第141話 佐和山 開城交渉

「攻撃するな! 我らに交戦の意志は無い!」

 

 佐和山城の城門に、昌幸が一人で近づく。

 その姿に、佐和山城の兵達は警戒をする。

 

「此度は、我らが総大将、織田秀信様のお言葉を伝えに参った!」

 

 城側からの反応は暫くなかった。

 恐らく城内では話を聞くか否かを話し合っているのだと昌幸は推測した。

 

「我等が総大将、秀信様は降伏せよと申されている! 即刻、城を明け渡せ!」

「……何を申すか!」

 

 すると、城壁から城兵が顔を出す。

 あれが、城門の浪人を束ねる者だと昌幸は理解する。

 

「伊達についた者は一族郎党、皆殺しにするという話は知っているぞ! 降伏したが最後、我らの命は無いのであろう!?」

「……それは少し違うぞ!」

 

 昌幸は続ける。

 

「文には、処罰すると書かれているのみ! 皆殺しにするとは書いてはおらぬ! それに……」

 

 昌幸のその言葉で城内からわずかにどよめきが聞こえてくる。

 敵は皆が殺されると思っていたようだった。

 昌幸はそれを聞き逃さなかった。

 

「秀信様は、今降伏すれば伊達についた件は不問と致すと申されている! 早く城門を開けられよ!」

「……暫し待て!」

 

 すると、男は城の中へと入っていく。

 昌幸は一人、それを待つ。

 暫くしてから、男がまた姿を表す。

 

「……今暫し時間をいただきたい! どうか、もう数日もらえぬだろうか!」

「……そのように悠長にしている暇など無いわ!」

 

 昌幸は声を荒げながら喋る。

 

「秀信様のお慈悲を無下にするつもりか! そのような事、無礼千万! 早く決めねばその首、無いものと思え!」

「くっ! わかった! すぐに話をつけて参る! 降伏の使者は必ずや送る故、此度は帰られよ!」

 

 昌幸は相手に気づかれないようにニヤける。

 予定通りに進んでいるからである。

 

「心配ご無用! 我等はここで待たせてもらう!」

「……我等だと?」

 

 昌幸は手を挙げる。

 すると次の瞬間、真田の赤備えの兵が昌幸の付近に集う。

 その一糸乱れぬ統率に、城兵は怖気づく。

 それに加えて、赤備え。

 城兵の心を揺さぶるのには、丁度良かった。

 

「儂はここで待つ故、すぐに降伏の使者を連れて参れ!」

「わ、分かった! すぐに寄越す!」

 

 男は再度城内へと戻っていく。

 

「父上、よろしかったのてすか?」

「信繁か……何がだ?」

「これでは脅しのような物。相手は余計に屈さぬやもしれませぬぞ」

 

 すると、信繁の隣から信之が現れる。

 

「父上はそれも見越しておるのだ」

「左様。城内では今頃激しく言い争いをしている頃であろう……よし、鉄砲隊! 火をつけよ!」

 

 昌幸の指示で鉄砲隊は火縄に火を付け始める。


「構え!」

「……成る程……父上の意図が分かってきました」

 

 鉄砲隊が銃を構える。

 すると、その光景をみた城門を守る敵兵が独断で城門を開く。

 

「左様、先のやり取りで我等があまり気が長くないと理解した城門の兵達は、死に直面しこう思う。降伏すれば生き残れるのならば、すぐさま降伏しよう。とな」

「後は堂々と城内に入り込む。もはや守りきれぬと判断さえさせれば自ずと武器を捨てる、と。流石ですな。敵には忠誠心というものは無い。負け戦となれば自ずと武器を捨てましょう」

 

 昌幸は頷く。

 

「うむ。さて信繁、信之。参るぞ」

「は!」

 

 佐和山城は開城される。

 抵抗を試みる者も居たが、それはすぐさま殺される。

 しかし降伏した者は手厚く保護され、不問とされた。

 この処遇は伊達方の兵に知れ渡り、伊達方の士気を下げるのに効果的であった。

 かくして、秀信達は損害無く佐和山城を攻略し、西へと兵を進めることとなった。

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