ドライブイン安土 邁進4-3
「なんぞ?」
「この男は口が悪すぎます!確かに少々変わった食い物を出しますし、皆の懐に入り込むのが上手いというのは事実です!それに薬にも詳しく、甲賀の草を従わせるのは並大抵ではない事も承知しております。
が、上様に軽口を叩き、織田家 宿老である手前に溜め息まで吐くとは言語道断!ここは是非、罰を!」
「確かに口が悪いのは認める。が、それは生国が違うからじゃ。ワシは気にしておらん」
「そんな事を言っていたら下の者に示しがつきません!」
「ふん。此奴の事は今年はここに来れなかった、権六も光秀も認めておる男じゃぞ?それを佐久間は罰せよと申すのか?そこまでワシの言を否定し、遮るのならば、貴様も吐いた唾飲まんとけよ?」
「は・・・はっ!織田家の為でございますれば」
マジで意味分かんねぇ〜よ。話し方は確かにアレかもしれないけど、ちゃんと信長の身体の事を思って言っただけなのにな。しかも来賓の人も、この雰囲気のせいか箸が止まり、黙っているじゃないか。
「ゴホンッ。いい加減にしてくだされ。佐久間殿。この者はワシの義息子である。戦働きも然程なく、まだまだ新参というのも誠ではあるが、佐久間殿の言い分は丹羽家に連なる者を罰せと言っておる事をお分かりか?」
ここで、頼りになる清さんパパこと、丹羽義父さん。言え!言え!言ってしまえ!ファッキンサノバ佐久間なんかに負けるな!
「辞め!辞め!今日は謹賀の席ぞ。ワシの顔を潰す気か。佐久間はこれ以上騒ぐなら下がらせるぞ。五郎左も熱くなるな。(スゥ〜)」
信長が2人を宥めると小さく息を吸った。そして、雰囲気が更に変わった。
「他の皆も思うところはあるだろう。何故こんな初めて見る者がこの謹賀の料理を指揮しているのかを。この男は名を尊と言う。先の本願寺との戦で光秀救援の折に、とある武器をワシに託した事により窮地を脱した。その功績によりこの者は甲賀の地を所望した。
考えてみよ。あの何も生産性のない山奥の甲賀をだ。それを此奴は所領決めてから日を立たずして甲賀の草を纏め、声を余り大きくは言いたくはないが、秘密武器を製作する所にまでなった」
「ひ、秘密武器ですと!?」
文官のなんとかさんって人が驚いたような顔で言った。名前聞いたのに忘れてしまった。
「後程、たぬきにも見せてやる。対武田の防衛にも使えよう。そして・・・2日後にはワシは安土の館へと移る。城はまだ暫し刻が掛かるが、館は出来上がっている。そうよのう?五郎左!」
「はっ。いつでも住めるように、後は尊が調達する調度品のみとなっておりまする」
はぁ!?まったく聞いてないんだが!?
「皆の者!見てみろ!(スチャ)」
信長はそう言うと、ワニ皮風の合皮の財布を出した。これは以前オレがなんとなく渡した財布だ。お札がこの時代は未だ無いから、小銭を数枚入れているだけらしい。が、信長はなんか知らないけど気に入ってくれて、いつも懐に入れている。
「おぉ〜!」「上様!?それはなんですか!?」
後方の方に居る人が声を荒げる。左に居る堺の人達もだ。佐久間は歯軋りしているけど。
「これは尊がワシに献上した物だ!南蛮で狂暴な生き物の皮を使った物らしい!聞けば熊にも負けない生き物だそうだ!ワシにピッタリであろう?」
「熊にも負けない生き物と!?」
「他にもお主等が座っているでんきかーぺっとなる物やすとおずも此奴が出した物だ。佐久間ッ!お主は此奴と同じ物が出せるのか?出せるというのなら直ぐに尊を処罰してやる」
「ック・・・いえ」
「ただ外から此奴を妬む事を言うのは分かる。が、自分にもできぬ事、用意できぬ物を出せる此奴を蔑ろにする事なぞ、いくら宿老とてワシは許さぬぞ。次はないと思え。皆の者!邪魔をしてしまった。気にせず食べてくれ!食べ終えた者から下の広場へ参れ!」
信長の有無を言わさない堂々たるゴリ押しにて佐久間は黙った。と、いうか、もしこのまま更に反論してくるならそれこそこの佐久間こそ信長に口答えする馬鹿者だ。
だが、宿老だからか・・・そのまま悔しい顔はしているが本当に黙った。だが、その信長の『食べ終えた者から下の広場へ』という意味。新兵器のお披露目だろう。ちゃっかりと、糖尿病の予防の為に言った、アイス1人一つと言ったのに、5個くらい持って行ってるんだが!?
「ふむふむ・・・。腹もそろそろ膨れてきた頃合いか。尊。見事に、謹賀に相応しい数々の料理であった。で、上様も持っていた、あいすくうりいむなるアレはどこにある?」
「・・・・すいません。織田様が持って行ってしまったので、この場で直ぐはありません」
本当はタブレットで購入すればいいだけだが、ここで皆に見せる訳にはいけないからな。それに、アイスを強請って来たのは今井宗久。オレを格下のような扱いにした罰だ。ゼリーでも食っていればいいさ。佐久間?あぁ。あの人にはデザートなんてやらない。
寧ろ金輪際何も出してやらねぇ〜。
「ふむ。ふむ。ではこれを我が徳川領で栽培すれば其方が買い取ってくれると?」
「えぇ。これが実物の布団です。良ければ1組お渡ししますので、これを敷いて眠れば疲れなんて吹き飛びますよ」
「うぅ〜ん。こんな物見た事がない。きの・・ゴホンッ。羽柴殿は知っておいでか?」
「これはこれは。カナ嬢ではござらんか。誠良い尻をしておる!おっと・・・失礼。三河殿はご存知ではないので?いやぁ〜。これは美濃や安土、尾張では下々の民も購入できる布団ですぞ!?正に夜眠る時や男女の交ざる時なぞ最高ですぞ!アッシも尊から融通して購入してるわけですわ。あれ?まさか三河殿はご存知ではなかったと?」
「羽柴様。言葉が悪いですよ。これの原材料が綿花と言います。布団の作り方や工場なんかはこちらが手配致しましょう。武田に売るなり好きにすればよろしいかと」
おいおい。仲良く家康と話しているかと思えば、カナはまーた何か企んでいるのか!?
「(ブッ、ブボッ)おいおい!いくらなんでもそれは・・・」
「三河殿!酒がもったいないですぞ!それにカナ嬢!お主は尊の嫁御の侍女であろう?流石に、勝手が過ぎるのではないか?上様退出したから良かったものを、聞かれれば大変な事になるぞ?」
「あぁ〜・・・話に入ってすいません」
「マスター!マスターからも言ってください!」
「なんじゃ?お主の発案なのか?」
なんとなく・・・半年近くカナと居たから、カナの考えが分かる気がした。
「自分の発案ではありませんが、おそらく、武田家に布団や、他にも数点、徳川様の領土でも作れる物を私共が提案し、武田へと流します。武田の民は徳川領から流れてくる品を見て、さぞ驚くでしょう。すると、民は徳川領に流れてくる」
「待て。そんな民が流れて来ても食い扶持がないぞ!?三河は貧しい故・・・」
「その辺はお任せください」
「任せろと!?」
「えぇ。最低限の米は必ずお約束致しましょう。ただ、その武田から流浪して来た民を地元領民と分け隔てなく接してあげてください。貴重な労働力です。他にも食べ物の他にも色々と行商人に三河へ向かうように言い、徳川様はその中にある物を購入すれば良いかと」
「待て。待て。何故そんなに三河の事を言うのだ?何か仕掛けがあるのではないか?そんな事しても其方等になんの得があるのだ?」
「これはオレの自論ですが、国の礎は人です。しかも権力者じゃなく、下々の人です。国を豊にするには下の者を豊にすれば自ずと上の者も豊になります。豊になれば、奪う事は無くなります。
隣の村から仕掛けられたりはあるかもしれません。ですが、その隣の村の人も厚遇すると聞けば、移住してみようと思いませんか?それがどんどん広がれば戦なんて無くなると思いませんか?」
体良く言ってはいるが、半分本当の半分は嘘だ。この時代へやって来て分かった事だが、戦なんて即日起こる事はない。案外準備期間というものが年単位である。
何度も懸念している本能寺の変。史実では明智が犯人とされてはいるが、オレはそう思わない。秀吉黒幕説、朝廷黒幕説、家康黒幕説など他にも色々あるだろう。今の所1番怪しいのは秀吉。あの粘っこい笑顔は気色悪い。やけに、オレの事を友友と言うし。
その事を悪いとは思えなくなってきているのも事実。これが史実の天下人となる秀吉の話術なのかと思うと寒気すらする。
逆に家康のようにポーカーフェイスで腹の内を見せないような事をしていても、料理人のオレだから分かった事だが、箸が進むのが誰よりも早かった。しかも、堺の人達と違い、普通に話してもくれた。特に仲良くなりたいとか、今後も懇意にしたいとか言われているわけではない。秀吉とは違う何かが家康からは感じる。
だから、家康とはこちらから仲良くなっておきたい。もしもの時の保険だ。恐らくこれから信長は例の青銅砲の試射をするのだろうと思う。織田家の家臣ではなく、家康に1番に声を掛けたという事は信長、家康には誰も計り知れない絆があるのだろう。実際、オレがタイムスリップする前はかなり苦境だったはずだ。それでも家康は織田を裏切らなかった。
「それができるならば確かにそうではあるがな」
「それができるのです。徳川様。私は訳あって、政(まつりごと)や仕掛けには参加できませんが、マスターの・・・失礼しました。尊様の下で共に国を繁栄させましょう!」
「カッカッカッカッ!長浜の発展も頼むぞ!カナ嬢!」
「皆々様!申し訳ありません!下で上様がお待ちになっております・・・少し早く食べていただければと・・・」
遠藤さん・・・。それに信長よ・・・。食べ終えた者からとか言ってなかったか!?案外、皆が遅いからイライラしてきたのか!?
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