第140話 近江攻め

「かかれ!」

 

 織田軍は後続の合流を待ってから近江に侵攻した。

 その早すぎる動きに津軽為信は対応しきれず、城を次々と落とされていく。

 

「叔父上!」

「おお、豊久」

 

 琵琶湖東の一帯の攻略を任されたのは、後から合流した島津軍であった。

 その陣中には先の戦で負傷した島津義弘の姿があった。

 

「何故こんな所におるのですか!? 安静にして無ければ……」

「なぁに、采配を振るう事くらいどうって事無いわ。秀信殿の下によい医者がおってな。三郎殿の紹介で治療してもらえたのよ」

 

 義弘は笑いながら言う。

 義弘は豊臣方が関東侵攻へと向かう中、大垣城にて療養していた。

 その間、島津の手勢も残り、大垣城を守っていた。

 そのお陰で豊久の手勢の数が減り、島津の行軍速度が上がっていた。

 

「まだ癒えたわけではないが……この程度の敵には負けはせぬよ。命を救って頂いた三郎殿の為にも、励まねばな」

「叔父上……。分かりました。先陣はお任せ下され」

「うむ、頼りにしているぞ」

 

 島津軍は破竹の勢いで東近江を攻略していった。

 その後の予定は琵琶湖の北を回って津軽為信の支配下に落ちた城を攻略しながらそのまま琵琶湖の西を進んで京を目指す。

 

「しかし、敵が少ないようだな」

「どうやら、付近の敵は皆、佐和山に集まっているようです。主力は更に西に行ったようですが」

「ふむ……」

 

 義弘は考える。

 

「秀信殿は大丈夫か? 確か、佐和山を攻めてる筈だが」

「問題はありますまい。向こうには真田殿を始め、黒田殿、細川殿、他には蜂須賀、生駒等の方々がおられまする。そして、佐和山の敵は精々五千と言った所」

 

 為信は主力をすべて西へ進めた。

 そして、集まった浪人衆五千に佐和山城を守らせていた。

 豊久は続ける。

 

「織田殿は二万の軍。そう簡単には負けませぬ」

「うむ、そうだな。我等は我等ですべきことをしよう」

 

 島津軍は破竹の勢いで兵を進めていく。

 

 

 

「さて勘助、真田殿。佐和山をいち早く落とす策は無いか?」

 

 秀信達は佐和山城を包囲していた。

 秀信達にここを素通りする選択肢は無かった。

 何故ならば、急ぎすぎても後続が追いつけず、敵の反撃に会う可能性があったからだ。

 それに加えて佐和山の敵五千と津軽為信の軍一万五千。

 佐和山を素通りし、為信の手勢と争っている間に佐和山の敵が出陣してくれば挟み撃ちにあい、不利になるのは確実であったからだ。

 

「……そうですな、調べによれば佐和山を守るのは皆浪人だとか。ならば、策の取りようはありましょう。奴らに忠誠心はありませぬしな」

「例えば、今我らに降れば処罰はなし。触れ回っている一族郎党を処罰する……という文の内容も適用外にする、とかですかな、真田殿」

 

 勘助は恐る恐る聞く。

 官兵衛としての記憶を失ってから、勘助は自信を無くしていた。

 そして、昌幸は頷く。

 

「左様。さすれば、城内に降伏派が現れまする。徹底抗戦派と二つに分かれて城内は荒れるでしょうな。あわよくば、兵を一人も失わずに勝てまする」

 

 そして、秀信は頷く。

 

「よし、ではそれで行こう。真田殿。交渉は任せる。説き伏せてきてくれ」

「は!」

 

 織田秀信の近江攻めは順調に進んでいく。

 徐々に後続も到着し、秀信の軍勢は膨れ上がっていく。

 そして、それと同時に大阪の兵力も増えていく。

 為信が無傷で退却し、道中も兵を集めつつ退却していた事により、伊達方の兵力も続々と増えていた。

 

(焦ってはならん。時が経てば発つほど我らの兵力は膨れ上がる。確実に、勝つのだ。……三郎の為にも)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る