならば無類の強さを発揮しますが、まぁ・・・ゴミでしたね」
辛辣な言葉だな!?
「分かった。で、このRPGのような物は!?」
「はい。これは今まで出たペットボトルゴミに火薬を入れ、先の焙烙玉のような物をこの筒から発射させようかと思ったのですが、火薬の入ったプラスチックを更に火薬で飛ばす事は危ないと思い却下しました。実際、試射を私がしましたが、風に影響されやすく真っ直ぐ飛ばなかったため、話になりませんでした」
「お、おう・・・そうか」
「ぬぉぉ〜!!こ、これは・・・カッコいいではございませんか!!」
「うん?小川さん?何がカッコいいって?」
「小川様はこのプレイトメイルが欲しいのですか?」
「はい!カナ嬢!是非、これをワシにください!」
「聞いていましたか?痒くても掻けないし、行軍するのも遅れますよ?」
「がっはっはっ!良いのです!ワシは常に我が君の側に居ります故、気にしません!」
「そうですか。確か傅役と言われていましたね?いいでしょう。ではこれは小川様の装備と致しましょう。後はそれに合う獲物を・・・これなんていかがですか?」
「はぁ!?カナ!!お前という奴は・・・」
「いいではありませんか。こういう武器は兄上が言っていましたが、男の厨二心を擽る物なんでしょう?」
戸棚の向こうには数々の武器があった。それはそれは本当に男の厨二心を揺さぶられるような・・・。オレが分かるのは、モーニングスター、某三国志のキャラが無双するゲームの中に居る、呂布の武器を連想させる方天戟や、何でそんなに装飾物が施されているのか分からない剣や、超巨大なハンマーのような物まであった。
「カナ嬢!ワシはこれが良いです!」
「方天戟ですか。私的には小川様はこちらのモーニングスターの方が似合うかと思ったのですが」
「いえいえ!ワシはこれに惚れました!この得物で我が君を守ってみせますぞ!!がっはっはっ!!」
「ハァー。まぁ好きに選んでいいですよ。それとカナ!使えない玩具を作るために工作機械を買ったんじゃないんだぞ!?そこんところ頼むよ?」
「はい!大丈夫です!けど、色々と男心を擽る武器って面白いじゃないですか!」
まぁカナらしいといえばカナらしいな。まぁ好きにさせてあげよう。作るのは源三郎さんや国友さん達だし。
〜この日の夜の吉之助目線〜
昼間は驚いた。まさかあんな武器をガラクタと言えるなんてな。
だが、あの男はチョロい。前田という大男は少しは警戒しているが、それでもあの尊という男を信用している。
ははは。もうすぐお前が助けた愚民がお前を襲うなどとは思っていないだろう。余程、頭がお花畑なのか。確かに物は凄い。食い物も凄い。嘘偽りない正にここは桃源郷のようなところだ。殺すには惜しいが、致し方ない。
それにようやっと、武器が見れた。あの焙烙玉は脅威だな。だが・・・
「(シュコッ ボッ)吉之助様!?誠、このらいたあなる物は凄まじいですな!?」
「うむ。こうも簡単に火を点けれるとは」
「雲水も郭蓮も驚いてばかりではないか。それより愚民共はどうなっている?」
「はっ。種は撒いております。『何故、我々が与えられる立場なのか』『何故、織田だけがこうなのか』『何故、こうもあの尊という男に南蛮の物が流れているのか』と、何度も言っております」
「よし。愚民はどういう反応だ?」
「当初はそれどころではないようで、与えられる食べ物や甘味に精一杯だったようですが、ここの生活に馴染んで来て、余裕が出たせいか徐々に、『俺達の村にしよう。幸い、人は俺等の方が多い』という風に思って来ているようです」
「分かった。後一押しだな。酒は飲まずに残しておるな?」
「えぇ。なんとか」
「では、この酒を愚民に渡せ。酒はかなり絞られているようだ。だが、この酒は本当に危険だ。これを餌に焚き付けよ。仏の教えを守らない奴に正義の鉄槌を。自分達だけ好き放題して、他の者を食い物にしていると言え。1人が声を上げれば馬鹿共は勝手に同調する。決行は明日の夜だ。愚民にはいつもの通り、報告会と言え」
「「御意」」
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