第143話 瀬田川の戦い

「津軽様! 敵が瀬田川に船を並べ、こちらに渡ろうとしておりまする!」

「何!? そう来たか……」

 

 為信はその報告を聞き考える。

 為信としてはもう少し足止めされて欲しかった。

 というのも京にて戦う支度をしていたからである。

 

「……見過ごすわけには行かんな。出るぞ!」

「は!」

 

 為信は自ら手勢を率いて京を出立する。

 その数二万五千。

 

「京には増えた分の兵を残していく。数は膨れ上がって、残すのは二万。それだけいれば何とかなる」

「は。指揮するのは……」

 

 為信は頷く。

 

「南部利直殿だ。関ヶ原から逃げ、京にて潜伏していた所を保護された。それに、その補佐としてかつて宇喜多殿にお仕えしていた明石全登殿も協力してくれている」

 

 明石全登は宇喜多秀家の反乱鎮圧後、各地を放浪。

 京にて滞在していた所、宇喜多家再興を約束され、協力するに至った。

 当の宇喜多秀家にはまだ知らせは届いてはいなかった。

 

「既に多くの者が集まってきている。もう少し待てば更に多くの者が集まる筈なのだ……ここで敵に瀬田を超えさせるわけには行かん」

 

 伊達政宗の元、大阪城にあつまっているのは五万程。

 津軽為信の兵を合わせれば約九万の兵になる。

 それだけ集まれば織田相手にも充分戦えると踏んていた。

 しかし兵の練度は低く、指揮系統などを確立させるのに時が更に欲しかったのである。

 

「時をかければかけるほど兵の数は膨れ上がる。一日でも多く足止めするのだ!」

「は!」

 

 

 

「かかれ!」

 

 毛利勢、長宗我部勢が瀬田川対岸を強襲する。

 両名の手勢は総勢三万ほど。

 しかし船橋を作るために前線で戦えているのは一万五千程である。

 対する津軽為信は二万五千。

 津軽為信はここが勝負所だと理解していた。

 

「くっ! やはり兵力の問題が……毛利殿! これでは……」

「我々は時を稼げば良い! 無理はするな!」

 

 毛利輝元と長宗我部盛親は、津軽為信の固い防御に阻まれ突破できずに居た。

 しかし、織田方からすれば無理に攻める必要はなく、大軍が渡れる船橋を作れれば大軍が合流し、勝てるのであった。

 

「毛利殿! 船橋が出来上がったぞ!」

 

 長宗我部盛親が船橋の完成を報告する。

 既に続々と織田の兵がこちら側に来ていた。

 

「毛利様、長宗我部様! 助太刀致す!」

「この黒田長政が来たからにはもう安心ですぞ!」

「おお! 黒田殿、細川殿! 助かった!」

 

 まず渡ったのは黒田、細川勢。

 毛利、長宗我部勢を支援する。

 

「すぐに本軍も来まする。次は徳川殿の……」

「に、逃げろ!」

 

 すると、後方から叫び声が聞こえる。

 黒田長政は後ろへと視線を戻す。

 すると、そこには上流から別の船が突っ込んできていた。

 織田方の船を次々と押しのけて、船橋を破壊していく。

 

「我こそは南部利直! 関ヶ原での屈辱、ここで晴らしてみせよう!」

 

 南部利直の手勢は下船し、毛利等を奇襲する。

 その数、二万。

 

「な、なんだと!?」

「くっ……これはまずい!」

「毛利様、長宗我部様! 落ち着いてくだされ!」

「黒田殿の言う通り! まずは防御陣形を!」

 

 津軽為信の策により、織田方は分断される。

 渡り終えられたのは黒田、細川勢の一万。

 つまり、瀬田川を渡ったのは二万五千のみ。

 瀬田川を渡った織田方は大混乱に陥ることとなる。

 

「今だ! 一気に攻めかかれ! ここが勝負所だ!」

 

 織田方は一転、窮地に陥った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る