第124話 最後の策
三郎達豊臣方は、一度岐阜で戦の疲れを癒やしてからそれぞれ大阪と関東で戦う秀信の援軍へ向かうこととなった。
三郎は久しぶりに妻である福と会っていた。
そして、三郎は福にすぐに大阪へ向かうことを伝えていた。
「またすぐ発たれるのですか」
「あぁ、すまんが大事な事なんだ」
そして、三郎は少し考える。
「……また暫く会えなくなるが……何かあったら秀信を頼れ。すぐに帰って来る」
「……秀信殿は関東におられるはずでは?」
その福の言葉に三郎は答えない。
「三郎殿?」
「……問題無い。すぐに来てくれるはずだ」
その三郎のはっきりとしない態度に福は違和感を覚える。
「三郎殿。はっきりと申して下さい。何をしようとしておられるのですか……ちゃんと、帰ってくるのですよね?」
「……勿論だ」
すると、福は立ち上がり、三郎の眼の前に立ち塞がる。
「……約束してくださりましたよね? 一人にはしないと」
「……無論だ。必ず帰る」
三郎は福を素通りし、そのまま部屋を後にする。
「三郎殿……」
「虎助」
「は」
三郎は虎助を呼ぶ。
虎助は秀信の下での役割を追え、三郎の元に戻っていた。
「この文を真田昌幸殿に、この二つは勘助と如水。そしてこっちの文を秀信へ渡してくれ」
三郎は四通の文を差し出す。
虎助はそれを受け取る。
「……急ぎですかな?」
三郎は頷いた。
「昌幸殿と勘助、如水へは急げ。秀信へは……然程急がんでも良い。ただ、事が起こる前には届くようにせよ」
「……その、事というのはいつ起こるのですかな?」
三郎は暫く考え、口を開いた。
「分からん。だが、そう遠くは無い。あんまりのんびりするなよ」
「は。畏まりました」
「……虎助」
すると、三郎は口を開いた。
「お前はこれまで俺に良く仕えてくれてるな……」
「……三郎様」
「俺に何かあったら、秀信に仕えろ。そして、城でももらうと良い」
「……」
虎助はしばらく考え、口を開く。
「某は、何があっても殿の家臣です。最後までお仕え致しまする」
「そうか……さぁ、早く行け。間に合わなくなるぞ」
「は」
虎助は頷きその場を後にする。
「さて……後はもう二人、か」
三郎はそのまま、とある人物のいる部屋まで足を運ぶ。
「伊達殿、少しよろしいか」
「織田殿? 勿論にござる! とうぞ上がって下され!」
三郎は軽く頭を下げ、部屋に入る。
「突然の訪問、申し訳無い」
「いやいや、織田殿とは一度ゆっくりと話し合いたいと思っておりました故、良かった。今、何か用意致しまする」
「いや、然程長居するつもりもないので無用にございまする」
三郎は軽く咳払いをして続ける。
「伊達殿。某とともに大阪へ参りませぬか?」
「大阪へ?」
三郎は頷く。
「ここに集った軍勢全てで東へ向かったとて宝の持ち腐れかと思いまする。となれば、伊達様の手勢を率いて大阪へ入り、淀殿へ徳川を見限りお味方した事をご報告するが宜しいかと。それに、津軽殿も共に参られるがよろしいかと」
その三郎の言葉に政宗は少し考える。
そして、口を開いた。
「しかし、淀殿に不審に思われるのでは無いか?」
「そこは、某が説明致しまする。それに、不審に思われるのならば兵は城外に待機させておけば宜しい。伊達殿が奥州の寝返った諸大名を代表して、自ら淀殿に弁明すれば警戒も解かれるかと。予め、文を出しておきまする」
政宗は頷く。
「そこまで申されるからにはなにか理由があるのだろう。わかった、そうしよう」
「ありがとうございまする。某は只、伊達殿程のお方が、淀殿の意見一つで岐阜裁定の結果が覆され、減封されたりするのを避けたいだけの事。……まぁ、逆に岐阜裁定の結果が覆されて良い方向に転ぶやもしれませんが」
三郎は軽く頭を下げた。
「では、そういう事でよろしくお願いいたしまする」
「うむ、準備しておこう」
三郎はその場を後にする。
「……さて、これで支度は整ったな……後は確実に策を遂行させなければ……慎重にな」
三郎の策は人知れず着々と進んでいた。
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