ドライブイン安土 大躍進3

 「これより・・・これより我等は雑賀と戦う。敵は鉄砲の名手だ!けど、恐れる事なかれ。もし、怪我をしても必ず瞬時に治療致します!その為の救護班の桜ちゃん!梅ちゃん!吉ちゃん!滝ちゃんが控えている!まずは一当てと言われました。

 が、この一当てで勝敗を決めましょう!」


 「「「オォーーーー!!」」」


 決まった。おそらく今、オレの顔はドヤ顔だろう。皆の前でこのような事を言うような柄でもないが、この時ばかりは気持ちが良い。


 「俺からも言わせてくれ。先日、とある奴等に前後不覚を取った前田慶次だ。この俺が敵の矢弾も引き受ける。皆は安心して俺の狩り残しを掃除していただきたい。

 これより前田決死隊は修羅に入る!仏と会えば仏を斬り、鬼と会えば鬼を斬る!情を捨てよ!ただただ攻め候えッ!!目指すは・・・雑賀荘ッ!」


 「「「ウォォォォォォーーーーッ!!!」」」


 クッソ!!オレの激がファッキンサノバ慶次にかき消されてしまったじゃないか!!!


 「おい!尊!号令を!」


 「ック・・・」


 いや、今は悔しい言葉を言う時じゃない!


 「青木砲兵隊ッ!!怪しい所に放て!!その後、慶次さん先頭に小川重装歩兵隊は前進!まずはあの尾根の中腹に見える、基地らしき場所に進軍だ!」


 「尊様!いつでもどうぞ!」


 「青木砲兵隊・・・撃てッ!!」


 ドォォォーーーーンッ!!!!


 その轟音はオレが思っていた以上に轟き、横に居る清さん含め、配下の皆も目を見開き無言で驚いていた。


 「おい!お前!何を惚けている!早く双眼鏡で観測しろ!効果は!?」


 「は、は、はい!申し訳ございません!弾は基地には届いていないようですが、木々から数人の男が飛び降りているように見えます!」


 「よし。射角角度を5度上げよ。装填急げ!」


 青木さんの隊はよく鍛えられているようだ。観測手の人だけ少し遅れを取っていたようだが、完璧な報告だ。


 「放てッ!!!」


 青木さんは今一度曲射砲を放った。その弾道は綺麗に放物線を描き、肉眼でも雑賀の前衛基地に命中したのが分かった。


 「青木殿ッ!!ないすだ!後は俺ぁ〜に任せてくれ!者共ッ!今こそ好機ッ!!俺に続けぇ〜!!」


 「我が君!この小川!この小川三左衛門も出陣致します!必ずや敵の首級を手土産に致します故、帰ったらハグをお願いしたいですぞ!では!行って参ります!小川重装歩兵隊ッ!!堂々と進軍致せ!慶次坊に遅れを取るなッ!!進めッ!!!」


 いや、なんで小川さんにハグしないといけないんだよ!?あの人、毎日風呂に入らないから加齢臭が凄いんだよな・・・。


 「カッカッカッカッ!誠、面白い物を作ったのじゃな!」


 「あ!羽柴様!」


 「良い良い。取り急ぎ、我が陣から来ただけじゃ。声掛けじゃ」


 「羽柴様は中国攻めの前哨戦がどうとか言ってませんでしたかね!?」


 「あぁ。そうだが、要は雑賀を威圧するための要因じゃ。ワシは人数差を見せ付けるだけの要因じゃ。暇で暇で仕方がないのでのう。もう出るのか?」


 「はい。恐らく敵は既に逃げていると予想しております。ドローンで確認しました」


 「また訳の分からん装備を持っているのだな。羽柴軍にちゃんと回してくれよ?ここを落とせば大坂の本願寺は虫の息。日の本の残す所は西国だけとなる。その日の本を統一する終盤の戦の総大将がワシだからな!カッカッカッカッ!」


 「えぇ。約束は覚えていますよ。羽柴様から頂いた方達に使い方も教えております。中国攻め前には人をお返ししますので、その方達に色々と兵器の使い方を聞いてください」


 「うむ。楽しみにしている。さて・・・ワシはお主の活躍をここから見ておこうかのう。くれぐれも油断するなよ?雑賀の鉄砲衆はどこに潜んでいるか分からんぞ?」


 「ありがとうございます。では、オレもそろそろ出ます」


 「(兄上。なにも、あそこまで媚び諂わなくても・・・)」


 「(彼奴はどんどん上様に近付きおる。明智の爺も此度は参陣している。それにあの明智の爺も、手勢を尊の下に潜り込ませている。ふぅ〜。まったく隙も油断もならぬ爺だ。摂津はどうなっている?)」


 「(はっ。荒木殿はどうも肝が小さいようで、蟲は直ぐに育つかと。既に配下を手元に潜ませておりまする。時がくれば勝手に謀反を起こすかと)」


 「(ふん。下がれ)」



 オレはノアに乗り駆けているが、慶次さんの声がオレが居る後方まで届いている。どうやら、怪しい所に走りながら鉄砲を撃っているようだ。

 確かにどこに潜んでいるかは分からないから良い戦法のように思うが、残念ながら敵が本当に見当たらない。


 「こぉのぉ〜!!!!雑賀の糞野郎が!出て来い!ワシはここぞ!!ワシを狙撃してみよや!!我が君にカッコいいところをお見せできぬではないかッ!!」


 慶次さんの少し後ろに居る小川さんの掛け声も聞こえている。聞こえてはいるが、本当に自分が的になるような掛け声だ。あの人に関してはスーパーお爺ちゃんだな。


 1キロくらい進んだだろうか。本陣の小高い丘から見えた雑賀の前哨基地の場所は間近に近付くとその様相が分かった。

 まず、櫓。これに関してはドローンで把握はしていたが、真正面から見ると、木で隠されていて分からなかった。恐らくここから敵を狙撃するのだろう。けど、誰も居ない。

 元々が小高い丘の上に作られたこの場所は堀なんかは掘られていない。だが、木柵で周囲を覆い、所々、木柵と木柵が妙に隙間が空いている。


 「マスター。さすが雑賀と言ったところですか。見事に狙撃ばかりに特化した陣のようです」


 どうやら、カナもこの陣は良いらしい。珍しく敵の事を褒めていた。知らずにここを攻めていたら本当に狙撃されていただろう。


 木でできた門の所に、丸腰の男が1人頭を下げて待っていた。一当てどころか、まともに戦闘にすらなっていない。損害0。こんな楽勝でいいのだろうか。


 「織田軍の将とお見受け致します。某、これより先にあります、とある寺の者で頼山と申します」


 クッソ!これはオレを試されているのか!?一応この軍の長はオレだ。オレだが、この男の人は慶次さんに深々と頭を下げてやがる!磔にしてやろうか!?オレにオーラがないと言いたいのか!?


 「すまねぇ〜。俺ぁ〜騎乗してはいるが、こっちが俺達の親分だぜ」


 「ゴホンッ。一応この軍を纏めております、織田軍 第一陣 尊と申します」


 「失礼致しました。申し訳ありません。お若いですね。状況をお話し致します。まず、守備隊の雑賀に連なる者は昨夜の内に海路にて退きました。ここに残るは足腰の弱い老人及び、乳飲み子を抱えた女子供だけにございます。どうか・・・どうか焼き討ちだけは御勘弁願います」


 「ふ〜ん。で、あんたは何者だ?それに逃げ出したと言ったが、先程、轟音が聞こえただろう?数人の男が木に隠れて監視していたようだが?」

 

 オレはもう直ぐに人を信用しない。丸腰相手でもだ。そして素性の分からない相手に下手に出る事も辞めた。この時代は舐められれば付け上がる輩が多い。 本当の意味での弱い者に関しては別だが、常に下手に出ていて、施しをすれば、それが当たり前と思うようになる奴も居るからな。


 「尊。あれは監視役だろう。この基地は足止めみたいな物さ。そうだろう?頼山?」


 「はぁ〜。某は元は朝倉家の下っ端でした。今は俗世を離れ・・・と言いたい所ですが、巷で織田軍に新進気鋭の人物が現れ、以前に比べ銭や物資も安土周辺では溢れかえっていると聞きました。

 その方は無闇に人を殺さないと・・・」


 「黙れ。前までは確かにそうだった。その新しい人というのは恐らくオレだろう。本願寺でも末端の人間は助けて寝床も用意したり、家も無料で提供していた。が、今は違う。酷い裏切りに合ったんだ」


 シャキッ


 「た、尊さま!?」「おい!尊!?」「マスター!?」


 オレは自分でも驚くくらい普通に黒鉄丸を抜き、目の前の丸腰の男の首に刃を当てる。以前ならこんな事しなかっただろう。


 「某の命でここを収めていただけるならお斬りください。ただただ砦の中の者にはどうか御容赦願いたい」


 「尊さま!どうかお収めください!この者は違います!」


 皆はオレの変わり様にあたふたしているように見えたが、隣の清さんが人目も憚らず優しく肩を抱いてくれた。


 「(スチャ)とりあえず話は聞く。頼山だったか?あんたの事も洗いざらい聞かせてもらう。それで、オレを信用させるならば、ここの者は助けてやる。なんなら、薬やなんかもオレの軍は織田軍一と言われているから、病気や怪我人も居るなら治してやる」


 「畏まりました。全てお話し致します」


 「わ、我が君!待ってくだされ!おい!そこの坊主!誰ぞ男手の1人くらい居るだろう!?ワシと戦え!せっかく誂えてもらったハルモニアのスーツが台無しだろう!」


 いやいや小川さん!?今し方丸く治ったじゃん!?話しの抑揚的にこの頼山って坊主は本願寺の奴とは違うように思ってきたんだぞ!?


 「小川さん!(ガシッ)よくオレのために戦ってくれました!小川さんの武は次の楽しみにしておきます!ってか臭ッ!臭すぎ!風呂入ってないんすか!?」


 「おぉ〜!我が君からハグを・・・さぁ!我が君今一度この爺の胸に!いやなに、風呂なんぞ7日に一度で良いのです!これも万が一の為ですじゃ!縄目の恥辱に合う時にこの臭いがあれば敵は近付かないでしょう!その隙に3人は道連れにしてやるのですじゃ!がっはっはっ!」


 「おい!三左衛門!誠に臭い!」「確かに・・・小川様・・・少し・・・」


 「一蔵!貴様も加齢臭とやらがしておるぞ!それとカナ嬢!これは漢の匂いぞ!がっはっはっ!」


 「もういいです。頼山。中へ案内してくれ」


 この戦は不発だったが、良い訓練になったとオレは思った。

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