第116話 伊達と織田
「突っ込め! 敵はまだ態勢を整えられておらぬ!」
包囲しようとする豊臣方の僅かな隙をつき、伊達勢が抜け出す。
豊臣方もそれを追おうとするが、伊達勢はそれを許さない。
「この伊達成実が相手だ! 殿の下へは行かせはせぬぞ!」
「我こそは津軽為信! 我が武勇、とくと味わえ!」
津軽為信と伊達成実が殿軍として残り、豊臣方の追撃を防ぐ。
多勢に無勢であるが、お陰で政宗の軍は三郎の軍勢と相対する事が出来た。
「織田三郎! ここで終わりだ!」
「伊達政宗……面白い。かかれ! ここで討ち取るのだ!」
伊達勢と織田勢はぶつかる。
兵力差は対等。
勝敗は、互いの指揮能力の差に委ねられる。
「右翼! 進みすぎだ! 一旦下がれ! 僅かな隙から伊達政宗は食い込んでくるぞ!」
「左翼! 敵軍が引いたぞ! そのまま軍を進めろ!」
互いに指揮を取り、戦う。
戦況は五分であった。
「政宗様! 敵中央と右翼が離れ、間隙が出来ました! 攻めまするか!?」
「いや、それは罠だ。陣形を維持し、我軍の右翼を押し上げよ。そして中央を下げよ」
「は!」
政宗と三郎は互角の指揮能力を見せる。
が、少しずつ織田軍が包囲されつつあった。
「三郎! 包囲されつつあるぞ!」
「分かっている。中央を下げよ! 後詰を中央に当てるのだ!」
秀則は少しずつあせり始める。
が、三郎は落ち着いて対処する。
「……このまま出来る限り時間を稼ぐ」
「時間を?」
三郎の言葉に秀則は反応する。
「伊達軍は長距離の遠征に加えて戦続き。疲弊は激しいだろう。それに、後方に殿軍として残っている部隊も少数。時をかけられぬとわかっている政宗は、必ずや急ぐ」
すると、伊達勢の攻勢が強まる。
「伝令! 中央、押され始めました!」
「来たか……中央は抗戦しつつ後退! 左翼を押し上げ、中央との間に間隙を生じさせよ!」
「良いのか? 既に後詰めは無く、そこを突かれれば……」
三郎は頷く。
「たとえ罠であると分かっていても、もう兵は限界。そこに敢えて飛び込み、俺の首を狙うしか勝機は無い」
そして、政宗は案の定、その通りに動く。
「今だ! 後詰をあの間隙から突っ込ませよ! 敵は既に後詰めを使っておる! 本隊にさえたどり着けば我らの勝ちぞ!」
「そして……詰みだ。いくぞ!」
三郎が動く。
後詰めが出たその瞬間、後詰めの眼の前に三郎の本隊が現れる。
「何!?」
「俺の本隊が最後の後詰だ。先に投入した中央の後詰めは既に本隊に合流している。これで、我軍の陣形は鶴翼の形。伊達政宗よ。お前の軍は包囲したぞ」
「……こうなっては後詰のみでは討ち取れぬか……」
政宗は、不利を悟る。
「引け! 引き返すのだ! 一度態勢を……」
「もう遅い!」
すると、政宗の軍の背後には豊臣方が待ち構えていた。
島津豊久が、先頭に立ち、刀を政宗に向ける。
殿軍が、壊滅したことを意味していた。
「伊達政宗よ! 覚悟せよ! ここがお主の死に場所ぞ!」
「……負けたか……」
政宗の周りに兵達が集まり、構える。
政宗の兵は、最後まで政宗と共に戦う決意を固めていた。
が、政宗はそれを制止する。
「よい。降伏する」
「殿!」
「……この戦は負けだ。お主等の命を無駄にはしたくない。……三郎殿と話をさせてはくれぬか!」
かくして、伊達政宗は捕らえられた。
生き残った多くの将兵の命は、政宗の交渉にかかっていた。
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