ドライブイン安土 邁進7-3

 オレは無言で駆けていた。ノアも何かを感じているのか無言で走り出した。だが、駆ける速さは尋常じゃない。

 そして、間も無く甲賀へと到着するが、見張りの櫓がある正面に差し掛かる所で、最初の組で本願寺から降って来た人達や、てるさん達が一塊りで居た。


 「た、た、尊様!!それに皆々様方・・・・」


 「ノア。止まってくれ。いったい何があった!?」


 焦っているせいか、強い口調で聞いてしまう。


 「い、いきなり凄い音が聞こえたと思ったら、この前に降ってきた奴等と吉之助という奴等が襲い出して・・・オトウの叫び声が聞こえ・・・逃げろって・・・」


 「桜ちゃんはここで待機。てるさん。源三郎さんは必ず助ける。少し待っててくれ」


 「お、お待ちください!皆はオトウやカナ様が作られた武器を持っています!」


 しくじった。確か吉之助という男には色々と武器を見せたり、お遊びで試させたりしていた・・・。

 

 「尊!無闇に前に出るな!これは戦だ!戦の臭いがしている!太郎!次郎!前に出よ!俺が魁ぞ!この失態は俺のせいだ。皆の者ッ!抜刀ッ!尊に攻撃を届かせるな!」


 この時の慶次さんの声がやけに心に響いていた。そう。戦だと。


 目を前にやると、火が点いて燃えている家々。幸いにも亡くなったような人達は未だ見えない。元は甲賀の忍び。歳を取ったといってもそう易々と抜かれる事はないということか。ただ、反乱した人達らしき死体も見えない。

 オレは慶次さん、太郎君、次郎君の後ろから着いて行く。隣には源三郎さんが特別に打ってくれた白刀と、元からの愛刀の左文字を片方ずつの手に持ち、二刀流で構えている清さんが居る。凄まじい殺気だ。


 「己等ッッ!!!何をしている!!」


 慶次さんの一喝が響いた。そこにはこの間降って来た男3人が、焼酎の一升瓶片手に、同じように降って来た女を囲み、1人がその女を下に、汚いアレを出し、残りの男2人が女の人の首に包丁を当てて腰を振っていた。


 「尊様・・・」


 女の人は消えいるような声でオレの名前を呼んだ。涙まで流している。ここでオレの何かが壊れたような気がした。


 「どけやぁぁぁ〜〜!!!!」


 ズシャッ ズシャッ ズシャッ(ポトン)


 太郎君、次郎君を払い退けて、慶次さんの横を通り過ぎ、黒刀で3人を斬った。鈍な刀と違い、食材を切っている感覚より軽く感じた。

 首に包丁を突き付けていた男2人にはその腕を斬った。腰を振っていた奴は問答無用で首を斬り落とした。


 「ヒィィィィ〜〜!!お、お許しを!」


 「ち、違うのです!(ヒック)これはよ、吉之助という男に唆されて・・・」


 「黙れッ!!!」


 ズシャッ(ポトン) ズシャッ(ポトン)


 「吉ちゃん。悪い。この方の介抱を。予備の緊急用の薬や栄養ドリンクとか気にせず使ってあげてほしい」


 「・・・御意」


 皆の顔が驚いているのが分かった。普段あまり表情を表さない吉ちゃん。いや、最近はそんな事無かったが、オレのこんな姿は見せた事がなかったからか、慶次さんまで驚いているのが分かる。


 「お姉さん。オレのせいでこんな事になってすいません。必ず後始末をつけて、面倒を見ます。どうかお許しください」


 「グスン・・・尊様は悪くございません・・・ありがとうございます・・・」


 「尊・・・誠にすまん。この不始末は俺が必ず。そして最後は責任を取る」


 「慶次さんは勘違いしているんじゃない?不始末?後始末?元はオレが安易に本願寺の門徒か信徒を減らせば本願寺勢を弱体化できるかな?と考えたせいだ。慶次さんは悪くない。だから短絡的に考えるのは許さないよ。

 オレの考えが至らなかったせいだ。オレの居た世界のままの考えが抜けきれなく、簡単に人を信用し、剰え見せてはいけなかった、武器類や使い方まで教えてしまったからだ。吉之助という男に」


 「「尊様・・・」」「尊さま・・」「尊・・・」


 この皆がオレの名前を呼んだ時に、オレ1人違う考えのような気がした。この中でただ1人違う奴が居るとすれば・・・オレだ。オレだけ考えが甘かった。人を信用し過ぎてこのような惨劇になっていたのだ。

 だが、何故、甲賀の人が居ないのだろうか。その答えは直ぐに分かった。


 「わ、我が君〜!!申し訳ございません!」


 「小川さん!何があったのですか!?え!?その腕は!?」


 「しくじってしまいました。我が君が下々の民には優しくするように言われていたので、なんとか怪我をさせず事を収めようと皆で頑張っていたのですが・・・」


 聞けば、甲賀の人達はオレの言い付けを守って行動していたらしい。『民に傷付けるな』『民を守る甲賀の忍者』とかオレが笑いで言っていた事を忠実に守っていたそうな。それは明らかに敵対しても守っていたそうな。

 そしてこの小川さん・・・左腕が無くなっていた。


 「な、何でそんな約束を!?明らかにこれは敵対行動じゃないですか!!」


 「それでもですじゃ!我等、新生甲賀隊は無闇に武で制圧するのは辞めたのですじゃ!そして、主君の命令は死んでも守る!これは甲賀隊の皆の総意ですじゃ!」


 「尊ちゃん!」


 「牧村お婆ちゃん・・・」


 小川さんと話していると、牧村お婆ちゃんが来た。唯一、女性で現役に近いような動きをする、甲賀の人達の中でも一目も二目も置かれている人だ。だが、このお婆ちゃんも・・・


 「指が・・・」


 「うん?このくらいなんともないさ!それより、地下施設の方が危ない!早く!」


 牧村お婆ちゃんがそう言うと、銃声の音、家々に点いた火の爆ぜる音と、皆の叫び声が耳に入って来た。

 

 「こんな所で喋っている場合ではない。小川さん。牧村お婆ちゃん。少し入り口に近い所に治療をしている桜ちゃんと吉ちゃんが居ます。そこで待機していてください。この落とし前は必ずオレが」


 オレは2人の返事を聞く事なく歩を進めた。

 

 例の地下施設入り口の前で、国友一派の人達と源三郎さん一派の人達が土嚢袋の後ろで交戦しているのが分かった。分かったのだが・・・


 ドォォォォーーーーンッ


 「おーい!俺達はあんた等を評価しているのだ!何も殺しはしない!この焙烙玉を作ったお前達は顕如様にも頼廉様にも評価される!厚遇するから投降しろ!さもなくば、誠にそこに放り投げるぞ!」


 例の吉之助という男が、坊官が着るような法衣を着て、叫んでいるのが聞こえた。同じように法衣を着ている奴が2人。


 「吉之助様。後ろに」


 「チッ。もう来やがったか。それともうその名前は良い。どうせ此奴等は殺す。民達よ!今こそ神仏の敵である、尊や前田を殺しなさい!あなた達の不幸は全て織田家から始まったのです!

 織田を倒せば極楽は間違いなし!先に飲ませまた澄み酒や珍しい食べ物は元は本願寺から提供した物ですよ!それを織田家が奪い然も自分が作ったように見せつけているのです!」


 「はぁ!?」


 オレは何を言っているんだ!?と思った。が、元は本当の意味で何も無くなった人達だ。考える事を放棄した下々の人達には強力な言葉だった。いや、最早、人ではない。獣のような目をした何かだ。


 「お前達がオラの娘を攫ったのかぁぁぁ!!!」


 「お前達が攻めて来なければこんな事にはななかったのだ!!」


 降って来た人達がオレ達の前に出てくる。その後ろでほくそ笑んでいる吉之助。いや、元は本願寺の坊官か。変装して忍び込んだのか。しかも、名前も違うようだ。

 昨日までのオレならなんとか無力化するように考えていただろう。だがもう違う。


 「ほら!見てみなさい!綺麗事を抜かしていた割にはあなた達に刃を向けているでしょう?つまり・・・最初から我等を食い物にする気だった訳です!」


 「そうだ!そうだ!これは罠だったんだ!」


 「神が怖いからオラ達を寺から降らせ・・・」


 「黙れッッ!!!!考える事を放棄した、お前達は知らん!これからどう転ぼうとどんなに謝ろうが何をしようがこれだけは約束してやる!根斬りぞ!」


 オレは信長がよく使う『根斬り』という言葉を初めて使った。だが、心の底から思った言葉だ。こんな人達は要らない。初めてこんなに人が憎いと思った。


 「尊・・・」「尊さま・・・」


 「慶次さん。清さん。本当にごめん。責任はオレが取る。もう此奴等は許さん。いや、許せない」


 「チッ。皆の者!下間頼廉様が下僕 坪坂包明が命ずる!進めば極楽 退けば地獄ぞ!お殺りなさい!」


 「「「「「「ウォォォォォォー!!」」」」」」


 それは怒号だった。昨日まで普通だと思っていた人がこうも変わるものなのかと・・・。宗教は恐ろしい。それを目の当たりにした。が、オレは落ち着いて懐から回転式拳銃 ニューナンブM60を取り出す。

 最初からこれを使えば良かったのだろう。最上級にイライラしていた自分のこの手で敵を葬りたいと思っていた。だから先の3人は黒刀で斬った。

 だが、さすがにこの人数を刀は無理がある。


 パンッ


 「皆ッ!!遠慮せず!殺せッ!!!!」


 オレは絶対に言った事のない言葉を発し、これが開戦の合図となった。

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