第118話 松尾山の決着
「……中々厳しいな」
黒田長政は松尾山にて最上勢と争っていた。
戦況は若干豊臣方の優勢であったが、最上義光はしぶとく粘っていた。
「しかし、後方の南部、佐竹は動いておらぬ様子。それをどうにか出来れば容易に勝てるぞ」
「細川殿の申される通りですな……義宣殿」
長政は義宣を呼ぶ。
「少々危険ですが……頼まれては下さらぬか」
「黒田殿。何でも申し付けて下され。この義宣、出来ることならば何でも致しまする」
長政は頷く。
「義宣殿……お父上を……義重殿を調略して下され」
「義重様……攻めぬのですか?」
「我等は動かぬ。根も葉もない噂に動かされ、我が兵を殺した最上の為に働くつもりは無い」
佐竹義重は動くことは無く、静かに戦況を見極めていた。
「最上が崩れてから我等は動く。南部殿はどういうつもりか知らぬが……」
「殿!」
すると、義重の家臣が現れる。
「お目通りを願うものが……」
「誰だ……」
「そ、それが……」
「父上。義宣にございます」
すると、義宣が義重の陣に入って来る。
「義宣……よく儂の眼の前に姿を表せたな……」
「父上、話だけでも聞いては下さらぬか」
しかし義重は刀を抜くこともなく、義宣の話を聞く。
「もはや、徳川方は敗色濃厚。伊達政宗は我らの側につきました」
「伊達殿が!? ……そうであったか……」
義宣は頷く。
「津軽殿も伊達殿も、本領安堵を約束されました。今寝返れば……」
「儂も寝返れば、本領安堵か?」
義宣は首を降る。
「三郎殿は、加増して下さるとのことにございます」
「加増だと!?」
「は。大垣にて寝返ったのに加えて、父上は豊臣方にそれほど被害を与えておりませぬ。それ故、豊臣方につけば働き次第で加増して頂けると」
その義宣の言葉を聞き、義重は暫く考える。
義重の心が動いたと確信した義宣は更に付け加える。
「この戦はもはや豊臣方の勝ち戦。無駄に命を散らすべきではありませぬぞ」
「……」
すると、義重は立ち上がる。
「……決めたぞ、義宣」
義重は刀を抜く。
「我等は豊臣方につく! 者共! 最上勢を攻めよ!」
「殿! 佐竹勢、最上勢に攻撃を仕掛けておりまする!」
「まさか……本当に寝返ったのか……義重殿……」
佐竹義重寝返りの報は最後方の南部勢の元にも届いていた。
「殿……如何がなさいますか!?」
「……我等も寝返る……」
「な……誠ですか!?」
しかし、南部利直は笑う。
「と、言うのも面白いだろうが……そんな事はせぬ」
南部利直は刀を抜き、佐竹の陣へとその切っ先を向ける。
「全軍! 佐竹義重の陣を攻めよ! この戦、まだまだ勝てる戦ぞ! 者共、気合を入れよ!」
「と、殿!」
すると、伝令が駆け込んでくる。
「どうした!?」
「佐竹の裏切りで、先の噂を信じた最上勢が我らに攻撃を仕掛けてきておりまする!」
「何だと!?」
そして、更に望まぬ知らせも入り込んでくる。
「だ、伊達様、津軽様も豊臣方へと寝返ったと報告が……」
「殿! 佐竹勢、我が方にもしかけてきておりまする!」
「……何だと……」
その知らせを聞き、利直は座り込む。
「殿! 如何なさいますか!?」
「……げよ」
「は?」
利直は立ち上がり、声を上げる。
「逃げよ! もはやこの戦に付き合う必要は無い! 馬鹿馬鹿しい! 各々、すきにせい!」
利直は振り返り、走り出す。
利直は、一人逃げ出した。
「と、殿!」
かくして南部勢は最上、佐竹両軍からの攻撃により壊滅した。
天下分け目の関ヶ原で敵の謀略に踊らされ、活躍すること無く、撤退したのだった。
「もはやこれまでか……」
最上義光は後方の動きを耳にしていた。
そして、負け戦であることを理解する。
「伊達も、織田には届かなかったか……ならば……」
最上義光は刀を握りしめ、馬を走らせる。
「殿!? どちらへ!?」
「皆の者! この最上義光についてまいれ! 天下分け目の関ヶ原で名を残したい者は、この羽州の虎将と共に死のうぞ!」
そう言うと、最上義光は僅かな手勢で敵陣に突っ込む。
その姿を見た将兵も、共に突撃する。
「殿に続け!」
「最上の名を天下に知らしめるのだ!」
その凄まじい勢いに、黒田、細川勢は一時は押し戻される。
が、後方から佐竹勢が攻勢を強めると、その勢いは止まり、最上勢は徐々にその勢いを失っていった。
「……悔いはない。やれる事はやった……」
「最上義光! 覚悟!」
最上義光はその足を止める。
その勢いを失った僅かな隙を、黒田家家臣、後藤又兵衛の槍が貫く。
最上義光、討死。
羽州の虎将は、ここに散った。
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