第115話 三郎の決意
「……霧が晴れてきたか」
桃配山において三郎は敵陣を見渡す。
霧が晴れ、敵陣の様子がよく見えるようになっていた。
「……伝令の通り、伊達勢の勢いが強いな……」
「どうする?」
秀則の問いに、三郎は答える。
「伊達政宗を叩く。前に出過ぎた伊達政宗を抑えるために真田、島津隊が伊達勢に当たっている。信康殿も、動かれたようだし、松尾山は長政殿の調略が功を奏したようだな」
「流石は長政殿。そして、信康様も敵のもう一つの中枢である伊達政宗を抑えに動いてくれておりますな。秀忠勢は、立花様のみで充分でしょうか」
三郎は頷く。
「そこは、有楽斎が動いてくれる筈。もし動かなくても立花殿ならば伊達政宗を打ち破るまでの間、耐えてくれるだろう」
そして、三郎は兵達に告げる。
「者共! これより、伊達政宗を討ち取る! 出陣ぞ!」
「……だが、我等が出なくても勝てるのでは? わざわざ危険を犯す必要は……」
秀則の言葉に三郎は首を横に振る。
「必ずや、伊達政宗を討ち取らなければならん。今後の為にも……必ずや」
「三郎……」
秀則は頷いた。
そして、それを見た三郎は、号令をかける。
「者共! 出陣だ! 必ずや伊達政宗を討ち取るぞ!」
「くっ! 敵の抵抗が激しい……我等が出れば、松尾山の軍が動く筈だったのだが……」
「殿。秀忠様も動かれませぬ。どうやら、足止めを食らっているようにござる」
政宗は成実の報告を聞き、策を巡らせる。
伊達勢は、敵に徐々に包囲されつつあった。
(思ったよりも兵の損耗が激しい……やはり、遠征の疲れが出たか……これ以上は……)
すると、伝令が現れる。
「申し上げます! 織田本軍、動きはじめましてございまする!」
「何だと!?」
「狙いは、我が軍にございます!」
政宗は辺りを見渡す。
雑兵が敵と乱戦を繰り広げる中、馬上からかろうじて、織田の旗が見えた。
そして、それとは別にもう一つ、織田軍に近づく旗を見つけた。
「あれは……島左近か!?」
その旗印は、島左近。
「者共! 耐えよ! 必ずや好機は訪れる! 必ずや勝つぞ!」
「織田三郎! ここで貴様を討つ!」
「島左近か……」
三郎達の行く末に、島左近の軍勢が現れる。
その陣中には、大谷吉治や、石田重成など、石田三成ゆかりの者が集っていた。
「ここて仇を討つ! かかれ!」
島左近勢が、織田勢とぶつかる。
島左近の軍勢の士気は異様に高く、織田軍は気圧され始めていた。
「……黙れ……」
「三郎? どうした?」
不穏な空気の三郎を見て、秀則が聞く。
「邪魔をするな三下風情が!」
「っ!」
三郎の声は、石田勢に届いた。
勿論、双方の将兵にも。
「貴様のような小物を相手にしている暇など無い! とっとと消え去れ!」
「小物だと!?」
三郎は刀をしまう。
「貴様に討ち取られるような間抜けでは無い! 我が将兵は一騎当千の強者! それに比べてお主の兵は関ヶ原で負けた弱兵共! 我等が狙いは、伊達政宗! そして徳川秀忠! 貴様など、その辺に転がっている小石のような物! お主等の主であり、家族でもあった石田三成は、我が覇道の前に立ちはだかる敵ですら無かったわ! 小石? いや、砂のように簡単に倒す事ができたぞ!」
「……貴様……」
島左近はその挑発に、怒りを覚える。
「三郎の首をとれ! 我らの力を見せつけてやるのだ!」
「だから弱兵だと言うのだ! 貴様はあの時、伏兵に気付かなければ死んでおったというのに……助けてやった恩すら忘れるとは、真の不忠義者はお主だ! 放て!」
すると、島左近の軍の横から銃撃か放たれる。
その銃弾は、島左近にも命中した。
しかし、致命傷には至らなかった。
「ぐっ……伏兵……だと」
「お主が俺を狙うのは火を見るよりも明らか。簡単に読めたわ」
その奇襲により、島左近の軍勢は一気に崩れる。
寡兵での奇襲であったことも含め、自分たちの奇襲が失敗したと合ってはと、我先にと逃げ出した。
石田家の人間も、大谷吉治も島左近を捨て、逃げた。
三郎の真の不忠義者はお前だという言葉が多少は効いたようだった。
三郎は島左近の下へ近寄る。
が、その前に一人の男が立ちはだかる。
「ここは通さぬぞ」
「……渡辺新之丞、か」
渡辺新之丞だけは島左近を見捨てず、残った。
が、雑兵は皆討ち取られ、残るは新之丞と左近のみであった。
「もはや抵抗など無意味。降伏するか、死ね」
「降伏はせぬ」
「……無駄な時間を取らせおって! かかれ! 皆で取り囲み、討ち取れ!」
三郎のその指示で、兵は取り囲む。
島左近は肩を抑えつつ立ち上がる。
「新之丞殿。かたじけない」
「何の。お主とともに逝けて、嬉しく思うぞ」
「……ありがたい。……さぁ、最後までしっかりと足掻くといたそう! 殿に我らの最後の勇姿をご覧頂くとしようではないか!」
島左近と渡辺新之丞の両名は雑兵に討ち取られる。
しかし、最後のその奮戦ぶりは凄まじく、三郎達は足止めを食らった。
それは、伊達政宗の行動を助けるのに充分であった。
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