第138話 秀信、岐阜へ

「……ついたか」

 

 織田秀信は僅かな手勢で岐阜城へ入る。

 準備の整ったものから順に大返しを始めた所、最も支度の早かった秀信達についてこられたのはわずか数千であった。

 が。

 

「秀信様、お待ちしておりました」

「昌幸殿……」

 

 岐阜城には既に真田昌幸がいた。

 そして、それだけでは無く真田の手勢に加えて付近の所領を守っていた兵らが集まり、約一万の兵が集まっていた。

 

「流石は真田殿。ここまでは三郎の指示には無かったかと思いまするが」

「勘助殿も、こうなることを見越して岐阜に兵糧を集めていたようですな。流石です」

 

 昌幸の役目は大返しの準備。

 道中の兵糧などすべての支度は昌幸の指示の元準備が進められていた。

 しかし昌幸はそれだけでは無く、岐阜の守りを固める為に兵を独自に集めていたのだった。

 昌幸も勘助も独自に策を進めていた。

 二人の臨機応変な対応が秀信を有利な状況へと導いていく。

 

「しかし秀信様、少し想定外な事が……」

「……何があった」

「こちらを」

 

 昌幸は秀信に文を渡す。

 

「全国にこのような文が広まり始めておりまする。我等が岐阜についた頃に伝わったようで、まだ信濃まで伝わってはおりませぬが、じきに来るでしょうな」

「大阪の金銀を使って浪人を集めるつもりか……」

 

 すると、勘助が付け加える。

 

「成る程……先の戦で多くの者が所領を失い、浪人となっておりまする。それに、豊臣の……織田の天下を望まぬ者等も集まるでしょうな」

「どれ程集まると思う?」

 

 勘助は暫く考えてから口を開く。

 

「……我等が岐阜に入った知らせはすぐに敵にも知れ渡るでしょう……岐阜より東から浪人を集めることは難しくなりまするが、西はまだまだ荒れておりまする。……少なく見積もって既存の二万五千に加えて三万。計五万五千……」

「多く見て、計十万ですかな」

 

 勘助の言葉に昌幸も付け加える。

 

「こういうのは多く見積もるべきですぞ。それに、浪人の多くは京や大阪に集まっておるようです。それなりの数が集まるでしょうな」

「……後続の軍がすべて集まって、我等は十五万程か」

 

 秀信は暫く考える。

 

「既にいる兵は一万、近江に居る敵は一万五千。先手を打つのは難しい……やはり後続の合流を待つべきか」

「……そうでしょうな。一度でも負ければ流れが変わりかねまする。慎重に動くべきかと」

「相手は多くて十万。我等は全て集まれば十五万。……いえ、西の兵らが集まれば更に集まりまする。まともにぶつかれば我らの勝利は確実かと」

 

 勘助と昌幸の言葉で秀信も決意を固める。

 

「よし、我等はここで守りを固め、後続の合流を待つ。後二万の兵が合流した後、西へ兵を進める。相手は複数の城を守るために兵力を分散している。三万もいれば出鼻をくじけるからな」

「良き策かと」

 

 秀信たちの方針は固まった。

 前哨戦が、迫る。

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