第126話 信包の忠告

「三郎。話は聞いておるぞ。ご苦労だったな。此度の戦の活躍、誠に見事であった」

「信包様。お久しゅうございます。されど活躍できたのは皆様方がおられたお陰にございまする」

 

 大阪城内にて、三郎は信包と会っていた。

 他に人は居なかった。

 二人きりの密談である。


「それにしても先の評定、中々大胆にやったな。あれでは他の大名から不信に思われても仕方が無いぞ?」

「無論に御座います。そうでなければならないのです」


 三郎がそう言うと、信包は少し考えてから口を開く。

 

「成る程……それも策のうちか。何故あのような事を言った? 一体どんな策をやろうとしているんだ? 三郎、聞かせてくれ」

「……信包様にはお伝えしておいたほうが良いでしょうな。我が策、お伝えいたしまする」

 

 

 

「成る程な……」

 

 三郎から策を聞いた信包はしばらく考える。

 そして、口を開いた。

 

「確かに、うまく事が進めば織田の天下になるかもしれんな……だが……」

 

 信包は三郎を見る。

 

「お主は本当に良いのか?」

「……無論にございます」

「……そうか」

 

 迷うこと無く三郎は答える。

 その三郎の対応に、信包は笑う。

 

「お主は本当に恐ろしい事を考えるな。面白い」

「恐れ入りまする」

 

 三郎は頭を下げる。

 

「信包様、事が起こった暁には岐阜へ行ってくだされ。そして……」

「わかっておる。任せよ。秀信殿と合流すればよいのだな?」

 

 三郎がすべてを語る前に信包は理解する。

 策の全てを聞いた信包は、自分の成すべき事を理解していた。

 三郎も頷き、肯定する。

 

「さて……一つだけ忠告しておこう。三郎よ」

「は」

「豊臣の結束は弱まっておる。が、決して無くなってはいない」

 

 三郎は静かに話を聞く。

 

「徐々にだが皆の信頼は織田に集まってはいる。が、それは大きく三郎と秀信殿の二つに分かれておる。旧織田家家臣団は秀信殿に。豊臣家臣の者等はお主を信頼しておる。状況次第では策をを変更することになるかもしれぬぞ」

「は、問題はありませぬ」

 

 三郎が口を開く。

 

「この策は如水殿と勘助、そして昌幸殿が知っておられます。何かあってもこの策の肝である秀信を良く支えてくれるでしょう」

 

 三郎がそう言うと、信包は頷いた。

 

「そうか、その三人がついてくれるならば、心配は無いだろう。……だが、もう一度聞くぞ? 本当に良いのか? 取り返しはつかぬぞ」

「……もう決めた事。今更策は変えませぬ」


 三郎はうつむきながら呟く。


「もう時間も無いしな……」

「何か言ったか?」

「……いえ」

 

 信包は三郎の表情を確かめる。

 三郎のその表情に、信包は三郎の固い決意を感じた。

 信包は、それ以上聞くのはやめた。

 

「……わかった。やるなら確実にな。決してしくじるなよ」

「は。無論に御座います。では」

 

 三郎は頭を下げるとその場を後にする。

 

「……さて、三郎め……少々危険だな……」

 

 信包は三郎が去ったのを確認してから呟く。

 

「少し、動くとするか」

 

 信包は立ち上がる。

 信長の弟、織田信包が独自に動き出そうとしていた。

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