第119話 二つの徳川

「……もはやこれまでですな」

 

 天海は秀忠に言う。

 既に伊達、佐竹、津軽の寝返り、そして最上、南部の壊滅は知らされていた。

 負け戦である、と理解していた。

 

「……されど、逃げるわけには行かん。いや、逃げる事は出来ぬ」

「左様にございまする」

 

 そして、本多正信も付け加える。

 

「既に退路は絶たれておりまする。ここは死地。覚悟を決めなされ」

「わかっておる」

 

 秀忠は眼の前の立花勢を見据える。

 

「にしても、寡兵で良く持ちこたえるな……」

「は。織田有楽斎殿の助力もありますが、流石は西国無双にございまする」

 

 有楽斎は立花宗茂を手助けし、秀忠勢を抑えていた。

 しかし、大軍である秀忠勢を抑えるのには兵が圧倒的に足りず、立花勢は壊滅寸前であった。

 

「殿。ここは一気に攻め、織田三郎を討ち取る以外に道はありませぬ」

「うむ、天海殿の言う通りだな」

 

 秀忠は全軍に激を飛ばす。

 

「全軍! 織田三郎を……」

「……殿!」

 

 すると、伝令が姿を表す。

 

「徳川信康勢が、すぐそこまで来ておりまする!」

「信康……」

 

 その報告を聞き、秀忠は考えを改める。

 

「……全軍! 狙うは徳川信康の首だ! かかれ!」

「殿!?」

 

 その秀忠の言葉に、流石の正信も驚きを隠せなかった。

 

「……徳川の後継としてふさわしいのは誰か、知っておきたい。たとえここで死ぬとしても、それさえ知れれば悔いはない。どうせ負け戦なのだ。織田三郎に狙いを定めたとて、勝てぬであろうよ」

「秀忠様……」

 

 天海は頷く。

 

「では、参りましょうか」

「うむ、すまんな。皆の命、儂に預けてくれ」

 

 

 

「進め! 立花殿をお救いせよ!」

 

 信康は急ぎ兵を進めていた。

 他の豊臣方と連携せず、一目散に秀忠の陣を目指していた。

 

「立花殿! ご無事か!?」

「おお……信康殿、助かりましたぞ。流石にそろそろ厳しかった所でしたな……」

 

 立花宗茂は何とか持ちこたえていた。

 あと少しでも遅れれば、壊滅していたと思えるほど、兵は疲弊し、数も少なかった。

 

「少し、無茶をし過ぎたのでは? 我々が動かなければ、壊滅しておりましたぞ」

「有楽斎殿……」

 

 織田有楽斎も姿を表し、信康に頭を下げる。

 

「しかし、助かりましたぞ。我等もかなり無茶しましたからな」

「有楽斎殿……立花殿……ここから先は我が徳川にお任せ下され」

「この東国無双、本多平八郎もおる。心配なされるな」

「井伊の赤備え。その力を存分にお見せ致そう」

 

 立花宗茂は頷く。

 

「後は、任せましたぞ」

 

 そして、信康も頷く。

 そして、兵を進める。

 今ここに、両徳川軍は再度対峙した。

 

「……徳川秀忠……世が世なら徳川の後を継いだ弟よ……すまぬが、死んでもらうぞ……」

「信康兄上……ここであなたを打ち倒し、後世に徳川の後継ぎとしてふさわしいのはこの秀忠であると知らしめて見せましょう……」

 

 双方は刀を抜き、それぞれ相手へ向ける。

 

「かかれ!」

「かかれ!」


 双方の激がこだまし、両徳川軍が激突する。

 関ヶ原最後の戦闘が始まった。

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