第9話 大垣城 入城

「織田様!救援、感謝致す!」

「そなたは……。」

「某、杉江勘兵衛と申します!岐阜城救援の為、駆けつけたのですが……間に合わず、申し訳無い。」


 戦が一段落つくと織田の陣に杉江勘兵衛が現れた。

 戦に勝ったとは言え、彼らは殿軍、疲弊は激しい様子であった。

 

「いや、それには及ばぬ。それより、田中吉政の首は?」

「ここに!」

 

 杉江が後ろへ目を向けると、赤く血にまみれた布に包まれた何かがあった。

 それを広げてみせると、それは確かに田中吉政の首であった。

 織田勢と舞兵庫の軍の殿軍により、黒田、藤堂勢は逃げた。

 それにより、逃げ遅れた田中吉政勢は逃げ道を失い、壊滅した。

 

「ここで田中吉政の首を挙げられたのは大きい。後々に大きな影響を及ぼすであろう。」

「……三郎、お主は……。」

 

 秀信が何かを言いかけると、陣に誰かが勢いよく入ってきた。

 

「岐阜中納言殿!これはどういう事か!?」

「そなたは……舞兵庫殿か?」

 

 全身傷だらけではあるが、全く疲れていないようである。

 流石は島左近と並んで勇猛さを謳われた舞兵庫である。

 あの後、撤退する黒田、藤堂勢に横から攻撃を加え更に損害を与え、頃合いを見て引いていた。

 

「そうでござる。中納言殿は岐阜城をお守りしている筈!何故ここにおられるのか!?」

「兵庫、良いではないか。中納言殿のおかげで我らは助かった。敵に痛手も与えられたのだ。」

 

 杉江は田中吉政の首を指差す。

 それを見ると兵庫は深呼吸をした。

 

「……そうか、討ち取ったか。……失礼した!」

 

 舞兵庫は頭を下げた。

 

「少し、気が立っておった。東軍は大軍、寡兵でもって籠城を繰り広げても勝ち目は薄いでしょう。ご英断でござった。」

 

 舞兵庫は立ち上がる。

 

「さ、連戦に次ぐ連戦で兵達も疲れておりましょう、急ぎ、大垣城へ引きましょう。」

「うむ、そうしよう。」

 

 秀信は岐阜城の籠城戦よりも前に野戦にて東軍と戦っている。

 そこで敗北し、岐阜城へ逃げた所、三郎に出会ったのだった。

 野戦、籠城戦、そしてまた野戦。

 兵の疲弊は激しかった。

 

「あぁ〜、やっと落ち着けるな。百々殿、城に入ったら一杯やろうでは無いか。」

「気を抜くな。良いか、木造殿。敗走した黒田や藤堂勢は潰走したとは言え大軍。態勢を立て直して攻めてくるやも知れんのだぞ。」

 

 しかし、やっとの休息を得られると分かったのか、百々の顔にも安堵の表情が見て取れた。

 

「兵庫殿。お久しゅうござる。」

「おお、これは松田殿。岐阜城ではさぞご活躍なされたのでしょうな!」

 

 松田重太夫、杉江勘兵衛。

 それに織田秀信や百々綱家、木造長政らも本来は関ヶ原には居ない。

 そして、東軍の福島、井伊、細川、黒田、藤堂らにそれなりの損害を与えた。

 それに加えて田中吉政を打ち取ることが出来たのだ。

 これならば、戦局は大きく変わるだろう。

 

 

 

「さぁ、着きましたぞ!」

 

 結局、敵の追撃は無く、難なく大垣城へ着くことが出来た。

 大垣城には、石田三成が居るはずだが……。

 

「残念ながら殿は岐阜城救援のため、ご出陣しておられる。しかし、織田様がご入城されたとあれば援軍の必要はなくなりまする。すぐに戻ってこられる筈。今、早馬をだしております。」

 

 舞兵庫の案内で城内へと進む。

 

(大垣城か……。懐かしい。)

 

 大垣城は尾張、美濃における要所。

 ここを巡って幾度となく戦が繰り広げられたものである。

 

「お部屋はこちらを。では、後はごゆるりとなされませ。」

 

 舞兵庫は案内を終えると去っていった。

 

「では各々、ゆっくり致せ。」

「はっ!」

 

 家臣達はそれぞれ分かれて自由な時間を過ごす。

 やっと訪れた休息を満喫するのだろう。

 

「信長様。」

「ん?」

 

 辺りに人がいないのを確認すると、秀信は真面目な顔で話しかけてくる。

 

「一体、何があったのかお聞かせ下さいますか?何故、そのようなお姿でここにおられるのか。」

「……そうだな。」

 

 三成が来るまで時間はある。

 ゆっくりと話してやるとしよう。

 前世では訪れなかった、孫と話す良い機会だ。

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