第114話 西国無双と徳川

「攻めよ! 秀忠の首を取るのだ!」

 

 島津豊久が立花、真田に先駆け、秀忠の本陣へ迫る。

 

「敵の先鋒は島津豊久か。交戦しつつ後退せよ。敵を引き付けるのだ」

 

 これに対し、天海が采配を振るい、豊臣方を翻弄する。

 

「敵が引いていくぞ! 追え!」

「島津様! 危のうございます!」

 

 天海の采配に不自然さを感じた真田信繁は豊久を救うため、豊久と共に敵陣の奥底へ入り込む。

 

「源次郎! 気をつけよ!」

 

 その様子を見て真田信之は冷静に判断する。

 信繁はその信之の言葉に頷く。

 そして、信之も独自に動く。

 

「我等は敵の横に回るぞ! 立花様。我等は我等で動きまする!」

「相わかった! 思う存分に動かれよ!」

 

 立花宗茂は両名の後方に布陣し、臨機応変に対応できるように構えていた。

 そして、宗茂も独自に動く。

 

「我等も動くぞ!」

「放て!」

 

 すると、突如として豊久達の向かった方から銃声が鳴り響く。

 

「っ! 島津殿……無事ならば良いが……」

 

 

 

「かかれ!」

 

 適度に引き、それを追う島津、真田信繁隊を徳川勢は待ち伏せする。

 豊臣方は左右から銃撃を受ける。

 その奇襲に、豊臣方は浮足立つ。

 

「くっ! 待ち伏せか!」

「島津様! こちらへ!」

 

 敵の奇襲を受けた島津豊久を信繁は救う。

 信繁は後方から豊久の退路を確保していた。

 

「逃がすな! 追え!」

 

 後退する島津、真田勢を徳川勢は追う。

 しかし、敵兵を真田信繁は蹴散らしていく。

 

「ここは通さぬぞ! 我こそは真田源次郎信繁! 徳川を三度も負かした真田昌幸の子である! 徳川の弱兵ども! この首、取れるものなら取ってみせよ!」

 

 信繁は軍勢の先頭に立ち、挑発する。

 真田信繁の挑発に、徳川兵は殺気立つ。

 

「かかれ! 敵は少数、必ずや討ち取れ!」

「……今ぞ! 放て!」

 

 すると、信繁に集中した徳川勢の後背を、迂回した真田信之が攻撃を仕掛ける。

 その行動に、徳川方の将は焦りを見せる。

 

「な、何だと!? 戻れ! このままでは壊滅するぞ!」

「もう遅い! この立花宗茂に続け!」

「信繁殿! かたじけない! お陰で充分に態勢を整えられた! ここからは共に戦うぞ!」

 

 すると、信之の反対側からも立花宗茂が攻撃を仕掛ける。

 更に、島津豊久も態勢を整えて合流した。

 

「くっ! これはたまらぬ! 引け!」

「引いてはならぬ!」

 

 すると、豊臣方に囲まれた伏兵の徳川勢の後ろから、徳川軍本隊が現れる。

 先頭は、秀忠である。

 

「この戦は我らの勝ち戦! 決して引いてはならぬ! この徳川秀忠に続け!」

 

 秀忠は刀の切っ先を敵に向け、叫ぶ。

 そして、その傍らには本多正信と、天海がいた。

 先陣に立つ秀忠を見た徳川将兵は士気が上がった。

 

「怯むな! 敵の総大将はすぐそこにおるぞ! 必ずや討ち取れ!」

 

 徳川秀忠を見た立花宗茂はそう言った。

 しかし、単純な兵力差で言えば、秀忠の本陣が出て来た事により、豊臣方の方が若干不利になっていた。

 それに加えて、相手のほうが士気が高い。

 

「も、申し上げます!」

 

 すると、立花宗茂の下に伝令が現れる。

 

「どうした!?」

「福島様、長宗我部様! 伊達政宗勢の攻撃を受け、被害甚大とのこと!」

「何だと!?」

 

 その報告を聞き、立花宗茂は敵陣を見つつ考える。

 

「……引け! 敵はこの立花宗茂が食い止める! 真田殿、島津殿! ここは一旦引いて伊達政宗に当たって下され!」

「……わかり申した! 島津様、下がりましょうぞ!」

「……分かった」

 

 信繁の言葉に、豊久は頷く。

 その様子を見て、信之も動く。

 

「鉄砲隊! 放て! 敵に攻撃を加えつつ、下がるぞ!」

 

 信之勢も敵に攻撃を加えつつ、後退する。

 そして、頃合いを見計らって、立花宗茂が徳川勢の眼の前に立つ。

 

「我こそは! 西国無双、立花宗茂! これより先は、死地と心得よ!」

「秀忠様。他の追撃は諦めなされ」

「うむ。連携してかかれ!」

 

 秀忠の前に西国無双が立ちはだかる。

 秀忠勢は、この戦最大の敵を相手にすることとなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る