ドライブイン安土 邁進2

 〜近淡海 現在の琵琶湖北部〜


 「取れや!取れや!アメウオの1匹が値1貫ぞ!」


 「で、偉そうに小一郎は言っているが、この魚のために我等、川並衆を総動員しているのか?しかも、農民までもが居るみたいだが?」


 「クッフッフッフッ。蜂須賀殿のそういう勘繰る言い方は相変わらずですな。これは兄者からの命令でしてな。なんでも、安土のドライブインと呼ばれる飯屋の店主が謹賀の儀の料理頭らしいのですが、その者の為にアメウオを獲るそうで」


 「あの魚をか?確かに不味くはないし、かなり貴重だとは思うが、物によっては臭くて叶わんぞ?」


 「クッフッフッフッ!その飯屋の店主は臭みを消し、寄生虫?魚の身の中に居る虫を、電気なる物で照らせば虫を駆除できるとかなんとか。臭みを消し、創意工夫をすれば、最高級の魚らしいですよ?」


 「ふ〜ん。にしても・・・秀吉が他人の為に働くとはねぇ〜」


 「蜂須賀殿。ここからは内密に。兄者はその飯屋の店主に、ただならぬ何かを感じている様子。真っ直ぐ飛ぶ銃、連射できる銃の噂を聞いたことは?」


 「あぁ。なんでも、天王寺砦では大殿が救われたとか聞いたが。それが?」


 「それをその飯屋の店主が齎したと。しかも、あの大殿が国友衆を呼び寄せその店主の与力とした話を聞いた。あの国友衆をです」


 「なに!?たかだか飯屋の店主にか!?」


 「えぇ。奇な事だと思いませんか?柴田殿や佐久間殿は飯の腕は認めているようですが、身分もない男である飯屋の店主を・・・しかも新参である店主を認めるはずはない。

 丹羽殿は下女腹の娘を嫁がせたようなので、それなりにお認めになっているとは思います。それと滝川殿も」


 「明智は?」


 「クッフッフッフッ。いつも汚い仕事を我等に振って、美味しい所を掻っ攫うようなあんな爺いの事なぞ知りません」


 「あぁ〜!小一郎のおっちゃんが悪口言ってる〜!」


 「クッフッフッ!孫六!それ以上は言ってはいけませんよ?磔にしますよ?」


 「言わないよ!ほら!ビク一杯に取ってきました〜!」


 「流石、兄者子飼いの孫六だ!さぁ。もっと取ってきなさい!」


 「ほーい!」


 「あの者が子飼衆の中では頭一つ飛び抜けておるな」


 「そうですな。槍の才覚では市松の方が高いが、横暴ですな。夜叉若の方は幾分、市松より武勇は劣りますが、どうやら城に興味があるようで、お遊びで盤上で城攻めの模擬戦を行いましたが、私も一本取られましたよ。ですが、攻めるのには強いですが、防衛戦はまるで赤子です。孫六は自分の主張はしない子ですが、秘めたる物は1番と兄者は評価しております」


 「そうか。まぁ秀吉もあの子飼衆のように我等、川並衆も厚遇してくれれば良いのだがな。誰がこんな冬に近淡海で魚を獲らせるのだ。咳病に罹ればどうするのだ!」


 「クッフッフッフッ。蜂須賀殿が咳病なぞ罹るわけないじゃないですか。それこそ天変地異が起こるようなもの」


 「あのな・・・ワシだって・・・いや・・・なんでもない。お主に口で勝てるとは思わん」

 

 「良き判断ですな。私は勝てぬなら勝てるように事を運びますからね。兄者から教えられてる事ですよ。さて・・・なんぞ、その店主から贈り物があるようです。兄者が上手い事取り付けしたようで。その中に澄み酒があるそうで、肴も見た事ない美味い物ばかりだと伺っております。後程、お持ちさせましょう」


 「ほっ!さすが小一郎!分かっておるようだ!」


 「クッフッフッ。これからも頼みますよ〜」


 

 お店のカレンダーで、12月27日となった。国友衆に関してはカナに任せている。信長の飯に関しては毎日毎日毎日毎日、オレが作り、太郎君に持って行かせている。持って行かせてといいつつも、1週間に2日程はオレの家に泊まりに来るのだ。最近に関しては、風呂が気に入って・・・いや、毎日風呂に入らないと気が済まないらしく、秀吉の長浜城や佐久間の鳴海城、滝川の蟹江城と転々と寝泊まりしているらしく、信長が泊まる家臣の城には大きなタライで風呂を作らせているらしい。


 ザパー


 「うむ!やはり貴様の風呂が1番じゃ!」


 そりゃあな。蛇口捻れば湯も水も出るし、シャンプーもボディーソープも豊富だしな。


 オレの家の風呂に入る人は意外にも多い。


 「来てやったのじゃ〜!苦しゅうないないぞぇ!」


 「お、お市様!?ど、どうされたのですか!?」


 「うん?決まっておろう?飯と風呂じゃ!桜!梅!妾の風呂の手助けをせよ!」


 またある日には・・・


 「おう!尊!来てやったぞ〜!あ、これは、ねねからだ!先日のちょこれいと饅頭?のお返しだそうだ。本当は刀を送りたそうにしていたが、其方は料理人であろう?だから、包丁じゃ!受け取れ!」


 「あ、ありがとうございます。で、本日は?」


 「うん?友が来てやったのじゃ!そのような言い草はあんまりではないか?折角だ!風呂に入らせろ!おーい!小一郎!ワシの風呂装備を持って参れ!それと、ワシが与えた者は働いておるか?」


 「えぇ。甲賀にて国友さんや源三郎さんの下で雑用ですが、働いてもらっていますよ。カナが褒めてましたよ?良く働くし、座学の覚えも良いと」


 「そうか!そうか!ならば良し!では・・・吉!背中を流してくれ!」


 「は?」


 「うん?背中を流してもらうだけじゃ!尊!それくらい許せ!なにも抱こうとは思っておらん!カッカッカッカッ!」


 「畏まりました」


 と、このように風呂に入りに来る人は多い。


 「謹賀の件は励んでおるか?」


 「えぇ。準備滞りなく。明日には一度、岐阜城へ登城させていただきます。皿などの用意もございますので」


 「うむ。期待している。なんぞ、禿げ鼠と懇意にしていると聞いているぞ」


 「はい。最近は仲良くさせてもらっています」


 「そうか。彼奴も下の身分からの成り上がりだ。お主と似ていよう。彼奴から色々学べ。人の扱い、調略に関しては織田家随一だ。ワシの合戦への考えも彼奴が1番分かっている」


 「羽柴様がですか!?」


 「うん?意外か?彼奴は誰にでも頭を下げ、誰も引き受けたがらない仕事も率先して熟す者ぞ。その配下も然り。特に弟の秀長に関しては作戦に関して失敗した事が殆どない。お主も色々と手解きしてもらえ」


 この信長の朝風呂後に魚の輸送の要となる氷だ。わざわざ店の製氷機を使い、氷を那古屋へと輸送する。今回はさすがに、軽トラだ。

 信長は今日は安土城の視察へと赴くらしく、背中が見えなくなるまでお見送りをして、軽トラのエンジンをかける。5つのクーラーボックスに氷だけをパンパンに入れての出発だ。


 「あっ、お疲れ様です〜。これなのですが、この箱の中に獲った魚を入れてください!その魚を入れる前に・・・」


 魚をただ、氷に浸しておくだけでは劣化が早い。エラ、内臓を抜いて、綺麗に血抜きした魚を更に・・・


 シュィーーーーーン


 「な、な、なんだこれは!?」


 「これは真空パック機ですよ。ここに魚を置いて、横に移動させるだけでいいのです!さぁ、一之介さんも試してください!」


 「尊さま〜!!釣れましたよ!!サビキなら簡単に釣れます〜!!!」


 清さんは、未だ領国内でも遠方に行く時は、かなり喜ぶ。そして、男が好きそうな遊びは大概、清さんも好きだ。


 シュィーーーーーン


 「おぉ〜!これは面白い!」


 一之介さんは一之介さんで真空パック機が面白いらしい。2貫もしたが、買って良かった。


 軽トラはかなり注目を集める。だが、一々気にしてはいられない。

 その後は甲賀へ向かう。例の降って来た人達の采配だ。


 「我が君だ!我が君が来られたぞ〜!!」


 甲賀へ着いた時は既に夕方だ。いくら車だと言っても、道とは言えない道を通るのは時間が掛かる。いつもの熱い小川さんの出迎えだ。


 「お疲れ様です!例の本願寺からの人は?」


 「はっ。トランシーバーで言われたように、大屋敷に集めております!」


 「ありがとうございます」


 大屋敷へ向かう途中、カナが魔改造した一見では普通の家に見える、加工場を横切る。カナが何やら身振り手振りで指示を出しながら、国友一門衆はボールペンとノート片手に何かをメモっていたが、軽く頭を下げるだけにしておいた。


 「皆さん!いきなり集まってもらい、すいません!甲賀での生活にはいかがですか?不足な物とかありませんか?」


 まぁこうやって聞きはしたが、これで不足な何かを言われても聞くつもりはない。寧ろ、それを言える人が居ればそれはそれで凄い人だと思う。


 「何が不足ですか!アタイは桜様に身体を見てもらい、薬をいただき、絶好調です!」


 「お、オイラもです!」


 「それは良かったです。そろそろ皆様も働いていただきたいと思いましてね。2日程、源三郎さんの雑用、女性陣はてるさんの雑用をしてもらいたいと思います。後は・・・・ってか、小川さん!?慶次さんは!?慶次さんも呼んだと思うんだけど?」


 「慶次坊なら遠征の支度をしておりますぞ!」


 「おぉ〜!尊!すまんすまん!遅れちまった!」


 「はぁ!?その荷物はなんですか!?」


 「うん?これか?これは少し・・・な?正月は堺のコレとな?念の為に例のアレは10箱程貰ったぜ?安心しな!本願寺の第二陣はちゃんと済ませるからよ!そのまま正月の補給に混じった後に、オレは堺に捌けるからよ!」


 「はぁー。まぁ分かりましたよ」


 「うむ!ところで・・・だ。おう!お前等!そう!そこの3人!(ゴロン)それをやるから少し俺に付き合え!お前等はここへ来てどう思う?この暮らしが続けばいいのにと思うであろう?昨日食べた肉じゃがなんて、食った事なかっただろう?」


 「へ、へぇ〜!」


 「お前達が居た本願寺。その坊さん等は食わせてくれたか?銭も恵んでくれたか?説法を垂れて、訳の分からん事を言っていなかったか?

 身体の弱い男や女を甚振るような事を言わなかったか?あれは、お前達のような者を爆発させないための手段だ。

 坊さんは坊さんで、自分達の権力を振り翳し、弱い者から巻き上げるのに必死だ。それは酒だ。俺が本願寺へ入った折に、50本程流したのだが、お前達の口に入ったか?入らなかっただろう?そういう事だ。

 結局の所は坊さんも奪う側という事だ。お前達が、本願寺を降っても引き受け先があると言えば、門徒が減る。そうなれば本願寺はそれを維持しようと更にお前達のような下々の門徒に締め付けが強くなる」


 「ま、待ってくだせぇ〜。まさかその言い方は・・・」


 「あぁ。お前達は今一度、本願寺へ俺と赴いてもらう。行商人としてな?そして、物を受け渡している間にお前等は、寺の中で降っても暮らせる場所があると言え。そう簡単にはいかないだろうが、少しずつ門徒が減れば不満が出る。ついぞや、上人達も統制を取れなくなるだろう。そうなれば御の字だ」


 慶次さんはさすがだ。オレがやろうとしてる事を分かっている。


 「ゴホンッ。そういう事です。あなた達は一度落ちる所まで墜ちた人でしょう。坊さんの言う事を聞けば極楽?退けば地獄と言われた事もあるでしょう?あんなの嘘です。いや、まぁ、嘘かどうかは知らないですが、坊さんの言う事を聞けば極楽に行けるという事は絶対に有り得ません。

 悪い事をしたなら、それと同じ徳を積めば極楽に行けるでしょう。この生活を他の人達にも教えたくはありませんか?」


 「あ、当たり前です!好き好んで人の物を奪ったり隣村だからって焼き討ちなんてしたくありません!」


 おいおい・・・この人はまぁまぁエゲツない事をしてるんだな!?


 「(クスッ)この尊さまは・・・私の旦那の尊さまは皆様の事は見捨てません!弱者に関して寛大な心をお持ちしてるお方です!皆は今一度本願寺にて、尊さまの徳を喧伝しなさい!無事、お役を果たされば戻ってきたら特別ボーナスを妻である、私から支給しますよ〜!」


 「お、オイラはやるぞ!」


 「俺もだ!」


 「尊様!それに前田様に、奥方様!必ず・・・お役に立ちます!」


 なんかむず痒い事を清さんが言ってるけど・・・まぁいいか。


 「よっしゃ!尊!じゃあな!準備が出来次第、俺達ぁ〜、本願寺へ向かうからな!」


 「よろしくお願いします。気をつけて」

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