第142話 為信の妨害工作
「……ここまでは順調、後続も続々と集まってきている……」
佐和山を落とし京へ迫る頃、既に織田方の軍は六万を越していた。
前田、徳川の手勢が合流し、軍備は順調に整っていた。
しかし、為信の遅延策に秀信は苦戦する事となる。
「殿! 瀬田の唐橋が燃えておりまする!」
「何だと!?」
伝令の報告を聞き、秀信は動揺する。
「これでは進めぬではないか……」
瀬田の唐橋。
琵琶湖から流れる瀬田川にかかる橋で、近江、現在の滋賀県から京へと至る時に当時重要な橋であり、古くは唐橋を制する者は天下を制すとまで言われた要衝である。
急がば回れ、の語源ともなっている。
急いでいるからと、琵琶湖から京へ渡ろうと船で行こうとすれば風向きで進まないという。
それよりも唐橋を渡る陸路の方が速い、という意味である。
その唐橋が燃やされたのだった。
「これは……やられましたな。唐橋無しでこの大軍を渡らせるのは骨が折れまするぞ」
「それに加えてここ数日は天気が悪く雨が続いておりました。水量も増しているでしょう」
「……」
秀信は考える。
どうにかしてこの大軍を渡らせなければならないのだ。
「殿!」
「どうした。何事だ」
考える秀信の元に伝令が駆け寄る。
「長宗我部様、毛利様、佐和山へ入りました!」
「……よし! 良い時についてくれた!」
大軍であり、遠方より来た毛利と長宗我部は疲労も溜まっており進軍速度は遅かった。
しかし、それが功を奏することとなる。
「毛利殿と長宗我部殿にありったけの船を集めて来るように伝えてくれ」
「は!」
伝令は頭を下げてその場を後にする。
「船……毛利殿等の軍も合わせれば十万にも近くなりまする。その大軍が乗り込める船など……数を集めたとしても……」
「真田殿、何も海路で京へ行こうとは思っておりませぬ」
秀信のその言葉に昌幸は気が付く。
「……成る程、そういう事ですか。考えましたな」
「あぁ。瀬田川を大量の船で埋める。我等はそれを橋にして堂々と渡るのだ」
「……では、長宗我部殿と毛利殿の軍には対岸に上陸してもらい、敵の妨害を阻止してもらいましょう。敵は必ずや妨害に来るはずです」
勘助も付け加える。
「それでも多少の足止めは食らいますが」
「確かに、勘助殿の言う通り。されど、後続の軍が合流するのを待つのには好都合。後は信雄様、福島様、丹羽様に織田秀雄様等の諸将が合流すれば我らの総数は十万は容易に越しまするな」
秀信は頷く。
「あぁ、大阪にて伊達に抵抗を続ける者らも集まれば十五万は集まるだろう」
大阪にいた豊臣方の兵はこの騒動が起こる前に殆どが退去していた。
それらの軍は付近にはまだ居たのでその場に留まり、伊達を牽制していた。
しかし、伊達の兵は増え続け、堅牢な大阪城に籠もっていたが故に攻められず、ただ見ていることしかできなかったのである。
「と、言うことであれば急ぎ文を出さねばなりませぬな」
「あぁ、急いでくれ」
秀信達が足止めを食らっている最中、為信は京へ入っていた。
そこで充分に兵を集め、秀信達を迎え撃つ準備をしている事を秀信達はまだ知らない。
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