第125話 大阪帰還

「三郎殿、大勝、おめでとうございまする。ささ、こちらへ」

 

 三郎は片桐且元に案内されて大阪城内へ入る。

 

「伊達殿も、兵の方々も城内にてごゆるりとなされよ。淀殿からお許しが出ておりまする」

「……意外ですな」

 

 政宗が口を開く。

 

「淀殿のことならば秀頼公を大事にと、受け入れないかと思いましたが……」

「……その辺りは、淀殿から直接お聞き下され」

 

 片桐且元に案内されて城内に入る。

 そして、通された間には、武装した将が待ち構えていた。

 龍造寺に鍋島、加藤嘉明など関ヶ原に向かわず、大阪を守っていた者達である。

 しかし、敵意は感じなかった。

 

「これは……」

 

 政宗が状況が飲み込めず、困惑していると淀殿と秀頼が入って来る。

 関ヶ原の勝利の報は既に知らされている筈であり、武装解除するには充分な時間があったはずなのである。

 しかも、淀殿も武装していた。

 淀殿の登場に皆が頭を下げる。

 

「面をあげよ」

 

 淀殿のその言葉で皆が顔を上げる。

 淀殿は真っ直ぐ政宗を見つめていた。

 

「政宗殿。此度の戦での働き、見事でした」

「は。ありがたき幸せ」

「ですが……」

 

 すると、加藤清正が手勢を引き連れ、入って来る。

 そして、政宗を取り囲んだ。

 

「伊達政宗、覚悟せよ!」

「簡単に裏切る男を信用する訳には参りません。あなたには、死んでもらいます」

「ま、またれよ!」

 

 すると、政宗よりも先に三郎が動く。

 

「三郎殿……」

 

 政宗は三郎がかばってくれたことに安堵する。

 が。

 

「……いまここで首を切るのは悪手にございます。まずは、罪状を並べしっかりと皆にそれを知らしめてから、首を切るべきにございます」

「……な」

 

 三郎のその言葉に、政宗は驚愕する。

 

「どういう事だ!? 裏切るのか! 三郎殿!」

「……裏切るも何も、豊臣を裏切り、徳川を裏切ったのはそちらではありませぬか」

 

 三郎は立ち上がり、加藤清正の隣に立つ。

 

「裏切り者には、制裁を与えなければ示しがつきませぬ。政宗殿が今回寝返った者等を代表して処罰を受けるべきにございます。さすれば、約束通りに伊達の所領は守られましょう。岐阜裁定の内容に、あなたの命の件は含まれておりませぬ故」

「……くっ!」


 三郎は政宗に近づき、耳打ちする。


「お主のような危険な男を見逃すはずが無かろう? 諦めよ」

「……織田三郎……」

 

 政宗は刀に手をかける。

 が、圧倒的不利を理解しており、すぐにやめる。

 

「……好きにせよ」

「……では、お言葉の通りに」

 

 三郎は頷く。

 

「では、津軽殿に伊達殿の軍一万五千を与え、関東へ援軍へ向かわせましょう。残りの一万は伊達成実殿か、片倉景綱殿に任せて大阪へ残し、不測の自体に備えまする。それでよろしいですかな?」

 

 三郎は淀殿を見る。

 

「ええ、良いでしょう。後のことは任せますよ」

 

 三郎は頷く。

 それを確認した淀殿はその場を去る。

 

「さて、西国より参られた方々は長いお勤めご苦労さまでした。そろそろ帰りたい頃でしょう。後のことは伊達殿の軍勢に任せ、皆様方はゆっくりと帰られてよろしいかと」

「……織田殿。少し、危なくは無いだろうか……伊達殿を殺され、裏切られたと感じる伊達家の家臣が大阪に居続けるのは、あまり安心できませぬ……某はもう暫し残ることと致しまする。殿、よろしいですかな?」

 

 すると、鍋島直茂が口を開く。

 そして、龍造寺も答える。

 

「無論だ。儂も残るぞ直茂」

「では、大阪城へ勤められた方々はお好きな頃合いで帰られて構いませぬ。ごゆるりとなされてから帰るがよろしいかと」

 

 全ては三郎の狙い通りに事が進んでいた。

 しかし、そんな三郎を、政宗は睨んでいた。

 

(……許さんぞ、三郎)

 

 政宗は拳を握りしめる。

 

(必ずや、殺してやる)

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