第117話 政宗の交渉

「伊達政宗にございます。お目通り頂き感謝申し上げまする」

「織田三郎にござる。今は戦の最中故、早速要件を申されよ」

「は」

 

 伊達政宗は顔を上げる。

 

「我等伊達勢は、降伏致しまする。されど今は戦の最中。捕縛している余裕など無いかと思いまする」

「……」

「ですので、我等伊達勢も豊臣方として貴方様の陣に加えて頂きたい。我らの手勢は疲弊こそしておりますが、数は充分にございます」

 

 政宗は真っ直ぐ三郎を見つめる。

 

「……見返りは、何を求めるのですかな?」

「捕虜の解放、そして本領安堵を」

 

 三郎はまっすぐ政宗を見つめる。

 そして、三郎もしばらく考えた後、頷く。

 

「……相分かった。されど、本領安堵というわけには参りませぬな。減封は覚悟しておいて下され。……まぁ、活躍次第ですがな。それに、簡単に信用する訳には行きませぬ。こちらで捕えている伊達成実殿と片倉景綱殿はまだ解放致しませぬ。戦が終われば、解放致そう」

「……は、分かり申した」

 

 すると、政宗は何かを思いついたようだった。

 

「織田様。津軽殿に会わせてはくれませぬか? 豊臣方につくように説得致しまする。それも我が手柄としていただけませぬでしょうか」

「……良いでしょう。我が方につくのならば、家は取り潰さぬと申して下され」

「は!」

 

 政宗は深く頭を下げた。

 

「必ずや、説得してみせまする!」

 

 

 

「津軽殿。申し訳無い。織田を討ち取ることは叶いませなんだ」

「いや、天下分け目の大戦に参加できただけでも良かった。悔いなく死ねるというもの」

 

 政宗は為信に頭を下げる。

 

「そして、我等伊達勢は豊臣方につくことと致した。織田殿の御慈悲で、豊臣方につけばお家の取り潰しはせぬと申されております。どうか、儂と共に豊臣方に……」

「……それは、断りまする」

 

 政宗はまだ頭を下げている。

 しかし、為信は続ける。

 

「確かに、この戦は負け戦にござろう。されど、徳川殿を裏切る事はせぬ」

「されど!」

「もう良いのだ。このまま死なせてはくれぬか? ……もう良いのだ」

 

 津軽為信は政宗とは違い、多くの将兵を失った。

 為信に、もはや本国に帰るつもりは無かった。

 

「……されど、それは逃げる事になりますぞ」

「……」

「この戦で亡くなった者達は、津軽殿の為に死んだのですぞ。それらを無駄になさるおつもりか」

 

 その言葉を聞いて尚、為信は動かない。

 すると、政宗はあたりを気にした後、為信に耳打ちする。

 

「生きてさえおれば次はありまする。織田三郎は脅威にございますが、当主である織田秀信は然程脅威では無い……」

「……まさか」

 

 政宗は頷く。

 

「三郎が死んだ後が我等の天下を狙える最後の好機にございますぞ。多くの者は織田三郎を慕っておりまする。奴が死ねば、また天下は乱れまするぞ」

「……わかった」

 

 為信は頷く。

 

「面白い。お主の言う通りにしよう。政宗殿。よろしく頼むぞ」

「ええ、必ずや」

 

 政宗は、諦めては居なかった。

 天下を狙うため、政宗は豊臣方へと寝返るのであった。

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